[文書名] 第6回国連特別総会における水田代表の一般演説
議長
私は,日本政府を代表して閣下が昨年の第28回国連総会議長に引続き第6回国連特別総会の議長の重職に就かれたことに祝意を表するとともに,今次特別総会が閣下のすぐれた,かつ公正なる指導力のもとに実り多き成果をあげることを期待いたします。わが代表団は閣下がこの重大な責務を遂行されるために協力を惜しまない所存であります。
次に私は今次特別総会を提唱されたアルジェリアのブーメディエンヌ革命評議会議長に敬意を表したいと思います。わが国は国連への協力と国際開発協力の推進という立場から,また現下の世界の経済情勢より見て今次特別総会の開催は時宜を得たものとしてこれを支持いたしましたが,今次総会のテーマである資源と開発の問題はわれわれ人類共通の重要問題であり,この問題の解決のためには資源を持てる国も持たざる国も全世界的な立場から「対話と協調」を推進すべきことをまず第1に要請したいと思います。私は今次特別総会が「対話と協調」を通じて建設的な解決を見出すための場となることを心から希望しております。
議長
われわれは,第2次大戦後世界各国の共通の繁栄のために富める国も貧しい国も共に開発への努力を続けてまいりました。特に国連はこのために大きな役割を果しており,「国連開発の10年」の名のもとに開発問題の重要性に対する世界の世論を喚起し,国連の各機関の能力を結集して多くの分野で評価に値する業績をあげてまいりました。
議長
しかしながら,昨年秋以来われわれが経験したエネルギー事情の急激な変化等もあつて,われわれ人類はより安定した国際経済社会実現をめざして諸般の改善努力を結集すべき転期に達したといえましよう。
事実,最近われわれの経験は,今日の世界がいかに狭く,相互依存と連帯の関係がいかに深くなつているかを改めて想い起させました。いうまでもなくエネルギー情勢はいわば危機的な段階にまで達しており,その直接・間接の影響は経済発展段階の差をとわず,また社会・経済体制の相違をとわず,全世界に遍く及びつつあります。なぜならば,今日,各国間の経済的相互依存関係はわれわれ人類がかつて経験したことのない程にその緊密度を増しており,いかなる国と言えどもこの緊密な経済的依存関係を通じて伝播されるエネルギー事情の急激なる変化の諸影響から自らを隔離し,あるいは孤高を保つことは不可能な状況にあると思われるからであります。
議長
現下の情勢は開発途上国,特に石油を産出しない開発途上国の経済社会開発の推進に重大な影響を与えております。これらの国に対しては石油価格の大幅上昇という直接的打撃に加うるに,先進諸国の経済活動の停滞,輸出入余力や経済援助力の低下に伴う間接的な影響が今後深まることも危惧されております。こうした直接間接の影響が続くかぎり,「第2次国連開発の10年」の目標達成はおろか,世界の安定にとり不可欠な要因の一つである開発途上国の経済社会開発は望みえません。
議長
資源の供給を大きく海外に依存しているわが国も深刻な影響を受けており,このためわが国経済活動の鈍化が予想され他の先進工業国の経済停滞とも相まつて開発途上国の経済,特にアジアの開発途上国の経済にも大きな影響を与えることが憂慮されます。
今日の世界では,一国だけが他国の犠牲において生きていくことのできない相互依存の協力関係が次第に形成されつつあり,新しい安定と調和を必要とする時代が訪れつつあるといえましよう。
議長
次に私は以上述べてまいりました相互依存の新しい国際連帯関係における資源と開発の問題について,わが国の所信を明らかにしたいと思います。
最近のエネルギー事情の変化はエネルギーを含めた資源一般についてのわれわれの考え方を根本的に再検討する一つの契機を与えてくれました。現在のみならず未来社会の発展のために,人類がエネルギーを含めた資源の開発,供給,消費,保全の諸問題を総合的に再検討することの必要性を認識せしめました。われわれ人類は世界的な人口増加と生活水準の向上に伴い急速に拡大する世界の資源需要に対応するため,さらに開発途上国の経済社会開発の促進のために,地球上の資源をいかに有効に開発し利用するかという問題の解決を迫られております。
議長
この問題の解決のためには,まず,資源を持てる国も持たざる国も共に「対話と協調」の精神に基づき,共同の責任と努力を引受けるべきであると考えます。このような観点より,次に私は,資源問題解決のための国際的協力の在り方について述べたいと思います。
第1にわれわれは,開発途上国を含むすべての国が自国の天然資源をその経済発展と国民の福祉の向上を目途として開発し利用する権利,すなわち天然資源恒久主権の原則を認めるものであります。わが国は開発途上国が,自国の資源の開発を基礎として経済開発ならびに国民の福祉向上を推進せんとする熱意を理解するものであり,またこのような開発への自主的努力を高く評価し,わが国もこれら諸国の国造りへの努力にできるかぎりの協力を惜しまない所存であります。
第2に私はこのような前提のもとに,資源保有国も消費国も共にその能力に応じて協力すべきだと信じます。世界には資源に恵まれた国も資源に恵まれない国も存在しております。しかし,何れの国も発展し,繁栄を求めることが認められるべきであり,このような立場に立つてこそ世界の真の平和と安定が達成しうるものといいえましよう。このようにみれば,能力を有するすべての国は,自国の発展のためばかりでなく,他の恵まれない国々のために,それぞれその能力に応じて協力し,世界の経済発展,ひいては平和と安定のために貢献すべき国際的連帯責任を有しているものといいえましよう。
わが国はすでに述べたとおり資源に恵まれておりません。しかしわが国は資本と技術を有しており,世界の経済発展,特に開発途上国の経済開発に貢献しうる能力を持つております。今回のエネルギー事情の変化によりわが国のこのような能力が低下したため,これが多くの開発途上国,特にアジアの開発途上国の経済開発に支障を来たすことが危惧されております。いずれにせよ,世界経済の相互依存関係がますます緊密化するにつれて,資源を持てる国も持たざる国もこのような連帯関係にあり,世界は一つであることを改めて認識し,共に世界経済の繁栄に努める必要があることを指摘したいと思います。
第3にわれわれ人類は,将来の世代のために地球上の有限なる資源については節約,保全を真剣に検討する必要がありましよう。しかし,開発途上国を含め世界のエネルギー需要は今後とも増大することはさけられないと思われるので,代替エネルギー源や省エネルギー・システムの開発等の分野での新しい国際協力の方法を見出すべきでありましよう。
しかし地球上の資源の有限性を論ずる場合,われわれは単に既存資源の枯渇のみに限定せず,今後の科学技術の進歩,経済成長と人口増加,環境上の制約等の諸要因を考慮に入れたインテグレーテッド・アプローチを志向すべきであると思います。海底資源を含めた探査技術,再生利用を含む資源の効率的利用と節約のための技術,代替資源の開発技術等技術革新の分野は広いものがあり,資源の枯渇のみを唱えることは望ましいアプローチとは考えられません。この点に関し昨年2月ニューデリーで開催された国連の第3回天然資源委員会において「成長の限界」の概念に対して多くの代表より否定的見解が提示され,地球上の資源を国際協力により開発し世界経済の発展に活用すべしとの積極面が支持されたことは注目に値します。ここでわれわれが問題とすべきは,現在,技術的経済的に開発可能であるにもかかわらず,国際的に資源開発を促進するための十分な協力関係が存在しないことであります。私は国連がかかる問題に対し,その積極的役割を果すため,資源開発の分野での国連機能の強化を要請したいと思います。
議長
私は右の目的に資するため国連は次の2つの機能を備える必要があると考えます。その1は,世界の資源需給等に関するデータの分析,普及を強化する措置であり,その2は,恵まれぬ開発途上国の未開発の資源の開発を援助し,また資源保有国の資源保全及び一層の開発を助けるためこれら諸国が必要とするタイプの科学技術を普及するための有効な技術援助の強化であります。
以上の考慮から,わが国は次の5つの具体的提案を行いたいと思います。
第1は,資源関係のデータの分析・普及のための国連資源情報センターの設立を検討することであります。
第2は,天然資源探査のための国連回転基金の早急な事業開始の要請であります。
わが国は同基金に1974年度に150万ドルの拠出を行う用意があり,また,明年度以降も同基金の進捗状況を勘案しつつ,できるだけの資金拠出を行うよう努力する方針であります。この機会に各国の同基金に対する積極的な寄与及び国連開発計画(UNDP),世銀等の国際機関の協力を強く希望したいと思います。
第3は,国連総会において設立された国連大学がエネルギー問題を中心とする資源の長期的かつ基礎的研究を行うことであります。
第4に,わが国は国連の天然資源開発の分野での活動に対するわが国の協力の一環として第4回天然資源委員会を明年の適当な時期に東京に招致することを提案いたします。
最後に私は国連の資源問題に関する有識者諮問グループの設立の検討を提案いたします。
同グループのメンバーは国際的に著名な有識者の中から選ばれ,各国の立場を離れ個人的資格において全人類の繁栄のために全世界的かつ長期的観点から資源分野での国際協力の在るべき姿とそのための指針を国連に対し提示することを任務とするものであります。
議長
次に私は新しい国際協力関係の中での開発援助の問題について触れたいと思います。
第1に私は世界経済の相互依存性を認識して先進工業国は従来にも増して政府開発援助の量質両面にわたる拡充を推進すべきであると確信いたしております。総援助量の対GNP比は近年減少傾向をたどつており,また現下のエネルギー事情の変化を契機として先進工業国よりの援助の停滞ないし減少の可能性も論じられています。このような時期においてこそ開発援助の真の意義が理解されるべきではないかと考えます。
私は現下の世界経済情勢が開発途上国の開発努力に与えつつある影響とこれに対する対策の必要性を強調したいと思います。
推計されるところによれば原油価格の高騰に伴い生ずるであろう開発途上国の直接的間接的追加負担は1974年に約150億ドルのオーダーにも達するものとみられております。これは1972年の政府開発援助(ODA)の2倍に近い巨額なものであります。
かかる事態に国際社会全体として対処するためには従来の援助のため国際協力体制そのものについても再検討が要請されてしかるべきでありましよう。
第2に私は新らしい国際協力関係のもとでは,援助能力のあるすべての国が,真に援助に対するニーズの高い国にその開発協力を行うべきであると考えております。その際,経済基盤がなお十分確立せず,現下のエネルギー事情の与える影響により経済開発の推進上大きな困難に遭遇している開発途上国,特に後発開発途上国に対して特別の配慮を行なう必要がありましよう。
この点でわが国はイラン皇帝が最近とられた積極的なイニシアティヴを始め,産油国側の協力姿勢を歓迎いたします。また,その後EC委員会より発表された「世界基金」構想,先日コロンボで開催された第30回エカフェ総会におけるスリ・ランカのバンダラナイケ首相による「世界肥料基金」構想等の提案が行われております。わが国としてはこれら諸提案が,グローバルな視点より総合的に関連諸国際機関において早急に検討されるべきものと考えており,能力を有する諸国の協力を前提とする国際的成案が得られる暁には,これに対し,誠意ある協力を行つて参りたいと考えております。
第3にわが国は前述の如く現下のエネルギー事情により先進工業国中最もきびしい影響を受けておりますが,わが国の先進工業国としての国際的責任を自覚し,かつ国際的連帯意識に立つて貿易,援助,通貨の諸分野における積極的国際協力を通じ,開発途上国の困難,また究極的には世界経済全体の当面している諸困難解決にできるかぎりの貢献を惜しまない所存であります。
わが国は,天然資源に恵まれていないものの,過去百年にわたる近代化の過程で外国の技術を導入し,かつ自からの力で技術の開発に努めてまいりました。従つてわが国はすぐれた技術を身につけた人材を多く擁しており,わが国が世界に貢献しうる道の一つは,技術協力にあると確信しております。わが国は産油国を含め開発途上国に対しそれぞれの必要と希望に沿つた技術協力を今後とも一層強化したいと考えております。
議長
世界経済の無差別,多角的,自由の原則に基づく発展のもとでの貿易立国を旨としているわが国といたしましては,現下の世界経済情勢のもとにおいてこそ自由貿易の維持拡大が更に推進されるべきものと確信しております。わが国は多角的貿易交渉開始の意義を認め,ガット東京宣言の合意にも積極的な努力を払つた次第であります。
現下のエネルギー情勢等の結果として多くの諸国では国際収支上の困難の発生や経済活動の鈍化が危惧されておりますが,かかる状況のもとでの諸困難を理由に貿易上の保護的措置が蔓延することになれば,わが国を含め世界の諸国がこれまで営々として積上げてきた貿易自由化の努力は瓦解する恐れがあります。
わが国としては,現下の諸困難にもかかわらず,自由貿易の維持推進の大義のもとに多角的貿易交渉を通じて意義ある成果をもたらすべく努力する所存であり,この際,各国の同様の努力を強く呼びかけるものであります。また,わが国はかかる努力は開発途上国の経済発展にも貢献することとなるものと信じており,東京宣言の精神に沿つて開発途上国特有の事情にも十分配慮しつつ交渉をとり進めるべきものと考えております。
議長
貿易と並び今一つ重要な国際経済活動として国際投資の問題があることに私は注目したいと思います。世界の国際投資による海外生産額は,今や貿易額を凌ぐものがあり,かつ急速に増大しつつあります。また開発途上国は世界全体の対外直接投資の約3分の1を受入れ,しかも,その半分が天然資源開発関連のものであるという事実の重みも十分認識すべきでありましよう。かかる国際投資活動は,資源の合理的利用と資本・技術等の移転を促進することにより開発途上国を含む世界経済全体の発展と繁栄に大きく寄与しつつあります。
もつとも,国際投資活動,なかんずく,直接投資活動は,受入国において継続的な経済活動を営むものであり,貿易に比べ,はるかに受入国・投資国双方,特に経済基盤の弱い開発途上国の経済に与える影響は直接的でありかつ広範であります。この結果,国際投資活動は,受入国・投資国の双方に種々の経済的・社会的摩擦を生ずる可能性が多いことを認識する必要がありましよう。
かかる国際投資に随伴しやすい種々の摩擦の除去と防止にあたつては,世界経済全体の共通の利益を増進するとの観点から,企業自体の努力はもとより,政府間協力の必要もあると考えます。わが国政府といたしましては,企業家が,開発途上国等投資受入国の真の経済発展に資する形でその投資活動を進めていくべきことを基本理念としていきたいと考えております。
この関連で,国連においては,目下,国際投資の一形態である多国籍企業の実態につき,検討が進められつつあります。私は,客観的かつ地道な実態把握努力をもとに,行動規範の導入の可能性の検討を含め,多国籍企業,ひいては国際投資一般の健全な発展をはかつていくための国際協力上の諸方策につき各国が知恵を出しあつていくことを歓迎するものであり,わが国としても,かかる国際的努力に積極的に参加していく所存であります。
議長
わが国は,国際経済社会の円滑な発展をはかるためには,永続的かつ安定的な国際通貨制度が必要であるとの認識のもとに,20カ国蔵相会議(C−20)における改革作業に積極的に参加してきており,今後も同様の努力を引き続き払つていくこととしております。この関連でわが国としては国際通貨制度の改革にあたつては,開発途上国の利益にも然るべき形で配慮が払われなければならないと考えており,改革後の通貨制度の運営にあたつても開発途上国の有効かつ責任ある参画をはかる必要があると考えております。
この間,最近の国際通貨情勢をみるに,最近のエネルギー情勢の結果,右に述べた通貨制度改革作業と関連して,新たにかつ,早急に検討すべき諸問題が発生するにいたつております。すなわち,原油価格の上昇の結果,放置すれば国際流動性は一部の産油国に集中して蓄積され,他の多くの原油輸入国においては流動性不足が発生することが見込まれております。この場合,産油諸国に対してはその資産の国際的運用にあたり一定の節度と国際金融情勢への配慮が要請されると同時に,原油輸入国としてもその流動性確保にあたつては同様の考慮を払う必要があるものと考えており,国際通貨・金融情勢の円滑さと安定をはかるための関係諸国間での十分な協議と協調の必要が生じていると思われます。
議長
私は今改めて資源問題の重要性とともにその複雑さを認識しております。したがつて,われわれは早急にその対案をたてるとともに,長期的解決への地道な努力を続けるべきでありましよう。私は今次総会で提起されるであろう重要なる諸問題は国連全機関の能力を結集して十分に検討され,解決への道が見出されるべきだと考えております。このための一つの方策として,私がすでに提案した国連の資源分野における機能強化のための五項目提案に対しても,今次特別総会において十分な検討が行われることを要請いたします。
いずれにせよわれわれは世界は一つであるとの認識に立ち,南北の区別や資源保有の有無やあるいはイデオロギー・政治体制の相違を超えて共に生き共に繁栄するために,かかる人類共同の事業に協力すべきでありましよう。「対話と協調」はこのための不可欠の要請であることを再び強調して私の発言を終ることといたします。
有難うございました。