データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第39回国連総会一般討論における安倍外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1984年9月26日
[出典] 外交青書29号,426ー433頁.
[備考] 
[全文]

議長

 私は,日本国政府及び国民を代表し,閣下が第39回国連総会議長に選出されたことに対して,心から祝意を表します。閣下の豊かな経験と卓越した識見によって,今次総会は必ずや実り多きものとなるでありましょう。日本代表団は,閣下の重要な責務の遂行に対して協力を惜しみません。

 同時に私は,第38回総会議長イリュエカ閣下が,その重責をよく果たされたことに対して,深い感謝の意を表明します。

 また私は,この機会にペレス・デ・クエヤル事務総長閣下に対して敬意を表します。就任以来3年間,閣下が厳しい国際情勢下で精力的に活動を続けられ,成果を上げておられることは誠に心強い限りであります。

 さらに私は,ブルネイ・ダルサラームが159番目の加盟国として国連に迎え入れられたことを,心から歓迎いたします。同じアジアの加盟国の一員として喜びに堪えません。

議長

 第二次大戦後,すでに40年近くが経過しようとしております。この間,世界は,政治的にも経済的にも社会的にも,歴史上かつてないような大きな変化を経験し,それは加速化の一途を辿りつつあります。かかる変化は,その規模,重大性において,もはや一国のみにおいて対応しうるものではなくなり,また緊急性において,対応に遅滞が許されなくなりました。創意に溢れる洞察力と国際間の協力−それこそが今求められているのであります。

 にも拘らず,国際情勢は依然として厳しい状態にあります。

 その基調をなす東西関係,就中,米ソ関係は低迷しており,両国間の軍備管理・軍縮交渉は中断したままであります。世界各地の紛争や対立等,不安定な情勢も継続しております。

 世界経済の面では,先進国を中心に,回復基調は次第に勢いを増しつつはあるものの,なお失業や財政赤字の問題は解消されず,保護主義も根強く残っております。また,開発途上国は,累積債務問題やアフリカの食糧問題等に見られるごとく,多くの困難に直面しております。

 しかし他方,国連あるいは,多国間,二国間において,緊張緩和や経済回復のための地道な協力も懸命に行われており,この力が次第に大きくなりつつあることが看取できます。

議長

 振りかえってみると,戦後の我が国の平和と繁栄は,国際環境に助けられてきた面が少なくありません。しかし,今日,国際環境の変化と我が国経済力の伸長により,世界は我が国に対し,その国力にふさわしい国際的責任を果すことを求めるにいたっております。

 私は,外務大臣就任以来,アジアと世界に平和と繁栄を導くため,軍縮及び緊張緩和に対する外交努力を強めることと,経済交流による開発途上国の活性化を図ること,そして,以上の二つを念頭に置きつつ,自由世界との協力・連帯を強化すること,アジア・太平洋諸国との友好協力関係を増進すること,さらに東側との間にも対話によって相互信頼関係を求めることにつとめてきました。国際情勢の困難化しつつある今日,私はこの五つを基本原則としつつ,より能動的,より積極的な行動に踏み込み,「創造的外交」を展開して,我が国に寄せられる国際社会の期待に応えて行く決意であります。

議長

 私は,かかる観点から,ここに,私が特に重要と考える国際情勢の諸側面につき申し述べ,併わせて,その面における我が国の外交努力に言及いたしたいと存じます。

 まず第一に,平和のための環境づくりについて申し上げます。

 現在のように不安定な世界において,人類の生存を脅かす戦争を回避するための最も身近かで現実的な措置は,今日,地球上で生じている各種の局地紛争の拡大を抑制し,対立を緩和して,その解決へ向けての糸口を見出すようつとめること,就中,それを拡大させないことであると考えます。

 イラン・イラク紛争については,依然として緊張状態が続いていますが,去る6月国連事務総長のイニシアティブにより文民地域相互不攻撃が両国により合意されたことは,紛争拡大に歯止めをかけるものであり,我が国としては,このような事務総長のイニシアティブ及びこれを受諾した両国の姿勢を高く評価するものであります。しかしながら,最近に至り,両国の経済施設に対する攻撃が行われたことは,遺憾であります。

 今後の課題は,まず,紛争を再び拡大させないことであり,次に,現在の努力を順次拡大して,紛争のより一層の鎮静化を図って行くことであります。そのため,国連事務総長が今後とも積極的な役割を担うよう要請したいと思います。私としては,かかる努力を着実に積み重ねて行くことが和平への道をより確実なものにして行く所以だと確信しております。

 このような観点から,私は特に,次の二点が早急に実現されるよう強く希望したいと思います。

 第一は,化学兵器の問題であります。現在の諸状況の下においては,かかる兵器の使用を禁止した1925年のジュネーヴ議定書の違反が将来生じないことが明白にされることが緊要であると思います。

 第二は,イラン・イラク両国のみならず,すべての国にとり極めて重要な湾岸における安全航行の問題であります。航行の安全を確保するには,湾岸の国際水域における自由航行の原則が遵守されること及び湾岸の使用の安全確保が尊重されることが要請されます。特に,港湾がいかなる形態の攻撃の対象にもされないことが重要であります。港湾の定義については,過去に採択された国連決議が参考になり得るものと考えます。

 私は,以上の二つが実現されることが,5年目に入った本紛争の公正かつ名誉ある解決に向けての環境の創造に役立つものと確信しており,このための総合的かつ真剣な検討が行われることを強く念願するものであります。

 私は,外務大臣就任当初より,この地域の情勢に強い関心を持ち,特に,イラン・イラク情勢については,これまで両国指導者との数多くの対話を通じ,それぞれの主張に耳を傾けるとともに,双方に対し和平の早期実現を訴えてきました。今後とも紛争の早期平和的解決を希求するすべての国及び国連事務総長とも協議しつつ,和平への環境づくりに最大限の努力を行っていく所存であります。

 アジアに眼を転ずればカンボディア問題が依然として未解決であります。我が国はカンボディアからの全外国軍隊の撤退とカンボディア人の民族自決権行使を柱とするカンボディア問題の包括的政治解決を一貫して支持しております。同時に,かかる原則的立場を維持しつつ,問題解決の糸口を探るため,引続き種々の方策を探求していくことが重要であると考えており,かかる観点から,本年7月のASEAN拡大外相会議において,我が国は,資金面を中心とする協力として、次の3項目を提案いたしました。

 すなわち,第一は,昨年9月のASEANアピールがすべての関係当時国の合意をもって実現される場合における平和維持活動に対する資金面での協力,第二は,カンボディア全土で国際監視下の自由選挙が実施される場合における要員派遣等に関する協力,第三は,カンボディアに平和回復後のインドシナ復興援助であります。

 かかる平和回復に向けての過程に多くの困難があることは十分承知しておりますが,我が国としては,この提案がインドシナの平和のための環境づくりに役立つことを期待して,今後とも,ASEAN諸国を始めとしヴィエトナムを含む関係国との間で,対話を続けて行きたいと考えております。

 朝鮮半島においては,依然として厳しい情勢が続いておりますが,朝鮮問題は,基本的には,南北両当事者の直接対話を通じて平和的に解決されるべきであり、我が国としては,一日も早く実質的な南北対話が再開されることを強く希望するものであります。

 本年9月,全斗煥大韓民国大統領閣下の日本公式訪問が実現しましたが,この際,我が国は,朝鮮半島の統一に至る過程におけるひとつの措置として,南北双方が国連に加盟することを考慮するのであれば,緊張緩和及び国連の普遍性を高めるものとして,これを歓迎し,支持する旨を改めて表明いたしました。

 我が国としても,朝鮮半島の緊張緩和を可能ならしめるため,今後ともできる限り,その環境づくりへの努力を惜しむものではありません。

 このほか,この1年間,アフガニスタン及び中東において,問題解決に向かって見るべき具体的進展がなかったことを極めて遺憾と考えます。アフガニスタンについては,すべての関係者に対し,早急にソ連軍の撤退,アフガニスタン国民の自決権の回復及び難民の安全かつ名誉ある帰還が実現するよう,また中東和平問題については,すべての当事者が,公正で永続的かる包括的な和平実現に向けて一層の努力を重ねることを要請します。

 レバノンにおいては去る7月,治安計画の実現を見るに至ったにも拘らず,つい1週間前には,在レバノン米大使館の爆破事件が生じました。これは誠に悲しむべきことであり,レバノン情勢は依然として不安定であると言わざるを得ません。私は,レバノンの安定のために,全外国軍隊の撤退と国民和解の達成に向けて,関係当時者の一層の努力を期待します。

 私は,南アフリカ共和国がその人種差別政策を撤廃するよう強く求めるものであり,ナミビア独立問題が安保理決議435の実施を通じ,速やかに解決することを希望しており,この国連において,国連が指導力を発揮することを期待しております。

 緊張が続いている中米情勢につきましては,その解決のためのコンタドーラ・グループを始めとする地域内の努力を強く支持します。

 この機会に,我が国とソ連との関係について,ソ連が我が国の重要な隣国であるが故に,昨年に引き続き,一言申し述べたいと存じます。ソ連が現在なお未解決の北方領土問題につき話し合いの席につくことを拒んでいるのみならず,近年,この我が北方領土に軍事力の配備・強化を行っていることを極めて遺憾とするものであります。我が国としては,ソ連との間に領土問題を解決して平和条約を締結し,もって真の相互理解と信頼に基づいた安定的な関係の樹立を図ることを強く念願しており,そのためにも,今後とも同国との対話の拡大・強化に努めて行く所存であります。同様の態度がソ連によっても表明されることを強く期待する次第であります。

議長

 我が国外交努力の重点として,第二に,長期的かる構造的な平和を求める努力について申し上げます。

 今日,過剰に蓄積された核兵器は,人類の生存を脅かしており,我々は何としても,かかる脅威を取り除く方途を見出さなければなりません。

 私は,去る6月,我が国の外務大臣としては初めて,ジュネーヴの軍縮会議に赴き,米ソ両国を始めとする世界の各国が軍縮へ向けて,真剣な努力を行うよう訴えました。特に中断している米ソ間の中距離核戦力交渉,及び戦略兵器削減交渉の二つについては,ソ連が,世界の人々の一致した平和への願いに応えるよう,また,NPT体制の維持・強化のためにも,核大国としての重大な責任を自覚して,前提条件にこだわることなく,一刻も早く交渉の席に戻るよう,強く求めたのであります。

 また,私は,核実験全面禁止の問題についても,その現実的な方途として,多国間の検証能力の向上に応じて核実験の規模の「敷居」を段階的に引き下げて行く方式を提案いたしました。私は,明年の軍縮会議においては,核実験禁止についてのこの私の提案が,突っ込んで検討されるよう要請いたします。このほか,非核分野においては,化学兵器の禁止の必要性が今までにもまして強く認識されていることを指摘したいと思います。

 また,最近,世界の関心を高めてきている宇宙における軍備競争防止の問題について,あるいは米ソ間で話し合いが始まるのではないかとの期待が生まれました。これは,世界の諸国民が,いかに軍備管理・軍縮交渉の再開を願っているかということのあらわれでもあります。私は,かかる期待に応えて,核軍縮交渉が前進し,さらには,これを主軸として東西関係が改善に向かって動くことを,心から切望してやみません。

議長

 我々がつどっている国際連合は,世界の多数の国が合意した唯一の平和の制度的基盤であります。第二次大戦の惨禍を体験した我が国は,国際紛争解決の手段としての武力行使の放棄を内外に宣明し,紛争の平和的解決に努力しております。かかる基本政策に立って,我が国は安全保障理事会や国際司法裁判所などの国連の諸機関を通じての紛争の平和的解決,平和の維持・強化に一層積極的に貢献する決意であります。

近時,国際連合に対する失望や軽視の声を聞くことがありますが,現在の世界が直面している政治的・経済的な諸困難はその規模,複雑さにおいて,もはや一国のみで対応しうるものではなく,多国間の国際協力によってのみ克服することが可能となることを銘記しなければなりません。

ペレス・デ・クエヤル事務総長閣下は,本年の年次報告において,「国連の活動をより良くするために必要なことは,何にもまして,国益と国際利益の間に均衡を打ち立てようとの決意ある普段の努力である。それゆえ,私は国際の平和と発展の問題について,多国間的,かつ理性的な取り組みを繰り返し呼びかけたい」と述べておられます。私の見解も全く同様であり,世界の平和と繁栄の中に自国の平和と繁栄を見出す道を追究しつづけてまいりたいと存じます。

 明年は国連創立40周年にあたり,21世紀へ向けての国連の機構と機能の活性化に,全ての加盟国が真剣な検討を開始する絶好の機会であります。我が国は,自らの国際的責任を自覚し,全加盟国とともに国連の活性化に取り組むことを誓います。

議長

 第三に,私は,新たな時代に対処するため,今後,限りなく求めれれて行く,人類の生存と繁栄のための行動について申し述べたいと思います。

 「アフリカの年」と呼ばれた1960年当時,我々の眼に,若々しく活気ある新興国家群と映っていたアフリカ諸国が,今,耐えがたい困難に苦しんでおります。この大陸で,1億5千以上の人々が飢えと栄養不足にさらされ,毎日のように夥しい人々が死に追いやられているという事は,戦争にもまさる災害として,まさしく平和に対する挑戦であります。これを克服することなくして,我々は平和を語ることはできません。この意味で,ペレス・デ・クエヤル事務総長閣下が,本年初め,アフリカの危機に対する救援を呼びかけられたことは,極めて時宜に適したものでありました。世界がこの窮状に対し真に温かい手を伸ばしうるか否か,国際連合は,今その真価を問われているのであります。

 この未曾有の危機は,単に突発的な自然現象にのみ起因するものではなく,各種の構造的要因に根ざしてもおります。したがって,飢餓に対する直接の救済が緊急の課題ではありますが,より根本的には,深く絡み合った構造的要因にまでメスを入れ,ばらばらな対策ではなく,総合的な解決策を打ち立てて,全世界が一丸となっての国際協力をもってこれに取り組むことが必要であると考えます。

議長

 私は,アフリカの危機の克服のため,国際連合がその全機構を総動員して,その全機能を最も実効的に発揮できる行動計画の立案に当たるよう,ここに提案いたします。この計画に基づく国連機構の具体的行動に際しては,国連全加盟国の支持と参加を強く要望する次第であります。

 我が国としては,とりあえず本年のアフリカ向け食糧関係援助を1億ドル以上といたしましたが,同時にこの地域で日々の糧の生産を軌道に乗せうるよう,アフリカ諸国との間で腹蔵ない話し合いを行い,国づくりの面で有効な協力をもたらす道を探りつつあります。また,この10年間に,我が国は,対アフリカ経済協力を飛躍的に拡大しており,アフリカ開発基金及びアフリカ開発銀行においては,それぞれ域外加盟国として第2位の拠出国となっております。技術協力の分野においても,海外青年協力隊員の実に4割以上がアフリカに派遣され,草の根での協力に邁進しているのであります。また,我が国内においては,記たる9月28日から1カ月を「アフリカ月間」と定め,アフリカの文化・社会・歴史の紹介を通じて,アフリカの現実への理解を一層促進するとともに,募金運動の輪を拡げて,これら諸国への支援・協力を,国民全体で盛り上げてまいる所存です。

 我々は,今次総会におけるアフリカ問題討議において,このような各国それぞれのアフリカとの連帯を結集し,この大陸の危機を乗り越える大いなる力を生み出すよう努めようではありませんか。

 次に,世界経済の問題に目を転じたいと思います。先進国たると開発途上国たるとを問わず,各国の経済がそれぞれ密接な相互依存の関係にある今日,世界経済の複雑かつ困難な問題を克服していくには,国際間の能動的な協力が不可欠であります。

 かかる能動的な国際協力を必要とし,また現在,多数の開発途上国の抱える最も大きな問題の一つとなっているのが債務累積問題であります。この問題は,債務国自身のみならず世界経済全体を混乱に陥れる危険を秘めており,これを放置しておくことは許されません。

 債務国の経済の実態は多様であり,したがってその対策は各債務国の状態に応じ,個々の事例に則してきめ細かく地道に実施されるべきであります。これまでの危機は関係者の真剣な協力により克服されてきましたが,問題の根本的解決のためには,なお十分な時間と努力が必要であります,私は,より基本的には,中長期的視点に立って,債務国側では自らの調整努力を通じ輸出増大の努力を行い,国際的には債務国への資金の流れの維持や先進国の市場の一層の開放等の協力を行うことが必要だと考えます。

 ラ米諸国は,本年のキト及びカルタヘナにおける債務国会議等で本問題解決の緊急性を強く訴えましたが,先進国側においては,効果的な自助努力を行っている国に対する民間債務の多年度繰り延べを奨励する等,協力の精神が発揮され,私が今回訪問したメキシコにおいて,今後の債務交渉の良き例として,本方式が合意にいたったことは喜ばしいところであります。

 債務問題の中長期的解決のためにも,また,世界経済の持続的発展にとっても、貿易の拡大は不可欠であり,このためにも保護主義を巻き返して,自由貿易体制を維持・強化しなければなりません。このような観点から,我が国は,昨年11月に新たな多角的貿易交渉の準備促進を提唱し,以来,その促進を図るべく,鋭意努力を行ってきております。

 先般の主要国首脳会議においても,新交渉ラウンドに関し,早期の決定を行うべく他のガット加盟国と協議をすることが合意されました。我が国としては,開発途上国,先進国を問わず,できる限り広範な諸国の参加を得た普遍的な新多角的貿易交渉を早期に実現すべく今後とも引き続き努力を行ってまいる所存であります。

 我が国はこれまで,政府開発援助は,国際社会において果たすべき重要な責務であるとの認識の下に,厳しい財政事情の中にも5年間倍増の中期目標を立ててその拡充に努めてきており,1983年においては前年比24.4パーセント増を達成いたしました。

 我が国は,開発途上国における「人づくり」を重視しており,特に開発途上国に対する技術協力に力を尽くしてまいりました。私は途上国の必要としているところを十分に把握し,その国の伝統を活かしつつ,技術の前進をはかる技術協力は,その一つ一つが創造であると考えており,この面での努力を引き続き行ってまいる所存であります。なお,「人づくり」の面の協力は,かねてより日本がASEAN諸国との間で進めている経済技術協力の重要な柱の一つでありますが,去る7月のASEAN拡大外相会議において太平洋地域協力の問題が論じられた際にも,私は「人づくり」の必要性を強調いたしました。これが受け入れられて,「人づくり」が,今後,広く太平洋地域協力の主要な課題とされるに至ったことを,私は特に喜ばしく思います。

 近年十分な進展を見ていない南北問題を打開し,とりわけ,南北間の経済技術協力を一層促進するためには,援助量の拡大,途上国の開発政策の根幹をなすべき「人づくり」面での努力に加え,私は,言わば新しい視点に立った南北間の協調的努力と言うべきものが必要であると考えます。例えば,援助国と被援助国との対話を,一層密接かつ中味のあるものとし,これを協調的に推進していくことが,経済協力の効率・効果を高める所以であると思います。また,開発という困難な課題に立ち向かうには,民間の活力の積極的利用も不可欠であり,私は,資金面・技術面を問わず,開発問題全般に亘って,政府による協力と民間による協力のより有機的な関連付けの努力が,南北双方にとって極めて重要になってきていると信じます。

 現在,南北問題の解決に必要とされているのは,南北双方がそれぞれ知恵を出し合い,新しい視点から一体となって,創造的な努力を行うことではないでしょうか。

議長

 我々は,21世紀へ向けて新たな世界を創造するエネルギーをどこに求めるべきでありましょうか。それは言うまでもなく,人類自身の中にであります。地球上の生物で,人類のみが自らの未来を開く力を賦与されており,我々はいまこそ,その力を引き出さねばなりません。過去,異文化間の相互刺激,相互触発が,諸国民の中に潜在する可能性を顕在化し,時代を推進する力としてきたことを考えるとき,国の大小を問わず,等しく自己を主張できる国際連合は,まさに新たな原動力を創造する反応炉だと言えましょう。また,いま,通信・交通手段の発達によって,地球はますます小さくなり,異質の文化を持つ人々の出会いはますます多くなってきました。私は,この無数の出会いも,諸国民の潜在力を顕在化するに大きく役立つものと考えます。

 今日世界は,確かに大きな困難の壁に繞らされています。これを突破して,新たな時代を導き入れうるか否かは,我々,政治に携わるものの肩にかかっており,それゆえに我々は,諸国民の持つ多様な創造のエネルギーを汲み上げ,それを新たな時代が要請する方向に組織して,明日への道を切り開いて行かなければなりません。

 ありがとうございました。