[文書名] 国連第22回総会における三木外務大臣一般討論演説
1.議長,私は,日本代表団の名において,貴下が国際連合第22回総会の議長に当選されたことに対し,衷心よりお祝い申し上げます。貴下は,去る6月日本を訪問され,貴下の卓越せる識見と能力は,われわれのつとに知るところであります。とくに私は,貴下が,始めて東欧から選出された議長として,その叡知と公正な指導とにより,よくその任務を達成し,今次総会が有意義な成果を収め,今後における諸国間の協調と融和の促進に寄与されることを期待するものであります。
この機会に,私は,前議長アブドル・ラーマン・パズワック閣下に対し,深甚なる感謝の意を表します。私は,同氏が第21回総会,第5回特別総会および第5回緊急特別総会の各議長を勤められ,国際連合にとって重大かつ困難だった時期に,卓抜せる指導力を発揮して,よく難局を切り抜けられ,国際連合の権威を一段と高揚されましたことを深く欣快とするものであります。
同時に,私は,ウ・タン事務総長閣下に対する日本代表団の深甚なる敬意を表明するものであります。とくに私は,ウ・タン氏の世界平和の維持に対する熱意と献身的努力を多とするものであります。同氏が,今後とも,熟慮と広汎な協議に基づく勇断をもって諸問題に対処し,国際連合の権威の保持に寄与されることを期待する次第であります。
2.議長,国際連合は,人類の平和追求の悲願に応えて設立されて以来,20余年の歴史を経ました。その間,国際連合が大戦争の回避と人類の福祉増進に果して来た役割は高く評価されるべきであります。そのことは,もし国際連合なかりせば,と考えただけで十分理解されるところであります。われわれは,今日の国際連合をより完璧な機構に向って強化発展させるよう努力すべきであると考えております。
議長,20世紀はいまや最後の3分の1世紀を迎えたわけでありますが,第1,第2の3分の1世紀とも世界大戦に見舞われました。今この第3の3分の1世紀に世界大戦が起れば人類破滅の核戦争になること必至ともいえましよう。20世紀最後の3分の1世紀をして,かかる核戦争の惨禍より免れしめ,人類福祉のため無限の可能性を秘める21世紀の扉を,平和の裡に開かせ得るよう努力することが,現代に生きるものの後世に対する重大かつ厳粛な責務でありましよう。
この責務を果すためには,われわれがひとしく核戦争の危機の中にあるとの自覚と,われわれが相互に連帯の関係にあるとの認識に徹した世界市民たるの心構えが必要であります。われわれは,まさしく同じボートの乗客であることを自覚しなければなりません。同時に,まかりちがえば世界大戦の惨禍を引き起しかねない諸種の原因が存在するとの冷厳な現実を直視し,大戦の潜存的原因の除去に努めなければなりません。
それには,1つには,核兵器実験の禁止,核兵器の拡散防止を手始めとして,核兵器,通常兵器の双方にわたる全面完全軍縮を達成するという究極の目標に向って前進しなければなりません。そのためには世界の全ての国の国際協力が必要であります。
2つには,放置しておけば大戦の導火線になりかねない局地的紛争を,早期に平和的に解決して,大戦の芽をつんでおくことが必要であります。この見地から,ヴィエトナムおよび中東における武力衝突の早期解決がとくに必要であります。
3つには,貧困,無知および疾病の除去のための国際協力の促進であります。とくに,国家間の経済格差を是正するため,経済的先進国から開発途上国へ一層の援助を行なうことが必要であります。
以上の3点が,平和を維持し,平和を建設するために不可欠の手段と考えます。
3.議長,まず私は,核戦争の防止の問題に触れてみたいと思います。核戦争の防止は,世界市民としての自覚に立って,各国に理解と信頼を増進し,世界の緊張を緩和することによって核兵器の使われる危険性を除去することが肝要でありますが,このためには,まずもって核兵器そのものを規制することが肝要であります。この意味において,わが国は,現在世界の注目を浴びている核兵器拡散防止条約にも,その精神には賛成であります。核兵器の拡散は,そのまま放置すれば核戦争の危険を増大し,世界平和の重大な脅威になることは明らかであります。
私は,長期間にわたる米ソ両国のなみなみならぬ努力により,核兵器拡散防止条約案がジュネーヴの18ヵ国軍縮委員会に提出され,具体的審議が行なわれるに至ったことを歓迎するものであります。
この核兵器拡散防止条約が,真にその目的を達成するためには,できるだけ多くの国,とくにすべての核兵器保有国と核兵器製造能力を有する非保有国の参加を確保することが肝要であります。また,核兵器保有国と非保有国が,ともに責任と義務を公平に分ち合うという協力の精神が必要であるとも考えます。
その見地から,国際連合の決議等の方法により,核兵器非保有国,特に非同盟政策をとる諸国に対する核兵器の攻撃又はその脅威に対し,核兵器保有国によるなんらかの保障の措置がとられることをとくに希望するものであります。
さらに重要な問題は,核軍縮の問題であります。この条約が,核戦争なき世界を目指し,人類の安全と福祉を増進せんとする以上は,単に新たに核兵器を持つ国が増えるのを防ぐにとどまらず,核兵器を現に保有している国が,この条約の成立を契機に,実現可能なところから核軍縮の実現に具体的措置をとる意思をもつと明確に打ち出さなければならぬと思います。そして,最終の目標は,核兵器の破棄であります。もしかりにこの条約が現在の核兵器保有国の独占体制を擁護し,かつ,固定化するだけの方便に終るとすれば,この条約は,その道義的基礎を失うことになります。
さらに,核兵器実験の全面的禁止も,核軍縮における重要な課題であります。核兵器実験の禁止は,それ自体核軍縮の意味を持つのみならず,核兵器拡散防止のための効果的手段であります。わが国は,いわゆる探知クラブの活動をはじめ,その目的達成のためのあらゆる努力に積極的支持と協力をしてまいりたいと考えております。
中共もフランスも人類共通の願望に耳を傾け,部分的核実験禁止条約をはじめ,核兵器拡散防止条約に対しても,協力するとの態度をとるよう強く希望するものであります。
核兵器拡散防止条約には「抜け穴」があってはなりません。しかし,原子力の平和利用は,将来,人類の福祉に無限の可能性を提供するものであり,従ってこの条約は,原子力の平和利用の機会均等と,そのための研究開発をいささかも阻害するものであってはなりません。核兵器非保有国が平和利用について不利益を蒙ることのない保証が必要であります。同時に,研究,開発に有利な立場をもつ核兵器保有国が進んで情報を提供すること等により,この条約が原子力の平和利用のための国際協力を一層推進する契機となることを強く望むものであります。
私は,米ソをはじめ18ヵ国軍縮委員会に属する諸国が,今次国連総会に反映される各国の見解に耳を傾け,公正な条約の実現に向ってなお一層の努力を払われることを希望いたします。わが国は,軍縮達成のための国際的努力に建設的立場から協力を惜しむものではありません。かかる見地からわが国は,軍縮問題に関する国際的機構へ,その一員として,積極的に参加しうることを希望するものであります。
4.議長,次に私は,世界各地における今日の主要な諸問題にふれてみたいと思います。
ヴィエトナムにおいては,平和的解決の見通しが依然として立たぬままに,傷ましい人命の犠牲と破壊が引続きくり返されています。アジアの一員たる日本として,これ程心を傷めていることはありません。私はこの際当事者が,平和と人類愛の高い立場から,一日も早く話合いの場に臨むことを心から希望するものであります。
いずれの当事者も武力行使の継続を望んでいるはずはありません。それなのに戦いは依然として続いています。もしこれが相手がやがておれてくるとの期待で続けられているとすれば,余りにも非現実的観測に過ぎるのではないでしようか。現実の事態はそうした観測を許すほどあまいものとは思われません。世界も,いずれが是,いずれが非という議論をやめ,挙って戦争当事者双方の歩み寄りを呼びかけるべき時ではないでしようか。戦争は更に拡大の危険をはらんでいます。和平の実現には双方の歩み寄りが必要であります。当事者の間で平和的解決へ向って何とか妥協のラインを見出せないものでしようか。そのためには当事者がまず戦闘を停止し,1954年のジュネーヴ協定の精神に基づいて話合いを行なうことです。そして何等かの国際保障の下に南北両ヴィエトナム間の共存を図り,もって外国軍隊の撤退を実現するという方式以外に,平和的解決の道はないのではないでしようか。安定した環境が出来た上で,ヴィエトナムの将来はヴィエトナム人自身の手に委ねるべきでありましよう。そのような平和的解決のラインを見出すための当事者の非公式接触をつくることがまず何よりも必要であります。日本もそのために出来るだけ役立ちたいと思っています。
私は,ヴィエトナム戦争に関してウ・タン国連事務総長がこれまでに示された和平に対する並々ならぬ熱意と努力に敬意を表したいと思います。また,国際平和維持機構としての国連が,これまでヴィエトナム和平に対して深い関心を寄せてきたことは極めて当然のことであります。しかし願わくば,国連の場においては非難の投げ合いではなく,平和を希求する共通の立場に立っての建設的討議を期待したいものであります。それによって戦争当事者の話合いの素地を作ることに貢献してもらいたいと考えます。
ヴィエトナム戦争の早期解決は人道的見地からだけではなく,アジア情勢の緊急性からも必要であります。中国大陸においては,目下,文化大革命が進行中であり,それがどのように落着いて行くかについて現在見通しを立てることは極めて困難であります。中共の核兵器開発が急速度に進行しています。かかる状況の下に中共が,ヴィエトナム戦争の拡大に伴い,万一,力によるアジア政策に出るようなことがあれば,事態は重大であります。このように当面のアジア情勢は甚だ危険な要素をはらんでいます。ヴィエトナム戦争早期解決の緊急性がここにもあります。
私は,最近南ヴィエトナムにおいて行なわれた選挙後の成行きに注目しております。私は,この選挙を出発点として,真に民主的な安定した政府の実現をはかることが南ヴィエトナムの人々の希求するところであり,またそれは,ヴィエトナム戦争終結への前進の契機ともなると信ずるからであります。
ヴィエトナム和平の早期実現は,日本国民の一致した強い願いであります。一日も早くヴィエトナムの平和回復への道が開かれることを望んでやまない日本政府としては,そのために,今後ともあらゆる努力を行なう所存であることをここに表明するものであります。
5.議長,今日のアジアの諸問題は,何れをとっても中国問題との関連なしには考えられません。この意味において,アジアの問題の中心は中国問題であるとも言えましよう。その中国問題の重要な一面をなすものは,大陸の中共政権と台湾にある中華民国政府との間に未だに争いが続いていることであります。これは一面中国人の問題でありますが,最早中国人だけの問題とはいえず,アジア,ひいては世界の平和と安全とも関連する極めて複雑な性格を帯びた国際問題であります。
国連での中国代表権問題が「古く常に新しい問題」であるのも,中国問題そのものの複雑かつ困難な性格に由来するところが大きいためであり,われわれは,中国問題全体が解決されなければ中国代表権問題の完全かつ満足すべき解決を期待できないと思います。
日本政府は,従来から,中国の代表権を変更するいかなる提案も憲章第18条に基づく「重要問題」であるとの立場をとってきていますが,それは中共閉出しの手段としてではなく,かように重大な要素をはらむ提案は,すれすれの過半数というようなきわどい表決で決定される如き,単なる手続問題ではあり得ないと確信しているからであります。本問題は,最近の例にみる中東問題,南西アフリカ問題を始めとし,国際連合総会において取扱われる多数の案件と同様,当然,その議決に3分の2を要する「重要問題」であると考えております。
6.議長,最近における国際的大事件の1つは,いうまでもなく中東の紛争激化であり,長らく不安定な関係にあったアラブ諸国とイスラエルとの間に,今回再び戦火が交えられるに至ったことは極めて遺憾なことでありました。幸いにして,安全保障理事会の適切な措置と当事国の自制により,戦火は一応収まりましたが,イスラエルによるアラブ領土の占領は継続しております。また,世界的に重要な国際水路が未だ閉鎖されたままである等,諸問題が未解決のまま残され,依然緊張状態が続いております。
武力による威嚇および武力の行使をもって,国の領土保全または政治的独立を脅かすことは,国際連合憲章の固く禁ずるところであり,とくにわが国は,占領という既成事実による領土の拡張は容認しないとの立場を堅持するものであります。
先般の緊急特別総会は,中東問題の解決につきなんら実質的な成果をあげ得なかったといわれますが,すべての国連加盟国が,正義と理性に基づく公正な解決を希求していることは明らかであります。イスラエル軍隊は,速やかに占領地域から撤退すべきでありますが,同時に,中東地域における永続的平和を確立しなければならないことはいうまでもありません。私は,関係当事国が国際世論を正しく理解し,公正な解決策を目指して歩み寄りを示すことを強く訴えるものであります。それとともに,私は,アラブ難民のおかれている不幸な立場に心から同情するものであり,これら難民の救済のために早急に効果的な対策が講ぜられるべきだと考えます。
これらの問題の解決のためには,当事国相互の間に話合いが必要でありますが,その糸口を見出すためには,第3者の仲介の努力が有益かつ必要なものと考えます。わが国としては,問題の解決のためには,あらゆる方策が試みられるべきであると考えますが,パレスチナ問題の歴史的経緯にもかんがみ,最終的には,国際連合の場において承認され,かつ,国際連合がその遂行について引続き責任を負うごとき解決が望ましいと考えます。また,これまで国際連合が中東地域の平和の維持のために果して来た重要な役割を想起し,今後,現地における国際連合の平和維持機能の強化を図ることも慎重検討に値するものと考えます。
7.議長,多数アフリカ諸国の独立並びにその力強い発展は,第2次大戦後の歴史を特色づける顕著な傾向であります。自己の意志と力をもって自らの運命を切り開くため,たゆみなく努力を続けるこれら新興アフリカ諸国に対し,わが国は深い理解と共感をもつものであります。わが国は,2国間関係において,これら諸国との友好,協力関係の推進に努めると共に,国際連合におけるアフリカ関係諸問題に関しても,これら諸国と協力するよう心掛けてまいりました。私は,数世紀にわたる植民地支配の桎梏から脱したこれらアフリカ諸国が,着実に国内建設にはげみ,安定と繁栄を達成することを心から希望するものであります。
南部アフリカの諸問題は,その歴史的経緯,その複雑な性格等からして,極めて困難なものでありますが,その根源には常に人種差別という問題が横たわっていると考えます。したがって,何よりもまず,南部アフリカを統治している祖国が,人種差別の撤廃という基本的正義と植民地の独立という歴史の潮流を認識し,勇気を持って従来の政策を改め,国際社会と共同歩調をとるよう強く訴えるものであります。
他方,私は,正義の実現のためには手段を選ばず,力の行使をも辞せず,という態度もまた慎むべきものと考えます。国際連合は,話合いと説得の場として正しく活用されるべきであり,弾劾と非難の場に堕してはなりません。かかる重大かつ困難な問題の真の解決は,すべての関係当事者の理解と忍耐と協力を得て初めて実現され得るものと考えます。国際連合としては,人種差別撤廃,植民地独立という基本原則の下に,そうした解決の場の生れるような国際環境づくりに努力することが肝要であります。
南西アフリカ問題については,過般の特別総会において,AA・ラ米諸国の共同の提案が採択されました。南アフリカ共和国政府が,国際連合の南西アフリカに関する権限と責任を認めることにより,この問題に関する話合いを可能ならしめる基礎を作り,もって本問題解決のための途を開くことを切望するものであります。
南ローデシア問題については,昨年12月,安全保障理事会において,対南ローデシア経済制裁決議が採択されましたが,わが国は,誠意をもってその目的達成のため引続きあらゆる努力を行なっております。この制裁措置のこれまでの成果が乏しいとして,従来の措置を失敗と断定することは適当ではありません。わが国は,南ローデシアにおける現在の異常な事態が1日も早く平和的に収拾されることを希望するものであります。
8.議長,私は,これまで平和の維持の問題について述べて参りましたが,次に,平和の基礎づくりともいうべき経済開発の問題にふれたいと思います。開発途上にある地域の民生安定,社会福祉の向上は,それ自体必要であるのみならず,これらの地域における多くの紛争の潜在的原因を除去する意味で,恒久的平和の建設に資するものと考えます。
とくに,数多くの困難な問題を含んでいる今日のアジアに平和と安定をもたらすためには,進んでアジアの経済開発,社会開発を推進することが最も重要な課題であります。現にアジアは,世界の中で最も多くの人口を抱えております。しかも,国連統計によれば,1人当りの年間所得が100ドル以下の国が未だ多数残っております。この貧困な状態が改善されないままに平和と安定を望むことは,現実的ではありません。これ等諸国の開発の問題は,単なる経済的,社会的問題というよりは,まさにアジアの平和の問題として認識されるべきであると考えます。
アジアにおいては,経済開発のための地域協力がされています。いくつかの新しい機構も生まれました。この傾向は,貧困の克服というアジア諸国共通の目標を,アジア人自らの手によって達成しようという努力の現われであり,歓迎すべき傾向であります。
開発途上にある国の開発には,まず各国の自らの努力と地域内の協力が前提になることはいうまでもありません。しかし,多額の資本と各種の技術を要する開発計画を行なうには限界があり,どうしても域外先進諸国の援助が必要であります。自らの努力,地域協力,地域外からの協力の3つの要素が組み合わせられなければ成果はあげられません。
アジアは,他の開発途上にある地域に比し人口が多いという理由もあって,国際的援助の割合いは非常に少ないことを指摘せざるを得ません。1965年の開発途上地域への援助は,1人当り年間,ラテン・アメリカは4.2ドル,アフリカは6.0ドルであったのに対し,アジアは僅かに3.3ドル,中でも東南アジアの国連加盟8ヵ国に対しては,1.6ドルという小額でありました。
わが国は,国内に幾多の困難問題をかかえながらも,開発途上にある国の開発推進が世界の平和と繁栄につながるとの信念に基づき,開発途上にある国との貿易の促進およびこれに対する援助の強化に努力を傾けております。一次産品の開発輸入,アジア開発銀行,農業開発基金,その他の国際機関に対する拠出,2国間借款の大幅な増加,技術援助の拡大,食糧援助への寄与等,わが国の協力は着実に拡充しております。わが国は,今後とも貿易と援助の両面から,協力を一層強化して行く所存であります。
同時にわが国は,世界の経済的先進諸国,とくにアジアの安定と繁栄に直接に深い関係をもつ太平洋地域の先進諸国が,アジアの開発のために従来の援助を更に拡大されんことを切に要請するものであります。アジアの開発問題をアジア・太平洋という広さでとらえ,かつ,その地域での協力,連帯の体制を拡大強化することが時代の要請であると確信いたします。そして,わが国はアジア地域と太平洋地域との接点に立つ工業国として,アジア地域と太平洋地域との間の協力関係の樹立に寄与したいと願っております。
議長,開発途上にある地域の経済開発は,単にアジアの問題にとどまらず,今世紀における全世界の最重要課題であります。国際連合が1960年代を「国際連合開発の10年」と名づけ,この問題と真剣に取組んできていることは,歴史的意義を有するものであります。
「開発の10年」は,いまや8年を経過し,その間,国連貿易開発会議,」国連工業開発機関,世界食糧計画等の設置,国連技術援助計画の拡充等,加盟各国の努力により着実な進歩のあとがみられますが,その目標は必ずしも充分に達成されたとはいえません。不満と失望の声も聞えます。しかしながら,経済開発の事業は,「開発の10年」の期間にとどまらず,1970年にわたり,忍耐強く進めて行くべき一大事業であります。したがって,先進国と開発途上にある国の双方が一致協力して,有効な開発の方策を探求して行く必要がありましょう。この点に関し,私は,先進国側が開発途上にある国との貿易の促進と,それに対する援助の拡大に努力することを切望するものでありますが,同時に私は,開発途上にある国も,開発促進の鍵が,健全な開発計画の樹立,国内資源の活用等,援助を受け入れる国々の態度いかんにかかっている面が大きいことを認識し,地域的,国際的経済協力の基礎づくりに一層の努力を傾けるよう訴えたいと思います。私は,かかる観点から,来るべき第2回国連貿易開発会議の意義を重視するものであり,この会議が,参加国の相互理解と協調により,建設的な成果をおさめることを強く期待しております。わが国としましても,できる限り積極的な態度をもってこの会議に臨む所存であります。
9.議長,私は,平和の維持と建設という人類の基本的命題に即して,当面の重要問題について見解を述べてまいりましたが,最後に,これらの課題を遂行するための中心となるべき国際連合の現状およびその強化の問題にふれてみたいと思います。
発足以来20余年を経た今日,国際連合についていろいろの評価や批判が行なわれております。今や国際連合は,再検討の時に入っているともいえましょう。確かに,国際連合の紛争解決能力に限界のあることは,ヴィエトナムや中東における武力衝突の例に見られるとおりであります。しかし,冒頭に述べましたとおり,もし国際連合が存在していなかったとしたら,今日の世界は,現在よりも更に不安定なものになっていたでありましょう。
われわれ加盟国に課せられた責務は,国際連合の弱点は弱点として認めつつも,それだけにとどまらず,更に一歩を進め,いかにしてその弱点を是正し,平和の維持および建設のための国際連合の機能を少しでも強化し得るかという問題につき,検討を進めることではないでしょうか。
国際連合の仕組が悪いというのであるならば,適当な機会をとらえて憲章を再審議することも必要であり,また可能であります。しかし,いかに機構や運営の完璧を期しても,加盟国の国際連合に対する考え方と態度がそれに伴なわなければ効果的な改善は生まれて来ないでありましょう。
万一,国際連合が完全に無力化したら,世界の平和維持機構として何が残るでありましょうか。われわれとしては,国際連合の育成強化に努めなればなりません。そのためには,国際連合において,各国の代表が,各々の国益の追求のみに終始することなく,国の代表であると同時に人類全体の代表として,共通の利益を守るという二重責任を自覚して,行動する必要があるのではないでしょうか。
平和を守り,繁栄を築く,という人類共通の利益に対する自覚を,次代を担う若者たちに植えつけることもまた,われわれに課せられた重要な義務ではないでしょうか。このような観点から,私は,現在多数の国々により進められているいわゆる平和部隊の活動に注目しております。平和部隊は,開発途上にある国の社会的,経済的開発のための国際的事業であると共に,青年相互の接触を通じて諸国民の間の相互理解を深め,国際的融和と協調の促進に資するという重要な他の一面を含んでおります。私は,国際連合が平和の建設をめざす諸国の行動を調和するための中心となるべきことを考える時,国際連合がこの平和部隊の構想を推進するための中心的役割を果たすことが出来ないものだろうかと考えるのであります。世界各地の若者たちが,各国人であるととともに世界人であるとの意識の下に平和の建設のための国際協力に携わるに際し,国際連合がその中心となることは,国際連合にとって最もふさわしい役目の1つではないでしょうか。
わが国は,加盟以来,国際連合への協力,その育成強化を外交政策の最大の目標の1つとして挙げ,この目標に向って努力を重ねてまいりました。今後もこの方針を堅持する考えであります。
議長,私は,今次総会においても,議長の適切な指導の下に,現下の重要諸問題について,各国の活発かつ率直な意見の交換が行なわれ,これが諸問題の解決を促進する結果となることを信じて疑いません。
国際連合が真に世界的な平和維持機構として成長し,世界の平和と安全を全面的にこれに託しうる日がくることを祈ってやみません。私は,各国の善意と平和追求の熱意を信ずるものであり,また,国際連合の将来に大きな希望を有するものであることを重ねて申し述べて演説を終わりたいと思います。