データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICADアジア・アフリカ貿易投資会議閉会式における中川経済産業大臣挨拶

[場所] 東京(赤坂プリンスホテル)
[年月日] 2004年11月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

各国、国際機関代表の皆様

ご列席の皆様

 TICADアジア・アフリカ貿易投資会議の閉会に当たり、日本政府を代表し挨拶する機会が与えられましたことは、非常に光栄なことです。まずは、地理的に遠いアフリカはもとより、アジアを含む世界各地から遠路はるばる本会議にご参加頂いた皆様に対し、心より御礼申し上げます。また私自身、開会式にも出席しましたが、その後二日間に亘る会議にて、十分に議論が尽くされ、こうして無事閉会式を迎えることができたのは、ひとえに皆様方参加者各位のご協力とご尽力の賜であると認識し、主催者側を代表し、改めて感謝申し上げる次第です。

 それでは、日本政府としての考えについて、一言申し述べたいと思います。

 従来、国際社会とりわけ先進国は、アフリカ開発問題を援助という観点からのみ論じる傾向が強かったのではないか、私自身に限らず、このような捉え方をする者が多かったのは否めないと思います。もちろんアフリカに対する援助自体は、アフリカの人々が直面する困難を緩和するものとして効果的であったことは疑いのないところです。他方、この傾向から脱皮する動きが出つつあるのも事実です。例えば、豊富な資源を活用し、自助努力により発展を行うことが可能と思われる国や、先進国側の政策を触媒として、発展が見込まれる産業を抱える国が出現してまいりました。わが国としても、今後、潜在的な成長が見込まれるアフリカの国については、対外経済関係上の意味あるパートナーとして改めて意義付けし、ウィン・ウィン関係を構築できる新たな「機会(ビジネス・チャンス)」を創出するための戦略を策定する必要性があると考えております。このような時期にTICADアジア・アフリカ貿易投資会議が開催されましたことは、誠に時宜を得たものと言えます。

 近年、国際社会においてアフリカを語る際には、アフリカ自身のオーナーシップの重要性が強調されるとともに、平和構築やガバナンス等、開発の基盤確保の必要性が指摘されます。また、ミレニアム開発目標(MDGs)達成の視点から、教育や保健といった社会セクターの開発が重視される傾向にあります。これらは、いずれも重要ですが、私はアフリカ諸国が真に自立的な発展を遂げるためには、援助から貿易・投資への重点の移行(グローバル経済への統合)といった視点が不可欠であると考えています。WTOのドーハラウンドにおいて、開発問題がひとつの重要な課題となっているのも、開発における貿易・投資の重要性を反映したものと言えるでしょう。日本政府としても、アフリカ諸国が自律的に経済産業の基盤を整え、WTOへのコミットメントを含め、グローバル経済との統合を進める意向であることを歓迎するとともに、アフリカ諸国との対話を始め、関連のキャパシティ・ビルディング支援や経済開発に繋がる各種支援を惜しまない所存です。

 アフリカにおける貿易投資促進の究極的目標は、「経済成長を通じた貧困削減」の実現です。貿易投資は、基本的に民間の活動であり、民間プレーヤーのイニシアティブに大きく期待するところですが、一国の経済の離陸段階においては、限られたリソースを成長につながるような貿易投資の促進に効率的に振り向ける国家の役割が重要であると理解しています。民間貿易投資の拡大のための様々なニーズに応えるための政府の役割としては、強いリーダーシップを発揮し、ステップ・バイ・ステップでの取り組みを行うことで、自国の競争力を高め、民間プレーヤーの信頼を確保していくことが重要です。この実践プロセスにあっては、アフリカ諸国側がオーナーシップを発揮して、各施策を主体的に実施していくことが必要です。道のりは平坦ではありませんが、アジアの経験を最大限活用し、アフリカ各国が、政府の役割について一定のロードマップを描けるよう、我々としても協力していきたいと考えています。こうした観点から、わが国としては、昨年のTICAD III以降、関係省庁や関係機関よりなるワーキング・グループを設置し、貿易投資を通じたアフリカ開発のあり方について1年近く議論を積み重ねてまいりました。この2日間、お集まり頂いた各国・機関の代表の皆様にも貿易・投資の促進のための具体策を持ち寄って頂き、アフリカ開発に向けた貿易投資の促進策に関して大変活発な議論が尽くされました。

 開会式において小泉総理から発表いたしましたとおり、我が国としては、伸びゆくアジア・アフリカ間の経済関係に着目し、アジアの一員として、またODAなどを通じてアジアの著しい成長に貢献してきた経験を踏まえ、貿易・投資の促進を通じたアフリカの自立的かつ持続可能な開発に向けて、「適切な政策立案」、「商品開発」、「地場中小企業の振興」、「民間企業の社会貢献の促進」の4つの分野において協力していきたいと考えています。アフリカ各国がこれらの分野について適切な政策を採用し、オーナーシップを発揮する場合には、我が国もパートナーシップの観点からできる限りの支援を行う用意があります。

 第一の「適切な政策立案」という観点は、国の経済成長は、自国の比較優位や民間のニーズを正しく認識し、それに基づき産官学が連携して産業振興政策を立案することから始まるという考え方です。その政策を基に、自由市場の原則は堅持しつつも、政府主導で国のリソースを必要な産業基盤整備に集中させることが重要です。アジアには、このような方法で経済成長を実現した実例が多くあります。我が国は、そのようなアジアの経験をアフリカと共有しつつ、アフリカ、アジア双方の人造り拠点を活用して、人材育成を強化します。また、経済活動の基盤となるモノ、人、情報の効率的な移動を支えるためにはインフラ整備が不可欠です。我が国は、従来から対アフリカODAにおいてインフラ整備を重視してきておりますが、引き続き経済成長に資するインフラ整備への協力を継続していきます。

 第二の「商品開発」という観点は、潜在的な比較優位を貿易・投資の促進につなげ、経済成長を実現するためには、その優位産業が国際的に競争力を持つよう、比較優位を育成することが必要だという考え方です。そのためには市場のニーズを把握して、それに適合するよう産品の高度化・国際水準化を図ることが必要です。我が国は、アフリカの産品にプロモーションの機会を付与することを通じて民間のニーズを発掘します。また、研修、人材派遣などを通じて、技術支援、生産・品質管理のためのキャパシティ・ビルディングを支援してまいります。

 第三の「地場中小企業の振興」という観点は、貿易・投資の促進が、国内の経済成長、貧困削減に結びつくためには、拡大する貿易・投資活動に国内の起業家や地場中小企業が参画することが必要です。そのために我が国は、マイクロクレジットなどの金融面、一村一品型産業振興や地場裾野産業の育成のための技術面での協力を通じてアフリカの地場中小企業振興を支援していきます。また技術・情報の交換のための中小企業家間のネットワーク構築支援などを実施します。

 第四の「民間企業の社会貢献の促進」という観点は、民間経済活動の活性化が、国全体のバランスのとれた成長に結びつくような環境を作ることが必要であるという考え方です。公共セクターと民間セクターの双方が開発という目的を共有し、相互利益に基づく真の官民連携を築くために、社会貢献が民間企業自身の利益にもなるような仕組みを作り、政府、企業、市民社会が一体となって社会貢献をしていく環境を造ることが重要です。そのために我が国としては、アジアやアフリカにおけるグッド・プラクティスを集めて共有していきたいと考えています。

 我が国は、上記の分野における各種施策との政策一貫性の観点から、2003年4月にLDC特恵関税の対象品目を拡大しており、現在では農産品を含むLDC諸国産品からの全輸入額の93%が無税無枠の適用を受けています。こうした取り組みにより我が国への市場アクセスが改善され、輸出が拡大し、LDC諸国の開発に資することを期待します。

 最後に忘れてはいけないこととして、以下の2つを指摘したいと思います。第一として、経済成長を遂げたアジアも、貿易投資の誘致のために不断の努力をしてきたということです。比較優位を創出し、維持し続けるということは、まさにその努力の継続そのものです。第二として、既存のビジネスを大事にしないところには新規のビジネスは参入しないということです。既存ビジネスが立ちゆかないところに、どうして新規ビジネスがこぞって展開するでしょうか?産業構造の転換の必要性はあるとしても、新規ビジネスを大切にするという者のクレディビリティは、既存ビジネスの関係者の処遇を見るしかないのではと思います。

 本日この場で、アフリカとアジアとの明日に向けて新たな挑戦がスタートしたと実感しております。最後になりましたが、参加者各位が無事本国に帰国され、今後の取り組みが強化されますよう、心よりお祈り申し上げます。

 ご静聴ありがとうございました。

以上