データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] TICAD閣僚会合開会式 河野外務大臣スピーチ

[場所] 東京
[年月日] 2018年10月6日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

【冒頭】

・先月の国際連合総会に出席し,私は,世界がかつてない,不確実な局面に直面している認識を,再確認した。我々は,アフリカはこのような風潮に最も影響を受けやすいとの思いから,アフリカと協力して取り組むことに,最大限コミットしている。

【自身のマプト訪問】

・本会合に,アフリカの同僚の皆様を歓迎でき光栄。私は,前回のTICAD閣僚会合の議長を務めるために,マプトを訪問。外務大臣に就任後初の外国訪問であり,マプトでは温かな歓迎を受け,一層思い出深いものとなった。それ以降,アフリカと日本の結びつきを強める,重要な出来事が多くあった。

【賢人会議,要人往来】

・初めに,要人往来を例に挙げる。ラジャオナリマンピアニナ・マダガスカル共和国大統領及びサル・セネガル大統領が日本を公式訪問した。また,「アフリカ建国の父」と称される,5名の元大統領のシサノ閣下,ソグロ閣下,ムカパ閣下,オバサンジョ閣下及びムベキ閣下も8月に東京を訪問し,アフリカに平和と安定をもたらす方策について話し合った。日本からは,茂木経済再生担当大臣,世耕経済産業大臣,そして私自身がアフリカを訪問した。

【災害お見舞いへの謝意】

・過去数年間に日本を襲った雨,台風,地震などの災害に関し,アフリカの友人からの心のこもった数多くのお見舞いに大変励まされた。連帯のメッセージに改めて謝意を表す。お礼申し上げる。

【日本の対アフリカ外交の理念:「国力は人にあり」】

・日本の対アフリカ外交の理念は,「国力は人にあり」という我々自身の経験から形成。

【明治維新と日本の発展】

・本年は,日本の転換点となった1868年の明治維新から150年。続く期間において,日本は,教育,人材育成,社会経済開発,法の支配を重視しつつ,民主主義の基盤を築き,大きく発展を遂げた。その後,惜しみない国際支援と明治時代から培った強じん性を基盤とする自助努力により,第二次世界大戦後奇跡的な復興を遂げた。

・この成功を基に,日本は,新興のドナーとして,この独自の経験をアジアで適用し,成果を得た。アフリカのオーナーシップを尊重し,アフリカの人々のエンパワーメントに焦点を当てつつ,アフリカの取組に対する一層の支援を行う固い決意を,改めて強調。

・こうした観点から,日本のアフリカ民主化支援を再確認し,平和と安定に向けた,「アフリカの課題に対するアフリカの解決策」を探る,アフリカ自身の取組を高く評価。東アフリカにおける前向きな進展を評価し,平和と安定の基盤となる制度構築の重要性を強調。

【自由で開かれたインド太平洋の実現】

・北南米の沿岸に至るまではるばると,インド洋と太平洋を通じてアフリカをつなぐべく,日本は自由で開かれたインド太平洋を推進している。法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序及び航海の自由を維持しなければならない。いかなる海洋をめぐる紛争も,力による解決ではなく,国際法に基づき公平に,かつ平和的に解決されるべきである。このような世界をアフリカと共有することは,我々の願い。

【官民連携,人材開発,技術移転でアフリカの経済構造転換を後押し】

・経済面では,民間セクターと緊密に連携しながら,人材育成と技術移転に重点を置き,アフリカの経済構造転換を推進してきた。我々の人材育成に関する信念を反映し,トヨタや千代田化工建設といったアフリカに投資する日本企業は,国内と同じ方法で,現地従業員の訓練を実施している。

【日アフリカ官民経済フォーラム等】

・前向きな進展としては,日本のアフリカに対する海外直接投資は2000年から5倍以上に増加し,現在アフリカにおける日本企業の事務所は800を超えた。日アフリカ官民経済フォーラム第1回会合が5月にヨハネスブルグで開催されたほか,アフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションも7月にルワンダとザンビアに派遣された。昨日の午後と今朝,参加された方もいらっしゃると思うが,様々なビジネスのサイドイベントが開催されたことも,心強い。特に今朝、最大のビジネス連合である経団連とさらにアフリカに投資したい主要な日本企業がサイドイベントを行った。本イベントに出席され、榊原会長と貴国へのさらなる投資について話されたことを願う。

【債務持続性(質の高いインフラの理念:透明性,開放性,ライフサイクルでの経済合理性)】

・関連する点として,アフリカのオーナーシップを尊重した持続可能なアフリカの開発をアフリカで実現するため,健全な債務管理の重要性を繰り返し強調したい。国際援助は,透明性,開放性,ライフ・サイクル・コストから見た経済効率性及び被援助国の債務持続性といった国際的スタンダードに従って行われるべきである。このような原則は,我が国の推進する「質の高いインフラ」の重要な要素であり,我が国はこのイニシアティブに基づいて,アフリカ全土及び大陸外との連結性の強化を支援。このような考えに沿って,「アジェンダ2063」に示されているアフリカの経済構造転換に向けた取組を我が国は支援。

・アフリカの経済構造転換の実現のため,自由貿易の重要性に言及したい。現在の国際秩序を取り巻く不確実性は高まりつつあり,一方的な行動の広がりは,多国間主義をむしばんでいる。しかし,自由で公平な多角的な及び複数国間の貿易システムの維持と発展への日本の決意は不変。

【TICADプロセスの意義】

・ここで,我々のTICADプロセスが,共催者,参加国,国際機関,市民社会及び,民間セクターを含む全ての利害関係者により作られていることを再び想起したい。透明性と一貫性のいずれもがこのプロセスの鍵。参加者と緊密に協力し,この独自性があり,透明性かつ,包摂的なTICADの枠組みを維持,発展させることへの,日本の固い決意を強調。

【外交課題への協力に感謝(安保理,北朝鮮)】

・最後に,この機会を借りて,日本も重要視している,国連安保理改革や,拉致,核・ミサイル開発などの北朝鮮に関する諸懸案の包括的解決といった国際的な課題に関する皆様の協力に,心から謝意を表明したい。皆にとってより良い未来を築くため,このような課題に対し,アフリカと引き続き協力していきたい。

【今次閣僚会合の位置づけ】

・これから行われる全体会合では,TICAD Vと TICAD VIで打ち出された目標とコミットメントの,進捗を共有し,議論する。アフリカの声に耳を傾け,TICAD 7に向けて道筋をつけるべく,この貴重な機会を最大限に活かしたい。それぞれの会合において,忌憚のない,活発な話合いを楽しみにしている。

【我が国の立場に関するディスクレイマー】

・最後に,仮に日本が承認していない,「国」として自称する主体がこの会場にいたとしても,その事実は黙示的にも明示的にも国家承認に関する日本の立場に影響を与えるものではないことを表明する。また,共催者であるアフリカ連合と日本以外の,いかなる名札の設置も許されないことを明確にしたい。卓上を含めた全体会合の会場内にある旗についても,共催者であるアフリカ連合と日本以外のものの設置は許されない。秩序を乱す者は誰であれ,会場からの立退きを要求されることがある。

御静聴に感謝。