データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「横浜宣言2013」躍動のアフリカと手を携えて

[場所] 横浜
[年月日] 2013年6月3日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.0 序論

1.1 我々、日本及びアフリカ51か国の首脳及び代表団、アフリカ以外からの35か国の代表及び74の国際機関・アフリカ・アジアからの地域機関の代表並びに民間セクターと市民社会の代表は、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に参加するため2013年6月1日から3日まで日本の横浜において一堂に会した。我々は、アフリカ連合委員会(AUC)が新たにTICAD共催者となったことを温かく歓迎し、全ての共催者、すなわち、日本政府、国際連合、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、及びアフリカ連合委員会(AUC)のTICADプロセスに対する貢献を確認する。

1.2 TICAD Vは、TICADプロセス20周年及びアフリカ統一機構/アフリカ連合創設50周年の節目を記念する。我々は、TICADプロセスの成果を認め、アフリカ開発のために取り組むTICADの継続的なパートナーシップへの強力なコミットメントを新たにする。

1.3 我々は、過去20年間にわたり、TICADプロセスが貢献してきたアフリカにおける前進に留意する。我々は、これを歓迎し、称賛する一方、依然として課題が残っていることを認識する。我々は、これら課題に取り組み、質の高い成長を追求する。質の高い成長は、TICAD Vの主要テーマである「強固で持続可能な経済」、「包摂的で強靱な社会」、及び「平和と安定」を促進するための一致団結した行動を通じて実現される。

1.4 我々は、歩みを進め、TICADが変革的で強靱かつ包摂的なアフリカの成長を更に促進することの必要性について一致する。こうした成長を促進することにより、成長の恩恵がより広く、より均衡に、そしてより持続的にアフリカ大陸の人々にあまねく分け与えられる。

2.0 TICADプロセス20年の実績

2.1 我々は、TICADが1993年の開始以来、開放的で包摂的な国際フォーラムとして果たしてきた役割を再確認する。TICADは、アフリカ開発における課題と機会に対する国際的な関心を高め、これを維持してきた。また、TICADは、今やアフリカの開発課題や国際的な開発課題に取り入れられている人間の安全保障や民間セクター主導の成長といった概念に焦点を当て、アフリカ開発に貢献してきた。

2.2 我々は、TICADプロセスの基本原則であるアフリカの「オーナーシップ」と国際社会の「パートナーシップ」という二つの原則に対するコミットメントを新たにする。アフリカ連合委員会がTICAD共催者に加わったことにより、アフリカの「オーナーシップ」が強化された。また、国際社会の「パートナーシップ」は、伝統的及び新興の新たな開発パートナー、国際機関、民間セクター、市民社会を含む広がりを見せている。これに関連し、我々は、アフリカ連合の下、アフリカによって、そしてアフリカにおいて実施されている主要なセクター別大陸横断開発イニシアティブに留意し、これらを支援するとともに、TICADプロセスとこれらイニシアティブを一層連携させることをコミットした。

2.3 TICADプロセスは、多くのアジア諸国とアフリカ諸国との協力の度合いを高め、アジアの開発経験を共有し、これが実用的な場合は、アフリカの現実に取り入れてきた。我々は、TICADがアフリカ域内協力を含む南南協力及び三角協力といった特徴的なパートナーシップの形を効果的に促進し、支援してきたことを喜び、留意する。

2.4 世界情勢の変化とアフリカ自身のニーズに応じ、TICADプロセスは、より行動指向かつ結果指向のフォーラムとなった。TICAD IVの際に設立したTICADフォローアップメカニズムは、透明性と説明責任を向上させ、全ての関係者によって合意された行動の効果的な実施を確保している。

3.0 TICAD V戦略的方向性

我々は、「躍動のアフリカと手を携えて」を基本コンセプトとし、成長を加速化するとともに、持続可能な開発を促進し、貧困を削減するために協働することを決意する。

この目的のため、我々は、衡平性と包摂性を追求しつつ、インフラ整備や人づくり、経済の多角化、広範な分野における民間セクター主導の成長の促進を通じた開発の経済基盤を強化する。これは、アフリカ大陸における貧困削減に大いに奇与するものであり、裾野の広い中間層の創出を後押し、アフリカ大陸を世界成長の原動力に変容させる。

本宣言は、TICADプロセスを通じて追求する重要な戦略的手法を明らかにする。これらの手法は、TICAD Vが掲げる開発課題のあらゆる局面において共通して一層重視すべき包括指針によって下支えされる。この包括指針は以下を含む。

・アフリカ自身の取組の支援

特にアフリカ連合によって採択されたアフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)、包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)、アフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)、アフリカ産業開発の加速化(AIDA)を含む取組を支援。

・女性の主流化

アフリカにおけるジェンダー平等に関するAU宣言やアフリカ女性の10年(2010-2020)といったアフリカのイニシアティブに焦点を当て、アフリカにおける女性の法的権利及び全ての生活領域において女性の役割と参加を向上し、また、サービスへのアクセス増加、訓練や雇用機会を拡大する。

・若者の機会の拡大

雇用促進及び貧困削減に関するアフリカ連合の行動計画を支援し、若者の機会を拡大する。

・人間の安全保障の促進

人間一人ひとりに着目し、個人の保護と能力強化を通じ、人間としての可能性を最大に開花させるために恐怖からの自由と欠乏からの自由を強調する人間の安全保障を包括的に推進する。人間の安全保障の促進には、人道上の課題や紛争予防、平和維持、紛争後の復興及び開発、人身取引、テロとの闘い等の分野における協力・調整の深化及び能力強化が含まれる。

3.1 民間セクター主導の成長の促進

民間セクターは、成長の原動力として必要不可欠であることを確認し、我々は、民間セクターを支援し、強化する。また、我々は、更なる民間投資を促進し、投資環境、法制度及び規制の枠組みを改善する。我々は、貿易の拡大、観光、技術移転を後押しし、中小企業の振興を支援する。我々は、また、域内貿易を拡大し、民間セクター開発の新たな可能性と雇用を創出するため、域内統合を支援する。

3.2 インフラ整備の促進

我々は、成長の基盤を強化するため、ハードインフラ、人的インフラ、及び知的インフラに焦点を当てる。TICADプロセスとアフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)のより密接な相乗効果の必要性を認識し、我々は、都市部と地方の双方で官民連携(PPP)の更なる活用等を通じ、特にエネルギー、運輸、水分野における重要なハードインフラの整備を促進する。我々は、国及び地域レベルにおけるこれらのインフラの整備が、消費者と生産者をつなげ、新たな市場の創出に貢献することを確認する。また、我々は、民間セクターで就労するために必要な技術を身につけるための職業・技術訓練を通じ、人的インフラを支援する。我々は、より良いビジネス環境の整備に資する、より有効な政策を実行するため、公共セクターにおける能力構築を支援する。知的インフラは、イノベーションを可能にし、生産性を向上させることを認識し、我々は、研究拠点への支援を強化し、科学技術を優先させる。

3.3 農業従事者を成長の主人公に

持続的な食料生産の増大と生産性の向上は、食料安全保障と栄養の確保に寄与する。また、農業と農業関連ビジネスの拡大は、雇用の創出、農村部における所得増加、及び女性と小規模農家が大部分を構成する農民の生活向上に寄与し、アフリカの自律的な経済成長にとって必要不可欠である。我々は、TICADプロセスと包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)のより密接な相乗効果を確保し、農業バリューチェーンに沿って特に農産物加工や収穫後の貯蔵の向上、及び市場アクセス改善に努める。そのために、先進的かつ実用的な農業技術の活用が奨励されるべきである。我々は、特にアフリカの乾燥地域において、適切な土地保全や水管理等を通じ、気候変動に強靱な農業を促進する。

3.4 持続可能かつ強靱な成長の促進

アフリカ大陸全体における気候変動の深刻な影響を認識し、我々は、防災の主流化及び気候変動への適応により、持続可能かつ強靱な成長を追求する。また、我々は、アフリカの全ての天然資源の持続可能な管理と生物多様性の保全を促進する。我々は、「TICAD低炭素成長・気候変動に強靱な開発戦略」を策定するとのイニシアティブに留意し、国連気候変動枠組条約及び京都議定書等の現行の国際約束に規定される適応と緩和に関するコミットメントの実施及び現在進行中の国連気候変動枠組条約締約国会議の交渉に沿って、更に同戦略を検討する必要性について合意する。

3.5 万人が成長の恩恵を受ける社会の構築

保健と教育は、成長につながる人間開発の基礎を構成し、これら分野での進捗はMDGs達成にとって必要不可欠である。この観点から、我々は、アフリカ大陸において保健システムを強化し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進する。また、我々は、母子保健を促進し、アフリカ連合の「アフリカ妊産婦死亡削減加速化キャンペーン」、感染症及び非感染症対策を支援する。我々は、リプロダクティブヘルスサービス、安全な水と衛生へのアクセス向上に向け協働する。さらに、我々は、教育機会を拡大し、全ての段階の教育の質を高めることを重視する。

3.6 平和と安定、グッドガバナンスの定着

平和と安定は成長の前提条件であり、個人の可能性を十分に開花させるために必要不可欠である。また、テロや海賊、国際組織犯罪等、国境を越える課題の解決は、安定したアフリカ大陸を実現するために必須である。我々は、アルジェリア、イナメナスのガス施設で発生したテロ事件を受け、2013年1月の第20回AU総会にて採択されたアルジェリアとの連帯に関するAU宣言を強く支持する。我々は、アフリカ自身の取組支援を通じ、平和を創り、育て、守るアフリカ自身の能力を強化する。この観点から、我々は、アフリカ平和安全保障アーキテクチャー(APSA)及びアフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)を始めとするイニシアティブの下、これまでに実現されたアフリカの進捗を称賛する。我々は、さらに、紛争の根本的原因に対処し、平和を定着させ、グッドガバナンスを強化し、紛争回帰を断ち切る。この目的のため、我々は、平和維持活動の重要性をそれに対するアフリカ連合、アフリカの地域共同体、及び国際社会の重要性と貢献を認識する。我々は、安全保障理事会を含む国連諸組織を早急に改革する決意を再確認し、最良のアプローチを見出すための対話の強化を通じて政治的モメンタムを維持する。

4.0 新たな国際開発枠組の策定:アフリカの声をポスト2015年開発目標に反映

4.1 我々はMDGsを達成することの重要性を強調し、2015年までにアフリカにおいてMDGs達成に向けた取組を加速させる。我々はポスト2015年開発目標策定に向けて、共にリーダーシップを発揮していく。この関連で、我々は、アフリカの懸念や優先課題が、可能な限り新たな国際開発枠組みに反映されることを確保するとともに、TICADプロセスとこれら取組を連携させる。

4.2 我々は、ポスト2015年開発目標に関するプロセスに対する国連事務総長の関与を歓迎し、国際社会の支援と支持を基礎に、我々の作業を進める決意を表明する。我々は、人間の安全保障、人権及び人間の尊厳、平等並びに衡平により導かれる、持続可能な開発を中心とした、効果的で一貫した開発枠組みの策定を目指す。

4.3 我々は、個人、特に脆弱な人々を保護し、その能力強化を行うとともに、経済変革、平和、繁栄及び持続可能で包摂的な開発を実現する状況を創出し、あらゆる形態の貧困を撲滅するために協力する決意を有する。我々は、NEPADプログラムを考慮に入れつつ、開発パートナー並びに民間、市民社会及び学界と共に、新たな開発枠組みを推進する。

4.4 我々は、ポスト2015年開発目標に関するアフリカ共通ポジション及びTICAD Vの成果が、ポスト2015年開発目標の策定に向けた将来の作業に対する重要なインプットとなることを確認する。新たな開発枠組みは、確固たる国家のオーナーシップとリーダーシップ、さらに地球規模及び地域のパートナーシップにより支えられるべきである。また、新たな開発枠組みは、合意され、量のみならず質を反映する指標により、説明責任が果たされるとともに評価されるべきである。

5.0 将来の道筋

5.1 我々は、世界情勢が絶え間なく変化する中で、アフリカの戦略的重要性が高まりつつあることを確認し、本宣言、横浜行動計画2013-2017、及び別表に記された具体的措置とアフリカ連合の既存の大陸イニシアティブ及び国連を含む主要な国際フォーラムにおける開発関連課題と連携することの重要性を強調する。我々は、特にTICADプロセスとG8及びG20間の協力強化を期待する。

5.2 我々はTICADプロセスの実績に基づくとともに、アフリカの開発ニーズや開発課題におけるアフリカのオーナーシップをより効果的に反映するため、TICADプロセスを更に発展させることをコミットする。

5.3 TICADプロセスにAUCが共催者として加わったことを考慮し、我々は、AUのパートナーシップ・プロセスの慣例に倣い、AUがTICADのフォローアップメカニズムに参加することに合意する。フォローアップメカニズムの詳細については、横浜行動計画2013-2017に記載されている。

5.4 我々は、ローテーションの原則が横浜行動計画2013-2017に記載されている全てのフォローアップ会合に適用可能であることに合意する。