[文書名] 第27回国連総会における中川首席代表の一般討論演説
議長
私は,日本政府代表団の名において,閣下が第27回総会議長に就任されたことに対し,衷心よりお祝い申し上げます。国際連合における閣下の卓越した識見と豊富な経験は,今次総会を必ずや実り多きものとされることを確信するものであります。
同時に,私は,前総会議長アダム・マリク閣下の業績に対し心から感謝の意を表するものであります。多事であつた第26総会が,成功裡に幕を閉じることができたのは,同閣下の優れた手腕によるところが大でありましたことは,われわれの記憶に新たなところであります。
この機会に私は,また,クルト・ワルトハイム新事務総長に対して敬意を表したいと思います。同総長は,就任後なお日が浅いにもかかわらず,平和の実現と確保を目指しまた国際連合の基盤強化のために,東奔西走しておられるのであります。今後とも同総長がその精力的な行動により世界平和の強化のため尽力され,国際連合の権威を一層高揚されんことを望みます。
議長
国際関係は,各国が政治,経済,社会,文化その他のさまざまの分野において,多角的により密接な関係を持つようになつた結果,きわめて多様化,複雑化してきました。このような今日の世界を特徴づけるものとして注目されるのは,第1に国際間の緊張緩和の傾向であり,第2にさまざまの分野における国際協力の進展であります。
世界の平和と安全の維持及び国際協力の強化を目的とする国際連合にとつて,これは喜ばしい傾向でありますが,他方未だ世界各地において多くの基本的な問題について対立が完全に解消されてはおらず,問題によつてはその様相はより複雑となつてきました。
私は,かかる時代において国際連合が果し得る役割はますます多岐にわたり,その重要性も増して来たと考えるものであります。同時に,国際連合が現実を十分認識した上できめ細かく諸問題に対処することがますます必要になつていることを強調したいと思います。今日の国際情勢の中においては国際連合に対し,過大評価ないし幻想を抱いたり,逆に過小価ないしあきらめの態度をとることは,いずれも建設的な立場とは申せません。今日こそ,足が地についた,着実な努力が国際連合に期待されているのであり,このような努力を通じて国際連合の権威を高めることが期待されていると確信いたします。
私は,ここに,現下の国際情勢との関連において国際連合の役割について今申しましたような現実的観点から若干の点を指摘し,あわせて国際連合のこれからのあり方についての展望を試みたいと存ずるのであります。
議長
ここ数年来の国際関係の大きな流れは,東西両陣営が厳しく対峙して絶えざる緊張を創り出していた時代から,多極化と呼ばれる現象を背景に緊張緩和の時代へ移行しつつあります。本年の米中及び米ソ会談はかかる傾向に一層の拍車をかけた出来事でありました。欧州においては,昨年ベルリン問題について関係諸国間に合意が成立し,緊張緩和の動きは着実に進展しております。
他方,アジアの各地においても,諸国間の相互理解と協力によつて平和と安定とを確保しようとする機運が次第に高まつて来ております。
日本政府としては,今次の田中総理の訪中と日中首脳会談の結果,日中両国間に善隣友好関係を樹立する基盤が確立されることとなれば,アジアの緊張緩和,ひいては世界の平和にも役立つものと考えております。
また,昨日,グロムイコ・ソ連邦外務大臣は,日ソ平和条約交渉に言及されましたが,日ソ両国が,未解決の問題を解決して平和条約を締結することは,日ソ両国間の友好善隣関係の増進のみならず,広くアジア並びに世界の平和と安定にも大きく貢献するものと考えます。これらの交渉の成功に対するわが国の意欲は決して何人にも劣らないのであります。
朝鮮半島におきましては南北の間に赤十字会談,さらには本年7月4日の共同声明に示されるように直接対話の途が開かれ,自主的な問題解決のための努力が具体的な形をとつて現われはじめました。このことは朝鮮の平和的統一に関心をもちつづけてきた国際連合にとつても,もとより歓迎すべきことであります。国際連合としては,かかる南北朝鮮の対話が一日も早く具体的な成果となつて結実するよう今後ともあたたかく見守つていくことが肝要でありましよう。更にアジア諸国の間には,東南アジア諸国連合(ASEAN)の最近の動きをはじめ,地域内近隣諸国の間で地域協力を促進し,もつて共通の問題を解決していこうとする動きが注目されます。インド・パキスタン両国の間でシムラ協定が成立し,関係国間で和解の努力が進んでいることも歓迎すべきことであり,バングラデシュの国際連合加盟が一日も早く実現することを期待するものであります。
世界各地で見られるこのような緊張緩和への動きが国際平和維持機構としての国際連合にとつて望ましいことは言うまでもありません。とくに,アジアにおける自主的な努力の進展は,地域協力による平和の維持強化を重視する国連憲章の精神から見ても,きわめて歓迎すべき動きと申せましよう。国際連合としては今後ともこのような関係国相互間の自主的な努力に対しては,これを高く評価するとともに,必要に応じて関係国の努力を更に実りあるものにするためにいつでも手を藉す用意を積極的に示すことが肝要であろうと存ずるのであります。
議長
他方,不幸にして,今日の世界には関係当事者の間に直接の話合いの場がなく,あるいはこのような直接的な接触が何ら建設的な成果を生んでいないような紛争,事態が存在していることもまた遺憾ながら事実であります。
インドシナ半島においては依然軍事的衝突が続いており,平和到来の見通しはいまださだかでないように見受けられます。わが国としては,パリ和平会談が再開されたことを歓迎するものであり,当事者間の交渉を通じて,一日も早くインドシナ半島に真の平和が訪れることを衷心から希望するものであります。
中東問題をめぐつては,最近の一連の事件の勃発にみられるごとく,暴力及び報復が絶えておりません。わが国は,安全保障理事会の内外において,当初から安保理決議242の成立に積極的に協力し,一日も早く関係諸国が自制と互譲の精神により永続的平和を確立するようできる限りの努力を傾注してまいりましたが,国際連合が今後ともこの問題と積極的に取組んでいくことが切望されるのであります。同地域における平和確保の基礎条件を作り出すこともまた,国際連合が貢献しうる地道な,しかしきわめて意味の大きい任務であります。この点で私は150万近くにのぼるパレスチナ・アラブ難民救済にとり組んでいる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を高く評価したいと思うのであります。わが国としてもUNRWAを通じ,今後とも人道的援助の増大に協力することにより,同地域の平和確保に積極的に貢献してゆきたいと思います。
南部アフリカにおける人種差別政策及び不法な少数支配の存在もまた,同地域における絶えざる緊張の源となつております。わが国としてはアフリカ諸国が民族自決と人種差別撤廃の実現という目標を目指して真摯な努力を重ねていることは十分に理解するものであり,国際連合が国連憲章の規定するところに従つて問題の平和的な解決を一日も早く実現するための建設的な努力を従来にもまして強化すべきだと考えます。特に関係当事者間の直接の対話が事実上不可能となつている現状において,国際連合こそは,当事者を含めての話し合いと説得の場として従来よりも積極的かつ建設的な形で活用されるべきだと確信するのであります。南部アフリカの問題の解決にあたつては,忍耐をもつて現実的に対処することが必要であることは申すまでもありません。その意味で多年にわたり解決の目途を得られなかつたナミビア問題に関し,事務総長がアフリカ共和国政府を含むあらゆる当事者との話し合いを行ない着実な成果を挙げつつあることは高く評価されるべきであります。
議長
以上,私は国際連合が現下の世界の主要問題の解決に如何なる役割を果しうるかについて若干の点を指摘してまいりました。現下の世界に見られる緊張緩和の傾向に鑑みれば,国際連合は単に無関係な傍観者の立場に終始するのではなく,状況に応じて,このような動きを支持し,鼓舞し,更には積極的に手を藉すことが重要である点を指摘したわけであります。これまで世界の平和と安全にかかわる多くの問題が,国際連合における公開の審議を通じ国際社会全体の注視の下におかれ,それによつて破局が避けられてきたことは否定しえない事実であります。また,世界各地の紛争地域で国際連合の平和維持活動が武力行使の激化を阻止し,その再発を予防してきた事実もまた,地味ではあるが建設的な平和確保のための着実な貢献として評価されるべきものでありましよう。これらの事実は平和維持のため,国際連合が果してきた役割が,決して小さいものでなかつたことをきわめて端的に示すものに他なりません。私は国際連合が今後ともこのような地道な活動をさらに強化していくことの重要性を指摘しておきたいと考えるのであります。
私は,また国際連合がかかる地道な役割を,国際テロリズムその他これに関連する問題についても果すべきであると考えます。私は,いかなる理由によるものであれ,暴力行為には断固反対であり,国際連合その他の場を通じてこれら行為に対して有効な措置を講ずることを希望するものであります。
議長
他方,今日の世界において国際連合が果すことを期待されている役割は,単に,これまで述べて来たような紛争の抑止ないしその拡大防止というような消極的なものだけにとどまつてはならないのであります。わが国は,過去数年に亘るこの国連総会の場において「平和への戦い」の必要性を強調して参りました。それは正に進んで平和を戦いとる姿勢,いいかえれば,すでに発生した紛争の拡大を防止し,これを鎮圧するという,いわば火消し役の任務ととどまることなく,一歩を進めて,このような紛争の発生する原因となる禍根を未然にとり除く努力を国際連合が目指すべきことを主張したのであります。
それでは,このように積極的に平和を戦いとるために国際連合がなしうることには何があるのでしようか。私は,ここで第1に軍縮のための努力を,第2に国際経済社会開発を目指す努力を,そして第3に,これら具体的努力を可能にする基盤としての国際連合自体の機構面,財政面での強化の努力をとり上げ,これら3つの問題点についてのわが国の姿勢を明らかにしたいと存じます。
議長
今日,世界が当面している最大の課題は,人類を滅亡せしめるに足る破壊力を有する核兵器の制御とその究極的な撤廃の問題であります。この点で,核兵器国による核軍縮への努力が最近漸く具体化の第一歩を見せるに至つたことはきわめて喜ばしいことであります。去る5月26日米ソ両国が過去約2年半にわたる戦略兵器制限交渉の具体的成果として,対弾道ミサイル(ABM)システムの制限に関する条約及び戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置についての暫定協定を締結したことはこの点での核兵器国の努力の具体的現われとして評価したいと思います。
しかしながら,他方において核兵器国相互の間では,依然として激烈な核軍備競争が継続していることも,遺憾ながら事実であります。特にかかる核軍備競争を如実に象徴している核兵器国による核実験が国際世論の激しい反対にもかかわらず,依然として続行強化されていることは,憂慮に堪えない次第であります。
周知の如く,核実験禁止問題は戦後の軍縮交渉における最大の懸案でありましたが,1963年に地下を除いた他の環境における核実験を禁止したいわゆる部分核停条約が成立したものの,それ以後は地下核実験の禁止に関しては何らの具体的成果も得られず今日に至つております。さらに又この条約に対しては,2つの核兵器国が依然として参加を拒んでおり,人間環境の破壊を憂慮する諸国の抗議にもかかわらず,未だに大気圏内の核実験を強行しているのが現状であります。
私は今次国連総会がこのような核兵器国による核実験の禁止の早急実現と,すべての核兵器国が軍縮交渉に参加し,具体的軍縮措置,特に核軍縮措置の速やかな実現のために,あらゆる努力を結集するよう特に強く希望する次第であります。
議長
国々,人々の間のかかわり合いが経済,科学技術,社会,文化というような多種多様な面で国境を越えて活発化することは今日の国際社会の基本的特質と考えられます。このように世界が多様化するのに伴つて,今日の世界では国際的な社会連帯の重要性がとみに増大することは必然的ななりゆきと申せましよう。
国際連合は,単に政治問題だけを取り扱う国際機関ではなく国際社会のすべての側面について討議する場であり,活動を行なう機関であります。国際関係の密接化多様化に伴い,ますますこのような国際的な社会連帯の強化を目指す総合的国際機関としての国際連合の役割は重要なものとなつてきております。
特に最近にあつては,南北問題と呼ばれる経済社会開発上の諸問題,宇宙と海底という人類に残された最後のフロンティアーの開発と利用の問題,人間環境の整備,再開発の問題等今日の世界の最先端にある諸問題についても,国際連合がいち早く新しい形での国際協力の場を提供しこれと積極的に取り組んでいることは,国際連合の将来に限りない可能性を開くものとして大いに評価してしかるべきものと考えるのであります。
このような見地から,私は,本年の前半に開催された2つの国際会議のもつ意義に注目したいと思うのであります。一つは,人類の経済的福祉の一層の向上を目指し,4月にチリのサンチャゴで開催された第三回国連貿易開発会議(UNCTAD)であり,もう一つは,人類の生存のために不可欠な自然環境を保全しようとの目的で,6月スウェーデンのストックホルムで開催された国連人間環境会議でありました。サンチャゴとストックホルムという地球の南と北の両半球に1万マイルの距離を隔てて開かれたこれら2つの国際会議ほどに,この一つの地球に住むわれわれ人類の一体性と連帯を象徴的に示したものはなかつたといつても過言ではないでありましよう。そしてこれら2つの国際会議はいずれも国際連合が国際経済社会開発の新しい分野で人類の理想の実現を志向して積極的な役割を果しうることを示唆して見せたのでありました。
議長
今日の世界における多くの緊張の根源は,飢餓と貧困の存在に求められることが少なくありません。国際連合は,多年にわたつて開発途上国と先進国の貧富の格差の問題にとり組んでおり,その努力の方向は第二次国連開発の10年によつて端的に表現されているのであります。
これまで,開発途上国の経済自立の達成に向つての努力は,さまざまの困難に直面し,このため,とかく南北間の対決という現象が生じがちでありました。しかしこれらの困難を解決するためには開発途上国側の開発努力とこれに対する先進国側の国際協力の間に密接に連繋が保たれることが不可欠であります。いいかえれば,この問題は,国際社会の共同責任として,先進国と開発途上国間の相互理解とこれに基づく合意の積み重ねにより解決されるべき問題なのであります。かかる観点から,わが国としても今次UNCTADにおいて先進国と開発途上国間の合意の形成のため積極的に努力した次第でありますが,その結果数多くの問題について,夫々の立場に対する理解に立脚した合意が形づくられ,それが具体的決議の形で成立したことの意義は大きかつたと思われます。もとよりサンチャゴ会議は歴史的課題を対象とするものだけにその意義も長期的視野の下に評価されねばなりませんが,上述の合意の一環として国際通貨・貿易体制への開発途上国の十分な参加の必要性が認識され,かつかかる原則の一部がIMF20カ国委員会の設立としてすでに実現の途に移され,また1973年の多角的国際ラウセドの準備も開発途上国の参加を得て進められていることは,南北問題の方向付けという点から見て特に重要な意味をもつものと考えます。
わが国は,政府開発援助につき国民総生産の0.7%目標の達成,政府開発援助条件の改善及び一般的アンタイイングの促進,並びに一般特恵スキームの早期実質的改善の諸点を含め,この会議において約束した諸事項を履行するとともに,残された多くの問題の解決のため今後とも積極的に協力して行く所存であります。
議長
「かけがえのない地球」を破滅の危機から保全することを目指す国連人間環境会議は,これまで国連が主催した会議の中でも最も画期的なものの一つであつたといえます。とくに,113カ国という多数の国々が,それぞれの政治,経済,社会体制や伝統や価値観の相違を乗り越えて,一つの「人間環境宣言」を採択することに成功したのは,この会議の最も劇的な成果を示すものであります。さらにわが国としては,かねてからわが国が強く提案していた核兵器を含む大量破壊兵器の影響から人とその環境を守る」との原則がこの宣言の中に正しい位置を与えられたことを高く評価するものであります。
世界の人間環境の保護改善のための一連の行動計画を実施する目的で設置されることとなつた「環境基金」については,わが国は既に明らかにしたとおり,その目標額の10パーセントまでの拠出を行なう方針でありますが,この基金の合理的な運用を通じて,国連内のあらゆる機関の関連する活動と,各国の人間環境保護改善のための努力とが効果的に総合調整されることを期待するものであります。
現在及び将来の世代のためによりよい人間環境を確保することは,開発途上国であると先進国であるとを問わず,すべての人類の共通の目標であります。この目標を達成するためには,長期にわたる継続的な努力を必要とします。このような趣旨から,わが国は,同会議において第二回会議の開催に関する勧告を全面的に支持したのでありますが,第二回会議開催の時期,場所等具体面については,さらに新設の環境計画管理理事会等において今後の発展をも見守りつつ,十分な検討が行なわれることを期待いたします。
議長
これら2つの会議に勝るとも劣らない重要性をもつたもう一つの国際会議は,海洋に関する国際秩序の確立を目的として,1973年に開催を予定されている第三次海洋法会議であります。わが国は,1967年に国連海底平和利用委員会が設置された時から今日まで終始積極的に審議に参加して参りましたが,来るべき海洋法会議に対しては,格別大きな関心を有しております。わが国としては,この会議が海洋の平和利用に関しそのあらゆる側面を十分かつ公平に検討した上で,すべての国の利害の公正なバランスの上に立つた,国際社会全体の利益に奉仕しうる新秩序を樹立することを心から希望するものであり,今後会議開催準備の過程を通じて,関心をもつすべての国々と密接に協議を保ちつつこの希望が十分に実現されるよう,あらゆる努力を払う所存であります。
議長
恒久の平和と人類全体の福祉向上を念願して国際連合が創立されてから27年が経過いたしました。その間,国際連合が各種の分野において注目すべき業績を挙げてきたことは,前にも述べたとおりであります。しかしながら,国際連合が創立された当初期待されたとおりの成果を挙げたかどうかという点については,遺憾ながら一般の評価は必ずしも好意的ではないことを認めざるを得ないのであります。とくに国際連合の第一の目的である国際の平和と安全の維持についてはそうであります。
私は,国際連合の平和維持活動が紛争の激化を抑止する働きを果してきたことを述べましたが,これとても国連憲章に明文の規定を持たないために,いくつかの弱点があることも周知のとおりであります。同じようなことが,国際連合の事実調査機能についても言えると思うのであります。
もとより,如何なる機構も,それを動かす人の意思なしには有効に機能しません。現在国連に対して向けられている批判の多くも,機構ないしは憲章の欠陥に帰すべき点だけではなく,加盟国の憲章遵守の意思欠除に起因している点が多いことも事実でありましよう。その意味で加盟国が国連憲章を誠実に遵守する決意を再確認し,それを実行をもつて示すことが何よりも重要であることは申すまでもありません。
しかしながら,国連創設後既に27年を経た今日,国連憲章の予定した機構・機能と現実の国際連合の働きの間に多くのギャップが生ずるに至つていることもまた否定しえないところであります。特にこの27年の歳月が国際関係の歴史の上でも最も変化の急激であつた時代であつたことを考えれば,このようなギャップが生じて来るのはむしろ当然とすらいえるかもしれません。これをそのまま検討することなく放置しておくのは,いやしくも国際連合の将来に希望を託し,国際連合の強化を願うものがとるべき途ではないと信ずるのであります。
私は,国際社会の唯一の代議機関とも申すべき国際連合が国際平和と協力の中心として真に有効に機能しうるためには,過去4半世紀の国際社会の変化を十分に認識して,これに柔軟に対応していくことが必要ではないかと考えるものであります。そしてかかる見地に立つて,加盟国諸国が国際連合の機構,機能を如何に強化すべきかについて過去の行きがかりを捨てて虚心坦懐に検討すべき時が来ていると確信するのであります。本総会においてこの方向に向つて建設的な一歩が進められることを期待いたします。
議長
国際連合がその期待されている役割を十分果たすためにはその財政的基礎を健全にして強固なものにすることが極めて重要であります。私は,国際連合が年々累積していく財政の赤字のため,その有効かつ円滑な活動を阻害されるに至つているという憂うべき事実に注意を喚起したいと思います。如何なる機関であれ,財政の健全にして合理的な運営は,その機構の存立の基本的前提条件であり,これを確保しない限り,長期的に効果的な活動を続けることは不可能であります。私は,今こそこの問題の解決のため,加盟国が一致協力して努力すべきであると考えます。日本としては,国際連合の財政の危機の原因に直接関連する加盟諸国がまずその解決のため建設的態度を示すべきものと考えますが,この問題が国連加盟国全体に共通する重要な問題であることにかんがみ,現実的な立場から協力して行きたい考えであります。
更に,国際連合の活動分野は,年々拡大しており,それに伴い,国際連合の活動に必要な資金を確保し,これを有効に使用して行くことも,益々重要となりつつあります。私は,加盟国が国際連合の活動資金確保の問題につき,より深い関心を持つて,積極的に協力して行く必要があると考えるものであります。わが国の国際連合に対する資金的な貢献は,最近急速な勢いで拡大しつつあります。これは,わが国民の国際連合とその活動に対する大きな期待と強い支持の気持を反映したものであり,わが国は,今後とも国力の許す範囲において,この分野での貢献を増大させて行きたい考えであります。
議長
27年前,人類は恒久平和の実現と人類全体の福祉増進という理想をかかげ,無限の希望をこの機構に託したのであります。われわれは,国際連合が世界にかけがえのない国際平和機構であることに深く思いをいたし,創設時の初心に立ち帰つてこの機構の強化育成のためにできる限りの努力をすべきであると思います。
ワルトハイム事務総長は,先般発表された本年の年次報告序文において,「この機構の潜在的な力を開発できるのは加盟国のみであり,そのためには,この機構の不完全性や欠点を失敗の徴候としてとらえるのではなく,すべての機構が初期の発展段階において必らず通らなくてはならない成長過程の一部として容認すべきである」と述べられましたが,私もこの事務総長の意見に全く同感の意を表したいと思うのであります。
これまで申し述べてまいりましたとおり,わが国としては,国際連合の欠点,限界は事実として率直に認めつつ,この機構が今日の世界において果している役割の重要性を深く認識して,その一層の強化育成のために今後とも努力を傾ける決意であります。
この点に関し,一昨日ロジャース米国務長官が日本の果し得る役割についてなされた言及に深い感銘を受けました。今次総会が,国際連合の将来はかつて加盟諸国の決意如何にあるとの認識を新たにして,諸問題の公正かつ建設的な解決のため,国際協力の実を挙げることを心から祈念いたします。