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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD10周年宣言

[場所] 東京
[年月日] 2003年10月1日
[出典] 外務省(アフリカ第二課)
[備考] 外務省仮訳
[全文]

2003年9月29日から10月1日まで東京で開催された第3回アフリカ開発会議(TICAD III)の参加者一同は、10年にわたるTICADプロセスの成果と、アフリカ大陸及び国際社会における最新の趨勢を踏まえてTICADプロセスの将来像について議論を行い、以下の通り宣言する。

I.アフリカ開発に向けた新たな挑戦‐NEPADとTICAD{前29文字囲み線有り}

 我々、TICAD IIIへの参加者一同は、TICADプロセスが、冷戦終焉の結果、国際社会のアフリカへの関心が薄らぎつつあった1993年に開始されたことを想起する。その後10年の間、TICADは、開発計画におけるアフリカ自身のオーナーシップの強化を支援し、そうした開発計画への国際的なパートナーシップを再活性化することによって、アフリカの国々や人々の視点に立ったアフリカ開発を一貫して推進してきた。そうしたTICADプロセスの基本原則は、今やアフリカ諸国のみならず国際社会全体に広く受け入れられ、国連やG8プロセスといった国際的な枠組みの中でのアフリカ開発への取り組みを促進するのに大きく貢献してきた。

 1980年代から1990年代にかけてアフリカの指導者達は、ラゴス行動計画やそれに続くアフリカ経済委員会の設置への合意を通じて開発過程においてアフリカのオーナーシップを示す政治的な意思を表明していた。新しい世紀の始まりと共に、アフリカ統一機構(OAU)からアフリカ連合(AU)への発展や、AUのプログラムとしての「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」の採択を通じて、そのような政治的意思の実現のための枠組みが成立した。国際社会は、こうしたアフリカの取り組みを歓迎し、「ミレニアム開発目標(MDGs)」、「後発開発途上国(LDC)行動計画」、「モンテレー・コンセンサス」、「G8アフリカ行動計画」、「WSSD実施計画」等のイニシアチブを通じて、持続可能な開発に向けて一団となって協力を差し伸べることを提示した。こうしてアフリカ及び国際社会双方における動きは、アフリカのオーナーシップと国際社会のパートナーシップの相互作用プロセスへと発展した。このようなアフリカ開発における重要な契機となりうる良好な国際的潮流を認識しつつ、TICADプロセスは、NEPADと共に、自立的かつ持続可能な開発に向けてアフリカの豊富な天然資源及び人的資源を最大限に活用し、また世界経済への統合を通じた貿易・投資の利益を享受して、21世紀をアフリカの世紀にするというアフリカのビジョンを実現するという新しい挑戦に乗り出そうとしている。

 我々、TICAD IIIの参加者は、TICADプロセスの10周年というこの記念すべき機会にTICADプロセスの基本哲学を再確認すると共に、アフリカ開発という目標への我々の政治的な決意を新たにする。我々は、このTICAD10周年宣言が、21世紀のアフリカ開発に向けて大きく前進する、さらなる重要な一歩となることを確信する。

II.TICADプロセスの功績{前14文字囲み線有り}

 我々は、TICADプロセスは、単なる一連の会議ではなく、それ自身が発展していく「プロセス」であるということを強調する。TICAD本会合は、TICAD I(1993年)及びTICAD II(1998年)においてそれぞれ採択された「東京宣言」や「東京行動計画」などを通じて、アフリカ開発における開発哲学と優先分野に関する幅広いコンセンサスを形成してきた。さらにTICADプロセスは、人的資源開発や経済・社会インフラといった分野において、そのような開発哲学や優先分野を目に見えるプロジェクトとして具体化する触媒としての役割をも担ってきている。このようにTICADプロセスの10年間に亘る絶え間ない努力は、アフリカ開発に関する独自の視点を打ち出し、パートナーシップの新しい素地を育むなど、アフリカ開発に着実に貢献した。その主な功績は以下の通りである。

1.アフリカ問題への関心喚起{前14文字下線有り}

 TICADの各会合が、国際社会の関心が他の地域へと傾きかけていた時に、国際社会のアフリカ開発への関心を維持するのに貢献したことを想起したい。TICAD Iは冷戦終結後の1993年に、TICAD IIはアジア金融危機後の1998年、TICAD閣僚レベル会合は米国におけるテロ事件後の2001年12月に開催された。このような厳しい時期においても、TICADプロセスは他の地域的、国際的イニシアティブと協力して、一貫してアフリカ開発に焦点を当て、モンテレイで行われた開発資金国際会議、G8サミット、WSSD、第3回世界水フォーラム等の一連の国際会議においてアフリカ問題が主要なアジェンダとなるための政治的モメンタムを形成した。このモメンタムは国連やG8における国際社会の一致した協力を導くことに成功し、NEPADやAUに示されるアフリカ自身の取り組みを補完することとなった。このようにTICADプロセスはアフリカが直面する諸問題への国際社会の関心喚起に大きく貢献し、アフリカ開発を巡るアフリカ内外における環境がこれまでになく良好な時に10周年を迎える。しかしながら、カンクンにおけるWTO閣僚会合においてドーハ開発アジェンダがほとんど進展しなかったことを残念に思う。衡平な国際貿易の創設は依然としてアフリカ開発における主要課題である。

2.オーナーシップとパートナーシップ{前18文字下線有り}

 TICADプロセスは、アフリカ開発におけるアフリカのオーナーシップとそのようなオーナーシップを支援する国際社会のパートナーシップがアフリカ開発においては必要不可欠であることを一貫して主唱してきており、そうした開発哲学はアフリカを含む国際社会に広く受け入れられた。特にNEPADは、アフリカ自身のオーナーシップを重視する考え方や、平和とガバナンス、人材育成、インフラ、農業及び民間セクター開発等の重点分野をTICADと共有している。このようにTICADプロセスはNEPADの成立を歓迎し、NEPADもTICADプロセスをアフリカ開発の課題に取り組む上での極めて重要なイニシアチブであると認識している。それゆえTICADプロセスとNEPADが互いに支援しあい、補完しあうのは自然な帰結である。

3.パートナーシップの拡大{前13文字下線有り}

 TICADプロセスは、アフリカ諸国、アフリカの地域機関、アジア諸国、ドナー国、国際機関、さらには民間セクターやNGOを始めとする市民社会など多様な開発主体の積極的な参画を得ている独自の国際的枠組みである。この幅広い連帯はアフリカ開発のためのパートナーシップを広げ、発想を豊かにし、開発のための資源をより大きくしている。特にTICADプロセスが南南協力、なかでもアジアの経済発展の成功体験を活かしたアジア・アフリカ協力の重要性を強調していることは非常に意義深い。アジア・アフリカ協力は、アジア稲とアフリカ稲の交雑種であるネリカの開発や、アジア・アフリカ両地域間の経済連繋、特に貿易・投資を促進する民間部門の協力などに示されるように、大きな可能性を有している。結果としてTICADプロセスは、アフリカが直面する挑戦に立ち向かうための選択肢を提示することにより、アフリカ大陸における開発の道筋に多様性とダイナミズムを提供した。それゆえアジア諸国がTICADプロセスを通じたNEPADの実施の支援に積極的に関与することが特に重要である。

III.TICADプロセスの未来への羅針盤{前19文字囲み線有り}

 我々、TICAD IIIの参加者一同は、TICADプロセスがアフリカの努力とその開発パートナーの取組、即ちアフリカのオーナーシップと国際社会のパートナーシップを調和を促進し、共通の目標に向けて双方の資源を統合してきたことに満足している。こうしてTICADプロセスは、オーナーシップとパートナーシップを、アフリカ開発におけるより拡大され、かつ重層的な協力を導く真の連帯に発展させてきた。今、アフリカは開発を推進するための強力な乗り物であるNEPADを打ち出した。TICADプロセスが提示するオーナーシップとパートナーシップの概念はこの車の両輪となり、アフリカとその開発パートナーとの連帯はそのエンジンに、結集された国際社会の支援はその燃料となりうる。更にTICADプロセスにおけるハイレベルの政策フォーラムを通じて、アフリカとその開発パートナーはアフリカ開発の羅針盤となるような基本的な哲学と原則を追求する。「東京宣言」や「東京行動計画」等、既存の指針に基づく国際的な取り組みを確認しつつ、我々、TICAD IIIの参加者一同は、アフリカ開発において以下の諸点を重視し続けるべきであると再確認する。

1.リーダーシップと国民参加{前14文字下線有り}

 オーナーシップに基づくアフリカ開発を実現するには、アフリカ諸国の政治的指導者が力強く斬新なリーダーシップを発揮することが肝要である。さらに開発の主たる受益者であるアフリカの人々が、NEPADの精神を共有し、開発過程に積極的に参加することが不可欠である。アフリカの人々に本当の意味で直接裨益するバランスのとれた持続可能な発展を確保することは、一つの方法で取り組むには余りに巨大な挑戦であり、相互に補完しあう二つのアプローチの組み合わせによってのみ達成しうるものである。すなわちリーダーシップと民主的なガバナンスに基づく国家主導型の開発と、個人の能力向上を通じたコミュニティを基盤とした開発の二つである。指導者と国民が価値を共有し、共通の開発目標を達成するために協働することが重要なのである。強力なリーダーシップと草の根レベルの参加に基づく国を挙げての取組(ナショナル・コミットメント)こそが、持続可能な開発の成功を約束するだろう。

2.平和とガバナンス{前10文字下線有り}

 我々は、アフリカの一部の地域において、アフリカ自身及び国際社会の努力により平和と安定の状況が改善していることを歓迎する。しかしながら、そのような平和を定着させることや、アフリカ大陸において依然続いている紛争を終結させることが、アフリカの国があらゆる能力と資源を十分に経済成長と持続可能な開発に注ぎ込むために絶対に必要である。紛争は、それ自体が国土を荒廃させ、国家と国民の資源を浪費するのみならず、難民や国内避難民、地雷、そして時に紛争を悪化させる小型武器の拡散といった長期に亘って継続する問題を残し、アフリカ開発の深刻な障害となる。いくつかのアフリカ地域機関が紛争の予防と管理に関して重要な役割を担っていることは励みになるが、武装解除、動員解除、元兵士の社会再統合、難民・避難民の帰還及び地雷除去などを含む「平和の定着」プロセスは、なお国際社会からの広範な支援や小型武器の違法取引を防止する方策を必要とする。さらに紛争の再燃防止のため、紛争の根本的原因の解決と、民主主義や適切なマクロ経済政策を含むグッドガバナンスに基づいた社会経済の着実な再建が必要不可欠である。アフリカの開発はアフリカ諸国のオーナーシップにより主導されるべきものであるが、紛争によりそのようなオーナーシップが発揮できないアフリカの国々や人々に対しては、国際社会のパートナーシップが包括的かつ統合された支援を差し伸べるという重要な役割を担っている。

3.人間の安全保障{前9文字下線有り}

 国家の安定の確保はアフリカ諸国の開発の前提ではあるが、それのみではアフリカの人々が直ちにより良い生活を送れるようになるわけではない。それ故、アフリカの人々を彼らの生存や尊厳や日々の生活を脅かす様々な脅威から保護し、女性や子供、その他の弱い人々を含む全てのアフリカの人々が、コミュニティづくり、国づくりのプロセスを形作り、自らのものとすることができるように、能力向上を行うことが不可欠である。このような人々の保護と能力向上が、人間の安全保障の中核的概念である。2000年の国連ミレニアム宣言や2003年5月に発表された人間の安全保障委員会最終報告は、アフリカの人々が依然として、貧困、飢餓、エイズの蔓延を始めとする感染症、教育の不足等の深刻な問題に直面しているという事実を強調し、アフリカが最も人間の安全が保障されていない大陸であることを指摘した。TICADプロセスは、アフリカの人々がこのような現在の辛苦から解放され、将来への希望と安心を携えて、開発過程に参加できるようにするために、人間の安全保障を重視していく。

4.アフリカの独自性、多様性、アイデンティティーの尊重{前27文字下線有り}

 アフリカがその開発プロセスにおいてオーナーシップを完全に発揮するには、アフリカがアフリカ自らの手で開発目標を設定する必要がある。人類の揺籃の地であるアフリカの歴史や文化に対する正当な理解と敬意に基づくアフリカの自信と尊厳は、アフリカ自身によるアフリカ開発の主要な原動力である。国際社会はそうしたアフリカの独自性、多様性、アイデンティティーを文化的・歴史的な観点から認識するだけではなく、アフリカの発展にとって欠くことの出来ないものとして認識する必要がある。このようなアプローチは、NEPADの開発哲学と合致するものであり、アフリカの人々が彼ら自身の運命を切り開くパイオニアたることに資するものである。国際社会は、このような視点を支持し、アフリカに対する開発協力政策に組み込んでいくことが望まれている。

IV.尊敬と相互信頼に基づく新しいパートナーシップ{前24文字囲み線有り}

 我々、TICAD IIIの参加者一同は、アフリカ開発が直面する諸課題は、21世紀においてアフリカと開発パートナーの双方が取り組まなくてはならない、差し迫った世界的な問題であると認識する。アフリカの開発はアフリカ自身とその開発パートナーの一致した努力によってのみ達成されるものであるため、オーナーシップとパートナーシップを基に、アフリカと国際社会の真の連帯を達成することが、TICADプロセスの究極目標の一つである。アフリカは自信と尊厳に基づき、自立的かつ持続可能な発展を追求するための方向性を決定し、自らのものとしなければならない。同時に、国際社会もそうしたアフリカのオーナーシップを尊重かつ信頼し、アフリカ諸国が国際市場においてシェアを獲得できるよう市場アクセスや衡平な貿易に向けた現状の取り組みを強化すると共に、ODAの量を増やしたり、海外直接投資を促進したりすることを通じて、アフリカが自らの開発資源を最大限に活用できるように、十分かつ時宜を得た支援を行う必要がある。

 我々は、AUが「今日における子供たちへの投資は、明日の平和、安定、安全、民主主義及び持続可能な発展につながる」と訴えていることを想起する。またNEPADも「やせ衰えたアフリカの子ども達に21世紀は本当にアフリカの世紀であるとの希望を与える」と宣言している。我々、アフリカ諸国とその開発パートナーの代表は、相互の「尊敬」と「信頼」を確認しつつ、アフリカの子供たちの心を絶望ではなく希望で満たし、子ども達の生活に不安ではなく平和をもたらすために、今、新しい一歩を踏み出そうとしている。この重要な一歩はアフリカの指導者だけによるものであってはならず、アフリカ諸国、さらには国際社会における全ての人々によって踏み出されるべき一歩である。我々は、強い確信と共有された信念をもって踏み出されたこのような一歩は、真にアフリカを輝きと希望に満ちた未来へ導くものであると固く信じる。

 我々、TICAD IIIの参加者一同は、これまでのTICADプロセスの成果を誇りを持って確認するとともに、我々の前に立ちはだかる数々の新しい挑戦に対して国際社会が一致して立ち向かうことにより、アフリカ自身のオーナーシップ、とりわけNEPADの実施を支援していくことをここに誓う。

2003年10月1日、東京

(了)