データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際連合第十八回総会における大平外務大臣一般討論演説

[場所] 
[年月日] 1963年9月20日
[出典] 外交青書8号,18−25頁.
[備考] 
[全文]

一、 議長、私は、日本代表団の名において、貴下が国際連合第十八回総会の議長に当選されたことに対し、心からお祝い申上ます。私は、貴下がその卓越した識見と国際連合における数数の豊かな経験によって、今次総会を見事に主宰され、成功を収められることを確信するものであります。

 同時に、私は、この機会に、前議長ザフルラ・カーン大使に対し深甚な感謝の意を表したいと思います。前議長は、その公正な識見と、毅然たる態度をもって、第十七回総会および第四回特別総会を鮮やかに導かれ、国際連合の権威向上のため、貢献するところ少なからざるものがありました。

二、 議長、今日ほど、平和について語られ、平和について論ぜられることの多い時代はなかったと言っても過言ではありません。それは、人類の絶滅をもたらすべき核戦争の脅威が増大したことによって、われわれが、真剣に、平和の問題を考えざるを得なくなったからであります。昨年末、キューバをめぐって起った危機が、全世界を恐怖で蔽ったことは、いまだわれわれの記憶に新しいところであります。地球の一角で起ったこの危機は、直ちに全世界、全人類の存亡に連なっていたのであります。誠に、われわれ人類は、今や運命をともにしているといえましょう。このようなことは、世界史上、いまだかつてなかったことであり、現代を特徴づける最も大きな要素の一つであります。

三、 しかし、われわれが運命をともにしているのは、このような消極的な面においてのみではありません。今日の科学技術の発達が、人間生活のあらゆる分野における交流を促進したことは、誠に驚くべきものがあり、今や、一国民は、他の諸国民と政治的にも、経済的にも、文化的にも固くむすばれているのであります。個人が、国家の中で孤立して生活し得ないのと同様に、国家も、世界の中で、孤立しては存在し得ません。このように、人類は今や生においても、死においても、互に深くかかわり合っているのであります。この意味において、われわれ全人類は、真にその運命をともにするに至ったのであります。平和が単なる観念の問題にとどまり得なくなったのは、このためであり、われわれは、是非とも、われわれ自身の手で平和を確保しなければなりません。これは現代に生きるわれわれの義務であり、また責務でもあります。

四、 もちろん、われわれは、平和を確保することが、如何に困難であろうとも、悲観すべきではないし、また悲観しているわけでもありません。たしかに、第二次大戦が終ってからでも、現在までに、どれだけの地域的戦争があり、武力紛争があったことでしょう。冷戦の象徴ともいうべきベルリンの壁、朝鮮を南北に分つ無人地帯、これらは今なお、厳として存在し続けています。しかしながら、不和と対立、憎悪と不信、これらは、果して瘉し難い人類の病患とでもいわなければならないでしょうか。われわれはこれを信ずるものではありません。重要なことは、対立を緩和し、あるいは不信を解消するために、忍耐をもって、不断の努力を続けることであると思います。また、長い間の不信を解消するためには、その意思を具体的事実によって証明しなければなりません。如何に困難な、また、複雑な問題であっても、一つ一つ事実において、信頼のあかしを立てていくならば、決して解決できないものはないと確信いたします。

五、 先にもふれたキューバをめぐる危機と、その終熄を転機とする世界情勢の微妙な変化は、われわれのこの確信を深め、われわれを勇気づけるものであります。キューバ事件は、大国の決意の如何によって、全世界、全人類を一挙に核戦争の惨禍に巻込むことも可能であれば、これを回避することも可能であることをまざまざと見せつけた点において、極めて、意味深いものがありました。この事件の収拾を通じて、人類の運命に対する洞察と、人間への信頼とが強くよみがえったことは否定できないと思います。それは、まさしく理性の勝利であったといえましょう。その後、米、ソ両国の間に、ワシントン・モスクワ間の直通通信線設置についての合意の成立を見るに至ったことも、たとえ、それが偶発戦争防止のための一措置にすぎないとはいえ、相互の間の信頼回復、少なくともそれへの意思を示すものではないでしょうか。

六、 更に、去る八月五日、主要な核保有国たる米、英、ソ三国の間に、大気圏内、宇宙空間および水中における核兵器実験禁止のための条約が正式に調印されるに至りました。もちろん、今回の条約は、地下実験を除外した部分的なものであり、また真の意味における核軍縮をとりきめたものでありません。原爆の洗礼を受けた広島、長崎の悲惨を身をもって体験したわれわれ日本国民は、核戦争に反対であることはもちろん、核戦争の危険を増大する核兵器実験についても、それがいかなる国の実験であっても、反対であります。われわれは、すべての核兵器実験が一刻もすみやかに、かつ、完全に防止されねばならないことをあくまでも、強く訴えるものであり、それがわれわれ日本国民の、人類に対する義務であると信ずるものであります。今回の条約が、このわれわれの願いを完全に充たすものでないことはいうまでもありません。行くべき長い道程のわずかに第一歩をなすにすぎません。ただわずかに一歩であるにせよ、この一歩を踏み出し得たということ、そして、すべての核保有国の間に、人類に対する愛と理性とが失なわれないかぎり、この一歩が、目標に向って更に前進するための貴重な足掛りとなり得るものであること、ここに、この条約の貴重な意義があることは否定できません。わが国が、他の多くの諸国とともに、この条約を支持し、これに参加したのも、このような条約の意義を認めたからに他ならないのであります。

七、 平和への道は、決して平担{前1文字ママ}なものではありません。世界のすべての国が希望を失うことなく、忍耐と努力をもって、一歩一歩進まなければなりません。しかし、特に、強調しなければならないのは、われわれの求めている平和とは、単なる戦術上のスローガンとしての平和や、観念的な平和ではなく、人権の尊重によって裏付けられ、自由を伴った具体的な、しかも全人類のための平和であるということであります。また、このような平和、真の平和を確保するために大国の果すべき役割は、とりわけ重大なものがあり、大国は、全世界に対し、全人類に対し、極めて重大な責任を負っているということであります。かりに、大国が、自国のみの国家的利益を実現する手段として、平和を唱えるごときことがあるとしたならば、大国としての責任を裏切ること、これより甚だしきはありません。今回、米英ソ三国の間に合意された核兵器実験禁止条約についても、これら大国が、この条約によって、特権的地位を認められたと考えてはならないことは言うまでもありません。それどころか、これら大国は、この条約によって、全人類に対する無限大の道義的責任を課せられ、謙虚な、敬虔な態度をもって、真の平和確保に努むべき重大な責任を負ったと言わなければならないのであります。私は、すべての大国が、独断と独善を捨て、その大国としての責任を深く強く自覚して、更に、これを具体的な行為にまで高めるよう努力することを、特に、強く希望するものであります。

八、 議長、現在、われわれは、平和に対する一条の希望の光りを感じつつも、いまだ恐怖と不安を拭い切れないのであります。このときに当り、世界の平和維持機構としての国際連合の使命は、益々重要なものとなりつつあることを、あらためて痛感せざるを得ません。もち論、国際連合発足以来、これまでの間、そのなしとげてきた事業、誠に偉大なものがありました。最近においても、キューバ危機の際はもとより、コンゴー問題、西ニューギニア(西イリアン)問題、あるいは、イエーメン問題、等に当って、国際連合が直接間接果し、あるいは果しつつある役割は、極めて重要なものがあり、われわれは、ここに、国際連合存在の意義が、立派に実証されていると考えます。特に、この間に示されたウ・タン事務総長の手腕能力は極めて偉大なものがあり、国際連合の権威向上に資するところ、誠に少なからざるものがありました。また平和維持の基礎となるべき、経済的、社会的進歩、ならびに、人権の尊重等の各分野にわたって、これまで、国際連合が積み重ねてきた業績も、大いに評価さるべきものがあると信じます。しかしながら、恐怖がいまだ去らず、豊富と窮乏、自由と抑圧、進歩と停滞といった矛盾、不均等が同時に存在し、しかも、各国間の関係が、益々密接、かつ複雑なものとなっている現在、緊急に解決しなければならない問題は、増加することはあっても、減少することはありません。

九、 わが国と最も密接な関係にあるアジアにおいても、一方では、西ニューギニア(西イリアン)問題が平和のうちに解決される等の喜ぶべき進展が見られます。しかしながら、同時に、他方では、ラオス、ヴィエトナム、朝鮮等いくつかの地域に、なお緊張と不安定が見られ、また共産中国をめぐって種々の問題があることは周知のとおりであります。更には、去る十六日発足を見たマレイシアについても、アジアの安定と繁栄に貢献するものと多くの諸国が期待したにも拘らず、発足当初から、この期待に対し一抹の暗影を投ずるがごとき事態の発生を見るに至ったことは、極めて遺憾であります。私は、この事態が関係諸国間において、一日もすみやかに、平和的に解決されることを望む次第であります。アジアが、このような情勢にあることは、ただに、アジアのみならず、世界全体の平和のため、寒心に堪えません。また、アジア諸国の経済的、社会的開発の現状も、同様に、われわれの深い関心を有するところであります。私は、特に、アジアの経済的、社会的開発は、アジアの諸国民の願望と、そのおかれた経済的、社会的条件に即応したこれら諸国民の努力、ならびに、これに対する先進諸国の協力によって促進されていかねばならないと思います。そして、このような経済的、社会的開発の促進によって、アジアが安定と向上に向い、世界の平和に大いに寄与し得ることを衷心より願うものであります。

一〇、 議長、私は、ここに現在国際連合が当面している具体的問題のうちから、特に重要なものをえらび、これに対するわが代表団の見解を述べたいと思います。

一一、 軍縮ならびに、核兵器実験禁止の問題が、国際の平和、および安全と、最も密接な関係を有するものであることは、あらためていうまでもありません。今回調印された核兵器実験禁止のための条約は、米、英、ソ三国の間の交渉の成果ではありますが、十八カ国軍縮委員会の忍耐強い努力が与って力あったことも否定できません。しかし、また、それらの背後に過去十七年にわたる国際連合の、たゆまぬ努力があったということをこの際、特に強調しなければならないと思います。国際連合の場に結集された全人類の心からなる願い、全世界の理性の声、われわれは、それが、結局は、偉大な力、進歩の原動力となるものであることを、あらためて認識しなければならないと思います。

一二、 既に述べましたとおり、今回の条約が地下実験を除外していることは、それ自体、不完全と言わざるを得ないことはもちろんであります。更に、地下実験の除外は、現地査察を含む有効な国際管理について、いまだなんらの合意にも達し得なかったことを意味するものであり、これは一般軍縮との関連から言っても、不満足と言わざるを得ないのであります。わが国は、従来から一貫して、核兵器実験禁止の問題を重視し、そのために、できるかぎりすみやかに、効果的な国際管理の原則に基づいたとりきめを成立せしめるよう、要望してまいりました。それは、このような国際管理の原則に基づいたとりきめの成立が、一般軍縮を促進する契機になり得べきものと考えるからでもあります。

一三、 軍縮の問題が、多くの複雑な要素を含むものであることは、あらためて指摘するまでもないところであります。第一に、軍事力の均衡、安全保障上の要請を考慮しなければなりません。これを度外視することは、かえって、平和をおびやかし、不安を増大し、軍縮の真の目的にそむく結果となるからであります。第二に、軍縮の分野において、実効を期するためには、大国の関与が、不可欠の前提とならなければなりません。核保有国でない国が、どんなに核非武装を唱えても、それのみでは、積極的な解決とはならないからであります。この意味で、大国は、全面完全軍縮に至る長い道程において、終始、重大な責任を負っていると言わざるを得ません。私は、特に、この大国の責任を指摘するとともに、今回の核兵器実験禁止条約が、部分的なものから全面的なものへと推進され、更に、一般軍縮の領域においても、実行可能な措置から、順次実施し、これを重ねることによって、遂には、全面完全軍縮の実現と言う目標に到着し得ることを希望するものであります。

一四、 議長、植民地の独立は、現在、国際連合が、緊急に解決しなければならない重要な問題であります。第二次大戦後、特に、ここ数年の間に、多くの植民地、従属地域が独立するに至ったことは、われわれの喜びに堪えないところであります。それは、まさしく現代における人類の一つの大きな進歩と言わねばなりません。人間の価値に対する自覚と、認識が、従属民族の独立達成を可能ならしめる程度にまで、高まるに至ったことを意味するに他ならないからであります。われわれは、植民地主義はこの人類の進歩に逆らうものとして、あくまでも、これを排撃しなければなりません。この点において、第十五回総会が、植民地独立付与宣言を採択したことは、その意義極めて深く、われわれは、この宣言の精神がなお充分に実現されるに至ることを切望してやみません。

一五、 従属民族の独立達成、自由獲得は、アフリカ地域において、特に、著るしいものがあり、長く混乱を脱し得なかったコンゴーも、漸く政治的統一を実現して、国際連合の各種援助のもと、国家建設の業に邁進つつあることは、誠に喜ばしい限りであります。今や、アフリカには、三十をこえる多くの独立国を数えるに至りました。その大部分の諸国は、去る五月、アディス・アベバにおいて、アフリカ諸国元首会議を開催し、アフリカ統一機構憲章を採択して、アフリカの団結、統一へ向って、力強い第一歩を踏み出しました。このことはアフリカの歴史にとってのみならず、世界の歴史にとって、画期的なことと言わなければなりません。もちろん、今後解決しなければならない問題、克服しなければならない困難は、決して少なくありません。しかし、新らたに独立を達成したこれらアフリカの諸国が、相互の提携、協力を通じて、それぞれの経済的、社会的進歩、国民の生活、福祉の向上に努むべく、ここに、貴重な礎石を築いたものである点において、その意義は極めて大きいものがあると考えます。私は、この機構が、今後、国際連合とも協力して、健全な発展をとげることを、衷心より希望するものであります。

一六、 このように、すでに独立を達成した多くの諸国が、着実に建設への道を歩みはじめたに拘わらず、いまだに、その願望に反して、独立を与えられない諸民族が残されていることは、遺憾であります。すでに、独立を獲得した諸国が、これら諸民族の運命の行方に、重大な関心を払わざるを得ないことも、理解できます。ただ、これら諸民族の独立達成は、関係国との間の話し合いによって、協調と理解のうちに、円満に行なわれなければなりません。このために、諸民族の側において、また、あらたに独立、自由を獲得した近接諸国の側において、徒らに性急にはしり、過激な行動に出ることのないよう、その自制を強く期待いたします。他方、関係諸国の側においても、人類の進歩、と言う高い立場から、これらに諸民族の願望に対して、充分な同情と理解を示すべきであると考えます。

一七、 また、植民地独立の問題とならんで、同様に緊急に解決しなければならないのは、人種による差別撤廃の問題であります。この問題については、人種による差別待遇が、法によって依然維持されている地域において、このような差別が縮少されるどころか、最近益々強化される傾向が見られることは、遺憾に堪えません。明らかに人権が無視され、国際連合憲章の精神が踏みにじられていると言うべきでありましょう。われわれは、関係国が、すみやかに、憲章の精神に立ちかえり、人種による差別撤廃の方向に向って、努力を開始するよう切望するものであります。

十八、 議長、永続的な平和を確保するための基礎的な条件として、開発途上にある諸国の経済的進歩と繁栄をはかることは、現代の国際社会に課せられた重要な問題の一つであります。この問題が、先進工業国との関連において、屢々、南北問題と呼ばれていることは周知のとおりであります。私は、今後、国際連合は、この南北問題の解決にこそ、特に、重要な役割を果し得るものと信ずるものであります。現に、「国際連合開発の十年」が、経済社会分野における国際連合の活動を広く指導する概念となっておりますし、また、明春の国際連合貿易開発会議も、同様の方向へ向う国際的努力の現われと言えましょう。わが国は、国際連合のかかる建設的な事業に対し、引続き積極的な協力を惜しむものではありません。この問題について、何よりも強調したいのは、経済開発促進の指導的役割を果すべきものは、開発途上にある諸国自身であり、国際連合は、そのための国際協力の枠を構成するにすぎないと言うことであります。これらの諸国が、開発に必要な資本と技術を欠き、輸出収入の不足に悩んでいることは事実であり、国際連合の内外においてこのような困難緩和のための努力がなされていることも事実であります。しかし、それ以前の問題として、開発を進める諸国の側で、自らの将来を、現実的に展望し、健全な開発長期計画を確立することが、国際協力を組織化するための、不可欠の前提となることを忘れてはならないと思います。もちろん、これらの諸国が、このような自主的計画を立案し、実行し得るためには、国民全般の教育水準の向上、なかんずく、行政能力の充実、労働力の質の改善、更には、社会的組織力の強化が必要でありましょう。わが国は、開発途上にある諸国のこのような経済的自立達成に寄与すべく、これらの諸国との経済協力、および研修生の受入れ等を含む技術協力を、国力の許す限り、拡充する方針を維持しております。特に、わが国と地理的に近接し、わが国と密接な経済的関係を有するアジアの諸国からの要請には、特別の考慮を払いたいと思います。

一九、 他方、貿易の拡大も、重要な課題であることは言うまでもありません。わが国は、開発途上にある諸国が、安定した輸出収入の保証を得るために、先進諸国との協力を推進することに賛成であります。また、これら諸国の一次産品に対する各種の貿易障害を漸進的に、緩和、撤廃することにも、原則として、賛成であります。既に、このような気運は、ガット等の場を中心に、国際的にも、盛りあがりつつありますが、同時に開発途上にある諸国の側で、今後とも一層輸出可能な商品の開拓に向って、努力を続ける必要があると思います。このためには、先進国の経済、技術協力もさることながら、開発途上にある諸国自らが、将来性ある輸出産業の発見と、計画的開発をはかることが、何よりも重要であると言わざるを得ません。このようにして、健全な計画の自主的立案、経済技術援助、および貿易の振興と言う三つの面からの努力を、開発途上にある諸国と先進国、輸出国と輸入国の、双方の側において、積み重ねることにより、その国際的な組織も可能となるのであり、これによって南北問題の解決が促進されると考えるのであります。

二〇、 議長、国際連合は、国際連合自体についても、すみやかに解決しなければならない種々の問題を抱えております。わが国は、従来から、加盟国が著るしく増大するに至った事実を機構の上に反映する必要があること、このため、特に、経済社会理事会、および、安全保障理事会の理事国の増員をはからなければならないことを、主張してまいりました。言うまでもなく、新加盟国の大部分は、新らたに独立したアジアおよびアフリカ諸国でありますが、特に、これら諸国の経済的、社会的開発の問題が、現在国際連合の重要な課題の一つとなっている際、なかんずく、経済社会理事会の理事国増員の問題は、緊急に解決されなければならないと考えます。

二一、 国際連合の財政に関する問題も、特に、その平和維持活動、ならびに、総じて、加盟国のあり方に関係する重要な問題であります。ここ数年来の財政危機は、一部の加盟国が、国際連合緊急軍経費や、コンゴー経費の負担を拒んでいることによるものでありますが、去る五月の特別総会において、本年後半期分の、両経費負担方式につき、互譲と協力の精神に基づいて、妥協案の成立を見るに至ったことは、誠に喜ばしいことであります。わが国は、コンゴーにおける国際連合軍の駐屯を必要としない事態がすみやかに到来することを希望するものであります。ただ、この際、私は、国際連合の平和維持活動経費については、特に、集団責任の原則が貫かれねばならないことを、強調したいと思います。国際連合が、加盟国を離れて存在し得ないことは当然でありますが、同時に、それは、個々の加盟国の単なる集合でもありません。

 国際連合は、国際連合として独自の機能と地位をもっているとも言えましょう。また、そうであればこそ、世界の平和、および安全の維持という偉大な使命が託されているのであり、これに対して、加盟国は、自国のみの国家的利害をこえた、大きな責任を負っていると言わなければならないのであります。通常経費の分担金未納の一部加盟国についても、同様の責任が強調されねばならないことはもちろんであります。国際連合が、真に効果的で、その使命を果し得るか否かは、先ず何よりも、それが健全な財政的基礎の上に立っているか否かにかかっていると言わねばなりません。

二二、 議長、われわれは、平和を、永続的で、安定した、全人類のための平和を、求めております。このために、われわれは、この地上から恐怖と不安を一掃しなければなりません。恐怖と不安のない世界、それのみでも、平和への大きな前進であります。しかし、私は、平和を、そのような消極的な面においてのみではなく、より積極的な面において、求めなければならないと思います。窮乏、抑圧、停滞がなお存在する現在の世界を、一層健全なものとすること、このような進歩の中にこそ、積極的な意味における平和があると考えるのであります。

 われわれは、国際連合こそ、世界の進歩のために不可欠な機構であると考えます。また、そうであってこそ、国際連合は世界の平和と安全の維持と言う、その崇高な使命を果し得ると考えます。われわれは、この国際連合を、われわれ自身のものとして、その機能の強化、威信の向上に努めなければなりません。

二三、 議長、今や、世界の情勢は一つの転回期にさしかかっているやに見えます。国際緊張の緩和を望み、冷戦の解消を願うわれわれにとって極めて重要なときと言えましょう。しかし、われわれとしては楽観もせず、悲観もせず、現実をあるがままに直視して、地道な努力を重ねていくことこそ、平和への近道であると信ずるのであります。このために、われわれは国際連合が善意に基づく真の国際的な和解と協力の場として、その権威を益々高めるよう、更に一層の努力をつくさねばなりません。

 議長、私は、この重要なときにあたり、今次総会が貴議長の指導のもとに、多大の成果を収め、新らたな、真の平和の時代への道をひらき得ることを希望するとともに、わが代表団としても、このため、あらゆる努力を惜しまないことを誓うものであります。