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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連憲章調印30周年記念式典におけるアジア・グループ議長としての斉藤(在国連代表部)大使演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1975年6月26日
[出典] 外交青書20号,38−41頁.
[備考] 
[全文]

事務総長,各国代表並びにみなさま。

 国連憲章調印30周年を祝賀するため,ここにお集まりになつた国連加盟国の代表各位に対し,アジア・グループの議長として,一言申し上げることは私の大きな喜びであり,かつ光栄であります。

 国連憲章調印は人類の歴史に新しい時代をもたらしました。憲章は第2次世界大戦とともに消滅した古い秩序にとつて代る新しい世界社会に対する実施計画を規定しました。それはまた,人類の希望する平和,正義及び進歩を現実のものにしようとする組織を設けました。私たちはいずれも,もし国際連合がなかつたならば,戦後世界は今日の世界とはかなり異なつたものになつていたであろうことを知つています。憲章の調印は,従つて,極めて現実的な意味において世界の形態を変更したのであります。

 今や,あの重要な日から30年の月日が流れました。国際連合および国際連合が反映する世界は,この30年間に,大きな変動を経ました。われわれは今や植民地主義時代に終止符を打たんとしています。かつ右においてその指導的役割を行なつた国際連合自身,その結果として大きく変化しました。国連は51の原加盟国から138の加盟国を有する機関に成長しました。その原加盟国が主としてヨーロッパと西半球の諸国であつたのに対して,現在の加盟国はほとんどすべての人種,宗教,イデオロギーを代表しており,国連は事実上普遍的な機構となりました。われわれアジア人は,憲章が署名された当時には,僅かに8つのアジア諸国が国連加盟国であつたのに対し,現在,アジアからは34カ国の加盟国があるという事実に満足しています。憲章調印の時から経過した30年の間に科学と技術の画期的な発展は国連が活動する世界をますます相互依存の世界に変化させました。

 今日では平和と安全の問題のみならず,国際貿易,経済発展,環境に影響を与える問題もすべて世界的関心事となり,かつ世界的観点からの解決を必要としています。世界的共同社会の目的と啓蒙された国家利益は合致するものであるということを信ずる理由は,1945年よりも,今日,一層多くあります。世界の諸問題に対する国際連合の有効性は減少せず,却つて増加しているようであります。

事務総長。

 憲章が署名されてから30年間,国連は良き時代にも,また悪しき時代にも国連が創設された目的の増進のため,不断の努力をつづけて来ました。国際連合は民族国家の世界で活動しているとの事実から受ける制約にもかかわらず,公平に見て,立派な仕事をしたと言えます。民族国家の互いに共通点のないイデオロギー,経済又は政治的提携は屡々共通の利益のための決定を行なうことを困難にするものであります。

 国際連合の最重要な責任は勿論,平和の維持であります。この30年が,大戦争をもたらさなかつたことは,御同慶の至りであり,その功績の大部分は国際連合によるものです。又,国連は現実に発生した戦争の拡大を防止する役割を果たしました。

 国連が発展途上国の経済的社会的発展を推進するため,果たしてまた,現に果たしている役割はよく知られています。また,私は,この立派な会合において,国連憲章が署名された時,植民地支配下にあつた数億人にとり,マグナ・カルタとなつた被植民地国および人民に対する独立付与の宣言を実現せしめた国連の成果にわざわざ注意をうながす必要はないと思います。

 しかしながら事務総長,国際連合は,憲章が調印された時に人類の抱いていた願望と期待を完全には満たさなかつたことをも認めねばなりません。

 事務総長,私はあなたもこの極めて重要な記念日を祝賀するためにここに集まつたわれわれの多くの者と同様に,何故,国際連合がその多くの成果にもかかわらず,より多くのことを果たし得なかつたのかとの問題を深く考えられたと思います。国連が本来の目的に忠実であることに失敗したすべての場合,それぞれ,特別の事情がありました。しかし,国連の活動の成果についても,短所についても,責任があつたことは,基本的には,他の如何なる事情よりも,常に,加盟国の行動であつたのであります。

 事務総長,われわれは皆,今日の相互依存の世界における国連の重要性については,意見の一致をみています。そして,われわれが直面する諸問題と取り組むために国連は新しい力を得なければならないことを確信しています。国連を強化するためには,次のことがなされなければなりません。

 第1に,加盟諸国は,国連に必要な活力を与えるために,何をなし得たか,また現在何をなし得るかを十分に深く考えてみることが絶対に必要であります。

 第2に国際連合自身が,新しい状況と新しい必要に対処するために,機構および機能の変革を通じ,適応させられねばなりません。これら2つのことは同じように必要であり,まさにお互いに補填しあうものであります。憲章の目的のために新しい公約を加盟諸国より獲得することは,時間がかかりますし,国連の必要とする変革を現実のものにすることも時間が必要です。しかしもしこれらが同時に進められるならば,国際連合は確実に諸国の行動を調和するための真の中心となるでありましよう。

 事務総長,アジア諸国の代表としての私に対し,アジアにおいて国連が果たした役割及び将来果たさんとしている役割について,一言発言することをお許し下さい。アジアにおける国連の役割は,特に非植民地化過程の促進及び経済的,社会的発展の推進の面で,有益かつ有効でありました。

 アジアでは一つの戦争,即ちヴィエトナム戦争は今や終結しました。しかしながら今一つの紛争,即ち中東における紛争は未だ未解決であります。インドシナ人民は戦争の残した傷跡から回復しつつあります。そして彼らは国際連合が彼らの国の復興と再建に積極的な役割を果たすことを期待しています。中東の人々はその地域における公正かつ永続的な平和を切望しており,国際連合はその実現をもたらす役割を果たすよう求められております。

 事務総長,国連憲章調印30周年を記念するための加盟国にとつて最良の方法は憲章の高邁な目的に自らを再び捧げ,かつこれらの目的に現実的な中味を与えることを新たに決意することであります。

 国連アジア加盟国は国連の理想に対し,固い約束をしており,憲章の目的と原則を厳守し,かつ平和,正義並びに進歩のため,われわれが有する唯一の普遍的な機関たる国連に対し,可能な,最も強い忠誠を与えるでありましよう。私は私が今,申しあげました点は,国連アジア加盟国の感情を表明しているものと信じております。

 御静聴ありがとうございました。事務総長。