[文書名] 「横浜宣言」元気なアフリカを目指して(第4回アフリカ開発会議(TICAD IV))
1.0 序論
1.1 日本及びアフリカ51か国の首脳及び代表団、アフリカ以外からの34か国の代表及び75の国際・地域機関の代表並びにアジア・アフリカからの民間セクター、学術機関、市民社会の代表は、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)に参加するため2008年5月28日から30日まで日本の横浜において一堂に会した。
1.2 TICAD IVは、急速な変化を遂げているアフリカが、自身の運命に対し責任を持ち、オーナーシップを主張することを決意し、その運命を決定する自信と能力を増しつつあるという状況の中で開催された。
1.3 TICAD IV参加者は、TICADプロセスが、1993年の開始以来日本を中心とし、国際連合、国連開発計画(UNDP)及び世界銀行を含む共催者が重要な役割を担いつつ、アフリカがアフリカ開発アジェンダにおいて「オーナーシップ」を余すところなく発揮することの重要性及びアフリカと国際社会との間の真の「パートナーシップ」の必要性を強調してきたことを確認した。また、この点に関し、TICADプロセスは、アフリカと日本及びアジア全体との架け橋及びアジアの開発経験をアフリカと共有できるフォーラムとしての役割を果たしてきた。地球規模での開発と安定を更に進めていく観点に立てば、共有された認識及び共通の戦略的利益に基礎を置いたより緊密な関係を追求することが決定的に重要であることは明らかである。
1.4 また、TICAD IV参加者は、アフリカの多様化した開発パートナーが、アフリカ諸国の政府、アフリカ連合(AU)と関連機関及びプログラム、とりわけアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)と協働しながら、アフリカ開発を支援する現在及び将来のイニシアティブの間の一層の共鳴及び効果的な調整のために積極的に努力する必要性を確認した。
2.0 近年の趨勢及び課題
2.1 TICAD IV参加者は、2003年のTICADIII以来アフリカ大陸において一般的に見られる前向きな兆しを確認した。政治的安定及びガバナンスの改善により、強力な経済成長及び海外直接投資の増加、就中アジアからの増加に後押しされる形で、アフリカ大陸全域で貿易、投資及び観光の機会への新たな認識が形成された。こうした機会は、アフリカ諸国が持続可能な真の経済成長を達成し、またそれにより貧困削減、生活水準の改善及び自立の向上に向けて持続可能な発展を遂げるという、これまでになかった見通しを提供する。
2.2 この点に関し、TICAD IV参加者は、2001年のNEPAD誕生、2002年のアフリカ統一機構(OAU)のAUへの改組及び地域経済共同体(RECs)の実効性増大をアフリカの決意の一層の顕れとして評価し、合わせてアフリカ開発におけるオーナーシップを実践する能力の強化を評価した。また、参加者は、2008年1月31日から2月2日までアディスアベバにて開催された第10回AU総会において採択された決議に具現化された、AUとTICADとの協力関係の強化を歓迎した。
2.3 また、参加者は、とりわけアフリカの産業化の早急な加速化、一次産品への依存からの脱却、地域での付加価値付与と流通処理のためのアフリカに基盤を置く産業の発展を求める第10回AU総会の結論に留意した。
2.4 TICAD IV参加者は、現在行われているアフリカ・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)を含む、アフリカ諸国自身によるアフリカのガバナンス改善に向けた精力的な努力に留意した。
2.5 TICAD IV参加者は、こうした大変前向きな動きがある一方で、アフリカ諸国が依然として多くの深刻な課題に直面し、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成は困難な見通しとなっていることに留意した。最も喫緊の課題としては、人口の増大とともに、農村及び都市部において、引き続き広範囲に渡る貧困及び失業が生じていることが挙げられる。また、低い農業生産性、一般的に乏しい農業インフラ、気候変動の深刻な影響の増大、アフリカ大陸全体における工業化水準の低さ、エネルギー創出不足及び不十分なエネルギーアクセス、アフリカ大陸の大部分において引き続き猛威を振るっているHIV/エイズ、結核、マラリア及びその他の感染症、及びとりわけサブサハラ・アフリカにおける全ての段階における教育への不十分なアクセス及びそれと関連する教育インフラの欠如も深刻な課題である。TICAD IV参加者は、後発開発途上国、内陸国及び島嶼国が持つ特別な需要を強調した。また、参加者は、食料価格高騰及びそれがアフリカにおける貧困削減に与える悪影響に対して特別な関心を払った。
2.6 TICAD IV参加者は、アフリカ諸国の政府が各国国民の経済的、社会的福祉に主要な責任を有する一方で、他方、国際社会とりわけアフリカ開発のパートナーが、こうした課題に取り組み、課題を克服するアフリカ自身の努力を後押しする上で決定的に重要な役割を果たすことを確認した。
2.7 この点に関し、参加者は、G8諸国がアフリカ開発の支援のために行ったコミットメントを履行し、また、新興パートナーを含む全てのアフリカ開発パートナーが、アフリカ大陸とのより緊密な調整と広範な国際的パートナーシップの強化のために協働し、特に取組の焦点を絞りやすくし、取組の重複や限られた資源の不必要な浪費を避けることの重要性を強調した。
2.8 アフリカにおけるこうした前向きな動きを基礎とし、NEPADに示されたビジョンに導かれつつ、他方、アフリカ諸国が引き続き直面する重大な開発上の課題を十分認識し、TICAD IV参加者は、以下の具体的かつ相互に関連している優先分野において協働することにコミットした。
●成長の加速化
●MDGs達成及び平和の定着・グッドガバナンスを含む人間の安全保障の確立
●環境・気候変動問題への対処
3.0 成長の加速化
元気で繁栄したアフリカに向けた真のパートナーシップの構築
3.1 TICAD IV参加者は、広範な経済成長と経済の多様化を加速化させることが重要であることを強調し、アフリカ大陸にある豊富かつ現在まで大部分が未開発である資源の潜在性を確認した。
人材育成
3.2 TICAD IV参加者は、とりわけ科学技術分野の人材育成においてアフリカ諸国が直面している大きな課題に留意した。参加者は、この点に関して日本及び他の開発パートナーが行った重要な貢献に留意し、この開発協力における極めて重要な分野において相当程度の拡大の可能性があることを確認した。
産業開発の加速化
3.3 参加者は、アフリカの産業開発を急速に加速化させる必要に関しての第10回AU総会の結論を想起した。
インフラ
3.4 参加者は、広域インフラ開発に焦点を当てることの基本的な必要性について強調した。
農業及び農村開発
3.5 TICAD IV参加者は、アフリカ大陸の経済活動の主要な構成要素としての農業の役割を確認し、現在の農業生産性を高め、水資源の供給及び管理等を通じてこの重要な分野への支援を急速に増加することの必要性を強調した。NEPADの包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)の枠組における農業及び農村改革は、食料安全保障及び貧困削減を達成する上で効果的であり、経済成長の主要な原動力であると確認された。この点に関し、農村起業家及び地場産業を支援することが重要である。
貿易・投資
3.6 TICAD IV参加者は、アフリカと日本及び他のアジア諸国との間の貿易・投資を含み、現在のアフリカ諸国との貿易・投資の水準は確実に向上しているものの、全世界の貿易・投資に占めるアフリカの割合は依然として小さいことに留意した。これに応じて、参加者は、WTOドーハラウンドの早期、公平かつバランスの取れた決着のために協働する必要性を確認した。また、参加者は、「貿易のための援助」イニシアティブの重要性を確認した。
観光振興
3.7 TICAD IV参加者は、観光分野においてアフリカが大いなる潜在力を有していることを強調し、合わせて観光はアフリカの肯定的なイメージを形成しつつ他の様々な分野にも前向きな影響を及ぼすという二重の効果を有することを強調した。参加者は、観光分野においてアフリカ諸国が一層緊密に連携していくことの重要性を強調し、この分野における経験及びノウハウの共有及び技術協力プログラムの促進の必要性を確認した。また、エコ・ツーリズムの特別な重要性についても強調された。
民間セクターの役割
3.8 TICAD IV参加者は、とりわけアフリカ大陸の天然資源の効率的な開発、工業、エネルギー及び鉱業、農業、金融及びその他のサービスセクターの発展、に関した持続可能な経済成長の促進及びそのための資金供給を行い、また、アフリカの相当数の人的資源の開発及び管理を行っていく上で、アフリカ内外の民間セクターが果たす役割が重要であることに留意した。
3.9 この関連で、アフリカ大陸の全般的な投資環境の改善に向けた進展に後押しされ、参加者は、日本及び他のアジアの民間セクターのアフリカへの関心及び活動の増加を歓迎した。また、参加者は、アフリカにおける貿易・投資を促進することにより官民パートナーシップの強化に向けた日本のイニシアティブを歓迎した。
4.0 MDGs達成
「人間の安全保障」の経済的、社会的側面
4.1 TICAD IV参加者は、2015年までにMDGsを達成するためには更に力強い推進力が必要であることに留意した。参加者は、MDGs間の相互の関連性及びMDGsの全般的達成に向けて一層包括的なアプローチを速やかに促進していくことが必要であると確認した。
4.2 参加者は、TICAD IVが、恐怖と欠乏からの自由への注意を喚起し、個人及び共同体の保護及びエンパワーメントを強調する「人間の安全保障」の考え方に焦点を当て、この考え方を促進することを歓迎した。
4.3 コミュニティ開発:安全で健康なコミュニティの確立
●参加者は、包括的かつコミュニティに根ざした手法の強化がMDGs達成に資することを確認した。このアプローチは、人材育成、とりわけ若年層のための質の高い雇用の創出、所得創出、一次医療及び初等教育へのアクセスの拡大、及び一村一品運動等を通じた農業・農村開発を包含するものである。
4.4 教育:新たな未来を切り拓く教育の実現
●参加者は、全てのアフリカの人々のために、とりわけ若年層に焦点を当てつつ、教育の質を向上しアクセスを拡大すること及び分野横断的なアプローチを確保しつつ技術教育・職業訓練、科学・高等教育を含む成長と自立性に繋がる教育を促進することの基本的な必要性について強調した。
4.5 保健:信頼できる保健及び衛生の確立
●HIV/エイズ、結核、マラリア、ポリオ及び他の感染症への取組に加え、参加者は、とりわけ母子保健を含む主要な保健上の課題に効果的に対処するための保健システム強化の意義を確認した。参加者は、保健従事者の人材育成に焦点を当て、熟練した技術を持つ医療従事者の頭脳流出に関する懸念を表明した。
●参加者は、この分野では初めての試みとなる野口英世アフリカ賞の創設を心から歓迎した。
4.6 ジェンダー:ジェンダーの平等及び女性のエンパワーメント
開発や平和の定着における女性の重要な役割を確認しつつ、TICAD IV参加者は、女性の人権の推進・保護及び女性のエンパワーメントの促進が重要であることを改めて強調した。参加者は、異なる国々の文化的特徴を考慮する一方で、教育格差、女性に対する暴力及び意思決定のあらゆる領域への女性の参加が不十分であること等の問題に取り組むことの必要性を強調した。
5.0 平和の定着とグッドガバナンス
「人間の安全保障」の政治的側面
5.1 TICAD IV参加者は、開発と平和の双方が歩調を合わせて進展すべきであると改めて確認した。参加者は、この点に関してアフリカ大陸でなされた重要な進展に留意し、元気なアフリカを実現するためには、平和の配当がアフリカの隅々にまで広がらなければならないことを強調した。
5.2 また、参加者は、紛争から脱しつつある国々は、復興及び持続可能な開発の軌道に乗り、繁栄の成果を得るために特別な支援が必要であることを改めて強調した。これが実現するためには、紛争予防、早期警戒措置、紛争解決及び新たな紛争の勃発の予防を包含する切れ目のない平和構築努力が決定的に重要である。その理由は、こうした努力がアフリカにおける持続的平和を促進するためである。これらのプロセスを通じて得られた平和を持続するためには、健全で活発な民主主義、継続的かつ包括的な対話及びガバナンスの強化が活発に促進されることが必要である。更に、これらの各段階の間の円滑な移行及び平和の定着と他の開発分野における支援間の関連付けも極めて重要である。
5.3 参加者は、アフリカのオーナーシップの重要性を強調し、アフリカ平和安全保障アーキテクチャー(APSA)及びアフリカ・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)といったガバナンス改善のためのAUのイニシアティブを歓迎した。また、参加者は、開発パートナーから示された、特にアフリカの平和維持能力向上のための善意を歓迎した。更に、参加者は、安全保障理事会及び平和構築委員会といった国連とその機関や、平和維持活動に貢献しているAU、アフリカの地域機関及びアフリカ諸国が果たしている重要な役割に対する注意を喚起した。参加者は、アフリカ諸国が行っている、アフリカにおける和解及び武力紛争の平和的解決のための仲裁努力及び平和維持活動への関与を賞賛した。
5.4 参加者は、安全保障理事会を含む国連の主要機関を21世紀の国際環境により合致したものとなるために早期に改革することの重要性を強調した。参加者は、今次国連総会会期中、国連加盟国が安保理改革に関して努力すべきであることを改めて強調した。
6.0 環境・気候変動問題への対処
「クールアース・パートナーシップ」の構築
6.1 気候変動:
●TICAD IV参加者は、温室効果ガスの排出が最も少なく、世界で2番目に大きな地球の「肺」と考えられているコンゴ盆地を擁するアフリカ諸国が、環境破壊の進行、森林減少、生物多様性の損失、食料安全保障及び保健を更に脅かす干ばつ・砂漠化等の気候変動の悪影響及び異常気象の頻発に対して概して極めて脆弱であることに留意した。アフリカ諸国は依然として緩和及び適応能力に関して備えが不十分である。
●TICAD IV参加者は、環境保護イニシアティブを強化するためにアフリカを支援する必要性を確認し、2007年11月にチュニジアで開催された「気候変動からアフリカ及び地中海地域を守る国際連帯に関する国際会議」を含むアフリカ諸国自身のイニシアティブを歓迎した。アフリカ諸国は、日本の「クールアース推進構想」を評価し、温室効果ガスの排出に関し現行の京都議定書の下とられる初期的取組以降を見据えた国際的枠組を打ち出すための日本政府の努力を確認した。
●この点に関し、参加者は、2008年1月に日本政府が、気候変動の影響に対処し、技術移転を通じて途上国の産業を近代化し、途上国のエネルギー効率と環境親和性を向上するために、アフリカ諸国を含む開発途上国と日本との間での政策協議に基づき、100億ドル規模の資金メカニズムを含む「クールアース・パートナーシップ」を立ち上げるとの意図を表明したことを歓迎した。
6.2 水:水及び衛生へのアクセスの確保
●参加者は、保健、農業・食料生産、災害リスクの軽減及び平和と安全といった開発ニーズに対応するために欠かせない資源としての水の重要性を確認した。また、参加者は、水資源の持続可能な利用を促進することが不可欠であることを確認した。
6.3 持続可能な開発のための教育(ESD)
●参加者は、持続可能な開発のための教育イニシアティブ及び環境問題に効果的に対処するために同イニシアティブを促進することの重要性を確認した。
7.0 パートナーシップの拡大
元気なアフリカを目指した地球規模でのパートナーシップの拡大におけるTICAD
7.1 TICAD IV参加者は、1993年の開始以来、TICADプロセスが「オーナーシップ」と「パートナーシップ」という2つの対となる概念を強化し、アフリカ開発に大きく貢献してきたことを確認した。
7.2 参加者は、TICADプロセスの枠組みにおける南南協力の強化の重要性を確認し、また、TICADイニシアティブの下で、アジア・アフリカ間の貿易・投資を促進しアフリカ域内の貿易を奨励する努力が肯定的な結果をもたらしていることを確認した。
7.3 参加者は、TICADプロセスにおけるアフリカ、日本及び国際的な市民社会の積極的な関与を確認し、また、既存のTICADパートナーシップを全員参加型アプローチを通じて更に拡大することの重要性を確認した。また、参加者は、既存のイニシアティブ間の益々の共鳴及び調整を実現し、元気なアフリカに向けた地球規模での開発パートナーシップ全般において、より一貫し、焦点が当てられ、効率的な取組が達成されることが必要であることを強調した。
8.0 将来の道筋
8.1 TICAD IV参加者は、心からの感謝とともに、日本政府、TICAD共催者及び国際社会を含む開発パートナーが、アフリカ開発の促進に継続してコミットし、とりわけTICADプロセスを推進してきていることに留意した。
8.2 参加者は、TICADプロセスによって現在までに達成された発展を心から歓迎するとともに、TICAD IVの行動志向的な成果を称賛し、この成果が本宣言及び付属するTICAD IV行動計画に明確に示されていることを評価した。
8.3 参加者は、TICADプロセス全体の実施状況及びアフリカ開発の多くの分野におけるTICADプロセスの影響について現在行われているアセスメントを継続的にモニター・分析するためのTICADフォローアップ・メカニズムの設立を歓迎した。
8.4 参加者は、持続的で加速化されたアフリカ開発という包括的目標を成功裡にかつ時宜を得た形で達成するためには、国際社会全体のコミットメントと関与が必要であり、またアフリカの全ての開発パートナーの知識と資源をより強固かつ共鳴したやり方で結集することが必要であることに留意した。
8.5 参加者は、日本がG8サミット議長国としてTICAD IVの成果を2008年7月の北海道洞爺湖サミットの議論に反映し、アフリカ開発に対するG8諸国の活発な支援を求めていくことに対してコミットしていることを歓迎した。