データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第40回国連総会一般討論における安部外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1985年9月24日
[出典] 外交青書30号,397ー405頁.
[備考] 
[全文]

議長

私は,日本国政府及び国民を代表して,閣下が第40回国連総会議長に選出されたことに対し,心から祝意を表します。日本代表団は,閣下の重要な責務の遂行に対し協力を惜しみません。

同時に私は,第39回総会議長ルサカ閣下がその重鎮をよく果たされたことに対して,深い感謝の意を表明いたします。

私は,またこの機会に,ペレス・デ・クエヤル事務総長閣下が厳しい国際情勢下で常に精力的に活動を続けられ,その指導力を発揮されていることに対して,敬意を表します。

 私はこの演説を始めるに当たり,先週2度に亘りメキシコを襲った大地震によって多大な被害が生じたことに対し,日本国民を代表し,深い同情の年を表したいと思います。

 デラマドリ大統領閣下の指導の下に,メキシコ国民が,この未曾有の災害から立ち直り力強く復興に尽くしておられることに敬意を表します。我が国は,救援のために出来る限りの緊急援助を行うこととしております。

 議長

 創設40周年を迎える国連は,地球上のほとんど全ての国を加盟国とし,かつてない普遍的な国際機関として大きく成長してきました。国連のもつ平和維持機能については,地域紛争の拡大を回避し,あるいは侵略者を糾弾する国際世論を喚起することによって侵略者の再発を抑制するなど,一定の限度において成果を挙げてはきたものの,東西の対立,紛争当事国を巡る諸国の利害の衝突などから,国連が創設当時予定していた機能を現実のものとすることは出来ませんでした。

国連40年の歴史を振り返って特筆すべきことは,1つにはアフリカ大陸をはじめ地球上の全地域において非植民地化が促進されたことであり,もう1つには,文化・伝統,主義・主張を異にする150余の加盟国が国連の場における活発な対話を通じて世界の直面する重要問題に対する認識を分かち会い,国の一員として相互依存関係を深めてきたことであります。経済・社会開発,環境保全,人権擁護と婦人の地位向上,そして広く国際方の確立に対して国連が果たした役割は正当に評価されねばなりません。また,国連決議の実効性を確保するため,全関係者の意見の一致をあくまで追求し,数を頼みとすることなく,コンセンサスにより決議案を採択する努力が強まっていることも見逃し得ない動きであります。

しかし,21世紀へ向けて国連の将来を展望する時,国連が私達の次の世代にとって有意義なものであり続けるためには,その活力と効率の点で現在大きな転機を迎えて居るのではないでしょうか。私は,ここで2つの問題を指摘したと思います。

 第1に,国連は平和維持の分野において,その責任を十分に果たすべきだということであります。安保理常任理事国をはじめ全ての加盟国は,安保理の平和維持機能を回復するための方途を真剣に模索すべきであります。また,私は,事務総長が「静かなる外交」を一層効果的に行なうためには,事務総長がより広汎な機能を果たすべきであり全ての加盟国がその努力を支援すべきもの,と考えます。

 第2に,国連がとり組むべきもう1つの最重要課題は,行財政の分野における改革であります。過去40年にわたる活動の中で,国連及び専門機関の事務局は,その規模において肥大化を続け,不要不急の,あるいは重複した活動を行う例が多くなっているように思われます。私は,諸国民の間に国連機関に対する支持が揺らぐ傾向にあることを憂慮いたします。苦しい経済運営に悩む開発途上国,あるいは財政再建を試みて厳しい財政状態にある大口拠出国が,国民の理解を得て,長きに亘り国連を支援し続けるためには,何よりもまず,国連自身が行政改革に真剣にとり組み効率的な機構になることが必要です。私は,事務総長閣下がこの問題に関し真剣な努力を払われていることに対し深甚なる敬意を表する次第であります。また,事務総長閣下は,今年の年次報告の中で「加盟国国民の支持」

を訴え,同時に「実用的な国際行政」との考え方を強く主張されたが,私はこのような考えに全く同感であります。

ここで,私は,21世紀へ向けて国連及び専門機関の全般的な行財政改革を目的とし,先進国及び開発途上国の少数のメンバーからなる「国連効率化のための賢人会議」の設置を提案したいと思います。この賢人会議は,国連諸機関の運営を行財政面から根本的に見直すのに寄与するとともに,先進国及び開発途上国の諸国民が等しく必要とし,現在及び将来の真のニーズに合致する効率的な国連機構づくりに向かっての客観的な検討を可能にするものと信じます。私は,今次総会において,このための具体案が検討されることを希望しつつ,加盟各国がこのかけがえのない国連をより良くするため,直ちに行動をとるよう要請したいと思います。

議長

国連が創設された1945年は,地上に初めての核兵器が出現した年でもあります。爾来,核兵器は量的にも質的にも飛躍的変化を遂げました。その結果,核兵器が過剰殺りくの状態に達したと言われてから久しくなります。このような核軍備の増大に歯止めをかけ,究極的な核兵器の廃絶をめざしてたゆまざる努力を行うことことそ今日の世界の最大の課題と申せましょう。しかしながら他方,今日の国際社会の平和と安全が核兵器を含む力の均衡によって保たれていることも否定しえないところであり,軍縮を進めるにあたっては,かかる国際社会の現実をふまえ,この力の均衡をできる限り低い水準に下げていく必要があります。軍備管理・軍縮実現の緊急性はいよいよたかまっております。

この関連で,私は米ソ両国が本年3月より新たな軍備管理・軍縮交渉を開始したことを

歓迎するものであります。米ソは核の超大国として国際社会全体に対して特別の責任を負っております。右交渉が如何に困難なものであろうとも,両国がかかる特別の責任に留意し,真剣かつ建設的な態度で交渉を続け,早期に実質的成果を上げることにより世界の人々の期待に応えることが重要であると考えます。来たる11月に予定されている米ソ首脳会談において,両国首脳がかかる重責を十分自覚して国際の平和と安全のための枠組みづくりのため最大の努力を傾注されんことを望むものであります。

 第3回核不拡散条約(NPT)再検討会議においても,各国は一致して,米ソ両国が率先して核軍縮の実現のために努力することを求めました。同会議においてはNPT体制の意義が参加国によって再確認されましたが,我が国としてNPT体制を今後とも維持・強化する必要を改めて指摘するとともに,中国及びフランスの両核兵器国をはじめ1国でも多くの未加盟国が,NPT体制の意義を認め,早期にこの条約に加盟するよう強く訴えたいと思います。

 我が国は従来より,核実験全面禁止を核軍縮の重要な課題として重視してきました。昨年,ジュネーヴの軍縮会議において私は多国間の検証能力の向上に応じて禁止されるべき核実験の規模を段階的に引き下げていく「ステップ・バイ・ステップ方式」を提案し,核実験探知のための国際協力の枠組についても一案を提示しております。我が国としては,かかる地道なアプローチこそが,実効的な核実験の禁止をもたらす現実的な方途と確信しています。明年の軍縮会議においては,できる限り早くアド・ホック委員会が設置され,本提案を含め実質問題について検討が開始されることを希望します。

 軍縮において,核軍縮のみを重視してはなりません。昨年の演説でも触れました通り,私は,非核分野において,化学兵器の禁止につき各国が実現可能なアプローチをとることにより一日も早く世界的かつ包括的な条約が作成されることを切望しております。また宇宙における軍備競争防止については,本年の軍縮会議がアド・ホック委員会を設置し,本件検討のための第一歩を踏み出したことを歓迎するものです。

議長

 ここで私は,現下の国際社会が直面する地域問題と,それに関する我が国の外交努力に関し申し述べたいと思います。

 相互依存の進む現代国際社会において,一地域の紛争に他地域の諸国が無関心でいることは許されません。一地域の紛争に他地域の諸国が利己的な介入を行うことも許されてはなりません。我が国としては,国連と密接な協議を保ちつつ,紛争地域諸国の自主的,自律的な解決努力を助長すべく,その環境造りを行う方針であります。

 朝鮮半島情勢について,我が国としては,最近南北両当事者の間で進展しつつある種々の南北対話の動きを歓迎するものであり,具体的な成果が数多く生まれることを強く希望しております。我が国としても,朝鮮半島の緊張緩和を可能ならしめるため,今後ともできる限り,その環境造りへの努力を惜しむものではありません。なお,先般の我が国におけるユニヴァーシアード大会には,南北双方から多数の若人が参加しました。我が国は,主催国としてこれを心から歓迎した次第であります。

 また,我が国は,朝鮮半島の統一に至る過程におけるひとつの措置として,南北双方が国連に加盟することを考慮するのであれば,緊張緩和及び国連の普遍性をたかめるものとして,これを歓迎し支持するものであります。

 カンボディア情勢は,依然アジアの平和と安定にとり脅威となっております。

 この問題の解決を図るに当たっては,外国軍隊のカンボディアからの撤退とカンボディア人の民族自決の尊重との基本的立場を踏まえ,かつカンボジアの将来を念頭においた粘り強い取り組みが必要であります。私は,このような観点より本年7月のASEAN拡大外相会議において,今後の対応において依拠すべき次の4つの原則を提唱致しました。

 すなわち,第1に,ヴェトナム群の撤退とカンボディア人の民族自決,第2に,関係国間の対話の促進,第3にカンボディアにおける既成事実化を容認しないとの観点から,民主カンボディア連合政府に対する支持の確認,そして第4にカンボディア避難民に対する教育,職業訓練を行い,人造りを推進することであります。

 将来のカンボディアの再建に際しては,カンボディア避難民もまた重要な役割を果たす立場にあり,我が国としては,関係者の協力により,これらカンボディア人のための適切な人造り計画が策定されることを希望しており,その実施についてはできる限りの協力を惜しまない所存であります。

 さらに,私は,平和的解決のための環境造りを行うとの見地から,過去1年の間に,ヴェトナム外相,民主カンボディア首相を含む関係諸国首脳との対話を積極的に行ってきており,今後ともこのような努力を続け,問題の早期かつ平和的解決に寄与していく所存であります。

 イラン・イラク紛争は勃発後丸5年の歳月を経ましたが,依然として解決の兆しすらみえないことは,極めて遺憾であります。昨年の総会において,私は化学兵器の使用禁止と港湾使用の安全を含む湾岸における安全航行の早急な実現を求める提案を行い,機会ある毎にイラン・イラク両国に対し,この提案を受けいれるよう働きかけてまいりました。右提案は,紛争の段階的鎮静化を通ずる全面的和平達成のための有効な提案であり,関係当事国が積極的にこれに応じ,これをベースに話合いを進めるよう強く望みます。

 また,私は,事務総長がイラン・イラク両国を訪問し,紛争沈静化のための種々の提案を行われたことを高く評価しており,更にこれを一歩勧め,事務総長が中心となり両者間で何らかの形での対話が行われるよう希望します。

 更に,私は,国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する安保理がこの紛争解決に向け,公正で,より積極的な役割を果たすことを要請し,両当事国が安保理に出席してそれぞれの立場を主張し合う機会が早期に訪れることを強く望みます。

 我が国としては,今後とも両当事国の立場に配慮しつつ,志を同じくする国々と緊密に協議を行いながら,和平のための環境造りの努力を忍耐強く継続する所存であります。

 中東和平問題及びレバノンの現状は,依然として憂慮すべき状況にあります。最近,関係当事者間では,中東における和平達成のために様々の真剣な努力が行われており,我が国としてもかかる努力を高く評価するとともに,今こそが中東和平達成のための好機であるとの認識の下,全ての関係当事者が和平実現のために一層の努力を行うことをここに強く期待するものであります。私自身,この7月,ジョルダン,シリア,サウディ・アラビアを訪問し,これら3国の首脳及びアラファトPLO議長と会談したほか,イスラエル側とも率直な意見交換を行ってまいりました。我が国としては,このような関係当事者との話合いを通じて中東和平の環境造りに今後とも側面的に協力していく所存であります。

 アフガニスタン問題に関し,私はすべての関係者に対し,早急にソ連軍の即時全面撤退,アフガニスタン国民の自決権の回復及び難民の安全かつ名誉ある帰還が実現するよう改めて訴えたいと思います。他方,私は事務総長の努力を支持するものであり,間接会合において対話の進展が見られることを切望いたします。

 我が国は,南アフリカ共和国における人種差別は許されざるものであり,できる限り速やかにかつ全面的に撤廃されえるべきであるとの確固たる方針をとっています。南アフリカ共和国政府が進めている国内改革は未だ内外の期待から程遠いものがあり,過去1年間に数百人の犠牲者を出すに至った現在の南アフリカ情勢は我が国としても誠に遺憾であります。

 我が国は南アフリカ共和国政府がアパルトヘイト撤廃への姿勢を誤解の余地なく明確化するとともに,その実現への具体的方策につき黒人を代表する指導者との間で無条件に話合いに入ることが現下の急務であると考えます。また,すべての関係者に対し話合いを通じた問題の解決に向けて全力を結集するよう強く訴えるものであります。

 我が国は,これまで一貫してアパルトヘイト政策に反対し,同国に対し先進民主主義諸国の中でもより厳しい態度をとってきました。アパルトヘイト撤廃に向けた抜本的かつ具体的な改革が推進されない限り,我が国としては今後とも,同国に対して必要と判断する措置をとる決意であります。

 更に,我が国は,ナミビアの独立が,安保理決議385及び同決議435の完全実施を通じ,速やかに達成されることを希望するものであります。従って我が国は,MPC(多党会議)暫定政権の樹立等これらの決議と両立しない,南アフリカ共和国政府によるいかなる措置も無効であると考えます。

 中南米地域においては,中米紛争,累積債務問題という国際政治・経済上の困難な問題が存在する一方,近年民主化の進展が注目されます。我が国は,民主化の定着は中南米の政治情勢の長期安定に資するものとして,かかる動きを歓迎するものであります。

 しかし,中米情勢は依然危険な状態にあり,我が国もその推移を懸念をもって見守っております。我が国は,コンタドーラ・グループの和平努力を引き続き支持するとともに,同グループの活動が,先般結成された南米諸国の支援グループをはじめとする幅広い国際的支持を受け,一層活発化することを期待しております。同時に中米諸国自身も域内の和平と国内の民主化,融和のために一層の努力を払うよう強く希望するものであります。

 我が国は,中南米諸国との緊密な対話を継続しており,私自身,本総会出席後パナマ,ブラジル両国を訪問し,両国首脳と忌憚ない意見交換を行う予定です。なおこの関連で,私は,パナマ,米国の両外相との間でパナマ運河代替案調査委員会に関する外交取極の署名・交換を行います。我が国としては,この調査への参加を通じ中南米諸国との一層の関係緊密化を図る所存であります。

 ここで,我が国とソ連との関係について,一言申し述べたいと存じます。昨年の私の演説でも述べたとおり,今なお日ソ両国間に領土問題を解決して平和条約を締結するという懸案が未解決のままのこっっていることは,両国にとって極めて不幸なことであります。我が国としては,交渉による解決を粘り強く求めて行く所存であり,そのためにも,同国との対話の拡大・強化に努めておりますが,同様の態度がソ連によっても表明されることを強く期待する次第であります。

議長

 私達は,真の平和を追求するにあたり,不安定要因の除去を忘れてはなりません。かかる枠組での平和が構築されない限り,私達は繁栄という次のステップに到ることはできないからです。

 かかる観点から,私は真の平和のための前提条件として,飢餓と難民問題の克服,人口問題,国際テロと麻薬乱用の防止を訴えたいと思います。

 私自身,昨年の国連総会後11月にアフリカの旱魃地域を訪問し,その惨状を眼の当りにしてアフリカ支援緊急アピールを発表しました。アフリカ緊急活動本部の最新報告によれば,今もなお20カ国にも及ぶアフリカ諸国が緊急援助を必要としております。特に無垢な子供達の悲惨な状態は明日の世界に重大な影響を及ぼすもので迅速な行動を必要としてい

ます。

私は,国連が事務総長閣下のすぐれたイニシアチブの下,いち早くアフリカの緊急援助のために行動をおこしたことを高く評価しており,我が国としても能うる限りの支援を行ってきました。昨年,私は,アフリカの危機の克服のため国連がその全機構を総動員して最も効果的な行動計画の立案に当るよう呼びかけましたが,本年1月1日アフリカ緊急活動本部が設立された活動を開始したことを喜びに思います。

 また,我が国の政府・国民とも,アフリカ支援の緊要性を十二分に認識しており,政府においては昨年1月から本年3月末までに約1億 6,500万ドルの食料・農業関係援助を実施しました。また民間においても170万枚をこえる毛布が集まるとともに,対アフリカ募金額も 5,800万ドルを越える等民間キャンペーンの成功をみました。

他方,アフリカにおける飢餓,食料不足は,複雑な構造的要因に基づくものであり,緊急援助のみならず,中・長期的観点から食料増産等,農業分野でアフリカ諸国の自助努力を支援するための協力が強化されるべきであります。私は,アジアと同様,アフリカにおいても「緑の革命」による食料増産は可能であると信じます。かかる観点から,私は,農業研究のみならず,植林をも含めた総合的取組みを内容とする「アフリカ緑の革命構想」を提唱しました。今後関係各国とも十分協議しつつ,その実現に努力してまいりたいと思います。

私は,発展へ向けてのアフリカの潜在的な力を信じて疑いません。先般のOAU(アフリカ統一機構)首脳会議でも表明された通り,アフリカは危機克服のため自ら立ち上がろうとしています。これに手を差しのべるのは,国際社会全体に化された責務であると確信します。

議長

 私は,現在全世界で1千万人以上といわれる難民について,国際社会全体がその責任において一刻も早く解決に当らなければならないことを訴えます。難民の多くは,政治的理由により発生しており,政治問題を解決するための良好な環境造りは,難民問題解決のための鍵であります。また,難民救済を実効あらしめるためには,国連,就中,国連難民高等弁務官の活動に,より一層の支持と協力を与えるとともに,各国が自らとり得る措置を着実に拡大して行くことが重要であります。

 我が国は,これらの機関に対し,過去5年間に総額6億ドル近くの資金協力を行うと共に国内における定住枠を拡大して来ており,今後ともこの分野でできる限りの貢献を続けてまいる所存であります。

 また,我が国は人口問題の重要性を認識しており,今後とも協力を惜しむものではありません。

 ハイジャック等の国際テロ及び麻薬の乱用・不正取引は市民の平和な生活に対する脅威であり,我が国としても,国際社会の一員としてその撲滅のためできる限りの協力を行っていく所存であります。この関連で,私は,麻薬撲滅のための世界会議開催に関する事務総長閣下の提案を原則的に支持するものであります。

 世界経済は,先進国を中心に全体として景気回復の輪が広がっているものの、欧州を中心とする高水準の失業,世界的な経常収支不均衡,更には財政赤字等の諸困難を背景に保護主義の圧力はかつてない程にたかまっております。

 また,一部開発途上国の経済には,若干の明るさが見られるとは言え,中南米諸国をはじめ多くの開発途上国は,依然として一次産品価格の低迷,累積債務問題等の困難に直面し厳しい経済調整努力を続けており,これは政治的,社会的にも大きな負担となっております。後開発途上国をはじめとする絶対的貧困に苦しむ国々は,経済的自立へ向けて困難な戦いを続けており,できる限りの支援が求められています。

 このような中にあって,我が国としては世界の繁栄なくして一国の繁栄なしとの認識に立ち,自由貿易体制を維持・強化し,自らの地位にふさわしい国際的役割と責務を果たす決意であります。その一環として,先に我が国は,自らのイニシアチブに基づき,「原則自由・例外制限」という基本的視点にたつ「市場アクセス改善のためのアクション・プログラム」を決定し,現在その誠実かつ早急な実施に努めております。

 また,我が国は,高まりつつある保護主義を防圧し真の自由貿易体制をもたらすためには,新たな多角的貿易交渉が不可欠であるとの考えから,一昨年以来その早期開始を提唱してきております。その後国際的な推進の機運が高まり,今般,交渉の対象等を検討するためのガット総会が開催されるに至ったことは喜ばしい限りです。我が国は,新ラウンドの準備過程を推進し,開発途上国,先進国を問わず,できる限り広範な諸国の参加を得て,早急に交渉を開始するための努力を引き続き行ってまいる所存であります。

 他方,政府開発援助は我が国が国際社会において果たすべき重要な責務であるとの認識の下に,我が国はこれまで2度にわたり中期目標を設定しその計画的拡充に努めて参りました。我が国としては,かかる努力を引続き維持する方針であり,この観点から,今般ODA3次中期目標を決定致しました。今次目標は,1986年から1992年までのODA支出総額を400億ドル以上とすることをめざし,このため2国間贈与・多国間援助・円借款の拡充を図りつつ,1992年のODA実績を1985年実績の倍とするよう努めるとともに,併せ質の面でも可能な限りの改善を図るという従来以上に意欲的な内容であり,我が国が国際社会において果たすべき役割についての新たなる決意の表明でもあります。

「国造り」の基礎は「人造り」であります。我が国は,かかる認識の下に,従来より「人造り」を重視し,その中心的役割を担う技術協力を推進してきました。人造り協力については,ASEAN拡大外相会議の場でも太平洋協力の一環としてとり上げられ,我が国も積極的に参加してきましたが,本年のASEAN拡大外相会議において「人造り緊急行動計画」の実施につき合意がみられました。我が国はこの計画の実施に積極的に貢献して行く所存であります。

また,我が国は,国連を通ずる「人造り」の重要性を主張してきましたが,国連開発計画等でこれを重点的に取りあげる動きがあることを歓迎しております。

我が国は,南太平洋の島嶼国による国造りの意欲に対し引続き協力すると共に、これら諸国との友好協力関係を増進していく所存であります。

南北問題は,依然として国際社会が直面している大きな問題です。しかしながら,私は,対アフリカ支援で世界が一丸となった姿の中に,将来の好ましい1つの方向が示唆されていると考えます。即ち,南北間の協調及び援助国における政府と民間のより有機的な協力が南北問題の解決に大きく寄与するものと思います。

議長

 私は,昨年の総会において,我が国は「創造的外交」を展開して,我が国に寄せられる国際社会の期待に応えて行く決意を申し述べました。この1年を振りかえって,私は,この方向への努力をますます強めなければならぬことを痛感いたしております。なぜなら,時代は刻々に変化を続けており,従来の考えかた,手法,技術では対応できぬことが相次いで生起しているからであります。国際間の平和維持,国家・国民間の交流,あるいは経済・技術協力等のいずれにおいても,発想の転換が必要であり,新しい工夫がなければなりません。新世紀は,未来から,人類がその限り無い能力を発揮し,新たな知恵を生み出すことを強く求めているのであります。

 国連40周年,我々はその創設に先立つ惨禍の日々に思いをいたし,改めて,平和を守るための努力を誓いたいと思います。