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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD「持続可能な開発のための環境とエネルギー」閣僚会議:議長総括

[場所] ナイロビ(ケニア)
[年月日] 2007年3月23日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

A.冒頭

1.TICAD(アフリカ開発会議)「持続可能な開発のための環境とエネルギー」閣僚会議が、3月22日から23日にかけて、ケニア・ナイロビにて開催された。本件会議は、日本政府、国連、アフリカのためのグローバル連合(GCA)、国連開発計画(UNDP)、及び世界銀行により共催され、ケニア政府とUNEPから開催協力者(Co-host)として協力を得た。本件会議は、アフリカ及び他地域の経験と教訓を共有し、また今後の取組の方向性を議論し、アフリカの持続可能な開発の文脈で環境とエネルギー分野の主要課題へのより効果的な取組のための提案を行うことを目的として行われ、約80か国、約30の地域・国際機関、及び約30の市民団体・NGO及び民間セクターから計約500人以上の参加を得た。会議は、ケニアのムワイ・キバキ大統領の基調演説によって正式に開始され、議長は日本の岩屋毅外務副大臣が務めた。

B.持続可能な開発のための環境とエネルギーの現状と課題

2.多くのアフリカ諸国は、環境悪化・エネルギー生産及びアクセスの不足・貧困激化という悪循環に直面している。我々会議参加者は、環境及びエネルギー問題が、絶対貧困及び飢餓の削減、普通初等教育の達成、妊産婦の健康の改善、ジェンダー平等を含むミレニアム開発目標(MDGs)上の開発課題と密接な関係を有することへの考慮の重要性について再確認した。また、国または国際社会が早急に取組を行わない限り、環境悪化やエネルギー危機等の問題が、MDGs達成にとっての隘路となるとの考え方も共有した。この文脈において、貧困削減戦略においてこれら課題の主流化を図ることは、持続可能な開発にとって必要条件(十分条件ではない)である。

3.環境及びエネルギー問題は多面的かつ統合的な取組を必要とするが、アフリカの持続可能な開発の文脈における環境及びエネルギー問題に関する本件会議においては、アフリカ環境大臣会合(AMCEN)、アフリカ・エネルギー大臣フォーラム(FEMA)及び国連持続可能な開発委員会(UNCSD)等の国際場裡での最新の議論の結果を共有した。そして、アフリカ諸国と開発パートナーによるこのような努力を通じて得られた結果や結論に基づき、更なる前進のための方途につき、以下の三つの横断的視点から議論を行った。即ち、(1)オーナーシップの構築、(2)地域協力の推進、(3)パートナーシップの深化である。これら三つの視点は密接に連関しており、それぞれの分科会での議論においても、包括的かつ調和のとれた形で全ての分野に取り組む必要性に常に留意しつつ議論した。

C.持続可能な開発のための環境とエネルギー分野の取組のための基本的視点

4.議論の成果として、以下の点につき概ね合意が得られた。

(1)オーナーシップの構築:コミュニティ・レベルと国家レベル(「ボトムアップ」、「トップダウン」)

(a)環境及びエネルギーに関する全般的な目的及び目標はほとんどの国々にとり共通しているものの、環境・エネルギー面での取組の優先順位を付するに際して、アフリカが生態学的にも社会的にも非常に多様であるため、アフリカを一括りに扱うことはできない。アフリカ各国が、紛争後の状況を踏まえた特定のニーズ等の個別のニーズに即して各国毎の達成目標を設定する必要がある。

(b)オーナーシップの構築は、多次元で行うことが求められる。アフリカ各国政府にとり先ず重要なのは、環境及びエネルギー問題を国家経済開発計画及び貧困削減戦略の中に組み込むことである。このようにアフリカのオーナーシップに基づくことによって、地域及び国際社会が緊急に行動をとるとのコミットメントが現実のものとなる。

(c)環境及びエネルギー問題への取組を進めるに当たり、コミュニティ・レベルでの意識啓発を図るとともに、持続可能で均衡のとれた経済開発を可能にする効果的な環境整備及び政策実施能力の向上を進めることが重要である。こうしたプロセスにおいて、地方分権とコミュニティ主導の開発が奨励されるべきである。即ち、アフリカの国家としてのオーナーシップの構築に当たっては、ボトムアップとトップダウンの二方向のアプローチが必要であり、また、女性や若者を含む様々な層の人々の能力向上(エンパワーメント)を図ることが不可欠である。このように対応が複合的であることを踏まえ、アフリカ諸国からは資金面や技術面の支援を得る必要性が強く表明された。

(2)地域協力の推進

(a)アフリカは豊かな生態系に恵まれ膨大なエネルギー資源の潜在的可能性を秘めている。アフリカのエネルギー市場は小規模かつ断片的なものであり、水資源と生態系は国境をまたいで存在する。NEPADの行動計画でも地域経済共同体(RECs)やメンバー国によって実施されるべきものとして明確に言及されている通り、「規模の経済」を通じて恩恵を受けるための統合的な地域戦略が必要不可欠であることが明らかになってきている。

(b)「ECOWASエネルギー白書」策定、中央及び南部アフリカにおける電力備蓄計画、チャド湖やヴィクトリア湖の共同管理等といった例に見られるアフリカにおける成功事例から学ぶことに加え、拡大メコン準地域経済協力計画のようなアジアの経験を共有することも非常に有益である。

(c)各地域が現在直面しているこれら課題は、国家レベル・地域レベルでの政治的コンセンサスを投資計画へと導くことである。農村コミュニティ、都市近郊及び都市部住民のエネルギー需要を満たすために、革新的なアプローチが模索されるべきである。ドナー諸国、国際機関及びアフリカ開発銀行等の金融機関からの支援の重要性も強調された。

(3)パートナーシップの深化

(a)アフリカにおける環境及びエネルギー面での多大な課題に鑑み、限られた資源を有効に活用するために様々な関係者間の協力関係を深化させることは極めて重要であり、その中には援助の調和化・協調も含まれる。官民協力の推進は、公的資金援助を超えてパートナーシップの裾野を広げるという意味でも非常に重要である。

(b)アフリカ大陸においては環境及びエネルギー分野の潜在的可能性が非常に大きいことに鑑み、企業の社会的責任(CSR)の観点及び、ビジネス機会としての環境とエネルギーの観点の双方が重要である。また、政府が民間セクターからの貢献を正当に評価すると共に、グッド・ガバナンスの確保等のこれを支援する枠組みを構築することも重要である。

(c)ビジネス機会という意味では、クリーン・エネルギーの開発は民間セクターにとり大きな潜在的可能性を有している。右には例えば、バイオ燃料及び低コストの新たなオフ・グリッド照明器具等の分野での、オフ・グリッドやコミュニティ・レベルでのエネルギー供給等の新規ビジネスがあり得る。民間セクターにおける経営ノウハウや技術的な創意工夫が必要不可欠である。

D.結語及び今後の取り組み

5.2日間に亘る議論を通じ、我々はアフリカにおける持続可能な開発の文脈における環境及びエネルギー問題への取組に当たり、「オーナーシップの構築」、「地域協力の推進」及び「パートナーシップの深化」の三つの視点が重要であるとの結論に至った。また、我々は市民社会の役割を再認識し、「市民社会との対話」からの貴重な意見を踏まえ、貧困層の視点での環境及びエネルギー問題への取組についても議論した。

6.我々は、アフリカ諸国及び国際社会全体が、更なる政治的コミットメントに基づき、特に貧困、ジェンダー、基礎教育、保健等のミレニアム開発目標との密接な相互連関性を踏まえつつ、人間の安全保障の視点から、統合的に環境及びエネルギー問題への取組を前進させていくことが緊急課題である点につき認識を共有した。

7.更に、アフリカ大陸が地球規模の気候変動問題に対して特に脆弱であること、及び適応の問題への取組がアフリカの持続可能な開発にとり一つの重要課題となることが強調された。

8.エネルギー・アクセスの問題がアフリカ開発にとり主要課題であることは出席者に一様に認識されたが、加えて、代替エネルギー及び省エネ技術の役割及び潜在的可能性が、以下の三つの観点から評価・強調された。

●アクセスの拡大及び選択肢の分散

●官民協力の活性化

●環境適合性

9.アフリカの持続可能な開発のための環境及びエネルギー問題は複雑で多元的であり、単一の処方箋はなく、実際の問題に対処する際には柔軟な戦略と長期的視点が必要となる。アフリカや他地域の過去及び現在の経験から得られた教訓を共有することが特に重要である。この点、南南協力、特にアジア・アフリカ協力の推進が、アジアの経験をアフリカ諸国と共有するという日本のイニシアティブに基づいて、TICADの枠組みで、引き続き進められていくこととなる。日本自身としても、公害問題を克服する際の課題を含む豊富な経験を、アフリカ諸国の参考例として提供できる。

10.本件会議の重要な点は、相互に連関し、またアフリカの持続可能な開発にとり重要な環境及びエネルギーという差し迫った課題に焦点を当てるべく、環境やエネルギーの分野での優れた専門性をもつ閣僚のみならず、多くの開発大臣や外務大臣の参加を得て議論が行われた点である。

11.本件会議の結論に基づき、我々は、各々の責任分野において、本件会議の成果を実行し、適切な場において持続可能な開発のための政策形成に貢献していくことを決意する。この点、TICAD共催者は、本件会議の議論の成果を、2008年に日本で開催されるG8首脳会議に先立って開催されるTICAD IVの準備プロセスに十分に反映させることを確認した。また、我々は、本会議の提言が、G8開発大臣会合、アフリカ・エネルギー大臣フォーラム及び UNCSD-15等の今後開催される関連会合に貢献することを期待する。