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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連パレスチナ問題緊急特別総会における西堀正弘国連大使の演説

[場所] 
[年月日] 1980年7月23日
[出典] 外務省情報文化局『外務省公表集・昭和55年』、97−99頁.日本外交主要文書・年表(3)、1169−1171頁.
[備考] 要旨
[全文]

一、中東問題は、国連が創設以来かかえている最も複雑、かつ重要な問題であり、その解決は近年益々緊急を要するものとなってきている。然るに、中東問題、就中その中核をなすパレスチナ問題が未だ解決をみていないばかりか、逆に問題が複雑化し、その公正な解決がますます困難となっている昨今の情勢を日本政府は深く憂慮している。

二、中東問題、就中、パレスチナ問題に関する日本政府の基本的立場は、次のとおりである。

 (一) 中東和平は、公正、永続的かつ包括的なものでなければならない。

 (二) かかる和平は、安保理決議二四二及び三三八の早急かつ全面的な実施により、かつ国連憲章に基づき、民族自決権を含むパレスチナ人の正当な諸権利が承認され、尊重されることにより達成されるべきである。

 (三) パレスチナ人を含む中東地域のすべての関係諸国民の願望と域内諸国の正当な安全保障上の要請を考慮し、和平実現に通ずるあらゆる道が探究されるべきである。

 上記の原則に基づき、まずイスラエルによる東ジェルサレムを含む全占領地からの撤退が実現することが不可欠である。

 更にパレスチナ人の自決権の内容については、わが国は、パレスチナ人自身が決定すべき問題と考えるが、その中には、独立国家の樹立もこれに含まれると解釈している。

 以上の観点からわが国は、パレスチナ人の自決権承認をうたった総会決議三二三六にもられた原則と精神を支持する。

 右決議を今後の公正な中東和平達成のための永続性のある基礎とするためには、安保理決議二四二の重要な原則の一つである域内のすべての国の主権、領土保全および政治的独立および安全かつ承認された境界の中で平和に生存する権利の尊重と確認を右決議に盛り込むことが必要であると考える。

 わが国は、PLOは、パレスチナ人を代表するものと認識しており、イスラエルとPLOが相互に相手の立場を認めることにより、PLOが将来、和平過程へ参加することが必要であると確信している。

 またわが国は、従来よりパレスチナ問題の重要性を認識し、関係当事者にわが国の立場を説明してきたが、PLOとも対話を行い相互理解を深め、わが国として、中東和平実現に寄与しうる方途を探るべく努めている。

 パレスチナ問題の早期解決のための具体的方策としては、公正な解決へ向ってのモメンタムの維持と展望を失わないことが重要であり、また、イスラエルとパレスチナ人間の相互不信感を除去するための両当事者間の誠実な努力が払われることが何よりも重要である。

三、わが国は、パレスチナ自治交渉の停滞と西岸における最近の情勢悪化を極めて憂慮している。

 イスラエル会議による東ジェルサレム併合手続き及び西岸指導者追放等は、国連諸決議及び国際法に反し、わが国としても認めることはできない。また六月二日の西岸三市長に対する連続爆弾テロは、極めて非人道的な事件としていきどおりをおぼえている。

 わが国は、これらの事件に関し最近安保理で採決された四つの決議を基本的に支持する。また占領下のパレスチナ人住民の人権擁護等、占領当局は、格別の配慮を払うよう強く要望する。

 かかる事態の悪化は、入植地政策及び東ジェルサレム併合を含むイスラエルの占領政策に一義的に起因しているものと考える。かかる諸措置は、無効、違法であると考えており、これが和平プロセスの阻害要因となっていることから、イスラエルに対し、直ちにこれらの政策を改めるよう訴えたい。わが国は、イスラエルが和平解決へのあらゆる可能な道を模索することが、結局自らの安全保障を確保する最善の道であると信じる。

 また占領地及び南レバノンにおける暴力と憎悪の悪循環をふせぐためには、イスラエル及びPLOを含むすべての紛争当事者の自制が必要であり、日本政府は、右自制を関係当事者に強く求めたい。

四、わが国は、包括的和平の達成のためのあらゆる国際的努力を支持するものであり、この観点から、欧州理事会の中東問題に関する声明(六月十三日)を評価している。

 わが国は、また国連がこれまでパレスチナ問題解決のため行ってきた諸努力を高く評価すべきものと考える。すなわちパレスチナ問題は、国連総会や安保理をはじめ様様の機関等で取り上げられ、地味ではあるが問題解決のための環境づくりのための成果をあげてきた。この関係では例えばUNRWAが、これまで多大の貢献をしてきた。わが国としても、同機関に積極的に協力してきており、一九八〇年には、一九七九年の援助総額七〇〇万ドルに対して、総額約九五〇ドルの援助を予定している。

 また中東地域の平和の維持・促進に不可欠な存在となっている国連レバノン暫定軍(UNIFIL)や国連兵力引離し監視軍(UNDOF)の重要な役割も看過されるべきではない。

五、国際連合は、武力行使を禁じ、あらゆる紛争を平和的に解決することを大原則とする平和機構である。

 即ち平和を希望する精神こそがその基礎であり、国際連合草創期より一貫して、最も、衆目を集めてきた複雑で困難なパレスチナ問題の解決のためには、この国際連合精神が大いに発揮される必要がある。

 わが国としても、パレスチナ問題の一日も早い解決という我々の共通の目的に向ってあらゆる努力を惜しまないことをあらためて、ここで誓いたい。