データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第3回TICAD閣僚級フォローアップ会合・第4セッション(地球規模課題)高橋副大臣スピーチ

[場所] セネガル ダカール
[年月日] 2011年5月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 議長,

 代表団の皆様,

 御列席の皆様

 1 冒頭

 我が国を襲った未曾有の大震災に際し,アフリカ諸国から数多くの御見舞と御支援をいただいたことに対し,心よりの感謝を申し上げます。中でも,南アフリカの救助チームの献身的な活躍ぶりは,多くの日本人に強い印象を残しました。私自身も被災県を訪問しましたが,国際社会の支援が被災者を勇気づけてくれている様子を伺い,胸が熱くなりました。

 産業・貿易立国である我が国の復興は,平和で安定した国際社会の中においてのみ可能です。昨日,松本大臣からも申し上げたとおり,国際社会が示して下さった温かい激励と連帯の気持ちに応えるためにも,我が国は,これまで同様,国際社会の平和と安定のため積極的役割を果たしていきます。また,TICAD IVにおいて我が国が行った公約を含め,既に表明した国際的コミットメントを誠実に実現していくとの決意に何ら変わりはありません。

 本日は,平和の定着・グッドガバナンス支援,国連安保理改革及び気候変動の三点につき,お話をさせていただきたいと思います。

 2 TICADの平和の定着・グッドガバナンス支援

 まず,TICADの下での平和の定着・グッドガバナンス支援について述べます。

 アフリカでは,90年代に比べ多くの紛争が収束しました。しかし,情勢が不安定な国や地域,また,紛争収束後もガバナンス等に問題を抱える国が依然として存在しています。

 TICADの下で我が国は,「人間の安全保障」の観点から,段階に応じたきめ細かい支援を行っています。

 武力紛争が継続する中での治安支援に始まって,難民の帰還支援及び緊急人道支援や,選挙支援,元兵士の社会再統合,職業訓練等の支援を経て,インフラ,農業等の本格的な復興支援にシームレスにつなげていきます。この他,アフリカ各地に存在するPKO訓練センターへの支援を通じ,アフリカの平和維持能力向上にも貢献しています。

 チュニジアやエジプト等における変革の根底には,富の偏在や,食糧・エネルギー価格の高騰等,人々の生活に直結する社会基盤の不安定さがあります。

 「人間の安全保障」は,人間一人ひとりに着目し,脅威からの保護だけでなく,脅威に自ら対処できるよう能力強化(empower)をすることにより,強靭な社会基盤を作ろうという考え方です。

 東日本大震災において,被災された方々が冷静さと規律を保ち,団結力と強靭性をもってこの未曽有の国家的危機を乗り越えようとする,その力は,正にこの「人間の安全保障」が体現されたものと考えます。私は,今回の震災を通じ,このような力強い社会基盤づくりのための協力をアフリカにおいても継続していくことを改めて決意致しました。松本大臣が昨日発表した,アフリカを対象とした防災セミナーを開催する上でも,この考え方を活かしていきたいと考えます。

 3 国連安保理改革

 次に,国連安保理改革について述べます。

 アフリカの平和と安全はアフリカだけの問題でなく,国際社会全体の問題です。だからこそ,国連の安保理ではアフリカについて頻繁に議論され,決定が行われています。問題は,そのような安保理に,アフリカが常任理事国という形で代表されていないということです。

 これは,安保理が第二次大戦直後に創設されて以来,基本的な構造が変えられていないことによります。その結果,1960年代以降,多くのアフリカ諸国が独立したことが,安保理の構成に反映されていません。

 こうした状況はこれ以上放置しておくべきではないと我が国は考えています。ご承知のように,これまで我が国は安保理改革を,先頭を切って推進してきました。そして今,国連では,安保理改革の扉を開く動きに,新たな気運が生じています。この時を逃すべきではありません。

 今日の世界を反映した安保理をつくるための努力を,アフリカの皆様とともに進めて行きたいと考えます。改革のために協働していきましょう。

 4 気候変動

 御列席の皆様,

 最後に,気候変動について述べます。

 気候変動問題への取組は自然災害対策とも密接に関連しています。アフリカは干ばつや洪水の頻発・激化,感染症の広域化,農業生産の不安定化等の深刻な悪影響を被っています。

 気候変動に対処することは,世界全体が目指す地球益です。我が国が一貫して主張しているのは,全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みを構築する,新しい一つの包括的な法的拘束力のある文書を可能な限り速やかに採択することです。先進国が率先して取組むことは勿論のこと,特に新興国,そしてその他途上国も共に積極的に取り組むことが大切です。

 本年,南アフリカで開催されるCOP17に向け,カンクン合意の幅広い要素を具体化する作業を,切迫感を持って進める必要があります。

 このため,我が国は,議長国南アフリカをはじめ,アフリカ諸国と緊密に連携していきます。

 途上国が気候変動対策を実施するためには,大規模な資金が必要です。我が国は,COP15において,2012年末までの短期支援を表明し,既にアフリカ諸国に対して12億ドル以上の支援を実施しています。我が国は,アフリカ諸国との政策対話を強化し,2013年以降も,官民双方の様々なチャネルを活用しつつ,ニーズに応じた支援を実施していきます。

 また,アフリカ諸国ではキャパシティ・ビルディングが重要です。本年中にアフリカ諸国向けの適応基金ワークショップの開催を支援するとともに,日本にてMRVセミナーを主催する予定です。

 以上を申し上げたうえで,私から提案があります。

 我が国は,今般の東日本大震災を契機に自然災害対策の重要性を再認識しました。国際社会が気候変動に対処することは最重要課題の一つと考えます。この観点から,様々な開発段階にあるアフリカ諸国の緩和・適応のニーズに応じるための中長期的なビジョンとして「アフリカ低炭素成長・持続可能な開発戦略」をアフリカ諸国と共に策定することを提案します。

 例えば,気候変動問題を解決し持続的な成長につなげるために,我が国の省エネ・環境分野の技術が活用できると確信します。また,国際機関や民間セクターとの連携も重要です。これらの要素を含む戦略を練り上げるため,2011年の適当な時期にアフリカ諸国をはじめとする関係者による会合を開催し,2012年のTICAD閣僚級フォローアップ会合において中間報告を行い,2012年中の適当な時期を目処に最終報告を策定したいと思います。皆様のご支持をお願いします。

 御清聴ありがとうございました。