データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第3回アフリカ開発会議における小泉総理大臣基調演説

[場所] 東京
[年月日] 2003年9月29日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

国王陛下

大統領閣下

各国、国際機関代表の皆様

市民社会の代表の皆様

御列席の皆様

 第3回アフリカ開発会議の開会に際し、アフリカをはじめとする世界各地から遠路ご参加頂いた皆様を、心より歓迎申し上げます。

(TICADのこれまでの歩み)

 TICADは10周年を迎えました。冷戦の終結後、国際社会の関心がアフリカから離れる中で、国際社会の関心を呼び戻すことを主要な目的として、TICADは、ここ東京で誕生しました。

 以来、我が国は具体的行動をもってアフリカ開発に取り組み、過去10年間に120億ドルのアフリカ援助を実施してまいりました。その間、我が国政府は1万人を超えるアフリカの人々を研修のため日本に迎え、また、総勢7千人を越える日本の専門家等をアフリカに派遣してまいりました。今この瞬間にも、数多くの日本の青年たちが、アフリカの人々と一緒に額に汗しながら、活動しております。

 本日議長をされている森喜朗前総理は、2年前、我が国現職総理として初めてアフリカを公式訪問し、「アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の安定と繁栄はない」と明言されました。これは、私自身の確固たる信念でもあります。新世紀を迎え、世界が様々な脅威への対応を模索する中で、この言葉のもつ重要性は一層高まっていると確信します。

(TICADの現在)

 TICAD IIIにおける最も重要なテーマを一言で言えば、それはアフリカ開発における国際社会の知恵と経験をNEPAD(アフリカ開発のための新パートナーシップ)支援に結集することであります。我が国は、21世紀をアフリカの時代にしようというアフリカ自身の意思に心から敬意を表します。

 私は、NEPAD支援の先陣を承るべく、この機会に「人間中心の開発」、「経済成長を通じた貧困削減」、「平和の定着」を3本柱とする日本の対アフリカ支援方針を表明します。これらの分野は、NEPADが掲げる優先領域と軌を一にしたものであります。

 第1の柱は、「人間中心の開発」です。国造りは「人に始まり人に終わる」と言います。日本はTICAD IIで表明した5年間で7億5千万ドルの基礎生活分野での対アフリカ支援を着実に実施しています。その結果、約2億4千万人の保健医療環境の改善、約460万人への安全な水の供給、約260万人の子供達への校舎整備等を通じた教育機会の提供を実現しました。

 こうした成果を踏まえ、日本はエイズ対策を含む保健医療、教育、水や食糧支援等の分野で、今後5年間で10億ドルを目標に無償資金協力を実施することをこの機会に表明します。

 第2の柱は「経済成長を通じた貧困削減」です。経済の成長なくして貧困の削減はありません。我が国は特に農業生産性の向上、ひいては食糧輸入依存からの脱却に向けた協力を一層重視していきます。アジアの稲とアフリカの稲の長所を組み合わせたネリカ米の普及は、こうした日本の取組みを象徴するものです。

 また、経済発展にインフラ整備は不可欠です。我が国は、運輸、通信、エネルギー、水の分野を特に重視しています。

 貿易・投資分野では、日本とアフリカ双方の利益が目に見える成功例を数多く積み上げていきたいと考えております。日本と南部アフリカ諸国の官民協力による世界最大級のモザール・アルミ精錬プロジェクトはその一例です。

 こうした成功例を着実に増やしていくことを目指し、日本は、5年間で約3億ドルを目標とした投資金融等を通じ、日本企業の対アフリカ投資を促進していきます。また、来年秋に世界銀行とともに「TICADアジア・アフリカ貿易投資会議」を開催することを表明します。

 経済成長を図る上で、重い債務が足枷になっている国がアフリカには多数あります。我が国は、アフリカの重債務貧困国等に対する総額約30億ドルの円借款債権の放棄を実施します。こうした債権放棄を受けた国が教育等の社会経済開発に取り組めるよう、国際的枠組みを通じ政策対話を強化します。

 第3の柱である「平和の定着」は、全ての開発の基盤となるものです。我が国はモザンビーク等における国連平和維持活動に参画しました。また、最近ではコンゴ民主共和国、アンゴラ、シエラレオネ、スーダン、リベリア等における平和の定着にも協力してまいりました。

 アフリカの人々が、貧困、紛争、感染症等の人間の生存や尊厳に対する様々な脅威から解放され、希望をもって生きることができる社会はどのようにしたら実現できるのか、「人間の安全保障」のためにどのような貢献が出来るのか、アフリカの皆様と対話を重ねていきたいと考えております。

(TICADの将来)

 御列席の皆様

 10年前にTICADの開催により示した、我が国のアフリカ重視の訴えは、10年を経た今日、国際社会の大きな潮流へと発展してまいりました。我が国は、このTICADプロセスを更に勢いのある流れとすべく、TICADフォローアップ体制強化のための組織づくりに着手します。

 先般のWTOカンクン閣僚会合でドーハ交渉を前に進められなかったことは誠に残念でした。我々はアフリカを含む途上国が貿易・投資を促進する上で公平なルール作りが必要であると考えています。TICADのパートナーシップの精神に基づき、相互の利益増進のために、アフリカ諸国が我が国と共に建設的に貢献していくことを強く期待するものです。

 TICADの将来の鍵は、アフリカの自立とパートナーシップの拡大にあります。我が国はアジアとアフリカの架け橋となることを目指し、アジアの経験と活力を活用することで、アフリカ開発に多様性とダイナミズムを提供したいと考えます。更に、民間協力等、様々な枠組みの活用により、パートナーシップの幅と奥行きが拡大していくことを強く期待します。

(結語)

 御列席の皆様

 本日、アフリカの風が再び東京で吹いております。私は、この風が、3日間の議論を経て、日本からアジア、世界をおおい、明るい未来への確信となってアフリカに届くことを期待して止みません。

 そして、アフリカが自らの理想を達成する時、アフリカこそがより良い世界を築くための風を巻き起こしてくれるものと確信しております。

 ご清聴ありがとうございました。

以上