データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD IV 横浜行動計画

[場所] 横浜
[年月日] 2008年5月30日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

前文

1.本行動計画は、横浜宣言を踏まえ、今後、アフリカ開発国際会議(TICAD)プロセスの下でアフリカの成長と発展を支援するためのロードマップを提供するものである。

2.アフリカは、年率5%を超す高い経済成長と政治的安定の増進を基礎として、アフリカが「希望と機会の大陸」になることに資する広範な成長と発展へと向かっている。

3.TICADプロセスは、アフリカ諸国が明確な開発目標を達成し、実質的な成果を得ることを支援するために、知恵と資金を動員してこの目的を支援することを目指す。TICADは、その創始以来、アフリカ諸国のオーナーシップ、パートナーシップ及び南南協力の拡大の原則を基礎としている。

4.本行動計画は、パートナーシップの拡大の下で、成長の加速化、人間の安全保障の確立(ミレニアム開発目標(MDGs)の達成及び平和の定着・グッドガバナンス等)、環境・気候変動問題への対処という3つのTICADの優先事項を促進するため、今後5年間にTICADプロセスが達成すべき目標と履行すべき具体的措置を提示するものである。この目標の進展状況は、TICADフォローアップ・メカニズムを通じてモニターされる。

5.TICADプロセスの中心に位置する日本政府は、対アフリカ政府開発援助(ODA)を2012年までに倍増することを表明し、日本政府としての強固なコミットメントを示すイニシアティブをとった。これは、上述の優先事項に沿った目標が達成できるような支援の効果的な実施に寄与するものである。日本政府はまた、2008年から2012年にかけて、日本の民間セクターからアフリカへの直接投資を倍増させるためにあらゆる政策手段を積極的に動員するように努力を払う意向である。

成長の加速化

序論

 TICADプロセスは、インフラ開発、貿易、投資、観光、農業に対する支援を通じて「元気なアフリカ」を促進し、加速化しているアフリカ経済の成長及び多角化を促進する。TICADプロセスは、貧困削減とMDGsの達成に実質的に関連している、持続可能な経済成長の促進を目指し、民間セクターを含めた全ての関係者が、アフリカ諸国が特に人材育成を通じ、成長を拡大し加速化すべく行っている取組を支援するために共に行動することを奨励する。

インフラ

 アフリカの農業・産業振興や貿易・投資の拡大を促進し支援していくためには、インフラ網の整備が不可欠である。G8グレンイーグルズ・サミットに対するアフリカ委員会報告書は、アフリカのインフラ需要を2010年までに充たすために、年間100億ドルの追加支援の必要性を指摘している。アフリカの専門家が現在策定中の中長期的戦略計画は、広域インフラの拡大及びその維持・管理のための能力向上の必要性に言及することとなろう。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは以下の事項に焦点を当てる。

 1.広域運輸インフラ(道路・港湾等)

 2.広域電力インフラ

 3.水関連インフラ

 4.地域機関の関与拡大

 5.インフラ部門における官民連携の促進

1.広域運輸インフラ

●広域運輸回廊及び国際港湾の計画・建設・改良のための資金・技術援助を提供する。

●広域インフラの維持・管理のための能力向上を支援する。

●ワンストップ・ボーダーポスト(OSBP)等の越境手続円滑化を促進する。

●インフラ開発と並行して包括的なコミュニティ開発のための技術協力を支援する。

2.広域電力インフラ

●地域全体への安定的な電力供給、及び広域電力網の維持管理のための能力向上に関する協力を強化する。

3.水関連インフラ

●灌漑農地割合及びその他の水管理インフラを迅速に拡大するための農業用水開発イニシアティブを支援する。

4.地域機関の関与拡大

●地域経済共同体(RECs)及び地域開発銀行によるインフラ関連プログラムの計画、資金調達、実施に関する能力向上を支援し、また、広域インフラ投資計画のための技術支援を提供する。

5.インフラ部門における官民連携の促進

●民間セクターの機会を増進するために、その他政府資金(OOF)を活用して、港湾、鉄道、発電所等インフラ部門における官民連携を促進、支援、強化する。

貿易・投資・観光

 アフリカ各国政府は、貿易及び投資が持続可能な経済成長及び貧困削減に果たす重要性を認識し、アジアの経済成長の経験を踏まえて、貿易促進及び外国投資誘致のために努力している。また、アフリカ連合(AU)/アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)やRECsも、アフリカ域内における貿易を活性化し、アフリカが世界経済の一部として組み込まれることを促進するために、法制度や広域インフラの改善を含む地域共通貿易政策を策定している。この関連で、TICADプロセスは、民間セクターと協力しつつ、アフリカ諸国との貿易及び対アフリカ投資の大幅な増加を達成することを目標とする。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは以下の事項への取組を強化する。

 1.貿易の促進・拡大

 2.外国投資の奨励

 3.民間セクター開発支援

 4.観光促進

1.貿易の促進・拡大

●アフリカの全ての後発開発途上国を原産とする全産品を原則的に対象とした無税無枠の市場アクセスを提供する。

●日本の「貿易のための開発イニシアティブ」を含む支援の加速化により、アフリカ諸国のグローバルな競争力を強化するための「貿易のための援助」(AfT)を増進し、また、世界貿易機関(WTO)ドーハ開発アジェンダ交渉の早期かつ公平でバランスの取れた妥結に向けた支援を行う。

●一村一品運動の更なる推進により、アフリカにおける産品開発及び輸出振興を支援する。

●OSBPのようなプロジェクトを通じてインフラ管理能力を向上する。

●貿易慣行の改善、並びにアフリカ諸国及びRECsの貿易政策立案・調整能力の向上を支援する。

2.外国投資の奨励

●アフリカ諸国における法制度整備を含む投資環境向上のための支援を提供する。

●アフリカ市場参入を意図している民間企業のためのアフリカ諸国のビジネス環境に関する情報提供・相談プラットフォームの設立を支援する。

・官民連携を促進しアフリカへの民間資金の流れをてこ入れするための、投資金融、貿易投資保険等の公的資金源をより効果的に活用する。

●経済及び企業のガバナンス向上のための能力構築支援を提供する。

3.民間セクター開発支援

●アジアにおける開発経験を必要に応じ踏まえつつ、アフリカ諸国の産業開発戦略及び政策の策定及び実施を支援する。

●情報通信技術(ICT)の効果を考慮しつつ、有望産業における生産性、競争力、ビジネスの専門知識向上のための技術支援を提供する。

●中小企業及び地域産業の開発支援を拡大する。

●アフリカ諸国の地域債権市場及び地域貨幣融通メカニズムの発展等を通じ、金融セクター強化のための国際金融機関及び地域開発銀行と連携する。

●エネルギー及び天然資源の自立的利用推進のための技術・資金援助を提供する。

4.観光促進

●アフリカ諸国への観光トレーニングプログラム等を通じた、アフリカ諸国の観光開発に向けた治安、接客管理、インフラ、環境面における制約に対応するための取組を奨励し支援する。

●アフリカの観光地への親しみを増進し、アフリカ及びアフリカの提供するものに対する理解を深めるための観光業者に対する支援を行う。

●2010年に南アで開催されるサッカーワールドカップの機会を利用し、観光フェアの開催等を通じた長期的な観光促進を支援する。

農業・農村開発

 サブサハラ・アフリカの貧困人口の7割にあたる2.3億人が農村地域で生活しており、アフリカにおける食料安全保障、貧困削減及び経済成長には食料増産及び農業生産性の向上が重要である。農業セクターはアフリカ経済の牽引力たり得る一方で、食料、肥料及び燃料価格の継続的な上昇は食料安全保障にとり益々脅威となっている。

 アフリカ諸国は、開発のための農業セクターの重要性を認識し、2015年までに年平均成長率6%を達成するために農業生産性の向上を目指すNEPADの包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)を実施している。CAADPアジェンダの中で、アフリカ諸国は、2003年のAUのマプト宣言に従い、5年以内に国家予算の少なくとも10%を農業及び農村開発に割り当てることにコミットしている。

 TICADプロセスの下で行われる農業支援には、農業活動が環境へ及ぼす影響、農業の主要な役割を担う女性の能力強化、及び三角協力を含む南南協力の奨励への考慮が含まれる。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは、以下の事項の実施のためにCAADPアジェンダとの連携を図る。

 1.食料増産及び農業生産性向上のための能力向上

 2.市場アクセス及び農業競争力の改善

 3.持続可能な水資源の管理及び土地利用の支援

1.食料増産及び農業生産性向上のための能力向上

●気候変動への適応、品種改良、土壌肥沃度及びその他の農業技術の向上等のための農業研究、普及・指導サービスの拡大に対する支援を提供する。また、ジェンダーに配慮した農業関連教育及び訓練を通じて農業専門家の増加に対する支援を提供する。

●小規模農家及び農民組織に対し、新技術の採用、農地及び投入資源の利用拡大、生産性向上のための適切な農業機械及び農機具の導入を支援する。

●今後10年間でのアフリカ諸国におけるコメ生産量倍増を目指し、体系的な作物管理手法や、ネリカ米の利用拡大を含めた新たな方式の採用のための能力開発を通じ、コメの生産を増進する。

●越境性病害虫や動物疾病対策のための広域ネットワークを強化する。

2.市場アクセス及び農業競争力の改善

●輸送コスト削減、小売価格と農家引渡し価格の比率の改善、収穫後損失率の削減、及び農産品の販売増加のために、道路、港湾、市場施設等の物理的インフラへの投資を増大する。

●農民が、バリュー・チェーンのより高い段階へ移動し、農産品基準及び輸出基準を満たすための技術・資金援助を提供する。

●小規模農家、特に女性農家に対し、新技術及び投入資源の利用を促進し、農業ビジネスのバリュー・チェーンへの統合を加速化するためのクレジットの提供を拡大する。

●小規模農家、農民組織、小規模取引業者の入札プロセスにおける参加促進のためのパイロット・プロジェクトを支援する。

3.持続可能な水資源の管理及び土地利用の支援

●小規模農家の土地使用及び譲渡に関する決定権を増大するための土地の名義、所有及び使用に関する改革を支援する。

●今後5年間で灌漑地域面積を20%拡大することを目指す共同の取組に貢献するために水資源管理のためのインフラの開発・修復・維持を促進する。

●耕作手法の改善、水の確保及び貯蔵、新技術の導入及び地方自治体・農民組織の能力構築を通じ、水資源管理能力を向上させる。

●小規模のコミュニティが管理する灌漑設備や、地域市場のための水管理スキーム及び高付加価値市場のための個別の小規模農家スキームに対し、資金援助を提供する。

MDGs達成

序論

 2008年は2015年までのMDGs達成に向けた中間年である。各種統計が示すように、多くのサブサハラ・アフリカ諸国において諸目標の達成に遅れが目立ち、妊産婦死亡率の高さやHIV/エイズの蔓延は依然深刻である。このため、アフリカにおける進展の加速化が極めて重要である。貧困削減のためには経済発展が必要であるが、経済成長の果実が、最も弱い立場にある者を含めて社会の全ての構成員に均霑され、一部の特権的な者に独占されないことも不可欠である。

 アフリカにおけるMDGs達成を促進するため、TICADプロセスは「人間の安全保障」の理念、即ち人間の生命、生活及び尊厳に対する様々な脅威から人々を守り、自身の持つ可能性を充分に実現できるように能力強化が図られる社会を構築することを目指す考え方に焦点を当てる。「人間の安全保障」の強化に際しては、中央政府、地方政府、国際機関、市民社会等の協力を奨励する、ボトム・アップの取組、包括的・マルチセクトラルな対応、全員参加型のアプローチを重視していく。MDGsの各目標間の相互関連性に十分な注意を払いながら、TICADプロセスは、MDGs達成に向けて遅れが最も顕著な保健と教育の分野に積極的に焦点を当てるとともに、コミュニティ開発、ジェンダー平等及び市民社会の積極的な参加を奨励する。

コミュニティ開発

 コミュニティ開発及び能力強化は、地方及び都市のいずれにおいても、人間の安全保障の強化に不可欠な要素である。コミュニティ開発においては女性が重要な役割を占めているため、ジェンダーの視点が不可欠である。また、持続可能なコミュニティ開発を確実にするためには文化的考慮も重要である。さらに、コミュニティを基礎とする取組は、移行期における平和の定着にとっても不可欠である。

 アフリカにおける雇用及び貧困削減に関する宣言において、AU加盟国は、社会開発、貧困削減及び雇用創出に一貫して取り組むことの重要性を認識し、特に地方コミュニティ及び都市のインフォーマル経済における貧困者及び弱者、また、失業者及び不完全雇用者の能力強化にコミットした。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは以下の分野の支援に焦点を当てる。

 1.包括的な「グローカル」(グローバルかつローカル)コミュニティの開発

 2.機能的ハブを活用したコミュニティに根ざしたアプローチ

1.包括的な「グローカル」(グローバルかつローカル)コミュニティの開発

●コミュニティに牽引された包括的な開発へのアプローチを支援し、また、アフリカン・ビレッジ・イニシアティブ(AVI)やアフリカン・ミレニアム・ビレッジ(AMV)の経験を活用する。

●特に若年層に対し質の高い雇用創出を行うための技術支援やマーケティングスキル、マイクロファイナンスを提供し、また、生活協同組合との連携により所得を創出する。

●一村一品プロジェクトを拡大する。

2.機能的ハブを活用したコミュニティに根ざしたアプローチ

●学校及びコミュニティの教育施設において、基礎教育に加え、給水、衛生、学校給食、応急手当及び専門医への紹介サービス、識字教育及び生活技術教育を含む包括的なサービスを提供する。

●地域住民の教育及び学習の成果へのアクセスを向上し、現地生産された作物による学校給食等を通じて地域経済とのつながりを強化するため、地域住民による学校運営の参画を奨励する(「みんなの学校」)。

●教育、医療及び農業イニシアティブのための収入を創出するための地域生活協同組合による水資源管理を支援する。

●サービスの中核としての保健センターを改善し、保健医療従事者に対する訓練を提供する。

●住居、衛生、給水及び排水施設を改善するためのコミュニティ開発委員会の設置等を通じて住民の定住を改善する。

教育

 EFA(万人のための教育)及びMDGs達成のため、アフリカ諸国には全体的な教育セクター計画、その実施のための十分な国家予算の割当て及び関連する能力の向上などが求められている。TICADプロセスはこうした取組のみならず、成長及び持続的な社会経済開発につながる教育及び人材育成も支援する。その中で、教育における男女平等及び保健、水、衛生等関連する他のセクターとの相乗効果を獲得する取組を追求する必要がある。

 アフリカ連合が2007年11月に採択した「第2次アフリカ教育開発の10年」(2006年〜2015年)では、ジェンダーと文化、教育マネジメント情報システム、教員の能力向上、教育と訓練、高等教育、技術教育・職業訓練、カリキュラム、教材、教育の質管理を教育セクターの優先分野として特定した。この枠組において、アフリカ諸国は国家教育運営情報システム(EMIS)の機能を発展し、初等・中等教育における完全な男女平等の達成及び高等教育における理数科教育・科学技術教育への参加における男女格差を克服することを目指している。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

アフリカ諸国によってなされたコミットメント及び行動に関連して、TICADプロセスはアフリカ側の取組に対し、以下のとおり焦点を当てる。

 1.基礎教育−アクセスと質の改善

 2.ポスト基礎教育及び高等教育/研究

 3.マルチセクトラルなアプローチ

 4.教育マネジメント

1.基礎教育−アクセスと質の改善

●校舎及び関連するインフラの建設及び修復を支援する。

●小中学校教員の訓練及び維持に対する支援を提供し、教員訓練システム及び教員訓練機関の設立及び拡大を支援する。

●地方教育行政の能力向上及び「みんなの学校」プログラムを通じたコミュニティに根ざした学校運営の能力向上を促進する。

●アフリカ域内及びアジア・アフリカ間において、文化及びジェンダーに配慮したカリキュラム、教材及び訓練マニュアルといったテーマに関しての知見及び経験の共有を促進する。

2.ポスト基礎教育及び高等教育/研究

●技術教育・職業訓練機関の拡充によって生産セクターを支える人材の育成を促進する。

●科学技術分野の研究及び知識集積を拡大するために、共同研究や研究者・学生の交流を通じて、大学及び研究機関間のパートナーシップを強化する。

●科学技術協力を強化するためのハイレベルでの政府間対話を促進する。

3.マルチセクトラルなアプローチ

●男女別のトイレを伴う安全な水・衛生施設、学校給食、教育のための食料(持ち帰り食料)、応急手当及び専門医への紹介サービスを含む包括的な支援パッケージを通じて子供に優しい学校環境を確立する。

●HIV/エイズの予防及び衛生管理の改善を含む生活スキル教育を向上させる。

4.教育マネジメント

●教育のニーズを理解し満たすため、教育関連情報・データの収集・分析を含むより良い教育マネジメントに向けた取組を支援する。

保健

 アフリカ、特にサブサハラ・アフリカは、HIV/エイズ、結核、マラリア及びポリオ等の感染症の蔓延、高い乳幼児死亡率及び妊産婦死亡率といった深刻な課題に直面している。加えて、気候変動及び世界的な食料危機という新たな脅威によって、感染症の抑制から栄養改善まで様々な保健分野の目標達成に対する新たな課題が生じつつある。これらの課題は、社会経済開発を深刻に阻害しており、とりわけ安全な水、衛生、栄養、基礎教育及びジェンダー平等を含む包括的かつマルチセクトラルなアプローチが求められている。

 このような状況に対し、2007年4月に開催されたAU保健大臣会合では、「アフリカ保健戦略」が採択され、アフリカにおける保健システム全体の強化を促進することが合意された。AUは、アフリカ諸国が国家予算の15%を保健分野に充てることを目標にした「エイズ・結核・マラリア等感染症に係るアブジャ宣言及び行動計画」、「アフリカ地域栄養戦略」、「リプロダクティブヘルス・母子保健に係るマプト行動計画」、「アフリカの子どもの生存に係るMDG達成のための戦略的枠組」を含む、主要な疾病及び保健問題に関する地域戦略を策定し、これらに応じて様々な取組がなされている。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは、アフリカ諸国によってなされたコミットメント及び行動に関し、以下の事項に取り組む。

 1.保健システムの強化

 2.母子保健の向上

 3.感染症対策

1.保健システムの強化

●アフリカにおいて、1000人あたり最低2.3人の保健医療従事者を確保するとのWHOの目標達成に向けた共同の取組に貢献するため、保健医療従事者の育成及び定着を促進する。

●保健インフラ及び施設の拡充等を通じ、保健医療サービスの供給を改善する。

●正確な保健情報に基づいた政策決定を可能とするため、保健システムのモニタリング及び評価体制の構築を促進する。

●野口英世アフリカ賞を通じて、アフリカにおいて感染症と闘うための医療研究及び模範的な医療活動を奨励する。

2.母子保健の向上

●5歳未満児死亡率及び妊産婦死亡率の削減に焦点を当てた取組を支援する。

●子どもへの予防接種及び微量栄養素の提供といった効果の高い介入を通じ、妊娠前、妊娠時、出生時、幼児期の期間を通じた女性と子どものための継続的ケアを促進する。

●リプロダクティブ・ヘルス・サービスへの普遍的なアクセスを達成するための国際的取組を支援する。

●熟練した助産師の立会いの下で行われる出産の割合を、WHOの目標のとおり、5年間で75%まで向上させるという国際的取組に貢献する。

3.感染症対策

●世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)を支援する。

●HIV/エイズのための中央政府の組織を強化し、新規感染予防に重点を置く。

●直接監視下短期化学療法(DOTS)による予防、検査及び治療活動等を通じ、2015年までに、結核罹患率及び死亡率を1990年比で50%削減するという目標を達成するための取組を支援する。

●長期残効型蚊帳の配布及び意識向上を含む予防手段並びに看護ケアの提供の併用により、マラリア対策の効果的な実施を促進する。

●サーベイランス及びワクチン供与キャンペーンを通じ、アフリカからのポリオ撲滅に向けた包括的取組を支援する。

●意識向上、治療及び安全な水と衛生へのアクセスを通じ、顧みられない熱帯病(NTD)を抑制し、又は撲滅するための取組を行う。

平和の定着とグッドガバナンス

序論

 近年、アフリカは、アフリカ平和安全保障アーキテクチャー(APSA)の構築やアフリカ・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)の促進についての努力を含み、紛争の終結及び復興の促進において大きな進展を遂げた。これはアフリカが平和を定着させガバナンスを強化するまたとない機会となっている。紛争は人間の安全保障及び開発に対する非常に重大な障害である。

 平和の定着は、紛争予防、当事者間の調停及び和平交渉、治安及び秩序の回復と維持、人道支援の提供、復興支援、経済・社会開発の促進、民主的ガバナンスの改善等、異なる段階と様々な行動を包含している。これらのプロセスは、プロセスが不可逆的なものとするために継ぎ目のなく、継続的な支援を必要としている。

 多くの国が国境を接しているアフリカでは紛争が容易に拡大するため、平和の定着において、地域的側面が考慮に入れられるべきである。また、紛争が発生した際に被害を最小化するリスク管理に加え、紛争予防の努力も不可欠である。地元住民の能力向上を重視した、コミュニティに根ざした参加型のアプローチは、アフリカ諸国のオーナーシップ促進に資する。女性、子供、高齢者、障害者といった社会の最も脆弱なグループも特別の保護及び支援を必要としている。同時に、平和構築活動に従事する内外の主体間の調整強化、情報とグッド・プラクティスの共有の重要性が強調されるべきである。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは特に以下の点に焦点を当てる。

 1.紛争予防

 2.人道・復興支援

 3.治安の回復と維持

 4.グッドガバナンスの促進

1.紛争予防

●計画されているアフリカ平和安全保障アーキテクチャー(APSA)の下での大陸早期警戒システムを含む、アフリカにおける早期警戒システムの効果的運用の開発に貢献する。

2.人道・復興支援

●基礎的社会インフラ及びサービス、難民及び国内避難民の帰還、再統合への支援を含む、早期復旧にかかる即効性のある介入を支援する。

●職業訓練、雇用創出、小規模ビジネス及び農業の起業支援を通じ、生計を支援する。

●社会のもっとも脆弱なグループの保護に向けた努力を支援する。特に、武力紛争の影響を受けた子供や青少年を社会に再統合するための教育へのアクセス改善を通じた支援を行う。

●武装集団の武装解除、地雷除去、不発弾の破壊、小型武器の管理・回収等安全、治安及びグッドガバナンスの回復及び人道・復興に関わる取組を支援する。

●NGOや民間セクターと協調した地雷除去プロジェクト、地雷リスク教育、被害者支援を含む地雷行動を更に促進する。

●平和構築の取組への民間セクターの貢献を奨励する。

3.治安の回復と維持

●平和維持活動や平和構築に従事しているアフリカ諸国の軍、警察、文民の能力を向上する。

●アフリカのPKOセンターを強化し、アジア・アフリカ間での経験の交換を奨励する。

●APSAの下でのアフリカ待機軍(ASF)を支援する。

●国境管理や、小型武器の流入、密輸、人身売買を統制するための地域協力の強化への取組を支援する。

4.グッドガバナンスの促進

●アフリカ・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)国別審査報告書の行動計画の実施を支援する。

●法制度、財務管理、公共サービスにおける能力構築への支援を提供する。

●NEPAD−OECDアフリカ投資イニシアティブを通じて、経済ガバナンスを強化する。

環境・気候変動問題への対処

序論

 アフリカは、干ばつや洪水の頻発、激化等、気候変動がもたらす負の影響に脆弱であり、気候変動への対処は喫緊の課題である。「地球規模での持続可能な社会」の実現のため、アフリカ諸国を含む全ての国々が協力して2013年以降の気候変動に関する実効的な枠組みを構築し、地球規模で温室効果ガスの排出を削減するという目標に向けて行動する必要がある。

 TICADプロセスは、気候変動分野での政策対話を促進するとともに、新たな実効的な枠組み構築を支援し、温室効果ガスの排出抑制と経済成長を両立させようと努力するアフリカ諸国に対し、政策立案、緩和、クリーン・エネルギーへのアクセス及び気候変動への適応の分野での支援を強化していく。適応に関して、TICADプロセスは、水資源の有効な管理とともに、保健、農業、食料安全保障等の関連分野における取組を促進する。

 この文脈から、中央政府、国際機関、地方政府及びコミュニティ、民間セクター、市民社会等幅広いステークホルダーを巻き込んだ全員参加型アプローチを促進していくことが重要である。更に、日本のアフリカとの「クールアース・パートナーシップ」等の様々なイニシアティブの下における協調した取組が求められる。既にアフリカでは、国家レベルでの取組に加えて、国連、AU/NEPAD及びRECs等の国際的、地域的枠組みの中で取組が進められている。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは以下の分野における取組を強化する。

 1.緩和

 2.適応

 3.水と衛生

 4.持続可能な開発のための教育(ESD)

1.緩和

(1)緩和策の促進

●バリ行動計画に基づき、全ての主要排出国が行動・協力する2013年以降の実効的な枠組みの構築におけるアフリカ諸国の積極的参加を支援する。

●クリーン開発メカニズム(CDM)の更なる実施のため、プロジェクトの形成及び啓発キャンペーンを促進し、各国政府に設置される国家指定機関(DNA)の体制及び能力開発を支援する。

●途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出の削減(REDD)に対応し、持続可能な森林経営を奨励し、森林保全や植林を促進するため、森林資源や土地利用に関する基礎的情報の整備及びそれへのアクセスを支援する。

(2)クリーン・エネルギーの利用促進及びエネルギー・アクセスの改善

●再生可能エネルギーの利用拡大のための政策及び計画の策定を支援し、維持管理技術の移転促進等、再生可能エネルギー関連プログラムを支援する。

●電力へのアクセス改善及び電力の効率的利用を促進するために送電網の整備・管理を支援し、包括的な農村開発プログラムを通じて、貧困層の安価で効率的なエネルギーへのアクセスの改善を促進する。

2.適応

●今後5年間で、アフリカ全土の環境状況を描写するグローバル・マップの整備や更新等の技術支援を促進する。

(1)自然災害への対応策

●干ばつや洪水等の自然災害に対する各地域のリスクや脆弱性の評価に基づき、防災計画や緊急活動計画の策定を支援する。

●早期警戒体制の構築やコミュニティ・レベルでの自然災害への対処能力の強化を支援する。

(2)砂漠化対処措置

●水資源の利用、土壌保全、乾燥耐性植物の利用を含む再植林のための新規及び既存の技術の開発・普及を支援する。

●コミュニティ・レベルにおける砂漠化対処への意識を向上し、過放牧、過耕作、森林減少に対する適切な対策を導入する取組を支援する。

2.水と衛生

(1)有効な水資源管理

●潜在的な水資源や地域特有の条件に及び計画実施のための行政能力の改善についての評価に基づき、循環型水資源管理計画の策定を支援する。

●各地域特有の状況を考慮に入れつつ、水資源管理に関する技術と知見の移転を促進する。

(2)安全な水及び衛生施設へのアクセス

●適正な価格の技術を用いた給水・衛生施設の整備を促進する。

●水・衛生システムの管理者及び利用者の能力構築を支援し、手洗いの励行等衛生的生活習慣改善のための啓蒙キャンペーンを促進する。

3.持続的な開発のための教育(ESD)

●より持続可能な社会の実現のため、ESDを政策や生活習慣へ統合させることにより、ESDを促進する。

パートナーシップの拡大

序論

 TICADプロセスは一貫して、「オーナーシップ」と「パートナーシップ」というコンセプトを推進してきており、アフリカとの「パートナーシップ」の範囲は着実に拡大している。

 アジア・アフリカ協力は、二つの地域間で、互いに学び、ベスト・プラクティスや技術を共有することにより進歩していくTICADプロセスの重要な要素の一つである。アフリカ諸国は統合プロセスの中にあり、アブジャ宣言で示された枠組みの中で、アフリカ域内のパートナーシップの深化に向けて歩みを進めている。アフリカ諸国はまた、NEPADの行動計画により具体化されているように、顕著な成果を上げている。またAUは、大陸統合の柱としてのRECsとの協力の下、その歩みを進めている。広範囲なパートナーシップ及び民間企業、NGO、学術界を巻き込んだ全員参加型アプローチは非常に重要であり、アフリカ諸国は、開発のプロセスにできるだけ多くの主体を関与させるよう努力している。アフリカのオーナーシップの下でのこれらのパートナー間のよりよい協調関係はまた、これらの取組が現場で最大の成果と効果を得るために死活的に重要なものである。

TICADプロセスの下で今後5年間に取られる措置

TICADプロセスは以下の分野における取組を強化する。

 1.南南協力、特にアジア・アフリカ協力の促進

 2.地域統合の深化

 3.パートナーシップの拡大

1.南南協力、特にアジア・アフリカ協力の促進

●アフリカ域内及びアジア・アフリカ地域間で、能力及び技術を効率的に移転し、知識及び経験を共有し、共同研究を促進する。

●アジア・アフリカ間の関係を強化するため、人的交流、貿易・投資及びサービス分野を促進する。

●南南協力の分野において、アジア生産性機構(APO)やアジア・アフリカ両地域の国家生産性機構といった既存の機関の十分な活用を奨励する。

2.地域統合の深化

●AU/NEPAD及びRECsの重要な役割を認識し、アフリカ域内及びアジア・アフリカ協力双方の文脈において、三角協力を奨励する。

3.パートナーシップの拡大

●アフリカ開発における民間セクターの重要な役割を認識し、官民連携を促進する。

●市民社会との協調を強化するとともに、学術界との協力を奨励する。