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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD「持続可能な開発のための環境とエネルギー」閣僚会議における岩屋副大臣基調演説

[場所] ナイロビ(ケニア)
[年月日] 2007年3月22日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

閣下、

代表団の皆様、

ご列席の皆様、

TICAD「持続可能な開発のための環境とエネルギー」会議を開会します。日本政府、TICAD共催者である国連、GCA、UNDP、世銀を代表し、皆様を心から歓迎致します。本日、国会開会中につきここに出席できなかった安倍総理及び麻生外務大臣からも、この会議の成功を祈っている旨メッセージを受け取ってきております。

今年2月、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書」が発表されました。同報告書は、地球温暖化が、人間の経済活動に起因する温室効果ガス排出の増加による可能性が高いことを指摘しています。気候変動は、大規模な旱魃、洪水、海水面の上昇による島嶼国の水没等、世界中に悪影響を及ぼし、地球レベルで、人間のみならずあらゆる生態系に危機をもたらすと言われています。国際社会は、このような地球規模での環境問題に真剣に対処しなければならない段階にさしかかって久しく、また同時に、「持続可能な開発」の推進の必要性が叫ばれています。

アフリカにおいて、エネルギーと環境問題は、世界規模の問題であるのみならず、人々の生活を脅かす日常的な問題でもあります。旱魃による薪炭材の減少や、衛生的な水へのアクセスの難しさは、それらを獲得するためにさらに長い道のりを歩かなくてはならない女性や子供に体力的な負担を課しています。また、水資源の不足に伴う家畜の減少は、遊牧民の安住の地を奪い、都市部への移動を招き、新たな貧困の原因を作り出しています。エネルギーへのアクセス不足は、直接的ないし間接的に、教育、保健及び貧困削減分野においてMDGsの達成を阻害しています。したがって、一般市民にとっての「持続可能な開発」への第一歩は、地球規模の環境問題を語ることではなく、身近な環境・エネルギー問題を的確に把握し、日々の生活に対する直接的な危険を取り除くことであると考えます。

閣下、

この会議で採り上げるテーマである持続可能な開発のためのエネルギーと環境問題は、既にアフリカ連合(AU)、NEPAD、アフリカ環境大臣会合(AMCEN)、アフリカエネルギー大臣フォーラム(FEMA)及び国連持続可能な開発委員会(CSD)を含む種々の枠組みのもとで議論がなされていると理解しています。

この会議の目的は、これら過去の議論を基に、問題解決のためのベストプラクティスを特定し、将来に向けた最前の政策を探ることによって、政治的な認識とコミットメントを高めることにあります。その上で、私は、議長として、いかにアフリカ諸国間、ドナー諸国間及び国際機関との間の協力のレベルを上げることができるかに焦点をあてていきたいと思います。

この会議を進めるにあたっては、アフリカ開発につながるエネルギー・環境関連の取り組みを、(a)地方及び中央政府の取り組みに代表されるオーナーシップの構築、(b)地域的協力の促進、そして、(c)民間の先端技術をも最大限に利用した官民連携を含むパートナーシップの深化、という三つの切り口からとらえ、出席者の皆様にそれぞれのアプローチにおける経験と知見を共有して頂き、今後とる具体的政策の方向性を探っていきたいと思います。

我が国は、19世紀後半から現在に至るまでの開発の過程で、様々な環境問題を経験し、公害により多くの人々の平和で健康的な生活が脅かされました。しかし、我が国は、環境法の制定、国民の間での悲惨な公害経験の共有、そして民間企業の高度技術に支えられた環境保護に向ける人々の意識向上により、公害を克服してきました。我々は、アフリカ開発を支援するにあたり、アフリカ諸国が開発の過程で我が国と同じ苦しみを味わうことがないよう、我が国の教訓から学ぶことが有益であると考えています。

アフリカでも、環境保護に向けた素晴らしいオーナーシップが見られます。植林活動を推進し、ノーベル平和賞を受賞されたケニアのワンガリ・マータイ教授に、この機会に改めて敬意を表したいと思います。我が国でも、マータイ教授の活躍は多くのマスコミで取り上げられ、モノを大事にする「もったいない」の精神やゴミの減少を推奨する「3R」運動に反映され、運動のさらなる推進の一助となりました。

これらのアフリカによるオーナーシップは、国際機関や地域機関の支援を有機的に活用することにより地域レベルの取組に広げることが可能です。それぞれの国のエネルギーと環境問題は、地域ごとに共通性を有するため、相乗作用、補完性、費用対効果は、協力と情報の共有により、高めることが可能です。既に西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、エネルギー白書を作成し、地域のエネルギー事情を加盟国内で共有する取組を進めています。我が国はこの取組を高く評価します。

また、21世紀における環境とエネルギー分野への取り組みには、高度な環境保全、エネルギー生産技術を誇る民間企業との連携も必要です。我々は、民間企業の参加も得つつ、市民社会、ドナー諸国、国際機関等の資源を効果的に利用できる強固なパートナーシップを構築していかなくてはなりません。パートナーシップの実例として、この会議では、アジアにおける豊富な経験を有する国際機関からの代表も招待し、エネルギー・環境分野における社会的貢献を紹介して頂こうと思います。

閣下、

我が国は、アフリカに対し2001年から5年間で、約5億9,200万ドルのODAを環境分野に、約4億1,100万ドルのODAをエネルギー分野に拠出してきました。これらの額は、それぞれ、ドナー諸国中第2位及び第1位となっています。また、2005年度に我が国が全世界に対して拠出した環境分野でのODAは、約30億ドルであり、これは我が国ODAの29.4%を占めています。

2005年のG8グレンイーグズル・サミットにおいて我が国は、2009年までの5年間で全世界向けODA事業量の100億ドル積み増しを目指すことを発表しました。また、我が国は2007年に対アフリカODAを16.8億ドルにまで倍増することにコミットしており、この実現に向け努力していきます。我が国ODAは、環境と開発の両立を実施の原則としており、従来より、環境分野への協力を重視しています。我が国は、今後とも環境分野での協力に取り組んでいくと共に、アフリカにおける環境破壊の多くの問題は、基本的に貧困に根ざしており、今次TICADプロセスの枠組において貧困と環境問題についても合わせとり上げる所存です。また、これまでも重視してきたアフリカのエネルギー分野への支援についても、環境に配慮した「持続可能なエネルギー」への取組を行うことによって持続可能な開発のための環境とエネルギー分野への積極的支援に努めます。

閣下、

TICADを開始して以来15年間、我が国は、TICADを単なる一つの会議としてではなく、一連のプロセスとしてとらえ、継続性のあるアフリカ支援を行ってきました。2003年のTICADIII以降、2004年11月に東京でアジア・アフリカ貿易投資会議を開催し、アフリカ開発に資するために、アジアとアフリカの間の貿易・投資の大きな可能性をいかす方途について協議が行われました。

昨年2月には、アディスアベバにてTICAD平和の定着会議を開催し、約6,000万ドルの支援イニシアティブを発表、これを着実に実施してきました。わが国は、右会議後の結果を踏まえ、平和の定着分野において2006年中に総額で約1億5,000万ドルの支援を継続し、また、本年に入ってからも既に約4,500万ドルの支援を実施しました。

我々は、貿易投資の促進も、平和の定着も、持続可能な開発のための環境保全とエネルギーの確保も、等しくアフリカ諸国の安定と繁栄に向けた「自助努力の発生地」の土壌を形成するアフリカ開発のための重要な要素の一つであると考えます。我が国は、明年、TICADIVを開催します。今回の会議を含むこれらの会議は、それぞれがTICADIVへ続く道のりとなっています。今回の会議を含むこれまでのTICADプロセスにおける様々な分野における提言と、これら会議で発表されるアフリカの声をTICADIVに活かしていきたいと思います。

ご静聴ありがとうございました。