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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アフリカ開発会議における羽田副総理兼外務大臣の政策演説(TICAD I)

[場所] 東京
[年月日] 1993年10月6日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 議長

 御列席の皆様、

 昨日の会議冒頭に細川総理大臣は、我が国に相応しい貢献をアフリカにおいて行う決意を表明致しました。私は、この決意を民主化支援、経済改革支援、人造り協力、環境協力、そして効果的かつ効率的な支援の5つの柱に纏め、我が国の考えと具体的施策について述べたいと思います。

 第一に、我が国はアフリカにおける政治プロセスの進展により一層協力して参ります。

 アフリカ諸国が、民主化を実現し民意を結集していくことは、自らの発展と国造りの努力への国民の参加意識を高めていくために、欠くことの出来ないものであります。

 我が国としては、アフリカにおける政治プロセスの進展を支援するため、これまで2国間での民主化支援要請に出来る限り前向きに応えると共に、国連等による国際的な努力にも人的・資金的貢献の面で積極的な役割を果たして参りました。人的貢献について言えば、1989年ナミビアの憲法制定議会選挙への監視要員の派遣を始め、過去1年をとってみてもアフリカ10か国における選挙監視に参加してきております。更にはモザンビークにおける国連平和維持活動に本年5月以来我が国の国際平和協力隊員50余名を派遺しております。

 第二に、我が国はアフリカにおける経済改革を引き続き積極的に支援して参ります。

 アフリカ諸国が推進している経済構造調整は、短期的には国民に大きな負担をかけることになりますが、経済発展のための基盤強化に必要な試練であります。我が国としては、経済改革に取り組むアフリカ諸国を中心とする開発途上国を積極的に支援すべく、本年度より3年間に6.5億ドルから7億ドルのノン・プロジェクト無償援助を実施致しております。また、他の援助国とともに世銀によるアフリカ特別援助プログラム(SPA)の継続及び国際通貨基金(IMF)による拡大構造調整ファシリティー(ESAF)の後継ファシリティーの必要性についても強く支持してきているところであります。

 なお、近い将来民主国家としての「新生南アフリカ」が誕生し、アフリカ大陸におけるより一層の経済発展をもたらす要因となることを期待したいと思います。

 第三に、我が国は人造りを積極的に支援して参ります。

 人造りは、国家建設と経済開発を進める上で必要不可欠な要素であります。我が国は、アフリカ諸国に対しこれまで行ってきた様々な人造り協力を今後とも積極的に行っていく考えであります。更に、この「アフリカ開発会議」を記念して、「アフリカ青年招聘計画」を新たに開始し、毎年アフリカ諸国の将来を担う青年百名を招聘し、我が国の青年との交流を図って行きたいと考えます。また、「アジアの経験とアフリカの開発」の議題の下での議論やアジア諸国における南南協力に対する関心を踏まえ、アジア・アフリカ・セミナーを明年アジア地域において開催したいと考えております。

 第四に、我が国はアフリカの開発における環境問題に一層留意して参ります。

 持続的な開発を進めるにあたっては、環境に対し適切に配慮する必要があります。我が国は、環境分野における二国間及び多国間政府開発援助を5年間で総額9000億から1兆円規模に大幅に拡充・強化することを昨年の国連環境開発会談(UNCED)において明らかにしました。

 アフリカにおいては、我が国は、自然環境保全のための協力を実施してきており、今後とも生活環境整備も含め、積極的に取り組みたいと考えております。この観点から我が国は、サハラ以南のアフリカを広く対象として地下水開発・水供給拡充のため向こう3年間に2.5億から3億ドルの無償資金協力を行うことを含む協力構想を策定しました。この構想が、安全な水の確保に資することを期待します。

 第五に、我が国は効果的かつ効率的な対アフリカ支援を目指して参ります。

 我が国は、昨年、政府開発援助大綱を策定しましたが、アフリカに対してもその理念、原則に従って個々の国の発展段階に応じた肌理細やかな援助の実施を目指して参ります。このため、我が国は、援助について政策対話を強化し、アフリカ諸国のニーズを的確に把握するため、経済協力ミッションを積極的に派遺して参ります。

 申し上げるまでもなく、開発途上国の持続的発展、世界経済への参加のためには援助のみならず貿易、投資、及び債務戦略をも含め包括的な取組みが必要であります。この関連で、アフリカ諸国の多くが経済基盤を置いている一次産品について、我が国は、市場原理を基本とした新たな対応及び国際協力のあり方を提言すべく作業を進めているところです。

 御列席の皆様、

 本年のアフリカ統一機構(OAU)首脳会議で行なわれたスピーチの中で、サリムOAU事務局長は「アフリカは自助努力の美徳を育まなければならない。何故なら、他に選択肢はないからである。」と述べられたと承知しております。我が国としても友人の一人としてアフリカ諸国によるこうした自助努力が実を結ぶよう積極的に支援していく決意を改めて申し述べます。

 御清聴有り難うございました。