データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第35回国連総会一般討論における伊東外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1980年9月23日
[出典] 外交青書25号,388−396頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,日本国政府及び国民の名において,閣下が,国際連合第35回総会議長に選出されましたことに対し,祝意を表明いたします。閣下の卓越した指導の下に,今次総会が実り多いものになることを切望しております。

 私は,この機会に,第34回通常総会,アフガニスタン及びパレスチナに関する2度の緊急特別総会,さらには先般閉幕した経済特別総会と相次いだ総会を,厳正中立な立場に立ち,効率良くかつ適切な采配をふるわれた前議長サリム閣下に対し,衷心より敬意を表明いたします。

 同時に私は,激動する国際情勢の中にあって困難な仕事に従事しているワルトハイム事務総長閣下に対し,深い敬意を表するとともに,閣下が,国連憲章により委ねられた極めて重要な職責を新たな活力をもって果たされるよう強く希望するものであります。

 ここで私は,セントヴィンセント及びグレナディーン諸島が第154番目の加盟国として,国連加盟を認められたことを心から歓迎するものであります。わが国としては,同国と国際連合の内外において友好協力関係を促進して参りたいと考えております。

議長

 国際連合創設以来丁度35年の歳月が流れ,国際社会は1980年代に力強い第一歩を踏み出しましたが,国際社会は一つの重大な岐路にさしかかっていると言っても過言ではありません。すなわち,80年代の黎明期に起きたソ連のアフガニスタン軍事介入,さらには未だに政治的解決の糸口が見出されていないインドシナ紛争といった地域的対立・抗争の継続と部分的な激化は,緊張緩和や,諸国間の関係の緊密化という方向に向っていた従来の全体的な歴史の流れを,逆流させかねないような重大な要素を包含しております。

 また,昨年来の第2次石油危機は,既に芽生えつつあったインフレに加えて,不況,失業の問題をさらに増幅する結果となり,今日,各国経済はこれらの脅威にさらされています。また,開発途上国の自助努力及び先進国の援助努力にもかかわらず,これらの国の目指す経済開発も大きな試練に遭遇しております。

 80年代の国際社会の前途はこのように楽観が許されませんが,同時に過度に悲観的になる必要もないと考えます。国際社会は,このように暗い面ばかりを内蔵しているわけではないからです。また,人類が第2次世界大戦の惨禍から立ち直って以来35年間営々と築いてきた世界の平和と繁栄のための基盤は,それ程脆弱なものではないと考えられるからです。

 今日の国際社会は,その多元化傾向を強めつつ,各国相互の依存関係,補完関係を益々深めております。このような国際社会においては,国際協調こそあらゆる問題の解決の基本であり,さらに世界の平和と繁栄がなければ自らの平和と繁栄も望み得ません。

議長

 平和に徹し,軍事大国とならず,かつ,積極的に世界の平和と繁栄に貢献していくという従来のわが国の基本的外交姿勢は不変であります。軍事大国にならないという日本国民の決意は,戦後35年を経た今日,日本国民の間に深く根ざしております。わが国は,80年代においては,国際平和の維持と国際経済の発展に,より積極的に貢献し,国際社会におけるその国際的地位,国力にふさわしい国際責任を遂行する決意であるとをここに表明いたします。

 わが国は,かかる外交に関する基本的な考え方に立って,広く世界の国々との間に交流を深め,意思の疎通を図り,もって相互信頼関係を築くよう不断の努力を続けております。

 例えば,わが国の重要な隣国の一つであって体制の異なるソ連との間に,真の相互理解に基づいた安定的な関係の確立を図ることもわが国外交の基本課題であります。不幸にして,ソ連との間には北方領土問題が未解決のため,なお,平和条約の締結をみておりません。また,ソ連が最近わが北方領土において軍事力の配備・強化を行うという極めて遺憾な事態が生じておりますが,日本政府としては,かかる措置は国家間の信頼関係を構築する所以ではないと考えます。かかる立場から,日本政府としては,今後ともこのような事態の速やかなる是正を求めるとともに,平和条約締結のために引続き努力し,もってソ連との間の真の友好関係を維持発展させるべく努力する考えでありますが,同時にソ連側も善隣と友好を言葉だけでなく,具体的行動をもって示すことを強く期待するものであります。

議長

 次に私は,国際社会の当面する問題のうち,国際の平和と安定及び国際正義の視点から特に重要と思われるものをとり上げ,日本政府の考え方につき簡潔に申し述べたいと思います。

 まず第1に挙げなければならないのは,カンボディアの情勢であります。問題は,二つあります。第1は,カンボディアに平和を回復し,真の民族自決による国造りを助けること,第2は,難民及びそれによって影響を受けたタイ被災民を救済することであります。アジアに位置するわが国としては,カンボディアにおいて戦闘が続き,幾十万の人々が依然生きるのが精一杯という状態に置かれていること,特に最近カンボディアの戦火がタイにまで波及したことに重大な関心を懐かざるを得ません。

 カンボディアに平和を回復し問題を根本的に解決するために,すべての外国軍隊の撤退と,カンボディア国民による自決権行使等を求めた第34回国連総会決議が圧倒的多数をもって採択されてから早1年たちました。この間,本年8月,ワルトハイム事務総長は,カンボディア問題解決を目指して,ヴィエトナム及びタイを訪問しましたが,本問題が未だに平和的解決の糸口すら見出されていないことは極めて残念なことであります。わが国は,あらためて右決議の完全な履行こそが戦火にさいなまれ,あるいは隣国に逃れることを余儀なくされて悲惨な状況にある,カンボディア民衆に安らぎを取り戻す唯一の途であることを国際社会に,またこの場をかりてあらためて全戦闘当事者に強く訴えたいと思います。

 私は,国際連合が,右決議の示した方向に沿った解決が実現されるような環境をつくるために,新たなイニシアティヴをとるべきであると考えます。そのための我々の緊急課題は,先ず第1に,地域の不安定をこれ以上悪化させないため,カンボディアにおける紛争が再び隣国のタイに波及することを是非とも回避することであります。さらに,私は,今次総会においては,わが国が昨年来提唱し,昨総会の決議34/22にもうたわれるに至ったカンボディアに関する国際会議開催について,その開催時期,場所,討議事項等につき,さらに具体性をもった有益な討議が行われ,新たな決議の中でこれらに関するガイドラインが設定されることを強く期待するものであります。かかる観点から,わが国としては,わが国の以上のような基本的考え方を盛り込んだASEAN諸国等提案の新しいカンボディア問題に関する決議案を全面的に支持し,共同提案国となりましたが,国際正義を愛する諸国は,すべてこれを支持するものと確信します。

議長

 私は,去る8月,タイのカンボディア国境地帯を訪れ,難民及び付近のタイ被災民の悲惨な状態をこの目で見て参りました。政治面の問題と並んで,カンボディア紛争の犠牲となっている一般民衆に対する人道援助は,国際社会に課された今一つの緊急の課題であります。

 特に,私はカンボディア難民の大量流入によりタイ・カンボディア国境沿いのタイ民衆がその生活を脅かされているという事実についても指摘したいと思います。わが国としては,関係国際機関及び政府の協力により,こうした難民・被災民に対する国際的人道援助が相当の成果を挙げつつあることを高く評価するものであり,今後とも救済活動に協力していく決意であります。

 ただし,カンボディア民衆に対する人道援助を効果的に実施していくにあたっては,物資の配布の改善が急務であります。かかる観点から,ASEAN諸国及びわが国が提案している非武装平和地帯設置の必要性につき,あらためて国際社会に訴えたいと思います。同提案は,援助に携わっている国際機関が関係当事者と協議の上,カンボディア領内の特定の地域を非武装平和地帯に指定し,援助物資の配布を安全且つ確実に行うことを目的としたものであります。私は,国際連合の関係諸機関が非武装平和地帯の設置につき早急に関係当事者と協議すること,関係当事国が政治的立場の差異を超越し,純粋に人道的観点から,かかる「非武装平和地帯」の設置に賛同し,国際機関によるカンボディア民衆救済活動に全面的に協力することを求めたいと考えます。また,私は,右の構想を実効的たらしめるため,国際連合の関連諸機関がこの非武装平和地帯のモニタリングの上で積極的な役割を果たすことを希望します。ただし,本件非武装平和地帯設置は,ASEAN諸国がかねて要請し,わが国も支持しているタイ領への国連オブザーバーチームの派遣とともに,あくまで当面の応急措置であり,東南アジアの永続的安定のためには,カンボディア問題の根源に遡って解決がなされる必要のあることはあらためて強調するまでもありません。

議長

 昨年末のソ連のアフガニスタンに対する軍事介入は,内政不干渉,武力不行使といった国連憲章の大原則に反するばかりでなく,国際の平和と安全を著しく損うものであります。国際社会がかかる国際法及び国際正義に対するあからさまな挑戦を断じて容認し得ないとしていることは,外国軍隊の即時,無条件,全面的な撤退を求めた本年1月の国連緊急特別総会決議が圧倒的多数をもって採択されたほか,その後,イスラム諸国外相会議が2回にわたり同趣旨の決議を採択している事実が明確に示しております。

 国際社会の度重なる呼びかけにもかかわらず,ソ連がその軍隊を依然としてアフガニスタン国内に駐留せしめ,アフガニスタン国民の自由意思による政府の樹立を妨げ,近隣諸国,さらには全世界を不安に陥れていることに対し,日本政府は深い憂慮の念を表明せざるを得ません。ソ連軍の即時撤退,アフガニスタン人民の自決権の尊重を強く訴えるものであります。また,国際連合としても,先の緊急特別総会の決議を基礎として,具体的な解決策を新たな決議案の形で採択するに至ることを強く期待するものであります。

議長

 ソ連のアフガニスタンに対する軍事介入により加速されたアフガニスタン難民の問題は,インドシナ難民問題に劣らず私の心を痛めております。私は,この問題をよりよく理解し,わが国として,また国際社会として何をなすべきかを探るため,去る8月,タイの難民キャンプに次いでパキスタンの難民キャンプをも視察しました。如何なる国であるかを問わず,戦火を逃れるため,着のみ着のままで祖国を離れ,異郷を飢えと病に苦しみながら彷徨うことを余儀なくされた人々を放置することは,人類の良心が許しません。国際社会は,問題の根源たる政治的解決を急ぐ一方,人道的観点から,これらの不幸な人々に温かい救援の手を差し伸べるべきであります。

 わが国としても,かかる観点から,国連難民高等弁務官,国連パレスチナ難民救済機関等への大きな額の拠出を通じ,世界各地の難民救済に意欲的な姿勢を示してきておりますが,今後ともこれら難民に対する援助努力を継続していく所存であります。特にアジアにあるわが国としては,インドシナ難民及びアフガニスタン難民に大きな関心を有するものであります。わが国は,これら難民を受け入れているタイ及びパキスタン両国政府の諸困難には同情を禁じ得ないものであり,両国政府が,国際社会の支援の下に,これら諸困難を克服されんことを心から期待しています。

議長

 私は,イランにおける米国大使館占拠,外交官人質事件がかくも長い期間解決をみていないことを深く憂慮するものであります。この事件は,確立された国際法に違反しており,また,安保理決議及び国際司法裁判所判決においても,その不法性が指摘されているところであり,国際社会として決して放置し得ない性質のものであります。

 私は,人質が1日も早く解放され,事態が平和的に解決することを切望するものであり,ここ数日伝えられる現地の動きについては,特に関心をもってその成り行きを注目しております。

 なお,現在,イランとイラクの間の紛争が激化の様相を呈し,戦火が拡大していることを深く憂慮するものであります。私は戦闘が1日も早く終結し,両国が如何なる紛争をも国連憲章に基づいて解決することを強く希望いたします。

議長

 わが国は隣接する朝鮮半島の情勢にも大きな関心を有しております。

 昨年秋以来韓国において諸々の新たな動きが見られておりますが,わが国としては同国の安定が維持され,着実な発展が図られることを心から期待するとともに,朝鮮半島の平和と緊張緩和のための関係当事者の努力が今後とも粘り強く払われるよう切望するものであります。南北双方間には依然厳しい立場の相違がみられますが,朝鮮半島において真の平和と安定を確立するため,両当事者が対話を進め,相互理解を深めるための交流を逐次開始することを強く希望します。

議長

 私は,次に中東問題に目を転じたいと思います。中東問題の解決は,同地域の安定と発展のためのみならず,国際の平和と安全のために不可欠であります。

 わが国の中東問題に関する基本的立場は,去る7月に開催されたパレスチナ緊急特別総会においても,わが国代表が明確に述べたとおりであります。

 すなわち,わが国は,公正かつ永続的な中東和平の実現のためには,国連安保理決議242及び338が完全に実施され,イスラエルが67年戦争の全占領地から撤退し,かつ国連憲章に基づき,パレスチナ人の民族自決権を含む正当な諸権利が承認され,尊重されなければならないと考えております。

 以上の観点から,わが国は,総会決議3236及び去る7月緊急特別総会で採択された総会決議ES−7/2にうたわれたパレスチナ人の自決権に関する原則と精神を支持するものであります。

 これら決議が今後の公正な中東和平達成のための永続性のある基礎となるためには,公正な解決の本質的要素の一つである,域内のすべての国が安全かつ承認された境界の中で,平和に生存する権利の尊重と確認がもりこまれることが必要であると考えます。

 わが国は,従来より中東問題の核心といわれるパレスチナ問題の重要性を認めており,問題の公正な解決のためにパレスチナ人を代表するPLOとイスラエルが,相互に相手の立場を認めることにより,PLOが和平過程に参加することが必要であると確信しております。また,わが国は,問題の公正な解決のための環境づくりに,関係当事者が一致して真剣な努力を払う必要があることを強調したいと思います。その関連でわが国は,最近のパレスチナ自治交渉の停滞と西岸情勢の悪化を極めて憂慮しておりますが,その一義的原因が占領地における入植地の建設,東ジェルサレムの併合措置等イスラエルの占領政策に起因していることは,非常に遺憾なことであります。イスラエルが国際社会の声に素直に耳を傾け,平和的な話し合いに応じる勇気と柔軟な態度を示すよう切に願うものであります。

 わが国としては,公正な問題解決のためにこれまで得られた成果を損うことなく,これを補完し,更に前進させるためのあらゆる国際的な努力を支持するとともに,わが国独自の立場から,より積極的に解決策を模索していく方針であります。

議長

 南部アフリカにおいては,国際社会にとって長年の懸案であった南ローデシア問題が,交渉により平和裡に解決したことは慶賀にたえません。しかしながら,南アフリカにおいて人種差別が依然として続けられていることは,多数支配体制の確立という歴史の流れに逆行するものであり,強く非難されるべきであります。国際連盟時代から人種差別に断固反対してきたわが国としては,南アフリカ共和国政府が人種差別の撤廃に努力することを強く求めるものであります。

 また,南アフリカ共和国政府の非妥協的な態度により,国連ナミビア独立支援グループが未だ実現をみていないことは,極めて遺憾であります。わが国は,国連ナミビア独立支援グループに積極的に参加する用意がある旨を表明してきましたが,同グループが1日も早く実現されることを強く希望するものであります。

議長

 軍縮は,国際平和達成のための不可欠な要素であります。第2次軍縮の10年の初年にあたり,軍縮促進のための堅い決意を新たにする必要がありましょう。私は,第2次軍縮の10年を「実りのある10年」とするための第一歩として,国際社会がその実現を待ち望んでいる包括的核実験禁止条約,化学兵器禁止条約が早期に締結されるよう強く訴えたいと思います。

 1982年には第2回国連軍縮特別総会が予定されております。同総会を成功裡に開催すべく,わが国は,準備作業の段階から,積極的な役割を演じたいと考えます。

議長

 諸国民の繁栄のためには,世界の平和がなければならないと同様に,世界の平和を真に確立するためには,その礎としての諸国民の繁栄,すなわち,世界経済の安定と発展が不可欠であります。

 かかる観点から80年代を迎えた世界経済に目を転ずるとき,現下の世界各国の経済が,インフレ,不況と失業,国際収支の不均衡といった幾多の困難に直面している姿を見出すのです。しかしながら,このような世界経済の現状の下で一つ確かなことは,相互依存関係が進んだ現在,世界経済の調和のとれた発展と拡大なしには,いずれの国の経済的繁栄も不可能であるという事実であります。したがって,世界の各国が国際協調の精神の下に相応の役割を担い,責任を果して行くことが不可欠であります。

 先日閉会した特別総会において,わが国は「南」と「北」が南北間の諸懸案に取り組むに際して,「相互の利益」となる解決策を探究し,見出すことに「共同の責任」を有する旨を強調したのも,南北双方の責任ある対応の仕方が結局は双方の利益に合致するものである,との基本的な考え方に基づいております。

 私は,経済特別総会において,80年代の新国際開発戦略が実質的に策定されたことを歓迎したいと思います。私は,南北対話を粘り強く続け,長期的な見地に立った南北間の真の協調関係を生み出して行くことが極めて重要であると考えており,したがって,今次総会において,特別総会の成果を基本として,グローバル・ネゴシエーションズ開始の準備が整うことを心から期待するものであります。

 この関連で,石油をはじめとするエネルギー問題は,とりわけ石油価格の高騰が,非産油開発途上国を始めとして世界経済全体に深刻な影響を及ぼしている事実にかんがみ,産消双方が相協力して真剣に取り組まなければならない緊急かつ最優先の課題であることを指摘したいと思います。

議長

 開発途上国の「国造り」,「人造り」に対する先進国の協力は,世界の平和と安定の基礎固めとして重要であります。

 わが国は,経済,社会開発に対する開発途上国の正当な期待に応えることが,先進工業国の責務であるとの考えに立って,開発途上国の経済,社会開発のための自助努力を支援するために最大限の努力を行っております。まず,開発援助の面では,わが国は1978年から3年間で政府開発援助実績を倍増させるとの中期目標に基づき,最終年度たる本年には同目標を確実に達成することとしております。さらに,その後においても,かかる積極的姿勢を維持し,政府開発援助の量の拡大及び対GNP比の改善に向けて一層努力して行く所存であります。政府開発援助の内容については,人道援助,人造り協力,農業,エネルギーの各分野を重視して行く方針であります。

 第2に開発途上国の貿易拡大面,とりわけ,多くの開発途上国の一次産品輸出の分野についての最近の特筆すべき進展は,本年6月の交渉会議において,長年の懸案であった一次産品共通基金の設立協定が採択されたことであります。わが国は,多くの開発途上国経済の安定にとっての共通基金の重要性にかんがみ,一貫して同基金の早期設立のため努力を重ねて参りました。さらに,同基金に対しては,その第2の窓に対する最大の拠出を含め,合計6,000万ドルを超える拠出を行う予定であります。

議長

 私は,ここで,平和維持の分野で,国際連合が国連憲章本来の目的をよりよく遂行することができるための方策につき,若干具体的な考え方を述べてみたいと思います。

 まず第1に,国連加盟国が,国連総会や安全保障理事会が平和維持の分野で採択する諸々の政治的決議を最大限に尊重すべきであります。特に,国連加盟国の圧倒的多数の賛成によって成立した,言わば国際社会の総意ともいうべき重要な政治的決議を紛争等の直接当事者が無視し,場合によってはこれに公然と挑戦するが如き傾向が昨今見られることは,極めて憂慮すべきであります。私は,このような当事者に対し,国連諸決議を最大限尊重するよう訴える次第であります。

 私は,第2に,わが国が昨年の総会一般討論演説でも提案した,国際連合の事実調査機能強化のための具体的な方策につき,再び言及したいと思います。重要な紛争が発生する毎に,事務総長の代表を一定の期間駐留せしめ,事実関係を調査し,事務総長に随時報告せしめることとする昨年のわが国の具体的な提案は,その後のタイ・カンボディア間の国境緊張等に思いをいたすとき,さらに現実性を増してきているものと確信いたします。この関係で,私は,国連事務総長が,国連憲章上与えられた権限を一層活用し,積極的な行動をとられることを期待いたします。それとともに,全加盟国が事務総長の任務遂行に最大限の協力を行うことを訴えたいと思います。

 私はさらに,第3に,「拒否権」の制限の問題をとり上げてみたいと思います。

 拒否権制度そのものの存続の必要性は認めるにしても,可能な限りその濫用を制限することは,安全保障理事会の平和維持機能を高める所以であります。この観点から,私は「国連憲章及び国連の役割強化特別委員会」等におけるこの点に関する今後の議論に注目しております。

 本日,この場では,私は,先の事実調査機能に関連する安全保障理事会の事実調査権に関して,具体的な示唆を一例として挙げておくにとどめたいと思います。すなわち,安全保障理事会の持つ重要な権限の一つである事実調査権を規定した国連憲章第34条には常任理事国の拒否権が働くと解されているため,事実上背後に拒否権をもつ大国がひかえている主要な国際粉争には,事実調査の面で安全保障理事会が関与し得ない事態となっております。そこで,私は,少なくとも安全保障理事会が第34条に基づき事実調査の決定を行う際には,常任理事国の拒否権行使が行われないような措置を国際連合として早急にとるべきであると考えます。ただし,事実調査の面での安全保障理事会の円滑な機能は,同理事会が,情勢の進展により効果的に対処し得ることを意味し,国連の平和維持機能を飛躍的に高めることにつながるものと確信するからであります。

議長

 国際社会の法と秩序に対する公然たる挑戦や,さらにはそれによって生れた既成事実がともすれば,流れとともに国際正義をおしし流してしまう傾向があるような今日,国際社会が坐視していたのでは決して平和は保たれません。世界の平和がなければ自らの平和もないとの認識に立って,国際社会を構成する各々の国が世界平和を探求するための共同の責任を担って行くことが不可欠でありましょう。このような平和のための積極的な責任遂行の努力こそが,我々が我々の後世に少しでも平和で,少しでも住みよい国際社会を引き継いで行けるか否かの鍵となるものであると思います。

 私は,わが国としても,平和な国際社会の建設のためにわが国が果たすべきかかる責任をさらに積極的に果たして行く用意のあることを再確認しつつ,私の発言を終えたいと思います。