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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD平和の定着会議(議長総括)

[場所] アディスアベバ
[年月日] 2006年2月17日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

A.冒頭

1.TICAD(東京アフリカ開発会議)平和の定着会議が2006年2月16、17日に、エチオピア・アジスアベバにおいて開催された。この会議は、アフリカ及び他地域の経験・教訓を共有し、アフリカにおける平和を定着させるための効果的な手段を提案・提言することを目的に、日本政府、国際連合、アフリカのためのグローバル連合(GCA)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行により共催され、73カ国、38の国際・地域機関、20の市民社会・NGOから400人以上が参加した。

B.平和の定着の現状と課題

2.我々は、長く続いた紛争のほとんどが収束しつつあることを歓迎する。この前向きな流れは、国際社会とのパートナーシップを通じて支援を受けつつ、アフリカ連合(AU)及び地域機関の様々なイニシアティブを通じて紛争を解決し対処しようとする、アフリカの自助努力によるものである。

3.他方、紛争を脱したうちのおおよそ半数の国では暴力が再発している。それゆえ、自己満足は避けなければならず、我々は、紛争予防分野における努力と共に、平和の定着プロセスにおける様々な課題に立ち向かうための努力を前進させるべきである。

4.平和の定着は広範な分野が関わる複雑なプロセスである。同時に、平和プロセスの様々な構成要素はそれのみでは成功裡に実施することはできない。平和の定着のための政策やプログラムを策定する際には、最初の段階から、多面的、統合的かつ一貫性のあるアプローチが求められる。

5.この会議においては、平和の定着のための3つの分野、即ち(a)治安確保、(b)政治ガバナンス、体制移行、(c)コミュニティ復興及び社会経済開発がレビューされた。これら3つの分野は相互に緊密に関連しており、例えば治安の改善は、政治プロセスの進展、復興の本格化に繋がり、健全な政治ガバナンスは治安確保や復興の鍵となり得る。したがって、我々は会議期間中、常に包括的かつ調整のとれた方法で、3つの分野全てに取り組むことを念頭に置いた。

C.アフリカの平和の定着に向けて

6.我々の議論の結果、以下の点につき概ね意見の一致が見られた。

(a)治安確保

a.紛争終了後は、政治的移行、和解、復興など、平和の定着の鍵となる要素が醸成されるのに必要な、安定した環境を造ることを最優先とすべし。

b.武装解除、動員解除、元兵士の再統合(DDR)は、重要ではあるものの、紛争後における治安改善のための全体的な改革の一部に過ぎない。DDR、小型武器問題(SALW)、及び治安セクター改革(SSR)に取り組むに際しては、包括的アプローチに拠ることが重要である。

c.政治的安定及び平和の持続を長期に亘って確保するためには、当事国のオーナーシップと関係機関の政治的意思が不可欠である。DDR及び小型武器対策は、選挙を含む政治プロセスとの緊密な連携の下で実施されるべし。

d.DDRプログラムの中でも、特に、元兵士の効果的な社会的・経済的再統合に重点を置くべし。児童、女性、障害を負った兵士がコミュニティに再統合されるよう、特別な配慮が必要。この観点からは、持続可能な平和と治安の担い手となる若者に対し、教育と職業訓練の適切な機会を与えることが重要。

e.DDR及び小型武器分野における国境横断的な問題に対応できる強固な地域的枠組みを設立・強化すべし。そのような枠組みの例としては、「大湖地域及びアフリカの角における小型武器問題に関するナイロビ議定書」や「小型武器の輸出入に関するECOWASモラトリアム」がある。アフリカとの国際的武器貿易を規制、監視し、また、その透明性、追跡可能性を強化するために、国際社会が一体となって取り組むべし。

f.天然資源管理を見直すことによって、アフリカの紛争を助長し続けている、天然資源の違法搾取の影響を軽減することが可能である。

(b)政治ガバナンス・体制移行

a.正義と和解はともに団結と国家のアイデンティティの再構築のために必要。両者は相互補完的なものであり、紛争後の国は状況に応じて何が必要なのか判断しなければならないが、いずれかにより重点を置くことが必要であるかもしれない。

b.政治参加とグッド・ガバナンスを促進する選挙制度と民主的体制は持続的平和の基礎である。人権の保護及び推進は和解を促進し、寛容を奨励するものである。

c.アフリカ諸国及び他地域の経験は、紛争後の国々における行政・司法組織の改革や和解プロセスの促進の参考となり得る。その例としては、各国で設立された戦争犯罪裁判所、真実・和解委員会、特別法廷やICC等が挙げられる。

d.NEPADのアフリカン・ピア・レビュー・メカニズムや地域経済共同体(RECs)の取り組みを含むアフリカのイニシアティブは、積極的な役割を担う可能性を秘めているが、その一方で国際社会による調和がとれ、かつ一貫したアプローチは必要。

e.市民社会とNGOは体制移行プロセスにおいて人々の声を反映するのに極めて重要。この関連で、女性の果たす役割は重要であり、また、政府組織に草の根レベルが参画することも必要。

(c)コミュニティ復興・社会経済開発

a.戦争で被害を受けたコミュニティの再建には、安全な水や公衆衛生を含めた基礎生活分野(BHN:Basic Human Needs)での支援、学校や病院など基本的インフラの整備、及びキャパシティ・ビルディングを通じた地域の能力向上が必要である。

b.持続可能な開発に向けて経済インフラを発展させるためには資金流入が必要。同資金には、離散民族を含む合法的移民からの送金、海外直接投資、国際金融機関による融資が含まれる。とりわけ、最近世銀及びアフリカ開発銀行により開発された新たな金融手段は、紛争直後の国や不安的な状態にある国の特別な必要性に合わせたものである。

c.地雷除去活動は高い社会経済的利益をもたらす。この点、国家開発計画中に地雷除去、被害者支援、地雷の危険性に係る教育を統合した地雷対策として盛り込むことは重要である。

d.和平合意の後には平和の配当が続かなければならず、特に女性、子ども、国内避難民、帰還者、社会的弱者の利益が図らればならない。

e.貧困者・低所得者層のための金融サービスや農業(日本政府によるアフリカ村イニシアティブ等)等の分野におけるコミュニティをベースとした小規模な事業は、人々の能力を強化し、持続可能な開発を促進するための有効な手段である。また、こうした事業は、所得創出及び若年層の雇用を通じて国民和解プロセスに貢献するであろう。

結語及び今後の取り組み

7.上述の点に加え、我々は2日間の議論で、アフリカのオーナーシップがあらゆるレベル、即ち地域、準地域及び地方のレベルで中心的な役割を果たすべきことを再確認した。国際社会は、アフリカ連合(AU)、地域経済共同体(RECs)、政府及び地方のNGOの努力を奨励し、支援すべきである。アフリカ諸国間で育ちつつあるパートナーシップもさらに発展し、強化されなければならない。

8.我々は、人間の安全保障が平和定着プロセスのあらゆる側面において重要概念であることを強調した。

9.我々は、紛争の再発防止にはその根本原因に対処することが重要であること、即ち休戦及び和平合意の達成並びに国内選挙の実施は永続的平和のために必要だが、それらだけでは不十分であることを認識した。

10.我々は、小型武器の越境移動や調和のとれたDDRプログラム等の課題には広域的な対応が必要との見解で一致した。

11.我々は、人道支援から本格的な復興支援までの切れ目のない支援には、平和維持活動とその他の平和支援ミッション、人道援助機関と開発機関、援助国との間の緊密な協働・協力が必要であることを強調した。平和維持活動には明確な出口戦略が確立されなければならない。国連で新設される平和構築委員会はこの分野で重要な役割を果たすべし。

12.我々全員は、女性、若者そして一般的に市民社会が、持続する平和の基礎構築、特に和解、コミュニティの再建等の分野に果たす役割の重要性につき合意した。

13.国際社会はソマリア等の地域の状況に、更に注意を払うべしとの意見が出された。

14.我々は、現実の事態に対処するに当たっては単一の処方箋はなく、柔軟な戦略と長期的展望が必要であるものの、アフリカ及び他地域の過去の経験から学ぶことの重要性を認識した。過去の経験にはモザンビーク、アンゴラ、ルワンダ及びブルンジ、更にはカンボジア、アフガニスタンが含まれる。この観点から、アジアの経験をアフリカ諸国と共有するという日本の新提案を基礎に、TICADの枠組みでの南南協力の可能性が追求されるであろう。

15.我々は、この会議の提言が国連平和構築委員会の活動への有益な参考になり、この会議の議論と結果が、AUが現在取り組んでいる紛争後の復興・開発の枠組み(PCRD)の構築にも資するものとなることを信ずる。

16.我々は、それぞれの責任の範囲において、この会議の提言を実行に移し、適切ないずれの場合にあっても、平和定着のための政策策定に貢献することを決意した。