データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD閣僚会合 全体会合1  河野外務大臣スピーチ

[場所] 東京
[年月日] 2018年10月6日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

【冒頭】

・全体会合1を開始する。ガワナス国連事務次長兼アフリカ特別顧問と共同議長を務めることは大変光栄。 TICAD VI以降,アフリカにおいても世界的にも,経済,政治,安全保障上の変化は目まぐるしい。 日本は常にアフリカと共にあり,アフリカの課題に取組み,変革を推進するために誠実なアプローチをとっている。我々はアフリカのオーナーシップと国際的なパートナーシップに重きを置きつつ,アフリカと手を取り合って,実現可能な解決策を考え続ける。すべての出席者に,TICADプロセスへの堅固な貢献に対して心からの謝意を表したい。 各全体会合では,これまでの様々な努力を通じて得た多くの成功談と貴重な教訓が紹介される。こうして振り返ることで,最終的にTICAD 7での議論に向けた道筋を形作ることになる。TICADプロセスに対する皆様からのインプットに心躍る気持ち。

【日本の進捗】

・まず,過去のTICAD会合で日本が表明した取組に対する進捗を説明する。日本は,TICADVにおいて,2013年からの5年間で最大320億ドルの官民による支援パッケージを表明。2017年末の時点で,目標を上回る支援を達成。また,TICADVIにおいて,2016年からの3年間で総額300億ドル規模の「未来への投資」を表明した。本年9月時点で,取組ごとにペースは異なるが,実績の暫定値は約160億ドルである。ODAについては,進展があり,順調に進んでいる。一方,いくつかの被供与国において債務持続性の問題が発生しなければ,より多くの円借款案件を実施しえた。公的資金や金融機関による融資・保証については,全体として進捗は見られるものの,一次産品価格の下落,受益国の債務持続性の問題のために,一部に遅れが見られる。進捗を欠いた2016年の後の前向きな展開として,2017年には外国直接投資の額に進展が見られた。なお,これらの進捗に計上されている対外直接投資に加えて,統計上はアフリカ向け投資に含まれないが,日本企業が第三国を経由する形で行っている投資の事例が豊富に存在することは指摘しておきたい。

【アフリカによるビジネス環境整備の必要性】

・これまでの進捗に鑑み,我々は日本の民間セクター部門により投資するよう働きかけている。しかし同時に,外国投資を呼び込むためには,アフリカ諸国がビジネス環境を改善させることが不可欠。このことは二国間の投資協定及び租税協定の促進,汚職防止策をはじめとする効率的な行政システムの導入,情報へのアクセスの向上,債務持続性を伴う安定的なマクロ経済の維持といった施策を通して実現可能。

【アフリカの経済見通し・貿易投資の促進】

・経済的,社会的及び政治的観点から現在のアフリカの状況について触れたい。 全体として,アフリカ経済は今後数年間着実に成長する見込み。日本は同地域のアフリカ大陸自由貿易圏 (AfCFTA)設立協定の署名や地域経済共同体(RECs)の主導するイニシアティブ,単一航空市場の設置といった,貿易投資を促進するための取組みを歓迎。また,日本はTPP11の署名を主導するなど自由貿易を推進している。自由貿易の促進のための我々の努力が将来的につながることと,アフリカ,そして,世界中で自由な貿易投資の恩恵が共有されることを希望。自由で公平な貿易のための公平な競争条件の確保の重要性を強調する。

・TPP11は環太平洋パートナーシップの略だが,地域の縛りはない。TPPに意欲があるアフリカ諸国であれば,いかなる国も参加を歓迎する。

【債務持続性】

・こうした前向きな発展も見られる一方,公的支出の急速な拡大と借上げの増加,特に高金利の民間融資により,いくつかの国で債務持続性に関するリスクが増大していることは大きな懸念を呼んでいる。債権国・債務国の両者が,債務が返済可能で,透明性があり,財政健全性を悪化させないことを確保することが重要。そうしなければ,受益国が債務破綻に陥ることは避け難く,国際機関や日本を含むドナーからの商業的融資及び譲許性のある融資を得られなくなる。このことは,明らかに持続可能な発展のプロセスを妨げる可能性がある。この深刻な問題に取り組む適切な方法を見出すための活発な議論を期待。

【全体会合1でのその他のアジェンダ】

・このセッションでは以下の項目に関する議論も楽しみにしている。

【ビジネスの促進】

・第一に,ビジネスと経済分野では,零細・中小企業 (MSMEs)への支援,農業生産性の向上,科学技術イノベーション(STI)の推進を通じた経済の変革により,アフリカのビジネスを発展させる現在の前向きなモメンタムを掴むべき。

【社会・自然環境の変化】

・第二に,貿易と開発の社会的側面において,アフリカにおける急速に変化する社会と自然環境は,感染症や他の健康面の課題の再発,都市化,災害リスク,気候変動やエネルギーに関する問題等の新たな課題をもたらしている。こうした課題に迅速に対応するための強靱性と備えを増すためのアフリカによる努力を,日本は引き続き支援。

【アフリカ地域における平和,安定及びガバナンス】

・第三に,政治分野の問題に関しては,安全保障,法の支配,人権の観点からアフリカの状況は改善されてきている。過去数年の間,数か国で平和的に選挙が実施され,また,民主的な政権の交代が行われた。 日本は,南スーダンやエチオピア・エリトリアのような,地域における平和構築の努力を称賛。我々の教訓とアフリカからの需要に基づき,日本は特に制度構築と人材開発の分野におけるアフリカの国造りを引き続き支援。

【結び(TICAD報告書2018)】

・最後に,既に席上に配布したTICAD 報告書 2018を紹介したい。TICAD VI以来の良い実践例と進捗が示されている。TICAD は様々な関係者により運営される包摂的なフォーラム。皆様の国または組織がアフリカの発展のための活動を共有するために,全ての出席者が今回の閣僚会合を活用していただきたい。

 清聴を感謝し,議論を楽しみにしている。