データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第36回国連総会一般討論における園田外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1981年9月22日
[出典] 外交青書26号,428ー435頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,日本国政府及び国民を代表して閣下が第36回国連総会議長に選出されたことに対し,心から祝意を表明いたします。私は閣下が国際連合における豊富な経験と卓越した識見によって,今次総会を必ずや実り多きものとされることを確信いたします。日本代表団は,同じアジアの一員として閣下の重要なる責務の遂行に対し協力を惜しまない所存であります。

私は,また,第35回総会議長フォン・ヴェヒマー閣下の業績に対し心から感謝の意を表したいと思います。我々は過去1年にわたる閣下の行動力とすぐれた指導力に深い感銘を受けました。

 私は,また,この機会にクルト・ワルトハイム事務総長に対し敬意を表するものであります。この6月に同総長を我が国にお迎えし国際連合が直面する諸問題につき意見を交換できましたことは私の最も喜びとするところでありました。

 ここで私は南太平洋の友邦ヴェヌアツがこの度国際連合に加盟されたことを心から歓迎いたします。我が国は同国と国際連合の内外において友好協力関係を促進して参りたいと考えております。

議長

 今日の世界は,政治情勢,国際経済の両面における流動化と不安定化によって特徴づけられておりますが,私は,このような不安定な世界の流れを変え,国際社会をより安定した基盤の上に置く方途として,まず第一に軍縮の問題を取り上げたいと思います。

議長

 近年の恐るべき核兵器とその運搬手段の発達は,全人類を一瞬にして破滅の淵に陥れる危険につながっております。軍備競争を停止し,核兵器の廃絶をはじめとする軍縮を実現することは,世界の安定と発展のための最大の課題であります。

 今日,東西間の対話が行われないまま,核実験が今なお続けられ,核兵器の生産が加速化され,質の高度化と多様化が進み,また,その展開が急速に増大しております。現在,世界には,実に広島型原爆の100万発分に相当する核兵器が存在すると言われ,しかもなお核軍備競争はとどまるところを知りません。このような事態は,人類に対する重大な脅威であります。我が国は,すべての核兵器国が,我々の子孫に対して背負っている重大な責任を自覚し,世界の平和と安全のために大局的見地に立って核軍縮の実現に努力するよう強く要請いたします。

特に,我々は,米ソ両国がこのような責任の自覚の上に立って,戦略兵器の制限と実質的削減を目標とする交渉の進展に向けて最大限の努力を傾注することを強く要請いたします。また,私は,最近米ソ両国間で戦略核制限交渉開始への動きが見られることを歓迎するものであり,これを契機に両国が平和と安定を目指して対話を推進することを切望してやみません。

 1978年の第1回国連軍縮特別総会において,私は,全面完全軍縮の実現に向って前進するためには,その理想を一刻たりとも忘れることなしに,実現可能な具体的措置を一歩一歩積み重ねていくべきであると訴えました。

 全面完全軍縮は,人類共通の願望でありますが,同時に軍縮の問題は,各国の安全保障の問題と表裏一体であり,その促進が容易でないことは申すまでもありません。今日の国際社会においては,地域的な,また,世界的な規模における諸国間の力の均衡が,国際社会の平和と安全を維持するための支えとなっているという事実は率直に認めなければなりません。

 しかし,国際社会を長期的により安定した基礎の上に置くためには,我々は,より低い軍備水準において力の均衡を保ちつつ平和と安全を確保し得るよう,核軍縮を中心として真の軍縮を推進しなければならないと考えるものであります。このような目標に向って我々は,効果的な検証措置を伴う軍縮への努力を着実に積み重ねてゆくべきであります。そしてこのような軍縮努力により資源が開放され,国際的文化交流の促進,南北問題への寄与,世界経済の向上のために向けられることを心から希望するものであります。

議長

 我が国は,具体的な軍縮措置の中でも特に緊急の課題として,核軍縮競争を停止するための第一歩である包括的核実験の禁止が早期に実現されるべきであると考えます。また,核兵器と並ぶ大量破壊兵器である化学兵器の禁止についてもその実現へ向けて交渉が促進されるよう強く訴えます。

 我が国は,明年の第2回軍縮特別総会が,人類を予期せざる破局に導く恐れのある軍備競争に歯止めをかけ,あらゆる核兵器の究極的廃絶をめざして一層真剣な国際的努力がなされる契機となることを強く求めるものであります。かかる観点から,我が国は,明年の第2回軍縮特別総会においては,第1回特別総会以降軍縮が進展をみなかった要因が検討され,全面完全軍縮へ向けて前進を図るための方途が,具体的かつ建設的に審議されることを期待するものであります。核兵器を持たず,作らず,持ち込ませずとの非核三原則を堅持し,核軍縮を中心とする軍縮の促進を願望する我が国は,そのために積極的に寄与して行く決意であります。

議長

 世界の不安定要因を除去し,国際社会に平和と繁栄をもたらすためには,世界経済の安定と発展が不可欠であることはいうまでもありません。2度にわたる石油危機を経て,多くの国は深刻な不況と失業の増大,インフレの昂進,国際収支の不均衡といった困難に直面しております。他方,この間に経済の相互依存関係は一段と深まり,先進国と開発途上国とは世界経済という大きな船の中で運命を共にする関係を強めつつあります。

 このような中にあって,今後の南北関係が進むべき路は,援助国も被援助国も互いに世界経済の好転ひいては世界平和の探究のために助け合い,補い合う以外にありません。南と北が対決する時代は過ぎ去るべきであります。今や,南北関係は,過去の歴史から離れて新しい時代へと転換し,「相互依存と連帯」の精神に立脚すべきものであると確信いたします。

 我が国は,このような認識に立って,南北問題に積極的に対処したいと考えるものであり,建設的な南北対話の推進に貢献する決意であります。

 南北対話の一つの進め方として,国連包括交渉の早期開始を我が国が支持していることは御承知のとおりであります。我が国としては来月メキシコのカンクンにおいて開催される協力と開発に関する国際会議が,「相互依存と連帯」の基本認識に立つ南北対話を推進する重要な契機となるよう努力する所存であります。この会議の成果の一つとして国連包括交渉の開始への機運が熟することを期待するものであります。

議長

 我が国は,南北問題の解決に資するため,また,世界の平和と安定の維持に貢献するため,経済協力を積極的に推進しております。

 我が国は,政府開発援助の拡充を重視し,1978年には,政府開発援助を3年間で倍増するとの中期目標を立てましたが,その最終年にあたる昨年にはこの目標を上回る実績を達成しました。その後においても,引続き政府開発援助の対国民総生産比の改善を図るとともに,今後5ヵ年間の政府開発援助の総計をこれまで5ヶ年間の総計の倍以上,即ち214億ドル以上とするよう努めるとの新中期目標を本年1月設定し,厳しい財政状況のもとではありますが,政府開発援助の積極的拡充に努めております。

 我が国は,援助の具体的実施に当っては,農村・農業開発,エネルギー開発,基礎生活援助,人造り協力といった開発途上国の住民の民生安定,福祉向上に直接裨益する分野を今後とも重視していく方針であります。

 貿易の分野においては,我が国は,開発途上国の貿易の発展に資するため,本年,一般特恵制度の適用制限を10年間延長することを決定しました。また,昨年4月からは,後発開発途上国に対し,原則として,特恵税率をすべて無税としシーリング枠を全廃する等の優遇措置を導入しております。

 我が国がその取りまとめに積極的に貢献した一次産品共通基金については,我が国は,その早期発足を促進するため,既に,本年6月に,同協定の締約国となりました。共通基金は,開発途上国の一次産品価格の安定に資するため,長年にわたる困難な交渉の結果まとまった南北関係史上特筆すべき成果と考えます。我が国は,同協定を発効目標日たる1982年3月31日までに発効させるため各国が速やかに同協定の締約国となることを強く期待いたします。

議長

私は,ここで更に,現下の国際情勢に不安定をもたらしている主要な問題を取上げ,我が国の見解を申し述べたいと思います。

今日の不安定な国際情勢において,アジアの一国として特に挙げなければならないのは,東南アジアの平和と安定に大きな影響を与えているカンボディア情勢であります。

カンボディア問題の核心は,外国軍隊が武力介入し,カンボジア国民の民族自決の権利が否定されていること,その結果,東南アジアの平和と安全が脅かされ,この地域の安定と繁栄が妨げられていることにあります。

私は,このようなカンボジア問題を解決するための第一歩として,本年7月,多数の非同盟諸国を含む国連加盟国の3分の2の参加を得て,昨総会の決議に基づく国際会議が開催され,カンボディアに関する宣言と決議が全会一致で採択されたことを心から歓迎するものであります。

 私は,すべての関係国が,この宣言に盛られたカンボディア問題の包括的政治解決のための諸原則とその具体的方途を,国際社会の声として尊重し国連監視下における外国軍隊の撤退と自由占拠の実施のための交渉が速やかに開始されるよう強く訴えるものであります。

 我が国は,国際会議の下に設置された暫定委員会の一員に選出されましたが、カンボジアに一日も早く平和が回復されるよう出来る限りの貢献を行う所存であります。

 私は,問題解決のための交渉に至る過程において,例えば国連事務総長が,暫定委員会とも緊密な連絡をとりつつ,事務総長の代表を,国際会議に参加しなかった諸国を含む関係国に派遣し,国際会議の結果を伝えるとともに,包括的政治解決をはかるための交渉を進める方途を探究せしめることも有益ではないかと考えます。

 私は,カンボディアの難民を含むインドシナ難民がタイにとって大きな負担となっていることに心から同情するものであります。我が国はインドシナ難民に対する救済援助やこれら難民の自発的本国帰還の促進のために,国際連合が払ってきた努力を高く評価するとともに,今後一層有効な役割を果たすよう期待するものであります。我が国も人道上及び東南アジア諸国の負担を軽減する観点から,これら難民に対する救済援助を積極的に行って参りました。

 しかしながら,難民問題の解決のためには難民救済の援助に止まらず,難民発生の根源そのものを絶つための方策を見出すことが重要であると考えます。このような観点から,我が国は難民流出国に対し,難民の流出を抑制するために一層の努力を払うよう改めて訴えるものであります。

議長

 次に,朝鮮半島について触れたいと思います。私は,最近韓国政府が行った最高首脳の相互訪問などによる南北間の対話再開の提案を強く支持するものであり,引続き対話の実現への努力が続けられるよう希望するものであります。国際連合は,これまで朝鮮半島における平和の回復と維持に重要な役割を果たしてきましたが,両当事者が対話を再開しうるよう国連事務総長が斡旋の労をとることも検討されるべきであると考えます。

議長

 最近の国際情勢を顧みるときその不安定化をもたらした重大事件が中東及び西アジア地域を中心に発生していることに注目せざるを得ません。

 ソ連のアフガニスタンに対する侵攻は,外国軍隊の武力介入によって民族の自決権を否定するという,国際正義及び国連憲章に対するあからさまな挑戦であり,断じて容認しえないところであります。私は,ここで改めてソ連が国際社会の度重なる要請に従って,その軍隊をアフガニスタンから即時撤退せしめ,アフガニスタン人民の自決権を尊重するよう強く訴えるものであります。

 また,我が国は,アフガニスタン難民を受け入れているパキスタン政府の諸困難に対し心から同情するものであり,国連難民高等弁務官事務所を中心とする救済活動に対しては,人道上及びこの地域の平和と安定の見地から今後とも積極的な協力を行っていく所存であります。

議長

 昨年は不幸にもイランとイラクの間にも武力紛争が起り,戦闘が依然として続いていることを深く憂慮するものであります。私は,両国が国連憲章の原則に従って一日も早く戦闘を停止し,紛争を平和的手段によって解決するよう要請します。また,国際連合が事務総長特使を通じて行っている調整のための活動が成果を挙げることができるよう関係国の協力を訴えるものであります。

議長

 中東地域の平和と安定は世界の平和と繁栄にとり不可欠であります。我が国は,同地域に公正,永続的かつ包括的な和平が平和的手段により早期に実現することを強く希望するものでありますが,このような和平の実現のためには,安全保障理事会決議242及び338が完全に実施され,また,国連憲章に基づき,パレスチナ人の民族自決権を含む正当な権利が承認され,尊重されなければならないと考えております。

更に,我が国は,中東問題の核心であるパレスチナ問題の公正な解決のためには,パレスチナ人の民族自決権とイスラエルの生存権が相互に認められ,パレスチナ人を代表するPLOが,和平の過程に参加することが必要であると考えております。

 レバノン情勢については,本年7月に至り,関係国当事者の努力によって停戦が実現したことは誠に喜ばしいことであります。我が国は,安全保障理事会が採択したレバノンにおける即時停戦を求める決議を共同提案した国として,この停戦を心から歓迎するものであります。

 我々は,この停戦を今後共継続させ,これを第一歩として中東問題の解決に向けて国際的な努力を傾注することが重要であると考えます。私は,すべての関係当事者が,このような国際的努力の雰囲気を打ちこわすような行動をとることのないよう,強く自制を訴えるものであります。

 我が国は,中東地域の平和維持に大きな役割を果たしている国連の平和維持活動を今後共強く支援するものであり,また,関係当事者のすべてが,この活動を支持するよう要請するものであります。

 本年6月のイスラエルによるイラク原子力施設の爆撃は,国際法と国連憲章に違反する暴挙であり,また,核不拡散を確保しつつ原子力平和利用を推進せんとしている各国の努力に対する挑戦であります。我が国は,これを強く非難するものであり,イスラエルが,安全保障理事会において全会一致で採択された決議487を国際世論の最小限の要請として謙虚に耳を傾けるよう訴えるものであります。

議長

アフリカ情勢においても遺憾ながら不安定をもたらしている事態が依然続いております。特に,南アフリカにおいて,人種差別が未だに撤廃されていないことは極めて重大なことであります。我が国は南アフリカ共和国政府が国連憲章の原則に反するアパルトヘイト政策を速やかに撤廃するよう強く求めるものであります。

また,南アフリカ共和国政府の頑迷なる態度のため,ナミビアにおいて,国連監視の下における自由選挙と独立が未だに実現を見ていないことは誠に遺憾であります。我が国は,ナミビア問題が安全保障理事会決議435を基礎として解決されるべきであるとの見解を改めて確認するとともに,問題の早期解決に向けて関係国が更に努力を傾けられることを強く希望いたします。

我が国は,国連ナミビア独立支援グループに積極的に参加する用意があることを明らかにしてきておりますが,同グループが活動を開始し,ナミビア独立が一日も早く達成されることを心から願うものであります。

私は,アフリカにおいても難民が急増している現状に深い憂慮の念を表明せざるを得ません。我が国は,本年4月開催されたアフリカ難民援助・国際会議において積極的な協力の意図表明を行いました。私は,各国が,飢餓と疾病に苦しむ難民の救済に,今後とも最大の援助を行う必要があると考えるものであります。議長

 我が国は,あくまでも平和に徹し,軍事大国にならないという基本的立場に立って,世界の平和と繁栄に貢献することを一貫した外交方針としております。我が国は,今日の不安定な国際情勢の下でこそ,世界の平和と繁栄のために一層積極的に貢献していく決意であり,このため,広く世界の国々との友好・協力関係の増進に努めていく考えであります。

 このような方針に基づき,我が国の最も重要な隣国であるソ連との間においても真の相互理解に基づいた友好・協力関係の発展を図りたいと念願しております。

 しかしながら,日ソ両国間には現在なお未解決の領土問題が存在しております。我が国がソ連に返還を求めている北方領土は,歯舞群島,色丹島,国後島,択捉島でありますが,これらの諸島が,我が国がサンフランシスコ対日平和条約で放棄した千島列島に含まれていないことは,歴史的にも,また,法的にも明らかであります。私は,この領土問題が未解決のため両国間の平和条約の締結をみるに至っていないことが,両国関係を安定的な基礎の上に発展させるための大きな障害となっていること,また,近年,ソ連が,我が北方領土において軍事力の配備・強化を行うという,極めて遺憾な事態が生じていることを指摘せざるを得ません。日本政府としては,このような事態の速やかなる是正を求めるとともに,北方領土問題を解決して我が国との平和条約を締結するための話し合いの関につくことをソ連に強く求めるものであります。私は,この問題が解決され我が国とソ連との間の真の友好関係が発展することはアジアひいては世界の平和と安定に寄与する所以であると確信するものであります。

 なお,本日,ソ連外務大臣は,その演説の中で,米中間の軍事協力の確率にあたかも日本がかかわりを持っているかの如き発言を行いました。これは全く根拠のない主張であることをここにはっきりと申し述べます。

議長

 私は,現下の世界情勢の流れを変え,国際社会を安定と発展に導くに当たって,国際連合は,一層積極的に活用されるべきであると考えます。

 現実には国際連合がその機能と役割を果たすに当たっては,多くの困難と制約があることは確かであります。しかし,国際連合が,我々の直面する問題の解決に有効な役割を果たしうるか否かは,正に,我々加盟国自身の態度にかかっていることを忘れてはなりません。

 国際連合の創設に当たり人類は世界の平和と繁栄の希望をこの機構に託しました。私は,各加盟国が,この創設時の初心に帰り,国際連合の機能を再活性化させるために,国際連合に何を期待するかといった受け身の態度からではなく,問題解決のために国際連合をいかに有効に活用するかという能動的な観点から,国際連合の果たすべき役割を見直すことが,この際極めて重要であると信じます。

 私は,国と国,地域と地域の間の相互依存関係が深まっている今日の国際社会にあっては,世界が直面している重要問題は,国際的な努力によってこそ,はじめて解決することが可能であると信ずるものであります。国際連合は,人類が有する唯一の普遍的な国際機構であり,このような国際的な努力を維持する上での一つの場として有効に活用すべきであります。

 世界の不安定要因を除去し,もって,人類に恒久の平和と繁栄をもたらすとの共通目標に向かって,大国のみならずすべての国連加盟国が,連帯して努力を傾けるよう訴えて,私の発言を終りたいと思います。

 有難うございました。