データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大平外務大臣の一般討論演説(国際連合第十七回総会における日本代表の発言)

[場所] 
[年月日] 1962年9月22日
[出典] 外交青書7号,10‐18頁.
[備考] 
[全文]

 議長、私は、日本代表団の名において、貴下が第十七回国際連合総会議長に当選されたことに対し、心からお祝い申し上げます。総会議長としての責務は重かつ大でありますが、私は貴下がその卓越せる識見と国際問題に関する豊かな経験、世界的に令名高き法律家としての資質、なかんずく貴下の人類に対する深い愛情をもってすれば総会議長として必ずや輝かしい成功をおさめられることを信じて疑わないものであります。

 同時に、私は、この機会に前議長モンジ・スリム、テュニジア外務大臣に対し深甚な謝意を表したいと思います。思えば第十六回総会ハマーショルド前事務総長の不慮の死という悲劇のあとわうけて開かれたのであります。前議長は、この困難な時期に同総会を見事に主宰され、国際連合の威信の保持、向上に大いに貢献されました。

 ウ・タン暫定事務総長は、過去一年を通ずる非常に困難な状況の下でまれに見る指導力、威厳、忍耐ならびに手腕を示されました。われわれは、同事務総長に対し心から称讃の意を表するとともに、同事務総長がよくわれわれの期待にこたえ、その重責をまっとうされたことに対し満足の意を表するものであります。

 この機会に、われわれは、最近地震により惨害をうけたイランの政府および国民に対し心からのお見舞を申し述べたいと思います。この恐ろしい災害の報道は日本政府と国民にとって非常な驚きであり、深い同情の念を呼びおこしました。

 国際連合憲章の原則と精神を尊重し、国際連合の活動にできる限りの協力を行なうことは、わが国外交の一貫した基本方針であります。わが国は、この方針にもとづき、これまでも国際連合各機関の事業に積極的に参加してまいりました。今後とも世界平和の維持機構としての国際連合がますますその基礎を強固にし、十分その目的を達しうるようあらゆる協力と支持を惜しまない覚悟であります。

 今日の世界は冷戦という重病に苦しんでおります。その病症は大いに悪化し、各国の外交政策および国際活動が大なり小なり冷戦の緊迫感によって支配されるという程度にまで進行しているのであります。一体、われわれは、この事態があたかもガン細胞の広がるがごとく、とりかえしのつかないところにまで発展するのを放置しておいてよいのでありましょうか。これがわれわれの当面する問題なのであります。

 私は、このような状態を矯正するのに最もあずかって力があるのは国際連合であると信ずるものであります。そのために、われわれは、個々の加盟国としても、機能全体としても、常に国際連合憲章の諸原則の昮揚に努力を傾注し、これに活力を与えなければなりません。

 われわれは、国境を越えて全世界、全人類の希望と息吹きとを感じとらねばなりません。人種、国籍、政治的信条がちがっていても、発展段階の差異があっても、およそ全世界の人々は誰も彼もみんな自由と正義の下で平和と安全の中に、より豊かな生活を送りたいと熱望しているのであります。この人類共通の願望達成のためにこそ国際連合は存在し、またこの目的のためにこそ、われわれは加盟国として最大の努力をささげるべきものなのであります。かくて、われわれの当面する課題は、冷戦を葬り去り、真の世界平和のために尽すことであります。こうしてこそ、はじめてわれわれは恐怖と不安とに脅やかされることなく、安心して豊かな生活を楽しむことができるのであります。

 ここに、私は、この第十七回総会の劈頭にあたり、国際連合が当面する若干の重要問題についてわが代表団の見解を述べることといたします。

 所信表明に先だち、私は、まず第一に九月十八日の本会議において国際連合に加盟を認められた四カ国に対し心からお祝いの言葉を述べたいと思います。ルワンダ共和国、ブルンディ王国、ジャマイカおよびトリニダド・トバゴの各国代表が加盟に際して行なった演説は、これらの国が国際連合の偉大な事業に対し目覚しい貢献をなすであろうというわれわれの信念を裏書きするものにほかなりません。

 最近独立したその他の諸国ならびに近く独立が予定されている他の国々もやがて加盟を認められることとなりましょう。

 植民地あるいは従属地域独立の問題が今日ほどわれわれすべての重要関心事となった時代はありません。第十五回総会において植民地の独立宣言が成立したことはなによりもこれを雄弁に物語るものであります。自由と独立そして経済的社会的進歩と向上のためあらゆる困難にうちかって自らの明るい将来を築きあげてゆこうとする諸民族の努力に対し、日本国民は多大の敬意を払うとともに常に変らぬ共感をおぼえるものであります。

 従属諸民族が自由を獲得することは、時代の要請であります。このことは、すでに国際連合憲章の規定し、予想したところであり、さらに、植民地の独立宣言が確認したところであります。この自由を求める動きには何人も逆うことはできないし、また、いかなる場合にもこれを拒否することはできないのであります。

 第二次世界対戦後、特に最近の数年間において、新たに多くの国が独立を達成したことは、この時代の動きを最も明瞭に示すものであります。

 およそ本当に功績が存在するならば、その功績は卒直に認められなければなりません。その意味で従属地域の福祉増進のため、これら地域の施政者たる地位にあった加盟諸国が久しきにわたって少なからざる努力を払ってきたことに対し、われわれは敬意を表明するにやぶさかであってはならないと思うのであります。

 独立を希求する諸民族の側においては徒らに性急に走ることなく、自身と勇気をもって、しかも着実穏健に独立達成への道を進まれることを希望するものであります。

 同時に、関係諸国の側においても、これら諸民族の願望と努力に対し理解ある協力を惜しまれないよう願うものであります。

 なお、この際、私は、植民地主義というものがいかなる民族により、また、いかなる民族を対象として行なわれても、それは依然として悪であることを強調するものであります。さらに、私は、植民地主義を排除しようとする諸民族の真面目な念願を悪用して自国の勢力伸張を図ろうとするごとき試みに対しては、十分警戒の必要があることを付言したいと思います。

 他方、人種による差別待遇は、それがいかなる形のものであれ同様に悪であり、根絶しなげばならないものであります。しかるに、これらの人種による差別待遇が今なお法により認められている地域があります。これらの地域においては道義を尊重する精神が欠けていることは申すまでもなく、国際連合憲章の精神を尊び、義務を守り抜こうとする決意さえも見られないと申すほかないのであります。われわれは、関係諸国に対し、人種による差別撤廃のためあくまで国際連合と協力するよう友情をこめて切望いたします。そしてそこにこそ、これら諸国が憲章上の義務を全うし、自らの利益をも確保する途のあることを速やかに自覚されるよう熱望するものであります。

 新独立国の増加に伴い国際連合加盟国はいまや当初の二倍を超えるに至りました。このような著しい加盟国の増加が国際連合自体に対し種々の新らしい問題を提起していることはすでにしばしば指摘されているとおりであります。拒否権を認められている大国といえどもこれら新加盟国の発言力を無視しえないのが現在の実情であります。これら新加盟国の責任はすべての問題についてますます重大さを加えてまいりました。前総会において、わが国は全加盟国に対し国際平和のための協力の機構たる国際連合に対する各加盟国の協力のあり方について真しな反省を加えるよう希望いたしました。私はもう一度ここにそうした反省の必要性について訴えたいと思います。安全保障理事会の常任理事国たる諸大国が、拒否権を有することに伴う責任の重大さを自覚し、国家的利益のみに走らず、つねに世界平和の維持という国際連合の崇高な目的を見失わないよう、より一層慎重に行動されることを期待せざるをえません。他方、発言力を増大しつつある新加盟国が、自信と信頼の念、英知と決断をもって建設的に事に当られることを切に希望するものであります。

 各加盟国は、国際連合が力の対立の場あるいは非難宣伝の場に堕することなく、世界平和の維持機構としてますますその権威を高めるよう、ともどもに新たな決意をもってたゆまぬ努力をつづけなければならないと考えます。

 この点について、たとえば、安全保障理事会や経済社会理事会の構成などの、国際連合の基本的組織さらに議事手続などの再検討が緊急の問題となっております。国際連合を平和と経済的社会的進歩のための一そう効果的な機構たらしめるには、著しく増加した加盟国が国際連合の各方面の活動に一そう全面的にかつ能率的に参加しうるよう考慮を払うべきであります。この点で前総会議長が行なわれた提案は極めて時宜にかなったものであります。

 機構問題とも関連して、私は、国際連合の財政問題の重大性を強調したいと思います。一部の加盟国は国際連合緊急軍経費やコンゴー経費の負担を拒み、そのため生じた国際連合の財政は危機に陥りました。幸い前総会において決定された国連公債の発行によってともかくもその財政難は緩和の見通しをうるにいたりました。

 わが国としては、国連協力の立場から、さきにこの国連公債五〇〇万ドル引受けの用意あることを暫定事務総長に通報した次第であります。

 また、わが国は、国際連合緊急軍経費およびコンゴー経費は憲章第十七条に規定する国際連合の経費であるという国際司法裁判所の勧告的意見を全面的に支持し、さらに今総会中この勧告的意見に従って積極的方策が講ぜられることを信ずるものであります。このように国際連合の財政状況は、やや改善の兆をみせてはいるものの、加盟国の増加や、事業活動の拡大強化に伴って、その前途は決して楽観を許さないものがあります。この際、国際連合の財政的基礎を健全かつ強固なものとしうるか否かは、国際連合の将来にとって死活的重要性をもつものであり、全加盟国の積極的な協力が望まれるところであります。この点においても各加盟国の国際連合に対する協力のあり方について真剣な反省を要するものがあると考えざるをえません。

 多数国の独立は国際連合加盟国の増加を促しましたが、これに伴い、広範かつ重要な他の分野における国際連合の活動が強調されるにいたりました。すなわち、経済社会分野における活動がこれであります。経済社会面における進歩発展は、政治的自由を確保するため必要であります。それはまた、新独立国が国際社会の平和と安定に、より積極的な貢献をなす上において欠くべからざるものであります。この意味において、経済社会の分野における国際連合の責任は真に重大なものがあります。

 昨年の総会決議をもって一九六〇年代を「国連開発の十年」と名付けました。わが国は「開発の十年」の間に低開発諸国の経済自立体制が一段と強化され、世界経済の調和のとれた発展に資することを強く期待するものであります。およそ一国の経済開発の責任は第一義的にはその国自体にあり、自助の精神があってこそはじめて、開発に要する資本の不足、熟練労働力の不足といった困難を克服することができます。とくに健全な長期開発計画を作成し、その枠内で、国内資源の動員と配分に努力を結集する体制をそれぞれの国で確立する必要があります。このようにしてはじめて、外国からの援助と国内的な開発努力との有効な連結を確保し、友好的かつ確固たる国際経済協力関係を普遍的に打ち立てることも可能となりましょう。

 今は低開発国の経済社会面の発展を計るため、その開発計画の作成および実施を行なうべききわめて重要な時期に際会しております。「開発の十年」は国際連合、専門機関およびその加盟諸国が、低開発諸国により大きな援助を与えるため一層の努力を結集することを要請しているのであります。

 「開発の十年」の間を通じて、アフリカの新興独立諸国を始めとし、低開発諸国に対する国際援助の必要が増大することはいうまでもありません。わが国は、今後ともこれら諸国との経済技術協力の推進にできる限り努めることとしております。とくに、わが国と地理的にも近接し、わが国との間に密接な経済関係を有するアジアの諸国からの要請には特別の考慮を払いたいと思います。私はこの点に関し、低開発世界人口の大半がアジアに集中していることのほか、アジア諸国の多くはすでに経済開発の面でかなりの経験を積み重ねていること、さらに引きつづき長期的な開発計画にもとづいて、積極的な努力を傾けていることに各国の注意を喚起したいと思います。こうしたアジア諸国の真剣な努力を立派に結実させるためには、今後ともこれらの諸国に対し二国間あるいは多角的な援助を格段に増加せしめることが必要であります。

 国際連合の内外を問わず、各種の資本援助機関を通ずる低開発諸国向け援助が近時拡充される傾向にあることは歓迎に値します。反面、資本援助に対する要求が急速に増大しつつある点を見逃してはなりません。国際開発協会は発足後未だ日は浅いとはいえ刮目すべき活動を行なっております。しかし協会が資本援助の分野における需給の間隙を埋める上に今後大きな役割を果して行くためには、協会の資金を補充する必要があります。

 わが国は協会に対する主要拠出国の一つであり、協会が多数国間援助の主要資金源として活動することに大きな意義をみとめております。こうした立場から、わが国としては、今後とも協会がその使命を十分に達成しうるように、できうる限りの協力を行なって行きたいと思います。

 「開発の十年」の目標の達成に貿易上の諸問題もまた重大な関連を有しております。この意味において、第三十四回経済社会理事会において、国連貿易開発会議の招集が決定され、準備の手続が定められたことは画期的な意義を持つものと考えます。顧みれば、同種の国際連合主催の会議が一九四六年ハバナにおいて開催されてからはや十六年を経過しました。きたる貿易開発会議にはハバナ会議の二倍以上にのぼる諸国の参加が予想されております。

 貿易の分野においては、じ来、ガットが発足し多角的、無差別かつ自由な貿易促進のため大きな貢献を行なっております。国際連合、あるいは専門機関のうちで商品貿易問題に関係のある国際連合食糧農業機関もそれぞれの権限内で貿易問題の解決に当っており、個々の産品については国際商品協定が成立しております。わが国は、かかる現実に立脚しつつ、なおかつ、解決を求められている貿易問題について、国際連合貿易開発会議が有効な役割を演ずることを念願せずにはおられません。しかし問題は複雑であります。すでに、世界貿易の拡大、促進のため重要な機能を果している前記の諸機関の活動および今後の努力を最大限に活用するよう十分の配慮を行なうべきでありましよう。したがって会議の準備には最大限の英知と慎重さを要すると考えます。

 経済的社会的進歩が政治的安定ひいては、世界の平和に不可欠であると同様に国際的平和と安定なくしては永続的な経済的社会的進歩も政治的安定もありえないこともまた事実であります。

 国際連合はその平和維持の目的のため、国際紛争が起った場合、これを武力の脅威または行使によらないで話し合いにより平和的に解決することを原則としております。この原則はそれ自体いわば自明のことであります。しかし、現実の紛争に際してあくまでもこの原則を尊重し、平和的解決につとめることは決して容易な業ではありません。なによりも平和を求める強い欲求とこの欲求を達成しようとする確固たる意志が何よりも大切であります。口に平和を唱えても自国のためならば武力の行使をも辞さないといった政策は断固これを排撃して、相互の理解、協調の精神によって裏付けられた忍耐強い努力に徹することが必要であります。

 不幸にしてかかる努力は必ずしも常に行なわれているとは申せません。過去数年間に世界の各地で武力による威嚇が見られました。時によっては武力の行使の事例さえもありました。その動機には焦慮と不満、憲章上の義務の軽視、宣伝、政治的利益の確保等々さまざまのものがありましよう。しかし理由のいかんを問わず、かかる行為を許すことはできないのであります。

 この点に関し、さきにラオス連合政府が樹立されてラオスに平和と中立を保証する国際協定の成立をみたこと、アルジェリアが円満に独立を達成し、さらには西ニューギニア(西イリアン)問題の解決につき関係国間に合意が成立するにいたりましたことなどは、関係諸国のたゆまぬ努力の成果として慶賀にたえません。

 ラオスの事態については、同じアジアにあるわが国として深い関心を持っております。われわれは、今後ラオスに関する国際協定が忠実に履行され、ラオス連合政府の基盤が強化されることによって、ただにアジアのみならず、世界全体の平和のため大いに貢献することを期待するものであります。

 また、西ニューギニア(西イリアン)問題についても、わが国としては同様にこれが平和的解決の緒についたことを心から喜ぶものであって、インドネシア政府とオランダ政府の間の協定が文字どおり実行にうつされることを切に希望するものであります。この問題の解決にあたりウ・タン暫定事務総長とバンカー大使の果たした役割はきわめて偉大なものがありました。これによって国際連合の権威が一そう高められたことは疑うべくもなく、国際連合存在の意義がみごとに実証された事例と申せましょう。

 他方、国際連合がいまなお試練を経つつある困難な問題も決して少なくありません。コンゴーにおいてはようやく初期の混乱を脱しえたにもかかわらず、真の統一がいまだ完成されていない現状は甚だ遺憾であります。しかしながら、最近にいたり、コンゴー中央政府とカタンガ当局が対立を解消するため暫定事務総長の提示した計画案を基礎として事態の平和的解決に合意したことは喜ばしいことであります。われわれは、両当事者が国家の統一を希求する暫定事務総長の努力に応え、一日も早く最終的合意を達成するよう強く呼びかけるものであります。われわれはまた、この新興の国家が一日も速やかに諸般の体制を整備し、経済的、社会的進歩への道を歩みうるよう一層の努力をつくすことを希望してやみません。

 一方国際連合加盟国としても、コンゴーにおける真の困難はむしろ将来にあるということ、そしてこれまでの貴重な努力を無にしないためにも国際連合を通じて一層の協力、援助を行なうことが不可欠であることを十分認識しなければならないと思います。われわれは、コンゴー問題の処理に当ってできる限り現実の事態をも考慮しつつ建設的な解決策を見出そうとする暫定事務総長の尽力に敬意を表するものであります。国際連合がこれに成功するか否かは、ひとりコンゴーのみならず、アフリカ全体ひいては世界全体にとってきわめて重要な意味をもつものであります。

 国際緊張緩和の必要はすでに久しく一般の認めるところであります。しかし、依然として東西両陣営の根強い対立は相互の間の不信感を強めるばかりであり、このため、国際緊張は激化こそすれ、緩和するに至っていないのが現状であります。たとえば、ベルリン問題およびドイツ問題がこの東西両陣営対立の接点にあっていまだに解決されず、しばしば危機の根源となっていることは、世界平和のため遺憾に堪えません。われわれは、これらの問題が一日も速やかに解決されることを心から願うものであります。しかし、その実現はあくまでも国際連合憲章の原則、とりわけ、民族自決、人権尊重の原則に従い、しかも、平和的手段により達成されなければならないと確信いたします。

 東西両陣営の対立と相互の間の不信は、最近における異常なまでの科学技術の発達と相まって、軍備の競争をいよいよ激化せしめております。軍縮の問題は世界の安全、緊張の緩和に直接つながるものであるだけに、われわれは、今こそこれが実現のため、あらゆる努力を払わなければならないのであります。このような見地から、従来の十カ国軍縮委員会が十八カ国軍縮委員会に拡大され、去る三月ジュネーヴにおいて討議を再開するにいたりましたことは、前回総会における全加盟国の強い要望に応えるものであり、きわめて喜ばしいことであります。

 わが国は、全面完全軍縮を目標とすることに賛成でありまして、主要国間にかかる目的につき合意をみたことはわれわれに希望を与えるものであります。この問題はきわめて複雑でありますので、まず、管理が可能であり、実行が可能である軍縮措置から実施し、これによって国際信頼感を回復した上で、さらにその範囲を拡大してゆくという接近の仕方が右目的達成のための現実的かつ建設的な解決方式であると考えます。何よりも不信感の解消を図らなければならない現状においては、有効な国際管理の確保こそ先決であると考えざるをえないからであります。

 核兵器の実験の問題については、これを有効に禁止する協定が成立すれば、それ自体すでに人類の大きな進歩であります。同時に、それは、一般軍縮を促進する契機となるべきものとして、われわれの最も重視するところであります。

 わが国は、これまでの効果的な核兵器実験停止に関する協定を他の軍縮措置に優先して速やかに成立せしめるよう強く訴えてきたのであります。私は、ここにあらためてその必要なことを強調したいと思います。

 昨年突如として一方的に再開された核兵器の実験は、本年にはいつて、文字どおりの悪循環に発展し、今なお続いております。恐るべき事態でありといわねばなりません。日本政府は、核兵器の実験が行なわれるたびに、それがいずれの国によるものであるかを問わず、これに対し抗議するとともに、速やかな協定成立のため一層努力するよう訴えてまいりました。軍縮委員会の構成国に対しても、随時、協定の早期締結のためさらに尽力をするよう要請してまいりました。しかし、実験は委員会における討議を無視するかのごとくこれと全く無関係に続けられ、討議はいたずらに回を重ねるのみでなんらの具体的成果をも挙げるにいたっていないのであります。

 われわれは、好むと好まざるとにかかわらず、今日世界の平和が核戦力のバランスの上に辛うじて保たれているという現実から目をそらすわけにはゆきません。しかもなお核兵器の実験は核兵器の製造へとつらなり、核兵器の製造は一歩誤まれば、全人類とその文明とを一瞬にして破壊しかねない恐るべき世界戦争の脅威へとつらなるものであることは事実であります。今や全人類の運命核保有国たる大国の手に握られています。これら大国がその責任の重大さを自覚し、世界の平和と安全のため、目前の国家的利害を離れた大局的見地に立つて、核兵器実験停止協定の速やかな締結につとめられることを願ってやみません。われわれの目標とする全面完全軍縮への第一歩は、その成否にかかっております。これら大国の誠意と決断とに期待するところ誠に大なるものがあるといわねばなりません。わが代表団は、今次総会において軍縮委員会における討議を促進し速やかに協定が締結されるよう、効果的な措置がとられることを切に希望し、このため、あらゆる努力と協力とを惜しまない覚悟であります。

 宇宙空間平和利用の問題も軍縮に関連してきわめて重要なものがあると考えます。最近における米国のフレンドシップ号、テルスター、マリナ号またはソ連のボストーク号等による偉業は、人類文化の成果として誠に驚嘆すべきものがあります。われわれは宇宙空間の開発がますます促進され、人類の福祉向上に寄与することを大いに期待するものであります。わが国は従来から、宇宙空間の利用が国際的な協力のもとに、平和的に、公開と秩序の原則に基いて促進さるべきことを強調してまいりました。前回総会において、宇宙空間平和利用のための国際協力に関する決議が成立し、この分野における国際的な協力活動がようやくその緒につくに至りましたことは慶賀にたえません。わが代表団としては、殆んど無限の可能性を予想される宇宙空間の開発が人類の平和と福祉の増進のためにのみ行なわれることを強く希望するものであり、この点について、できる限り速やかに国際間の合意が成立することを願ってやみません。

 最後に私は、国際連合における中国代表権に関連する議題が議事日程に掲載されるよう要請があった事実にふれたいと思います。私はもちろん今ここで実体問題を取り上げるつもりはありません。わが国が中国との地理的、歴史的な深い関係からこの問題について重大な関心を有することはあらためて多言を要しないところであります。この問題は種々の複雑かつ困難な要素を含んでおり、性急に結論を出すことは賢明でなく、危険ですらあると考えます。この問題の帰趨は、ただに極東のみならず、世界の平和と安全に至大の影響を及ぼし、その結果ははかりしれないものがあるのであります。かかる意味において、第十六回総会の決議により、中国代表権問題が憲章第十八条にいう重要事項に指定されたことは適切かつ妥当なことと信ずるものであります。

 以上、私は、国際連合の当面する諸問題に関し、わが代表団の基本的な立場ならびに希望を申し述べました。私は国際連合の健全な成長を確信しているものであります。しかし今日国際連合は、それ自体の問題をも含め多くの解決すべき問題をかかえております。われわれはあらためて全加盟国がになっている責務の重大さに思いをいたさざるをえません。国際連合は各加盟国を離れて存在するものではありません。私は、今次総会が貴議長の賢明な指導のもとに全加盟国の真しな協力によって十分の成果をあげ、国際連合の権威を高めるとともに、世界の平和と安全と繁栄のために貢献しうることを切に希望するものであり、わが代表団としてもこのためにあらゆる努力を捧げたいと考えるものであります。