[文書名] 国連総会における三木武夫外相演説
一,議長,私は,日本代表団の名において,貴下が国際連合第二十三回総会の議長に当選されましたことを心からお祝い申し上げます。
国際政治の分野における,貴下の卓越せる識見と豊富な経験は,今次総会を必ずや実り多きものとされることと確信するものであります。
この機会に私は,前議長コルネリウ・マネスク閣下に対し,深甚なる感謝の意を表します。同氏は,国際的政治家としてすぐれたる手腕を示し,多大の困難を伴った第二十三回総会を,再開総会をも含め,成功裡に閉幕せしめられました。同氏の指導の下に,国際連合がその権威を一層高揚し得ましたことは,私の最も欣快とするところであります。
同時に私は,ウ・タン{前1文字ママとルビ}事務総長閣下に対し,深甚なる敬意を表し,世界平和の維持に対するその熱意と献身的努力を多とするものであります。同氏が,今後とも,公正な立場から自由と正義にもとずく平和の建設のため,尽力されることを望みます。
また私は,スワジランド代表団に対し,その加盟をお祝いし,心からの歓迎の意を表します。私は,スワジランドが国連憲章の目的と原則に従って,世界平和の維持に寄与されることを深く期待し,かつ,確信するものであります。
二,議長,戦後二十三年,いろいろな迂{前1文字ママとルビ}余曲折を経て,ここに,第二十三回の国連総会を迎えましたが,今日の国際環境は,果たして二十三年前,恒久平和を誓って再出発した人類の悲劇と合致するでありましょうか。
少なくともその方向に向って進んでいると言いうるでありましょうか。遺憾ながら必ずしもそういい切れないのではないでしょうか。人類は過去の恩讐を越えて,新しい世界の平和建設に乗出した筈ではなかったのでしょうか。
世界平和の建設に逆行する幾つかの事例の中で,われわれは去る八月のチェコスロバキアの事件に思いを至さざるを得ません。今日まで積み重ねられた平和への努力により,国際間の緊張の一層の緩和と,諸国間の信頼の強化が期待されていたのであります。この期待は今次の事件により大きな打撃を受け,深い失望を感じた次第であります。この武力介入事件は,幸いに大規模な流血の惨はもたらさなかったとは申せ,明らかに国際連合憲章の規定と精神に反する行為でありました。日本としては,一国も早く撤兵が実施され,真に平和的,友好的解決が達成されるよう訴えるものであります。
国際社会の諸問題は,力のみによって解決され得るものでありましょうか。私はそうは思わない。ことに核時代の今日,力の乱用は究極的には人類の自滅を招く危機を伴うものであります。この世界の秩序の起訴は,力に求められるべきではなく,変遷する時代の要請に応えつつ,法と正義の支配に求められるべきであると,私は確信するものであります。
議長,法と正義が支配する国際社会を実現して,国際の平和と安全の維持を確保するために,われわれは一体何をすべきでありましょうか。如何に行動すべきでありましょうか。
われわれの国際連合は,加盟国の主権の平等の原則を基礎としております。また,諸国民の平等の権利と自決の原則の尊重を誓っているのであります。従って,お互いの主権と独立を尊重し,これに対する干渉をつつしまなければならないことは明らかではあります。各国は種々の異った社会体制の下に生きておりますが,いずれの国も社会体制の相違を乗り越えて他国の主権と独立を尊重し,互いに内政不干渉の原則にもとずく共存をはかることが,平和のための大前提であります。
国際連合憲章は,明文の規定をもって,国際紛争は平和的手段によって解決されねばならず,また,他国の主権と独立に対する武力威嚇または武力行使をつつしまなければならぬ,という原則を示しております。世界の各国がこのような原則を誠実に守ることによってのみ,法と正義に立脚した国際秩序が確立され,また国際平和の維持と各国の安全確保が可能となるのであると信じます。
国際連合憲章は,「力が正義である」という力の支配する国際秩序に代って,「法と正義が力である」という原則の支配する国際秩序の確立のために,すべての加盟国が一致協力することを義務づけております。ことに人類破滅の危険をはらむ今日の核時代においては,世界各国が,国の大小を問わず,世界平和の維持にその責任を分担すべきことはいうまでもありません。そのなかでみ,安全保障理事会の常任理事国であり,拒否権をもつ大国が,国際秩序の確立と世界平和の維持のために果たすべき役割と責任の極めて重大であることは明らかであります。このことは,どんなに強調しても,強調しきれるものではないと思います。
大国による力の乱用は,世界全般の平和を脅かし,大きな危険を伴うものであります。
大国は,世界平和の維持に対するその重大な責任を十分に自覚し,その力の使用を自制し平和を守るために設けられている国際連合憲章の基本的諸原則を厳格に遵守すべきものであることを,強調しておきたいと思います。
われわれは,もう一度,二十三年前の初心に立ち返えり,憲章の精神を呼びさまし,厳粛な憲章の条項を読み直してみるべきではないでしょうか。
三,議長,近時,東西関係に緊張緩和の歓迎すべき発展がみられておりました。しかし,最近の不幸な事件により,国際間に新たな不信と猜疑心が生れてきたことは事実であります。このことにより,緊張緩和の芽が摘まれ,冷戦に逆戻りすることは絶対に避けなければなりません。そのためには,大国の便宜主義によらず,真に永続する世界平和の確立のために各国が今後とも努力を継続することを強く要望するものであります。
今日,国際連合に対し,国際連合は,重大な国際紛争を解決する効果的な帰還ではないという批判があります。しかしながら,国際連合が多くの潜在的紛争の根を除去するに役立っており,また,すでに発生した紛争についても事態悪化を抑え,戦火の再発を防止する作用を果していることも,また明らかではあります。この事実は,十分に評価されなければなりません。国際連合がさらに強化されるか否かは,一にかかって加盟国の行動と努力によるものであります。
日本としては,自ら戦争放棄の平和憲法をもつのみならず,その存立の基礎を世界の平和と安定に託しております。従って,国際連合の基本的原則を誠実に守り,国際連合の平和維持機能をより効果的にするために,出来得る限りの努力と協力を惜しまぬ決意を有していることを,私はここに強調するものであります。
四,議長,核時代に入った現在,世秋の平和に対する最大の脅威は,何といっても核戦争の危険であります。この危険を防止する措置を講ずることが人類焦燥の急務であります。
このような認識の下に,過去数年間にわたり,国際連合及び十八カ国軍縮委員会の舞台を中心にして,核兵器不拡散条約の成立に向かって,努力が傾けられ,いよいよ本年,条約が署名のため開放されましたことは,意義深いことであります。わが国はこの条約の趣旨に賛成し,現在条約参加に関連するあらゆる問題を慎重に検討しております。
この条約の意義には,いくつかの側面があると思います。その一つの側面は,この条約をして大国間の核軍縮への入口たらしめることに対する期待であります。もう一つの側面は,核兵器国を現在の五カ国以上にふやさせず,核戦争の危険を現在以上に拡大せぬことにあると考えます。
更に私が強調したい今一つの側面は,この条約を,原子力の平和利用の研究,開発に関する国際協力促進の新しい出発点としなければならない,と言うことであります。エネルギー源にめぐまれないわが国では,原子力の開発の将来に寄せる国民の期待は,いずれの国にも劣るものではありません。われわれは,核兵器を開発しようとする意志はありませんが,原子力の平和利用の綿では,一流の国家たらんと願うものであります。この意味から言っても,私はこの条約の原子力平和利用面における機会均等の原則の重要性を強調するものであります。
核不拡散条約の成立を契機として,核兵器国はますます核軍縮への熱意を高めなければなりません。日本政府は,米ソ両国が,戦略的核兵器運搬手段の規制及び削減に関する交渉を行なう合意に達していることを歓迎するとともに,この交渉が最近の国際情勢の変動にもかかわらず,一国も早く開始され,具体的な成果をもたらすことを期待するものであります。
それと同時に,核軍縮への動きが大きく望まれる現在,フランス及び中共が従来の態度を変えて進んで核軍縮に関する国際的話合いに参加することを強く希望するものであります。
また,去る八月二十八日に閉会した十八カ国軍縮委員会においては,今後の軍縮問題審議の議題,及びその優先順位が決定されました。わが国としては,核不拡散条約に続いて執られるべき核軍縮装置として,全面的核兵器実験禁止問題を極めて重用視しております。地下実験を含む,すべての核兵器実験を禁止する条約締結の障害は,現地査察,検証等,国際権利の必要をめぐる関係国間の意見の対立であります。わが代表団は,一日も早くこれらの諸問題が解決され,この全面的核兵器実験禁止の条約が成立することを希望してやみません。
なお,先般ジュネーヴで開催された非核兵器国会議においては,特に,安全保障問題,核軍縮問題,原子力平和利用問題の論議が焦点でありました。これらの問題は,いずれも核兵器不拡散条約をめぐる重要な課題であります。しかし,これらの問題の解決は決して用意ではありません。しかし,今後,その解決に向っての努力がなされないならば,核戦争の危険を防止しつつ,原子力を人類の福祉と繁栄のために,最大限に活用して行こうというこの条約の崇高な目的は,見失なわれることになりましょう。
核爆発の惨禍を身をもって経験したわが国民の等しい願いは,人類社会から核兵器を完全になくしてもらいたい,ということであります。われわれは,核軍縮の問題を,現代に生きるものの取組むべき最重要問題の一つと考えており,軍縮問題の審議には,今後とも積極的に貢献していきたいと考えております。
五,議長,現下の世界において,多くの国がベトナム戦争の動向に多大の関心を寄せていることは,申すまでもありません。現に米・北越間に平和的解決への話し合いが続けられていることは,誠に喜ばしいことであります。しかし,ベトナムにおける戦闘は依然として継続されております。しかし,今や,この段階に至っては,ベトナム戦争を解決に導くものは結局当事者の歩み寄りによる政治的解決しかないと考えます。
昨年も,私は,この議場で,双方当事者の歩み寄りを切望致しましたが,今日,パリ会談において,なお,残る当事者間の距離も絶対に埋め切れないものとは思えません。もう一歩双方が歩み寄れば,すべての交戦当事者の間に,接触の道ができ,実のある話し合いのとびらが開かれるものと考えます。アジアの平和のため,今日ほど関係当事国指導者の高邁なステートマンシップが要請されている時はありません。双方のもう一段の歩み寄りを重ねて切望するものであります。
私は,ベトナム問題の解決には,ジュネーヴ協定を基礎として,さし当り何等かの国際保障の下に平和が実現されるとともに,将来は,他国の影響や干渉なく,全ベトナム人自身がベトナムの将来を自ら決定することが必要であると考えます。
いずれにせよ,ベトナム戦争の解決は,アジアの永続する平和と安全に沿うものでなければ真の解決とは申せません。このような解決の基礎が,民生安定につながるものでなければならないことは申すまでもありません。従って,わが国は,戦後におけるこの地域の復興について,強い関心を寄せております。特に和平実現後は,先ずベトナムのみならず,戦争によって影響を受けたその他の国も含め,インドシナ全体を対象として,民生安定と戦災復旧のために,広範な国際協力が必要となると考えられます。私は,このために国際基金が設立され,各国が全体として協力し得るようになることを望むものであります。わが国としましても,かかる国際協力には国力の許す限りの寄与を行なう用意があります。
六,議長,わが国はまた,アジアの一員として,広くアジア地域全体の経済,社会開発の推進に,出来うるかぎりの協力を行ないとたいと考えております。
アジアは御承知のとおり,世界の人口の半数以上を抱えておりますが,国民所得においては,世界の総国民所得の極くわずかな部分を占めるにすぎません。私はアジアの開発は,先ず農業部門の近代化を推進し,工業化への基礎固めを行なうととともに,教育,技術の振興等,総合開発計画を進めるべきだと考えております。しかし個々の開発途上国の自助努力には自ら限界があり,地域協力とともに先進諸国よりの援助が是非必要であります。幸い近時,アジア諸国の一部には,アジア人の手で共通の目標を達成しようとする努力が行なわれ,アジア太平洋協議会,東南アジア諸国連合,地域協力開発機構などの地域強調の気運が高まりつつあることは,誠に喜ばしいことであります。わが国としても,かかる地域強調の動きを歓迎するとともに,エカフェをはじめ,東南アジア開発閣僚会議,アジア開発銀行等を通じて,アジアの地域開発に積極的な協力を行なっております。
またわが国は,アジアの経済,社会開発が,全世界の平和と安定につながるという観点から,わが国内に幾多の困難な問題をかかえながら,特にアジア諸国に対する貿易の促進及び援助の効果に努めて参りました。わが国の対アジア援助額は,一九六四年の二億六千万ドルに対し,一九六七年には五億七千万ドルと約二・二倍に達しました。また,わが国はアジア地域からの輸入に対しても格段の努力を行なってきており,一九六四年の二二置く五千万どるに対し,一九六七年には三三億ドルと約一・五倍に達し,これはわが国全輸入額の三〇%に当るものであります。わが国としては,今後とも貿易の一層の拡大をはかるべく,関係句にと開発輸入を促進する等諸種の方途を探求してゆく考えであります。
アジアの受けている援助は,他の開発途上地域に比較し,極めて低いのが現状であります。一九六四年から一九六六年の三年間の平均では,アジア諸国の一人当りの援助受益額は,アフリカの五・七ドル,ラテン・アメリカの四・三ドルに比較し,三・一ドルのレベルに低迷しております。とくに東南アジア諸国は,従来よりの援助の谷間におかれる傾向が強く,一人当りの援助受益額は,二ドルに満たない状況にあります。アジアの必要はあまりに大きく,日本がいかに努力しても,その寄与には限界があります。私は世界のアジアに対する援助額,なかんずく東南アジアに対する援助額が,大幅に増大されることを強く念願してやみません。
私はアジアの平和と繁栄は,アジア諸国の相互協力に,太平洋諸国の連帯協力が加わることにより,初めて促進され得るものと確信しております。ベトナム戦後の永続的なアジアの安定と平和を考えれば,このアジア・太平洋という広い地域にわたる協力の基盤が一層強化される必要があります。アジアと太平洋の接点に位置し,この地域と運命を共にしているわが国としては,アジア・太平洋協力という,この重要な長期的課題に対し,出来得る限りの貢献をしてまいりたいと考えております。
七,議長,昨年の最も大きな国際問題であった中東紛争について,昨年十一月,国際連合が安全保障理事会を通じ,問題解決の方途に関し,国際的合意を見出し得たことは,昨年における国際連合の大きな成果の一つとして数えることができます。しかし現在に至るも,安全保障理事会の決議は履行されておらず,現地では緊張状態が継続し,小規模ながら停戦違反の武力衝突が繰り返されておりますことは,誠に遺憾であります。
わが国は,武力による領土の拡張は,紛争の平和的解決,武力の不行使の原則に反するものとして,これを容認することはできません。イスラエル軍の占領地からの撤退を求めるという立場を維持するものであります。しかし,イスラエル軍の撤退は,交戦状態の終結,関係国が平和に生きてゆく権利の相互尊重等の諸問題とは切離しては解決し得ない問題であります。わが国は,昨秋の安全保障理事会決議の主旨にそくした公正,妥当な解決を望むものであり,当事国が,事務総長特別代表グンナー・ヤーリング大使と協力し,一日も早く中東地域に恒久平和の基礎が確立されることを切望するものであります。そしてこの恒久平和の基礎となるべき公正,かつ実効的な解決は,国際連合の場において承認され,国際連合がその遂行に引続き責任を負うものであることが望ましいと考えております。百数十万人に上るアラブ難民の二十年に及ぶ苦難の生活を考え,中東問題解決の緊急性を改めて各国に指摘したいと考えます。
八,議長,この国際社会には,依然として幾多の困難が残っております。中国問題は他のアジア諸国にも大きな影響を有し,最も重要なものの一つであります。この問題は大陸の中共政権と台湾にある中華民国政府との対立にからんで更に複雑なものとなっております。中国代表権問題は以上のような複雑な中国問題の一つの側面に過ぎません。従って国際連合における中国代表権問題は,中国問題全体の解決に資するような形で取扱われるべきものであります。この意味において,代表権問題は単なる手続問題ではなく,憲章第十八条にいう「重要問題」として,他の多くの案件と同様,三分の二の多数をもって議決せられるべきであると考えます。
中共は,現在のところ,その独特なイデオロギーと判断に基づき,硬直した対外姿勢をとっておりますが,日本は,大陸中国とは隣国であり,また歴史的にも深い関係にありますので,大陸中国が国際社会と協調し得る中国となることを,どの国よりも強く熱望しておるものであります。広大な地域に七億を越える人口を擁する大陸中国の動向は,アジア及び世界に重大な影響を与えるものであります。その意味において,中共が国際社会における自らの責任と義務を認識し,世界平和のため進んで建設的役割を果す日の到来することを願うものであります。
九,議長,国際連合が当面している極めて困難な課題の一つに南部アフリカ問題があります。この問題の根底は,国連憲章の人民の平等の権利の原則に反する人種差別にあります。日本は,アパルトハ{前1文字ママ}イトの撤廃および植民地独立を主張するアフリカ諸国に対し,深い共感を有しております。南部アフリカを統治する諸政府に対し,問題の根源である人種差別政策の放棄を重ねて強く訴えるものであります。
この問題については,関係当事者の理解と忍耐による現実的なアプローチがますます必要になると考えますが,日本も今後とも,問題の平和的な解決に出来るだけ貢献いたしたいと考えております。
十,議長,人権の尊重が自由,正義および平和の基礎をなすことは,世界人権宣言の冒頭にいうとおりであります。武力紛争,人種差別がこの世界に続いていることは,人権尊重の観点からもまことに遺憾であります。国際連合は,人権及び基本的自由の尊重促進のため種々活動を行なっておりますが,特に本年を国際人権年と指定し,その主要行事としてテヘランにおいて国際人権会議を開催して,人権と自由及び世界の平和の問題を考える機会としましたのは意義深いことでありました。
人権及び基本的自由の擁護は,わが国の憲法においても基本原則の一つとなっており,わが国は国際人権年行事に積極的に協力するとともに,世界人権宣言の普及と,人権尊重思想の高揚をはかるため,種々の活動を進めております。私は,国際人権年が人権の分野における国際協調と,諸国民の福祉増進に大きく寄与するものと期待するものであります。
これに関連し,最近のアフリカ大陸の一部における戦乱の悲惨な犠牲者の姿は我々の深甚なる同情をよびおこします。この事態には,われわれとしても強い関心を持たずにはおられません。既に各方面において,この事態に対し,政治問題と切離して純粋に人道的見地から救済の手を差のべる努力が行なわれることは当然であります。しかし,他方,戦乱の当事者も人類愛の高い立場から一日も早くこのような悲劇を終止させる努力を一段と強められるよう衷心より希望するものであります。
十一,議長,経済,社会の開発を促進し,貧困の除去,福祉の向上をはかることは,平和の基盤をなすものと信じます。国際連合は,経済開発促進の面で大きな成果を挙げてきております。
第一,私は本年二月から三月にかけて開催された第二回国連貿易開発会議の意義を高く評価するものであります。この会議の成果は短期的見地から評価されるべきではなく,長期的視野に立って評価さるべきではありますが,私は今次会議が,特恵,援助,食糧問題,地域協力等南北問題の解決に向って,地道ではあるが,より現実的な国際協力への一歩を踏み出したことに意義を見出すものであります。この機会に,同会議を現実的方向に導くよう終始努力されたプレビッシュ事務局長に敬意を表するとともに,UNCTADが今後とも全人類共通の課題に有益な貢献を行なうことを期待してやみません。わが国としてもこうした方向に沿って,出来る限りの協力を惜しまぬ所存であります。
第二に,「国連開発の十年」の問題に言及したいと思います。経済社会理事会はじめ関係諸機関は,一九六○年代の「国連開発の十年」に引続き,すでに第二次「国連開発の十年」の目標設定に取組んでいますが,わが国も有効な開発の方途を探求するために,積極的な協力を惜しまない所存であります。第一次「国連開発の十年」については,その成果につき過少評価{前3文字目ママ}する向きもありますが,私は国連貿易開発会議,国連工業開発機関,国連開発計画,世界食糧計画等一連の機関が生まれてきたこと,及び現実に成長目標を達成しうる見通しを有する開発途上国も増えてきた点からして,その意義は十分に認められるべきであると考えております。私は,第二次「国連開発の十年」の策定にあたっては,目標はあくまでも実現可能なものとし,全世界的な目標設定の中に,各地域の経済事情の相違,発展段階の差異等をいかに反映するかが大きな課題であると考えております。さらにこの目標設定にあたっては,経済部門のみならず,社会部門をも含めた,均衡のとれた総合的開発が必要であり,単に工業化のみならず,農業部門の近代化,人口問題,教育,科学技術の振興等,極めて広範な分野の開発政策の拡充が必要となると考えます。
十二,議長,本年は,国際連合が,従来開発の比較的遅れていた領域に,その活動分野を一層広げた年でありました。すなわち,海底平和利用アド・ホク委員会の諸会合及び宇宙空間平和利用国際会議の開催に示される海底開発,宇宙開発の分野であります。科学技術の進歩により人類の活動分野はますます拡大されてゆきますが,かかる新しい分野について,その平和利用を確保しようとする国際連合の努力は高く評価されねばなりません。
このような新分野の開発に当っては,従来の国家中心の観念に捉われることなく,全人類の繁栄のためという観点に立つべきであり,このため国際協力の一層の強化が望まれます。
このように国際機関の関与する分野が拡大され,多岐にわたり,多数の機関が種々の経済開発,社会開発の活動に従事しているという現実におきましては,往々にして,各種の活動が重複するという傾向が起ってまいります。国際連合および関係各機関の活動をもっとも能率的ならしめるため,合理的な調整がはかられるよう期待する次第であります。
十三,議長,二十三年前国際連合は平和を維持し,法と正義に基づく秩序を確立するためにつくられました。そしてわれわれは,「戦争は人の心の中で生れるものであるから,人の心の中に平和のとりでをきずかなければならない。」とせんんげんしたのであります。一国の国造りが国民一人一人の教育と訓練に始まる如く,国際連合を強化するものもまた結局人間であります。時代の趨勢に沿って国連精神の具現に挺身し得る人を養成することこそ今日最も望まれるのであります。この意味において国連訓練調査研修所のごとき機関は今後拡充,強化されるべきであり,また各国としても国連諸機関の努力に呼応して前記のような決意と考え方を身につけた国際人の養成に一層の努力を払うべきであると考えます。今日必要なことは,われわれの物の考え方,物の見方を,二十一世紀につらなる現代にふさわしいものにするということであります。国連精神を具現する人物を養成することは,国際平和に新しい息吹を吹込み,力強い推進力を与えることになることを信じます。
議長,われわれは,ここに再び二十三年前の初心に立ち返り,戦争の惨禍と過去の恩讐を越えて,国際連合憲章に謳う平和世界の建設に邁進しようではありせんか。そして,われわれは,今日の若き世代に,より良き明日の世界を残そうではありませんか。