[文書名] 第44回国連総会一般討論演説における中山外務大臣演説
議長、並びに御列席の皆様
私は、ガルバ大使閣下が第44回国連総会議長に選出されたことに対し、日本政府及び国民を代表して心から祝意を表します。閣下の豊かな経験と卓越した識見によって、今次総会は必ずや実り多きものとなることを確信いたします。日本代表団は、閣下の重要な責務の遂行に対して協力を惜しむものではありません。
また、私は、第43回総会議長カプト閣下の達成された業績に対して、心から敬意を表します。
国際の平和の維持を最重要の目的として創設された国連は、最近、ナミビア独立への移行、中米紛争の平和的解決など、世界各地の国際的諸問題の解決に向けて積極的役割を果たし、今再び世界中の賞賛と熱い期待が寄せられております。これこそ国連の権威の回復であり、私はこれを心から歓迎いたしします。国連のかかる国際平和のための活動の強化は、国際関係の大きな変化を背景として、安保理及びペレス・デ・クエヤル事務総長以下の国連関係者が、たゆまざる努力を重ねた結果であります。私は、ここにこれらの方々の努力に対して深甚な謝意と敬意を捧げるものであります。
議長、
現在、国際社会は、対立から対話へ、抗争から協力へという大きな変化の中にあり、地域紛争の恒久的解決、繁栄の持続、地球環境の保全、人権尊重社会の実現等のグローバル・チャレンジの時代を迎えております。
先ず、米ソ間で多分野での対話が定着・拡大しつつあることは喜ぶべきことであります。特に先週行われた両国会談を歓迎するとともに、今後米ソ間の対話が更に進展することを期待します。欧州においては、通常戦力交渉と信頼・安全醸成措置交渉が進捗しております。中ソ関係も正常化されました。多くの社会主義国における改革の真摯な努力も歓迎すべきことであります。東西関係における肯定的な変化は、地域問題、地域紛争の話し合いによる平和的解決にはずみをつけています。ミナビア独立への移行、中米紛争の平和的解決に加え、カンボディア紛争の和平努力は、本年夏のパリ国際会議を経て新たな段階を迎えました。
しかし、地域紛争解決の過程が始まり、安定化に向けて進みつつあるとはいえ、その全面的解決の実現は決して容易ではありません。アフガニスタンからの外国軍の撤兵、イラン・イラク間の停戦は実現しましたが、真の平和が訪れたとは未だ言えない状態であります。中東和平についても、新しい要素はみられるものの、依然実質的な進展は見られず、また、レバノン情勢は極めて憂慮すべき状態にあります。
アジア地域においては、中ソ関係、カンボディア情勢、アフガン問題等をめぐる動向の中で、ソ連の「新思考」に基づく新しい動きが出てきたことが注目されます。そうした中で、我が国としては、日ソ両国間で活発化している政治対話が一層強化・拡大され、北方領土問題の解決をふくむ真の日ソ関係改善が実現することを希望するものであります。私は、このような日ソ関係の改善は、日ソ二国間関係のみならず、アジア・太平洋の平和と安定、更には東西関係全体の改善の重要な一環をなすものであることを強調したいと思います。
また、先般の中国の事態は世界に衝撃を与え、我が国国民の中国に対する感情にも大きな影響を与えました。他方、我が国としては、中国の改革・開放政策に期待していることに変わりはなく、中国政府が国際世論にも十分配慮しつつ、国際社会の信頼の回復に向けて努力することを期待するものであります。
世界の繁栄の実現の面でも新しい時代を模索する動きが見られます。世界経済は全般的には良好な成長を維持しており、新興工業国・地域(NIEs)は目覚ましい発展をとげております。また、ウルグァイ・ラウンド交渉は、1990年末の期限までに実質的な成果を得べく、各国とも真剣な取組みを見せております。我が国も同ラウンド交渉進展のため一層の貢献をしていく所存であります。しかし、世界経済全体を見渡しますと、依然として大幅な対外不均衡や保護主義圧力の問題があり、また、アフリカ等の最貧国の経済状況の悪化、中南米諸国等における累積債務問題は、世界経済全体の健全な発展にとり大きな問題となっております。
さらに、世界の繁栄実現の大前提である地球環境が脅威にさらされ、世界各地で人権の侵害、難民の流出が続いております。これらの問題は国際社会が全体として取り組まねばならぬ国際的関心事であります。
議長、
かかる世界に対する我が国のかかわり合いは深く広いものとなり、その国際的役割を積極的に果たす必要があると考えます。
本年初頭の大喪の礼に際して、世界中から多数の弔問使節の御列席を得たことに対し、日本政府を代表して深く感謝申し上げるとともに、今日の我が国の国際的役割の重大さを改めて痛感した次第であります。我が国は、「世界に貢献する日本」を目指し、世界の平和と繁栄に資するための「国際協力構想」を推進しております。その内容は、世界平和の構築、維持に積極的に参画・協力する「平和のための協力」の強化、途上国の発展に寄与する「政府開発援助の拡充」及び異なる文化間の相互理解を促進する「国際文化交流の強化」という三本柱でありますが、加えて、この構想を拡充する形で環境等の地球規模の問題に取り組んでいるところであります。本年8月誕生した海部内閣は、このような我が国の積極的な外交姿勢を内閣の重要な目標として発展させ、世界の平和と繁栄、より公正で人間性豊かな国際社会実現のためあらゆる努力を払ってまいる決意であります。
議長、
そこで、次に私は、以上の認識に立ちつつ、国連の役割と我が国の具体的な貢献につき申し述べたいと存じます。
世界の平和と安全を実現し、維持するのに緊急な課題は、世界中で今なお貴重な人命を奪い惨禍をもたらしている地域紛争、地域問題の恒久的解決であります。地域紛争解決の端緒が開かれたとはいえ、その全面的解決は未だ実現せず、紛争解決に向けての努力は今まさに正念場にさしかかっているからです。
10年間にも及ぶカンボディア問題の解決については、今般のパリ国際会議において当事者及び関係国が一堂に会し、徹底的に議論を重ね、交渉を行いました。これは画期的なことであります。このたびは、包括的政治解決の達成には至らず、また国際監視機構の設立につき合意が得られませんでしたが、国連事務総長の提案による事実調査団の派遣が実現したことを含めいくつかの有意義な発展を見ました。今後は、関係者全てが一層の努力を傾注してカンボディアに真の平和を回復するために努める必要があると考えます。その意味で、今次国連総会が、カンボディア和平のモメンタムの増進に役立つことを強く希望いたします。
また、将来、カンボディア和平プロセスのあらゆる段階において、国際監視の持つ重要性はいささかも変わるものではありません。かかる機構が真に普遍的かつ公正であるべきこと、専門知識や蓄積された経験、広範な人的・資金的支援が必要であること等に鑑みれば、それが国連の枠内で設立されることが不可欠であります。
我が国は、同じアジアの一員として、この地域最大の不安定要因たるカンボディア問題の解決のため、国際監視機構の導入と実施に必要な資金協力、要員派遣、避難民帰還への協力等を積極的に検討するとの姿勢を明らかにしてきました。さらに、和平達成後のカンボディア復興のための国際的枠組みとして国際復興委員会の設立を提案いたしましたが、これが、今般の国際会議の場で原則的に受け入れられたことを心から喜ぶものであります。今後とも我が国は、この問題の包括的政治解決を最終的に達成するために、関係国と協力し、粘り強い努力を継続していく決意であります。
アンゴラ・ナミビア問題については、昨年12月の関係3ヵ国協定の成立を端緒に、アンゴラ問題の解決への動きが進み、ナミビア独立への過程が大きく進展してはいることを心から歓迎します。ナミビアの独立は、アフリカ大陸における非植民地化の目的達成を告げる歴史的、象徴的意義を有するものであります。国連は、今組織をあげて独立の過程が円滑に行われるべく努力しており、そのことは国際的に高い評価を受けております。このような貢献は、国連でなければ果たすことのできないものであり、国連の有用性を示すものとしても特に大きな意義があるでありましょう。我が国としては、「平和のための協力」の一環として11月に予定される制憲議会選挙の監視に参加するため、30名程度の選挙監視要員をUNTAGに派遣することとしております。
アフガニスタンにおいては、未だにアフガン人同時の戦闘が継続しており、情勢は憂慮にたえません。我が国としては、アフガニスタンの真の安定達成のためには、国民の総意を反映した幅広い基盤を有する政権が樹立されることが不可欠であると考えます。我が国は、国連調整官事務所を通ずる拠出をはじめとして、アフガン難民の帰還を助ける医療・インフラ整備分野での人的協力等、積極的な協力を行っておりますが、アフガン人自身による問題解決の真剣な努力によりアフガニスタンに一日も早く平和が回復し、難民の安全かつ名誉ある帰還が早期に実現することを願ってやみません。
イラン・イラク紛争については、国連監視団の活動のより停戦が遵守されていることを評価するものであります。しかし、1年を経て現在にいたるも和平交渉は実を結んでおりません。私は、両国が安保理決議598に基づく包括的な和平実現のために、粘り強くかつ柔軟な姿勢で交渉に臨むことを強く期待しております。我が国は、引き続き、事務総長の仲介努力を全面的に支持するとともに、本件紛争の解決に向けてできるがぎりの協力を行う所存であります。
中東和平については、昨年末のパレスチナ民族評議会開催以来、占領地における選挙提案等数々の注目すべき動きが生じておりますが、未だ和平プロセスに何等の具体的進展も得られていないことを憂慮せざるを得ません。インティファーダが継続する中で、被占領地情勢はますます深刻化しており、公正、永続的かつ包括的な和平の早期実現へ向けて、関係当事者による忍耐強い努力が継続されていることを高く評価するとともに、これが具体的成案に結実することを強く期待するものです。我が国としても、かかる関係当事者の和平は努力を積極的に支援すべく、関係アラブ諸国、PLO及びイスラエルとのハイレベルのの政治対話を強化する所存であり、また対パレスチナ人支援にも努めてまいります。
レバノン情勢も放置することはできません。私は、関係者の最大限の自制を通じ、戦闘を終結して新たな国民和解実現への糸口が見い出されることを強く期待しており、かかる意味からもアラブ連盟、とりわけ三人委員会の活動を高く評価するものであります。また、我が国はあらゆるテロ、誘拐等の非人道的行為に反対するものであり、すべての人質の早期解放を強く訴えます。
南アフリカにおける人種差別は許されざるものであり、一日も早く全面的に撤廃されなければなりません。私は、南アフリカで今般成立した新政権が、アパルトヘイト撤廃に向けて具体的かつ実効的な行動をとるよう切望します。そのため、我が国としては今後とも国際社会と協調して、南アフリカに対し、非常事態宣言の撤廃、ネルソン・ナンデラをはじめとする政治犯の釈放、ANC等反アパルトヘイト団体の合法化を行い、黒人各層との対話を早急に開始するよう働きかけていく所存であります。また、我が国は、アパルトヘイトの犠牲者である南ア黒人に対する支援及び南部アフリカ諸国援助を積極的に行う考えであります。
中米紛争については、最近、中米5ヵ国大統領会議の合意に基づき、国連が関与する形で和平プロセスが進んでいることを歓迎しており、我が国は、国連の活動支援の一環として明年2月に実施されるニカラグァ総選挙のための国連選挙監視団に、要員を派遣する用意があります。また、安全保障面の検証メカニズム等についても、今後我が国の協力を検討していく考えであります。
朝鮮半島問題は、第一義的に南北両当事者の直接対話により平和的に解決されるべきものであります。我が国としては、南北間の建設的かつ実質的な対話が発展することを期待いたしており、かかる観点から、昨年7月7日の盧泰愚大統領特別宣言以来、韓国側が南北対話に積極的に取り組んできていることを評価いたします。昨年のソウル・オリンピックを一つの契機として、韓国と社会主義国との交流が進展いていることは、朝鮮半島の緊張緩和にとり好ましいことであります。我が国は、そのような新たな情勢も踏まえ、国際政治の均衡に配慮しつつ、日朝関係改善に努力するとともに、南北対話のための環境作りにも貢献したいと考えます。更に、朝鮮半島統一に至り過渡期の措置として、南北が同時であれ別々であれ国連に加盟することを、国連の普遍性を高めるとの観点からこれを歓迎し、支持するものであります。
国連はこのように世界各地の地域紛争の解決に向けて、特に平和維持の分野で重要な役割を果たしてきました。
国連にとって紛争発生後の平和維持活動と並んで重要な任務は、紛争の発生を未然に防ぎ、その脅威を除去することであります。また、仮に予防できなかった場合も、紛争が大事に至らぬ段階で解決するよう努力しすることであります。我が国をはじめ6ヵ国の共同提案により昨総会で採択された「紛争予防宣言」は、加盟国、安保理、総会の役割と並んで事務総長に対して、紛争の未然防止のしための直接関係国へのアプローチ、紛争の予想される地域への事実調査団の派遣等を検討するよう求めており、私はこの宣言の重要性をここで強調したいと存じます。
我が国は、世界各地の紛争の解決並びにそのための国連による和平の実現(ピース・メイキング)及び平和維持の活動に対し、最大限の支援を行ってまいる所存でありますが、このような我が国の「平和のための協力」の具体的内容をまとめれば大きく次の四原則に立っていることを申し上げたいと存じます。
第一に、国連事務総長が率先して行う和平実現への努力を全面的に支持するとともに、我が国の外交努力を傾注して地域紛争の解決に向けできるかぎりの協力を行うということであります。
第二は、我が国は、国連の行う平和維持活動に対し、可能な限りの財政的支援を行うよう努めるとともに、我が国にとって適切な協力分野における要員の派遣についても協力を強化するということであります。我が国は時宣に応じ自発的拠出金を供与してまいりましたが、本年8月には、さらに、地域紛争が解決の暁に新規PKO活動が遅延なく開始できるための経費として、平和維持活動支援強化拠出金を供与しました。私は、本基金の拡充のため各国の参加を強く訴えるものであります。
第三は、世界各地の紛争に関連して発生する難民に対し、UNHCRへの拠出をはじめとする各種援助を強化しているということであります。
第四に、世界各地の紛争の終了後には、戦禍をこうむった国土や経済の復興再建、及び被災者等の民政の安定、向上のため、可能な限りの協力を行うということであります。
議長、
世界の恒久的な平和と安全を維持する上で死活的に重要な課題は、軍備管理・軍縮の実現であります。我が国としては、その安全にとって世界の平和が不可欠であるとの見地から、この面の努力を一層強めてまいります。
現在米ソ戦略核削減交渉、欧州通常戦力交渉が進展していることは喜ばしく、東西関係の一層の安定化がもたらされことを期待いたします。国連や軍縮会議など多国間の軍縮努力の面では、先ず化学兵器禁止の分野において大きな前進がはかられ、本年1月のパリ会議、及び今月のキャンベラにおける官民合同会議等を通事、包括禁止条約の早期締結に向けて関係国の真剣な交渉が続けられました。私は、ブッシュ大統領が昨日明らかにした化学兵器の全地球的な廃絶に向けてのイニシアチヴを高く評価します。また、明年の核不拡散条約再検討会議に向けて核軍縮の分野においても粘り強い努力が続けられていることは、心強い限りでりあります。
効果的な軍備管理・軍縮を実現するためには、適切な検証措置が不可欠でありますが、近年この面での創意工夫がますます求められるようになってきました。我が国は、持てる技術を結集して、核実験禁止の分野において核実験国際検証ネットワークづくりにイニシアチヴをとっているほか、化学兵器の禁止を確保する検証する制度の確立に向けて、高度に発達した化学産業を国内に持つ我が国の立場から建設的な提言を行っております。
軍縮に向けてのかかる我が国の努力の一環として、本年4月、国連軍縮京都会議が我が国で開催されました。この会議で核実験国際検証ネットワークにつき認識が深められ、米ソ間軍縮と国連等における多国間の軍縮努力が相互補完的に進められるべきである旨確認されたことは、大きな成果であったと考えます。我が国としては今後とも、軍備管理・軍縮の実現を目指す国連、ジュネーヴ軍縮会議における国際的努力に協力を惜しまない所存であります。
議長、
国際社会の持続的繁栄の実現のためには、開発途上国の発展をはからなければなりません。このためには、、各国が地球的視野に立って協力することが必要であります。我が国はこれまでも、途上国の経済開発及び調整努力を支援・強化するため、積極的な貢献を行い、政府開発援助(ODA)を計画的に拡充してまいりました。現在は第4次中期目標の着実な達成に向けて努力を行っているところであります。また、我が国は本年7月しと、自由来から実施してきた「1987年から3年間で300億ドル以上」の資金還流措置を「現行3年間を含む5年間で650億ドル以上」に拡充することといたしました。途上国の累積債務問題については、新債務戦略への支援として、今回拡充される資金還流措置のうち合計100億ドル以上のアンタイド資金を債務戦略適用国に供与することを目途としております。
サハラ以南アフリカ諸国をはじめとする低開発国に対しては、一次産品市況の低迷、低成長、貿易赤字、債務の累積等の困難が深刻化しており、特別な配慮が必要であります。我が国は、これら諸国の経済構造改善努力への支援を強化するために、現行の約5億ドルのノン・プロジェクト無償資金協力を拡充し、新たに1990年度から3年間で約6億ドルを供与する用意があることを表明しております。また、本年度よりの追加的な措置も含め元本合計約55億ドルに上るLLDCに対する過去の円借款債務を対象とした債務救済のための無償援助を実施しております。
さらに、開発途上国の発展のため国連及び関係機関の果たす重要な役割を強調したいと思います。我が国としては、今後ともUNDP等の国連開発事業を支援していくとともに、来年に予定されている経済とくと別総会、LLDC国連会議及び第4次開発の10年のための国際開発戦略策定作業に積極的に産かする所存であります。
議長、
人類史的に見ても地球社会は今大きな変革期を迎えているといえます。
人類の歴史の中で、18世紀後半における蒸気機関の発明は産業革命を引き起こし、経済や社会の構造を画期的に様変わりさせることを示しました。その後、19世紀から今世紀中頃まで、合成化学の発達や原子力工学、石油化学、材料工学、電子工学等の進歩により技術革新の波動が続き、人類社会の発展は休むことがありませんでした。そしてさらに人類の目は、宇宙へ向けられ、そして、深海低探査の技術開発に成功し、更にバイオテクノロジーによる生命の神秘の発見へと開かれたのであります。また、通信衛生の急速な発達は、地球のどこにいてもリアルタイムで情報効果やや映像の受信が可能となり、今や地球は情報化された一つの村社会になりました。このような化学技術の飛躍的な発達は、人類共通の諸問題を解決する無限の可能性を提供しております。これを現実のものとするには、基礎科学の分野における不断の進歩がなければなりません。この分野における資金的、人的資源の効率的活用のためには、科学者の交流による国際共同研究の推進、技術の交流・移転が重要であります。
しかし、反面では、科学技術の発達を背景とした経済活動の飛躍的な拡大が地球生態系のバランスを崩すような形で進められる場合には、取り返しのつかない地球的規模の破壊を引き起こす危険があることを証明しました。実際、人類が宇宙や深海低探査に歩みだした僅か30年間は、人類の歴史の中では一瞬にすぎませんが、この間に地球環境の破壊は加速度的に進んだのです。地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少、酸性雨、砂漠化の進行等、今地球は病んでいます。地球環境問題が国際社会全体で取り組まねばならぬ人類的課題として出現したのです。美しい自然を保護し健全な地球環境の再建に取り組み、人類の未来を守っていくことは、現代に生きる人類共通の責務であります。
全世界の国民が住む国のいずれを問わず、快適で健康的な生活を送る自然環境を確保することは、国際社会の繁栄を実現する大前提であります。環境破壊、人口急増、自然災害等、その影響が国境を越え、地球規模で現われる人類共通の課題こそ国際社会が取り組まねばならないグローバル・チャレンジであり、普遍的組織である国連が総力をあげて貢献すべき分野であります。我々の子孫がこの地球上で繁栄し続けていくためには、地球環境を人類の手で適切に管理していくための国際社会の一致した緊急行動が是非とも必要ではないでしょうか。我が国としては、地球環境問題については、次の四つの原則を踏まえるべきであると考えております。
その第一は、世界経済の安定的発展を秤つつ地球環境保全に努めることであります。
第二は、地球環境保全の基礎として科学的知見を重視することであります。
第三は、問題への対応はグローバルでなければならないということであります。
第四は、開発途上国の立場を十分に配慮することであります。
我が国は従来より、環境問題への取組みを重視してきましたが、これにの原則に則って、多国間及び二国間協力を通じ、我が国の持つ科学技術、経験、知識を生かして積極的に取り組む所存であります。その一環として、国連環境計画(UNEP)、国際熱帯木材機関等の国際機関の活動を引き続き支援するとともに、今後3年間に3,000億円程度を目途として環境分野における政府開発援助を拡充することにしております。
また、我が国は、UNEPの協力を得て、今月中旬地球環境保全に関する東京会議を開催いたしました。同会議では、地球温暖化等の大気変動及び途上国における開発と環境という二つの問題を中心に、今後の方途につき主として科学的見地から建設的議論が行われ、提言がまとめられました。中でも、初めて炭酸ガス(移出の最大許容限度を示し、また、先進国及び途上国が各々とるべき措置を提示する等大きな成果をあげました。我が国としては、これら提言が、今総会における審議、さらには1992年の国連環境開発会議に向けての今後の作業の重要な指針となるものと確信し、これに対し積極的に取り組んでいく所存であります。
地球環境の保全のためにとるべき行動は多岐にわたり、また多数の国連関係機関が各々有意義な計画を実施しております。私は、これらの国際協力がより効果的に、かつ、調整のとれた形で促進されることが必要であると考えます。このような見地から、私は、地球環境問題に関係する国連関係機関の政策調整を、国連が中心となって、より協力に進めるための方途につき本総会において集中的な審議を行うことを提案するものであります。
自然災害の被害を軽減することも、地球の生活環境の保全にとって重要な課題であります。来年から開始される「自然災害軽減の10年」は、提案国の我が国として特に意義深いものと考えます。私は、今後国際的に防災意識の高揚をはかるための活動及び技術協力等に貢献してまいる所存であり、各国の積極的協力を訴えるものであります。
自然環境の保全とともに重大な課題は、地球人類の全員が住む国の如何を問わずひとしく恐怖から免れ、自由と基本的権利を保証され、健康で人間的な生活を享受できるような社会環境を確保することであります。このような見地から世界各地での人権の侵害、難民の流出は国際社会全体しての重大な関心事であります。麻薬問題、国際テロも極めて深刻な国際問題となっております。これら地球規模の人道問題を解決し、人権尊重の社会を実現して、普遍的な価値観を確立するというグローバル・チャレンジは、正しく国連が関係国及び国際機関の協力も得て、その解決に今後一層有効な役割を発揮することが期待されている分野であります。我が国としても、麻薬問題等の解決には国際的な協力が不可欠であるとの見地から、国連のそれらの分野での活動に積極的に取り組んでまいります。特に、最近、我が国へのボート・ピープルの漂着が相次いでおりますが、我が国としてはこの問題の解決に向け、国連難民高等弁務官(UNHCR)をはじめとする国連機関が関係各国とともに果たす役割に強く期待するとともに、従来の実績を踏まえ、今後とも資金協力、定住受け入れ等の面で協力を惜しまない所存であります。
また、人類すべてが健康的で充実した生活を享受できるよう、質的に豊かな社会を実現するためには、医療面での国際協力が重要であります。WHOを中心に各国の協力によって人類の敵であった天然痘は撲滅されました。エイズの世界的流行を見てもその感染の予防と治療について世界的な協力が不可欠であることを示しています。我が国は、伝統的な医学に近代的な西洋医学を取り入れ、医療技術の蓄積を図り、また世界で一番の長寿社会を実現しました。我が国としては、臨床及び研究分野での協力に加え、国境を越えた感染症の予防、保健教育、プライマリー・ヘルスケアの普及等公衆衛生分野の協力を充実すべく、WHO、UNICEF等を通ずる多国間協力及び二国間協力を通じ、我が国の科学的知見、情報、技術、経験を生かして貢献してまいりたいと考えております。
議長、
大きな変革の時代を迎え国連活動の重点も当然変わるべきものであります。現在国連で進められている行財政改革は、変化する国際社会にあわせて、国連自体が、緊急性を失った活動から国連こそが効率的に対処すべきグローバル・チャレンジへと人員、資金を大きく転換し、新たな時代に適応する活性化した効率的な組織となることを目指したものであります。この行財政改革は、事務総長をはじめ関係者のたゆまぬ努力により、本年末をもって一応3ヵ年計画を達成するはこびとなりますが、より効果的、機能的な国連を作るとの目標に向けての息の長い努力は、これで止むべきものではありません。生きている組織が退化を避け、より強靭なものとなるには、常に活性化の努力を継続する必要があります。私は、加盟国全体がこのような国連活性化のための努力を全面的に支持すべきであると考えます。
我が国は、全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存できるような国際社会を作るとの国家目標を掲げ、平和自由国家としての国づくりに邁進してまいりました。その際、国際社会の理想の姿として導きの光を示したのはこのかけがえのない普遍的国際機関—国連でありました。しかし、1945年の創設後、その活動分野を広げ、人道援助、開発事業活動等多大の実績をあげたこの国連も、、その後、国際社会の厳しい現実の前に、しばしば理想からの後退を余儀なくされ、無力さ、活動の沈滞などが指摘されました。しかし、人間と同じく、組織や機構は、基本的にはその構成員の意欲や態度によってその良否が決定されます。その意味で、国連は国際社会の現実をそのまま映し出す鏡でもあるとも言えましょう。国際社会の平和と繁栄を築くという国連の理想に一歩でも近づくか、逆に後戻りするかは、一に加盟国自身が国連という機構を如何に活用していくかという意欲や態度にかかっております。
国連創設40周年を機に行われた省察と改革の時期を経て、国連は次の半世紀に向けてルネサンスの時期を迎えつつあるように思われます。現下の国際社会にとって急務である平和の達成と軍縮の促進、繁栄の持続、環境等地球規模の問題の解決、人権尊重社会の実現というグローバル・チャレンジに、加盟国が国連の場を通じ総力をあげて取り組み、成果をあげていくならば、国連に対する信頼と期待はますます高まるものと信じます。
1990年代の国際社会をより安定し、繁栄したものとする上で、国連の役割は大きく、我々加盟国の責任も重いものがあるといわなければなりません。加盟以来、一貫して国連重視の立場をとり、国連に信頼と期待を寄せてきた我が国としては、この地球社会を構成する責任ある一国家ととして、また、国際秩序の重要な担い手の一員として、今後とも国連の下、世界の平和と繁栄、より公正で人間性豊かな国際社会実現のため、あらゆる努力を重ねる決意であります。
御静聴ありがとうございました。