データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第33回国連総会における園田大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1978年9月25日
[出典] 外交青書23号,352−357頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,まずリエバノ議長閣下が第33回国連総会議長に選出されたことに対し,日本政府を代表して祝意を表明いたします。閣下の優れた指導のもとに,今次総会は必らずや実り多いものとなるでありましよう。

 私は,また,前議長モイソフ閣下が第32回総会及び軍縮特別総会を成功に導かれたことに対し,深甚なる敬意を表します。

 同時に私は,ワルトハイム事務総長閣下が国際連合の目的の実現のために,献身的な努力を払つておられることに心からの敬意を表します。

議長

 私は,この機会に,南太平洋の友邦ソロモン諸島が国際連合に加盟したことに対し,心から歓迎の意を表します。わが国は今後,国連の内外においてソロモン諸島との協力を深めていくことを期待しております。

議長

 今日の国際社会は,永続的な平和と繁栄の確保に向つて力強い歩みを進めることができるか,あるいは,混乱と不安定への途をたどるかの分れ道にたつていると申しても過言ではありません。

 世界経済はここ数年来,不況,インフレ等の困難な問題に直面しており,保護主義の台頭が,自由貿易体制をおびやかそうとしております。

 とりわけ,開発途上国は,このような世界経済の低迷の影響を強く受けて,経済社会開発を進める上での大きな困難に直面しております。

 中東,アフリカをはじめとするいくつかの地域においては,厳しい対立と緊張が続いております。

 その間にあつて世界における軍備の蓄積は増大の一途をたどつており,核軍縮をはじめとする各種の軍縮措置のための交渉は遅々として進展をみせておりません。

 また,難民問題やハイジャック行為といつた国境を越えた人道上,社会上の問題も発生しております。

 資源・エネルギー問題の前途も楽観を許しません。

議長

 これらの問題は,いずれも人類の将来に決定的な影響を与える重要な問題であり,その解決は,全人類に与えられた共通の課題であります。

 私は,世界の各国が,今こそ,協調と連帯の精神をもつてこれらの問題の解決に取組み,各国がひとしく平和と繁栄を分ちあえるような国際社会の新しい秩序の創造のために,力強い歩みを進めるべきときであると考えます。こうして21世紀に向つて人類の将来に明るい展望をもたらすことは,20世紀に生きるわれわれの責任であると考えます。

 わが国としても,アジアにおける先進工業国としての責任を十分自覚し,このような新しい秩序の創造のためにできる限りの協力を致したいと思います。

議長

 わが国がなしうる国際協力の第一はその経済力を国際社会の安定と繁栄のために積極的に活用することであります。先の軍縮総会において詳しく申し述べましたとおり,わが国は平和に徹し,軍事大国にならないことをその基本政策としております。それ故にこそ,私は,わが国が,その持てる経済力を国際社会の安定と繁栄のために役立てることがなおさら必要であると考えております。

 そのため,わが国は,世界経済の安定的な拡大を確保するための国際的な努力にすすんで協力するとともに,開発途上国の発展と民生向上に積極的に寄与するために,全力をあげております。

 第一に,わが国は,現在先進国の中で最も高い実質経済成長目標を設定し,その実現のために,内需の拡大を中心とする積極的な景気拡大策を講じております。これは,わが国への輸入の促進を通じて世界経済の安定的な拡大にも貢献するものであります。

 さらに,わが国は,保護主義の抬頭をおさえ,自由貿易体制を維持,強化するため,東京ラウンド貿易交渉を成功裡に妥結せしめるべく,関係国とも協調して,一層の努力を払う方針であります。

 特に,開発途上国との間の貿易拡大の問題については,まず,わが国のこれら諸国からの輸入が年々増大しており,1977年には約400億ドルに達し,わが国総輸入の56パーセントを占めた事実を指摘したいのであります。

 わが国は,年々,一般特恵制度の改善を実施し,例えば,昨年度には,特恵供与枠を約1.8倍に拡大致しました。東京ラウンド貿易交渉の枠内においても,貿易障壁の一層の軽減に努力しております。

 一次産品問題,就中,共通基金の問題は,現下の南北問題の中心課題の一つであります。先般ボンで開催された主要国首脳会議において,福田総理は,特に,この問題の重要性を強調致しました。その結果,「共通基金についての交渉を成功裡に妥結せしめるよう積極的に推進する」ことが合意されたのであります。私は,共通基金が早期に設立される必要があると考えており,11月に予定されている再開交渉会議においては,その妥結のために最大限の努力を重ねたいと考えております。

 なお,わが国は国際商品協定に積極的に参加しており,たとえば,昨年末,新国際砂糖協定に署名致しました。また,第5次錫協定緩衝在庫に対し,すでに70億円を限度としての出資を約束しております。

 開発途上諸国に対する協力においては,以上申し述べた貿易面での措置とならんで,開発援助の量的拡大と質的改善が重要であります。

 援助量の拡大について,わが国は,今般,政府開発援助を3年間で倍増することを目標としてその積極的な拡充を図ることを決定致しました。

 同時に,援助の質の面においても,無償援助の拡大や借款条件の緩和に努力することとしておりますほか,わが国の供与する開発資金が最も有効に使用されるよう,これを全世界にアンタイするとの基本原則を決定し,実施に移しております。

 又わが国の政府開発援助の3分の1以上が第2世銀及び各地域の開発銀行を含む国際機関を通ずる援助でありますが,今後共かかる方式による援助を積極的に増進していく方針であります。

 さらに貧困開発途上国の債務の問題については,本年3月国連貿易開発理事会において成立した決議に従い,原則として,わが国に対し債務を有する後発開発途上国及び石油危機で最も影響を受けた国に対し,毎年の債務の支払い負担を実質的に免除又は軽減する措置として,新規の無償資金協力を供与する方針を決定致しました。

 以上申し述べたように,わが国は,貿易環境の改善と開発資金の供与によつて,開発途上国の開発,発展に積極的に寄与することを重視し,そのため,最大限の努力を払うこととしているのであります。

 明年5月には,マニラにおいて第5回国連貿易開発会議が開催されます。さらに,1980年には国連経済特別総会が予定されており,それまでの間,南北問題を総合的に扱う全体委員会がすでにその活動を開始しております。わが国は,これらの場を通じて公正な国際経済秩序がダイナミックに構築されていくようあらゆる努力を重ねることを決意しております。

議長

 現在,世界のいくつかの地域において,緊張と対立が続き,時に武力紛争の発生すらみていることは,国際社会にとつて極めて深刻な問題であります。これらの緊張と対立は,いずれも,世界の平和と安定そのものに直接影響を及ぼす可能性を秘めております。同時に,これらの地域において開発と発展に役立てるべき資金と技術が軍備の拡張という非生産的目的に振り向けられていることも極めて遺憾な事態であります。私は,これらの地域における緊張の緩和と対立の解消のために,全ての関係国が自制ある態度をもつて,一層の努力を払うことを強く期待するものであります。

 このような立場から,まず,私は,中東における対立と緊張の継続に深い憂慮の念を表明いたします。中東問題をめぐる情勢は,現在極めて複雑かつ流動的であります。そのなかにあつて,中東和平の実現を目指したいくつかの劇的なイニシアティヴがとられております。わが国としては,特にキャンプ・デービッドにおける3国首脳会談を実現せしめた関係者の勇断を高く評価するとともに,これが,公正かつ永続的な中東和平の実現につながることを強く希望するものであります。

 中東和平の原則は不変であります。すなわち,安保理決議242及び338が完全に実施され,かつ,パレスチナ人の正当な権利,なかんずく民族自決権が,国連憲章に従つて承認され,尊重され,かつ実現されることが必要であります。

 つぎに,南部アフリカにおいては,人権差別と少数支配が対立と緊張を生み続けている中で,平和的手段によるナミビアの独立に向つての国際的努力が引き続きなされていることは心強いことであります。この関連において去る9月20日,南アフリカ共和国政府が,このような国際的努力にもかかわらず,独自に選挙を実施するとの意図を明らかにしたことは極めて遺憾であります。わが国としては,南アフリカ共和国政府が国際的な共通の努力に再度参加することを心から望むものであり,事務総長の安全保障理事会に対する報告に従い,ナミビアに平和裡に独立をもたらすための国連の活動が早急に開始されることを強く希望するものであります。わが国は,このような国連の活動に積極的に参加する方針であります。独立までの期間において,わが国が行う協力は,国連の活動の中核をなす,公正かつ自由な選挙の監視への参加と,その活動を支える物資と機材の提供に向けたいと考えております。また,わが国としては,独立達成後のナミビアの国造りのためにも,できる限り協力していきたいと考えております。

 南ローデシアにおいて,白人少数政権による抵抗がなお続けられていることは,極めて遺憾であります。わが国は,国際的に承認されたジンバブウェ政府が誕生するまでは,国連による経済制裁を完全に遵守し,問題の平和的解決のための国際的努力に協力する方針であります。

 南アフリカにおける人種差別の継続は,強く非難されるべきものであり,わが国は,南アフリカ政府が,人種差別の撤廃に努力することを強く要求するものであります。それが実現しない限り,わが国は,今後とも,南アフリカとの間に外交関係をもつことなく,原子力開発に関する協力を拒否し,また,直接投資を禁止し続けるでありましよう。わが国が南アフリカに対して,一切の軍事協力を行つていないことは,平和国家としてのわが国の基本的な立場からも当然であります。

 さらに,アジアにおいては,朝鮮半島において依然として対立と緊張が存在しております。わが国は,隣接する朝鮮半島の平和と安定に深い関心を有しており,南北両当事者間に1日も早く対話が再開され,この地域に,真の平和と安定が確立されることを強く期待し,そのための国際環境づくりに関係諸国とともに協力していきたいと考えております。

 東南アジアの平和と安定も,わが国が深い関心を有する問題であります。その意味で,現在インドシナ半島で新たな対立と抗争が起つていることは誠に遺憾であります。わが国は,関係国の自制と努力によつて,同地域における平和と安定が回復され経済的社会的発展が進められることを強く期待しております。

議長

 国家間の緊張,対立を平和的に解決するための努力と並んで重要なことは,軍縮のための国際的な努力であります。本年5月,国連史上はじめて開催された軍縮特別総会において,すべての加盟国の賛同を得て軍縮を進める上での指針を示す国際的合意がつくり出されたことは記憶に新しいところであります。我々は,この特別総会の合意を新たな出発点として,核軍縮を中心とした軍縮を一層促進するための具体的な努力を一層強化して行かねばなりません。核兵器保有国をはじめとする関係各国の格段の努力をのぞみます。

議長

 国連においては,人権問題がいろいろな角度から取り上げられております。わが国は,全ての人に対して最少限,最も基本的な人間の尊厳が守られる形で基本的人権を保障するための努力を積極的に支持したいと考えます。私は,今年春,人権規約に署名を致しましたが,現在,その早期批准のため,これを国会に提出しております。

 現在われわれは,国際社会全体として取組む必要のある深刻な人道上の問題に直面しております。難民問題やハイジャック問題がそれであります。

 難民問題は,国家間に新たな緊張や対立を生むおそれがあると同時に,基本的には人道上の問題であります。わが国は,かかる見地から国連パレスチナ難民救済事業機関に対する拠出を毎年増大させております。また,アジアにおいては,インドシナ難民の救済のため,国連難民高等弁務官の特別の事業に対し,従来の拠出に加えて1,000万ドルの特別拠出を行うなどの努力を行つております。ビルマとバングラデシュとの国境に発生した難民問題に対しても,国連難民高等弁務官を通じ支援いたしました。

 多数の罪のない乗客を苦しめる航空機のハイジャックも,人道上許すことのできない行為であります。ハイジャック防止のためにはあらゆる国が協力することが不可欠であります。そのため,わが国は,昨年の総会においてハイジャック防止のための国際協力に関する決議のコンセンサスづくりにイニシアティヴをとり,また,民間航空の安全に関する3条約にすべての国が加盟するよう他の関心国と協力しつつ,呼びかける努力を続けております。同じ観点から,わが国はさる7月ボンにおける主要国首脳会議において採択された「航空機のハイジャックに関する声明」の趣旨にすべての国が同調することを希望するものであります。

 わが国としては,今後ともこのような国際社会の抱えている人道上あるいは社会的な問題の解決のための努力に,積極的に協力して行く方針であります。

議長

 最後に,人類の生存に不可欠なエネルギー源を如何に有効に利用し,また,将来永きにわたつて確保するかという極めて重要な問題があります。既存のエネルギー資源が有限であることを思えば,この問題は現在それらのエネルギー資源を保有している国にとつても解決を要する重要な課題であり,その意味で,世界の全ての国にとつて共通の課題であります。

 かかる観点から,私は,核兵器の拡散防止と両立する形で,原子力エネルギーの平和利用を進めることが重要であると考えます。

 また,既存のエネルギー源のより効率的な利用と再生可能なエネルギーを含む新規エネルギー源の開発を促進するための研究開発を国際協力のもとに進めることも必要であります。

 わが国としては,これらの分野における国際的努力に積極的に協力する方針であり,開発途上国のエネルギー分野における開発努力に対しては,わが国としても出来る限り協力する考えであります。

議長

 以上,私は,国際社会が歴史の岐路とも言うべき極めて困難な事態に直面している現在,21世紀に向つて人類の将来に明るい展望をもたらすため,われわれは,何をいかになすべきかについて,所信の一端を述べました。

 各国の相互依存関係は,社会体制,国の大小,発展段階等の相違をこえて,加速度的に深まりつつあります。一国の平和は,世界の平和と不可分であり,一国の繁栄は,世界の繁栄の上にこそ築かれるのであります。従つて,今や一国だけの平和,一国だけの繁栄は,あり得ません。このような世界の中で各国に期待されるのは,世界の共存,共栄のために各国が何をいかになすべきかについて英知を結集することであります。大国であると,小国であるとを問わず,強い立場にある国であると,弱い立場にある国であるとを問わず,先進国であると,開発途上国であるとを問わず,それぞれの分に応じて,全地球的視野に立つた行動が期待されるのであります。

 私は,世界のすべての国が,このような認識に立つて行動するならば,必ずやわれわれが現在直面している困難な問題も解決され,21世紀に向つて人類の将来に明るい展望が開けるものと確信致します。

 わが国は,このような人類の共同の努力に対し積極的に寄与すべく全力を尽すことを誓うものであります。