データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD進捗報告2017

[場所] 
[年月日] 2017年8月23日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

目次

概要  2

1 アフリカの成長のための経済改革

1-1 公的部門主導の開発  3

1-2 民間部門の強化  5

2 人間の安全保障及び強靱な社会の促進

2-1 社会の安定とグッドガバナンス  7

2-2 人々の保護と能力強化  9

概要

 アフリカ開発会議(TICAD)のプロセスにおける重要な特徴は、効果的な実施である。TICADは、相互のアカウンタビリティを促進する、明確な報告に基づく確固としたフォローアップメカニズムを備えている。2016年は、TICAD Vで採択された「横浜行動計画2013-2017」の実施期間の4年目であり、またTICAD VIで採択された「ナイロビ実施計画」の実施期間の1年目であった。この進捗報告書は、TICAD V及びTICAD VIの成果の具体化に向けた、各ステークホルダーによる取組の評価を目的としている。

 この進捗報告書では、以下の2つの幅広いテーマに基づいて、TICAD Vの「横浜行動計画2013-2017」の6つの重点分野及びTICAD VIの「ナイロビ実施計画」の3つの柱の進捗を記述している。

1 アフリカの成長のための経済改革

TICAD V:

 (1)民間セクター主導の成長

 (2)インフラ整備の促進

 (3)農業従事者を成長の主人公に

TICAD VI:

 (1)経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進

2 人間の安全保障及び強靱な社会の促進

TICAD V:

 (4)持続可能かつ強靱な成長の促進

 (5)万人が成長の恩恵を受ける社会の構築

 (6)平和と安定、グッドガバナンスの定着

TICAD VI:

 (2)質の高い生活のための強靱な保健システム促進

 (3)繁栄の共有のための社会安定化促進

 この進捗報告書は、アフリカの取組、国際パートナー及び二国間パートナーのイニシアティブ並びに市民社会の活動を取りまとめたものである。TICADプロセスの多角的な側面に焦点を当てている。TICADは、多様な主体がそれぞれの得意分野を活かして取組を進める、オープンで包摂的なフォーラムである。

 この進捗報告書は、TICAD共同事務局である日本政府、アフリカ連合委員会(AUC)、国連アフリカ担当事務総長特別顧問室(UNOSAA)、国連開発計画(UNDP)、世界銀行(世銀)が共同で執筆した。

1 アフリカの成長のための経済改革

本セクションは,TICAD V及びTICAD VIの以下の重点分野を対象としている。

TICAD V

 (1)民間セクター主導の成長

 (2)インフラ整備の促進

 (3)農業従事者を成長の主人公に

TICAD VI

 (1)経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進

1-1 公的部門主導の開発

公的部門は、民間部門による投資環境を醸成する上で、依然として主要な経済主体であり、特に、公的部門による質の高いインフラへの投資及び人材育成によって、海外直接投資を呼び込むとともに、農業及び製造業における生産性の向上と付加価値の創造に貢献するものである。

1-1-1 アフリカの取組

 道路インフラ開発と運営戦略に関し、アフリカ連合(AU)は、交通・運輸政策白書案の策定、ガイドライン作りやスマート回廊システムの考案を行った。SADC*1*とアフリカインフラ開発プログラム(PIDA)による加速プログラムの下でのベイラ開発回廊(モザンビーク、ジンバブエ、ザンビア、コンゴ民主共和国、マラウイ)及び南北回廊(コンゴ民主共和国、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、マラウイ、モザンビーク、南アフリカ)、ECOWAS*2*の下でのアビジャン—ラゴス回廊、及びCOMESA*3*、EAC*4*及びSADCが調整を行っているザンビア—タンザニア—ケニア間相互接続等の回廊において、AUの取組は様々な段階にある。

 アジェンダ2063の旗艦となるプロジェクトとして、単一アフリカ航空輸送市場及び高速鉄道案件の実施に関する啓発活動が進んでいる。また,アフリカの学生向けの鉄道技術訓練の第一期生のための奨学金が確保された。ワンストップボーダーポスト(OSBP)ネットワーグ立ち上がり、貿易とロジスティクスを促進し、OSBPプロジェクトを推進するためのイニシアティブであるムーブアフリカ(MoveAfrica)とも相互補完性を持っている。加えて、AUは、AU加盟国30か国にて人材育成を、また、14か国において相互接続点(IX)の実施支援を行った。

 包括的なアフリカ農業開発プログラム(CAADP)の下、AU加盟国45か国が正式にCAADPを規範枠組みとして受け入れ、38か国が国家計画を策定した。民間セクター投資増加のための国別アグリビジネス・プラットフォーム枠組み(CAPF)及びアフリカ大陸アグリビジネス戦略が実施に移されている。AUとJICAは食と栄養のアフリカイニシアティブ(IFNA)のための文書に署名し、AUは同イニシアティブに年間10万ドルを拠出している。

1-1-2 国際パートナーのイニシアティブ(1)

○セネガルにおける緊急共同体開発計画(PUDC)

 緊急共同体開発プログラム(PUDC)は、2015年2月、主にセネガル政府等からの2億600万ドルの拠出により立ち上げられた。本プログラムは、セネガルが直面する多面的な課題である、社会経済インフラの変容、制度面の能力構築、農業の生産性向上及び地方における起業の活性化等に対応することを目的としており、UNDPはPUDCに対し技術的支援を提供し、調達及び物資配送等を担当している。

 このプロジェクトは、対象国の開発の優先課題に対応する上で、国内資源の活用においてバリューフォーマネーが効果的であることを示している。2016年12月末の時点で、PUDCの下で、278キロメートルの道路建設、264の村落の電化、467の村落に対する飲料水へのアクセス提供、13の収穫用の農機具の供給、1,562の収穫後用の機具の提供、及び2,400万の家畜に対するワクチン提供といった成果に加え、牛乳とサツマイモという二種のバリュー・チェーンを特定し、コンピューター化された地理的モニタリング評価システムの導入等が実施された。

 PUDCの成功を踏まえ、セネガル政府は第二次PUDCに対して6億ドルの追加拠出を表明した。また、本プログラムはトーゴにおいても実践され、また、持続可能な開発目標(SDGs)及びアジェンダ2063を達成するための新しいモデルとして、21か国のアフリカ諸国がPUDCに関心を表明している。

1-1-2 国際パートナーのイニシアティブ(2)

○牧畜民の支援(世銀)

 農業は、アフリカ大陸全体の成長と繁栄にとって重要な原動力であり、農業への投資促進、農産品貿易における障壁の削減や、生計向上に向けた環境整備において、公的部門は重要な役割を果たしている。牧畜は、セネガルからソマリアにかけての地域の諸国において極めて重要であるが、急速な人口増加、紛争、動物の疾病、牧畜地の減少及び水資源の不足等、多くの問題に直面している。

 アフリカの角地域における牧畜による生計の回復及び復元プロジェクトは、牧畜民のコミュニティを支援し生産性を向上させるため、同地域の諸国を対象とした支援を提供している。サヘル地域の牧6か国による生産性向上、持続可能性及び牧畜による生計の安定のための共同の取組を支援している。

 これらのプロジェクトは、世銀及び他の開発パートナーの資金拠出により、地域での調和の取れた枠組を提供するとともに、必要不可欠なサービスへのアクセスの促進、収入向上、牧畜民及び農業牧畜業の従事者のための市場拡大、更に、牧畜に関連する危機または緊急事態に対し、国が迅速かつ効率的に対応する能力を増進するために幅広い関係者の専門性とリソースを蓄積するものである。これら2件のプロジェクトの調整は、アフリカの角地域については、政府間開発機構(IGAD)、サヘル地域については、ECOWAS及び西アフリカ経済通貨同盟(WAEMU)の政治的リーダーシップの下で、サヘル地域干ばつ対策政府間常設委員会(CLISS)といった地域機関が提供している。

 牧畜民は国境を越えて移動するため地域的なプロジェクトは意義があるが、牧畜民コミュニティが住む国においては国レベルのプログラムも同様に必要とされている。そのため、牧畜民の制度に対する支援は、カメルーン家畜開発プロジェクトにおいて主要な要素となっている。

1-1-3 二国間パートナーのイニシアティブ

○サブサハラ地域における稲作部門開発研修(タイ)

 タイ政府は、国際協力機構(JICA)との協力の下、サブサハラ・アフリカの国々を対象に、稲作分野に関する研修機会を提供している。タイ国際協力開発機構(TICA)及びカセサート大学が実施機関となり、稲作分野における機械化や栽培、種子生産に関する研修を実施している。研修に関与したタイ政府関係者がサブサハラ・アフリカ諸国にフォローアップ訪問を行い、研修参加者が各々の業務においてどのように研修で得た知識を活用しているのかをモニタリングするとともに、補完指導を実施している。また、フォローアップ調査結果に基づき、研修カリキュラムの改良を重ねている。2008年のTICADIVにて立ち上げられた「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」では、2018年までの10年間でサブサハラ・アフリカのコメ生産量を倍増し、2千8百万トンとすることが目標として掲げられているが、本協力はその目標達成の一端を担うことが期待されている。

1 アフリカの成長のための経済改革

1-2 民間部門の強化

民間部門は、持続的な経済成長に向けた主要な原動力であり、より多くのビジネスの機会は、より多くの雇用、技術革新及び技術移転を生み出す。世界の他の地域と同様、中小企業の育成は、アフリカの経済競争力の向上に貢献する。

1-2-1 アフリカの取組

 アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)計画調整庁は、そのアフリカ大陸ビジネスネットワーク(CBN)を通じ、「アフリカにおけるインフラとPIDAプロジェクトのリスク回避」に関する報告書を公表した。報告書を公表した。報告書の勧告、特に、国境を越えたインフラプロジェクトへの年金や政府系ファンドからの投資動員の実施が始まっている。また、AUは、インフラ越境投資に対する法的障害のハーモナイゼーションのための「アフリカ越境インフラプロジェクトのためのモデル法」に関し国連アフリカ経済委員会(UNECA)と協働した。

 民間部門の強化に関するその他の成果としては、次が挙げられる。

●汎アフリカ投資コード(PAIC)及び包摂的市場拠点センター(IMEC)が採択され、アフリカにおける民間セクターの取組とビジネス環境が改善された。

●アフリカ女性及び若手起業家の技術訓練及び指導プログラムが、2016年11月の勧告、特に、国境を越えたインフラプナイロビにおける第8回アフリカ民間セクターフォーラムにて立ち上げられた。

●AU中小企業戦略案及び2017-2021年マスタープラン案が認可され、40の中小企業がキャッサバのバリュー・チェーンにおけるトレーニングを受けた。

●アフリカ域内貿易促進(BIAT)枠組の中で、AU加盟国19か国がBIATを実施した。

●デジタル関税に係る貿易促進戦略及び研究ペーパー案が作成された。西部及び東部アフリカから14名の貿易促進官及び近代化アドバイザーが国際的及び地域的な関税と貿易の傾向に関するモニタリングのための能力強化トレーニングを受講した。

1-2-2 国際パートナーのイニシアティブ(1)

○マラウイ・イノベーション・チャレンジ基金(UNDP)

 マラウイ・イノベーション・チャレンジ基金(MICF)は、2014年に設置され、マラウイの農業、製造業及び物流の各部門における、革新的なインクルーシブ・ビジネスに対して、透明性があり競争に基づくプロセスを通じた共同出資を行っている。MICFは、事業費用の少なくとも半分を賄うことを条件とするためのマッチング・グラントを提供することにより、市場に革新的産業を導入する際の商業リスクの吸収を支援している。支援対象となる事業モデルは、女性の経済的エンパワーメントに関する特定の目標に対し、社会的影響力を持つことが求められる。

 イギリス国際開発省(DFID)と共同で2014年に行われた第一回目の募集では、民間セクターから1,000万ドルの支援を得て、570万ドル分の契約が成立した。支援対象となった案件によって、1,200人分の雇用創出、3万3,300世帯分の収入向上及び3万人の低所得消費者に対する低コスト商品を提供するといった効果が期待されている。2016年にDFID及びドイツ復興金融公庫(KfW)の支援を得て行われた第二回目の募集では、初回同水準の資金規模で実施された。

 MCIFは、マラウイが、第一次産品生産国から製造業及び物流業へと多様化し、製品の輸入国から製造し輸出する国へと転換することに貢献している。

 本基金は、民間セクターのインセンティブの仕組みを変化させ、投資環境のリスクを取り除くことにより、市場の制度的な変革を仲介する成果を上げている。MICFにおいては、困難な経済状況にもかかわらず、イノベーションと深化の能力を備え、強靱で急成長する民間セクターが存在することが示されている。この領域は未開拓ではあるが、ベンチャー資本への需要が高まっている。

1-2-2 国際パートナーのイニシアティブ(2)

○太陽光発電の普及

 高コストの電力と不安定な電力供給は、多くの国において、民間企業の活動にとって大きな制約となっている。アフリカ諸国における平均的な電力価格は、他の開発途上国の二倍であり、6億の人々と1,000万の中小企業が電力にアクセスできていない。一方で、アフリカ大陸には豊富な再生可能エネルギー資源が存在し、民間企業は太陽光及びオフグリッドの発電の活用を進めている。

 スケーリング・ソーラー・プロジェクトは、世銀グループにより、他のパートナーの協力及び民間部門の関与を得て実施されている。本事業は、新規の太陽光発電能力に対する10億ドル以上の投資を促し、今後4-5年の間に1ギガワットの追加電力供給が実現する見通しである。

 本事業は、民間資金による送電網を使用した太陽光発電が、競争入札を経て導入される際に発生する費用と時間を節約するために、以下の支援を提供している。

 スケーリング・ソーラーは、現在までにザンビア、マダガスカル等の幾つかの国で実施されており、民間企業によるイノベーションと競争によってソーラー・ランタンと小規模太陽光システムの価格?低下し、また、使用した分の経費だけ支払うモデルによって柔軟で利用しやすい仕組みとなっている。また、世銀グループによるライティング・グローバル・プロジェクトによって、製品の品質が保証されている。

●太陽光発電施設の規模及び設置場所の決定に際しての助言

●競争を確保するための簡素で迅速な入札手続

●交渉を省略するための標準テンプレート

●全ての入札者が利用可能となる競争的な資金供与と保険

●資金調達コストと関税を低減させるための危機管理及び信用補完製品

1-2-3二国間パートナーのイニシアティブ

○アフリカのための日仏パートナーシップ

 2016年8月、ナイロビで開催されたTICAD VIにおいて、フランス政府と日本政府の共催によりサイドイベントが開催され、2015年10月、日仏首脳により発出された「アフリカにおける持続可能な開発、保健及び安全のための日仏計画」の進捗評価が行われた。

 本サイドイベントでは、コートジボワール政府、フランス開発庁及びJICAとの間で、持続可能な都市についての業務協力覚書(MOC)が署名された。

 さらに、三菱商事とトタル社の両子会社間でケニアにおける太陽光エネルギーの開発を目的とする了解覚書(MOU)、また、三菱商事とエジス社の間でアフリカ大陸全体における上水道・エネルギー・道路分野等に関する二件のMOU、の合計三件のMOUが署名された。

2 人間の安全保障及び強靱な社会の促進

本セクションは、TICAD V及びTICAD VIの以下の重点分野を対象としている。

TICAD V

(4)持続可能かつ強靱な成長の促進

(5)万人が成長の恩恵を受ける社会の構築

(6)平和と安定、グッドガバナンスの定着

TICAD VI

(2)質の高い生活のための強靱な保健システムの促進

(3)繁栄の共有のための社会安定化促進

2-1 社会の安定とグッドガバナンス

平和と安定は開発にとって必要条件であり、テロや国際組織犯罪を含む治安面での懸念への十分な対策が求められている。社会の安定のためには、気候変動、環境悪化及び自然災害などの多様な課題に対する一丸となった取組が必要である。

2-1-1 アフリカの取組

 TICADを通じて、アフリカ大陸における持続可能な開発の推進に向けたパートナーシップ及び連携が進められている。平和及び安全の促進に関しては、日本は、AUソマリア・ミッション(AMISOM)の警察部門に対し、非致死性の支援を提供して平和支援活動に協力しており、また、アフリカ主導の国際マリ支援ミッションの展開に際し、人権状況監視人のため資金面で支援を行った。

 モロッコのマラケシュで開催された国連気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)では、「気候変動に関するアフリカ戦略」案が策定されるとともに、90件以上のサイドイベントが行われ、アフリカによる気候変動対策のサクセス・ストーリーが紹介された。アフリカ大陸の生物多様性及び自然保護の課題に取り組む方法として、アフリカの野生動植物の違法取引及び違法搾取防止に関するアフリカ共通戦略の実施に関して議論がなされた。

 アフリカ全体としての「サハラ及びサヘルのための緑の壁イニシアティブ」の実施の一部として、8か国が、国家戦略及び行動計画策定に際して支援を受けた。アフリカ大陸全土における災害リスク低減のための気候サービスに関するプロジェクトが立ち上げられ、AUCに災害リスク低減ユニットが設置された。

2-1-2 国際パートナーのイニシアティブ(1)

○アフリカ・ウィーク:アフリカの社会的安定とグッドガバナンスへのグローバルな支援の動員(UNOSAA)

 アフリカの社会的安定とグッドガバナンス促進のため、国連を含む多くのパートナーはこれまで以上に連携を強め、アフリカ地域の国連加盟国や、AUC、NEPAD計画調整庁、アフリカン・ピア・レビュー・メカニズム(APRM)及びアフリカ地域経済共同体(RECs)を含む地域的機関との連携を強め、幅広い支援を提供している。

 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、AUによる「アジェンダ2063」と「第一次10年実施計画」及びTICAD成果文書の採択を踏まえて、包摂的、包括的で一貫したアプローチが、アフリカの社会的安定及びグッドガバナンスを促進する上での鍵となっている。そのため、UNOSAAは、政策レベルにおいて、アフリカの努力に対し、包摂的、包括的で一貫性のある方法による政治、資金及び技術面での支援を動員する目的で、政策的議論・勧告のための地球規模のプラットフォームを提供するため、アフリカの平和と安全、グッドガバナンス及び持続的可能な開発に関するハイレベル・イベントを定期的に開催している。

 UNOSAAは、2016年10月、ニューヨークの国連本部で、「アフリカの包摂的な持続可能な開発、グッドガバナンス、平和と安定に向けた連携強化」をテーマとした「アフリカ・ウィーク2016」の開催期間中、AU及び国連諸機関との共催で、様々なイベントを実施した。これらのイベントは、アフリカにおける変革を起こすような持続的な開発の課題を支援する多くのステークホルダーの間で、より大きな相乗効果、連携及び補完関係の基盤を構築し、また、パートナーシップを強化するための具体的な提言を考案する機会となった。

2-1-2 国際パートナーのイニシアティブ(2)

○サヘル地域における平和、安全保障及び強靱性のための包摂的・参加型アプローチ(UNDP)

 2013年以降、UNDPは、サヘル地域の5か国において、平和と人間の安全保障の定着に向けた協力を行っている。本プロジェクトは、(1)平和構築とグッドガバナンス、(2)サヘル地域における人間の安全保障とコミュニティの強靱性の強化、(3)国境管理と国境地帯の共同体、及び(4)安定及び人間の安全保障のための国境管理という4段階から構成されている。

 本事業の主な成果としては、第一に、ニジェールの人民防衛国民会議(CNDP)のメンバーの訓練を通じた政治対話の促進やブルキナファソにおける宗教に関するモニタリング制度の設置が挙げられる。第二に、収入増加のための活動と制度的な能力構築により226,091人が裨益している。第三に、本事業により、国境についての戦略準備、マリの暴力的過激主義予防戦略の策定、1,200名の国境管理担当官及び治安部隊並びに2,500人のコミュニティ・メンバーの訓練等を含む、国境を越えた調整能力が強化され、国境地帯に沿って458,012人が裨益している。

 このUNDPと日本の戦略的パートナーシップによって得られた教訓は、コミュニティを強化し、収入増加のための活動を拡大し、コミュニティの対話を活性化するような、包摂的で参加型のアプローチが、平和、安全保障及び強靱性を促進していくにあたり不可欠である、ということである。UNDPは、アフリカ大陸において人間の安全保障及び持続可能な開発を促進するため、これらの成果を踏まえて、他の地域においてもこのアプローチを実践していく予定である。

2-1-3 二国間パートナーのイニシアティブ

○アンゴラにおける地雷除去のための日英連携

 英国と日本は、NGOのノルウェジャン・ピープルズ・エイド(NPA)によるアンゴラのマランジェ州での地雷除去事業に対し、必要な資金協力を共同で実施している。英国は、2016年8月、同事業に必要な通信機材及びセーフティ・ブーツの購入費のため、20,988ドルの支援の実施を決定した。日本は、同年3月、草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、同事業に必要な人件費及び機材費等のため、203,384ドルの支援を行った。本事業により、合計1,172,270m2の土地で地雷が除去され、11,000人以上の地域住民が裨益することとなる。

 2017年、英国及び日本は、NGOのヘイロー・トラストによるウアンボ州での地雷除去事業に対し、英国は50,000ポンド、日本は550,000ドルをそれぞれ拠出し、共同で支援を行っている。本事業により、合計191,692m2の土地で地雷が除去され、2,490人以上の地域住民が裨益することとなる。

 これらの英・日の支援により、地雷の不発弾による犠牲者を減らし、安全な土地を確保し、食糧生産やその他の社会経済開発事業への土地の有効利用を推進すると共に、アンゴラにおける平和の定着を促進することが期待されている。

2 人間の安全保障及び強靱な社会の促進

2-2 人々の保護と能力強化

人権の尊重と法の支配は、一人ひとりの個人を保護し、能力を強化することを目的とする人間の安全保障の主要な要素である。誰もが取り残されることのないように、我々は、公衆衛生上の危機に対する備えや予防、そしてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を重視する保健分野を含め、社会・経済的な開発を追求していく必要がある。

2-2-1 アフリカの取組

 アフリカでは、累計31か国のAU加盟国が、アフリカの女性の権利に関する人及び人民の権利に関するアフリカ憲章の議定書(マプト議定書)他、ジェンダー間の平等及び女性の経済的エンパワーメントに関する文書を実施している。

 社会保障及び特に児童・障がい者・高齢者等の脆弱なグループの保護のための政策及び計画に関しては、目標の30か国に対して25か国のAU加盟国が社会政策枠組みを導入した。また、障がい者の権利に関する人及び人民の権利に関するアフリカ憲章が作成された。

 プライマリー・ヘルス・ケアと予防に関しては、目標の20か国に対して累計で20か国のAU加盟国が、国家保健計画をAUの保健政策に合致させた。更に、「アフリカ保健戦略2016-2030」、「アフリカにおけるマラリアの2030年までの撲滅」及び「マプト行動計画2016-2030」が採択され、またアフリカ疾病対策予防センター(アフリカCDC)が設立された。

 医薬品の規制に関しては、AUはアフリカ地域経済共同体(RECs)と協働してハーモナイゼーションのプロセスを調整した。東アフリカ共同体(EAC)は、医薬品登録に関する規制を採択し、この成功を踏まえて、現在、西アフリカ諸国共同体(ECOWAS)でも取組を進めている。

 教育、科学、技術及びイノベーション能力に関しては、「アフリカのための大陸教育戦略(CESA-16-25)」、「大陸における技術職業教育訓練(TVET)」及び「アフリカのための科学技術及びイノベーション戦略(STISA-2024)」の3つの戦略が採択された。具体的な手段としては、首脳及び政府の長による教育・科学・技術推進者委員会の設置、汎アフリカ大学及び現在準備中のe-University、技術職業教育訓練の機会拡大、研究支援及びAU宇宙フラッグシップ・プログラムの実施の制度化が挙げられる。

2-2-2 国際パートナーのイニシアティブ(1)

○アフリカにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の促進及び公衆衛生上の緊急事態への対応及び備えの強化

 TICAD VI以後、世銀、世界保健機関(WHO)、アフリカ開発銀行、日本政府及びJICAは、アフリカ諸国においてユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が拡大し関連情報・経験が共有されるよう支援を強化している。一部のアフリカ諸国は、最も脆弱な人々も含めたUHCへのアクセス拡大に先行して取り組んでいる。2017年12月、東京においてUHCフォーラムが開催される予定である。同フォーラムは、グローバルな会議であるが、会議では、アフリカ諸国が主要な役割を果たす予定となっており、それらの国々のUHC拡大に関する経験に焦点が当てられる予定である。

 広汎な地域で流行する感染症(パンデミック)対策は、UHCの鍵となる要素である。国際社会は、エボラ危機以降、感染症のリスク管理のための体制構築に取り組んできた。「パンデミック緊急ファシリティ(PEF)」は、2016年、日本及びドイツの支援を得て世銀グループにより立ち上げられた、開発途上国におけるパンデミック対応のための保険を提供する初めての資金メカニズムである。PEFは当初3年間で、債権発行及び金融市場を通じて最大5億ドルが、また開発パートナーの拠出により最大5,000万ドルの補完的な資金が提供される。前者の保険による資金枠(保険枠)は、パンデミックを引き起こす可能性が高い感染症として特定のリストに掲載された感染症のアウトブレイクをカバーし、後者の補完的資金枠(現金枠)は、より広範囲の病気に対応するために提供される。PEFは、WHOの即応のための緊急対応基金を補完するものである。PEFは、関係国及び国際的な対応者に対し、パンデミックに至る前にアウトブレイクを抑える資金を迅速に提供することにより、生命を救い、効果的対策のコストを低減し、伝染性疾病の発生による経済的影響を抑制することに役立つものである。

2-2-2 国際パートナーのイニシアティブ(2)

○アフリカにおける暴力的過激主義の防止及び対策に関する地域プロジェクト:開発アプローチ

 UNDPは、暴力的過激主義の根本原因に対処するための4年間の地域プロジェクトを実施している。

 地域レベルでは、政府間開発機関(IGAD)による暴力的過激主義の防止・対策(P/CVE)のための初めての地域的な戦略策定に対して、包摂的なプロセスを通じ、支援を行った。この戦略によって、地域的な、及び国境を越えた暴力的過激主義に関する協力・連携が拡大することが期待されており、現在IGADは行動計画を策定中である。

 国家レベルでは、IGADの4加盟国を含む16か国で実施される予定である。

 コミュニティレベルでは、宗教組織等の鍵となる公式・非公式の組織に関与することで、コミュニティの強靱性を構築することに焦点を当てている。2016年10月にナイジェリアのアブジャ、2017年5月にウガンダのカンパラにおいて85名の宗教的指導者による会合を開催した。これらの会合を通じて、宗教的指導者の役割とネットワーキングのためのデータベース作成に関する合意がなされた。さらに、宗教的宣言が採択され、過激主義グループにより利用されるイデオロギーに関する宗教の立場を説明するとともに、暴力的過激主義に対し共に関与していくための戦略に向けた機運が高められた。

2-2-3 市民社会のイニシアティブ(1)

○SDGsケニアフォーラムのTICADへの参加

 2015年から2016年にかけて、持続可能な開発目標(SDGs)ケニアフォーラムの下で、TICADプロセスに参加した市民社会組織(CSO)は、能力構築セッションや分析的調査を通じ、認識を高めフォローアップするメカニズムを構築していくための努力を開始した。加えて、本フォーラムは、TICAD VIのケニア開催が表明された後、ケニア外務省及び同開発計画省に働きかけ、両省の支援の下で合同会合を開催した。

 本フォーラムのメンバーの一部は、コミュニティレベルでのプロジェクトを実施している。例えば、国際計画家族連合(IPPF)、「ケニアエイズ・NGOコンソーシアム(KANCO)」等のパートナーは、グローバル・ファンド等からHIV/AIDs及び結核対策や、性と生殖に関する健康・母体の健康対策につき、地域コミュニティにおける彼等の取組を促進するための補助金を受領している。

2-2-3 市民社会のイニシアティブ(2)

○特定非営利活動法人ハンガー・フリー・ワールド:ウガンダにおける養鶏による栄養改善と収入向上

 ハンガー・フリー・ワールドは、ウガンダにおいて、将来的にコミュニティが経済的に自立するよう、協同組合の努力を支援している。組合員の女性50名を対象に養鶏事業を通じた栄養改善プロジェクトに参加してもらった。対象者には鶏を提供し飼育方法についての情報を提供した。1年間の活動の結果、対象世帯では、栄養状態が改善した。また、対象となった組合員は余った卵を販売し、収入を子供の学費に充てており、生活が向上している。本事業の利益を見て、事業に参加しなかった世帯が自分達で鶏を飼育し始めた。対象となった組合員から学び、自ら本事業を真似たのである。組合員による他の事業としては、植林、井戸掘り、5才未満児対象の栄養改善事業等がある。

{*1* SADC:南部アフリカ開発共同体}

{*2* ECOWAS:西アフリカ諸国経済共同体}

{*3* COMESA:東南部アフリカ市場共同体}

{*4* EAC:東アフリカ共同体}