データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第45回国連総会一般討論演説における中山外務大臣演説

[場所] 
[年月日] 1990年9月25日
[出典] 外交青書35号,393ー401頁.
[備考] 
[全文]

議長,並びにご列席の皆様,

 私はデマルコ閣下が第45回国連総会議長に選出されたことに対し,日本政府及び国民を代表して,心から祝意を表します。同時に,第44回総会議長ガルバ閣下の業績に対して心から敬意を表するものであります。私は,今回初めて加盟国として国連総会に参加するナミビア及びリヒテンシュタインに心からの祝福を送ります。国際平和の維持を最も重要な目的として創設された国際連合は,最近,イラクのクウェイト侵攻に対する迅速かつ適切な対応,カンボディアの和平努力等において,世界中の熱い注目と期待を集めております。私はこのような国連の平和維持・回復機能の活性化を心から歓迎するとともに,安保理及びペレス・デクエヤル事務総長以下国連関係者の弛まざる努力に対して,深甚な謝意と敬意を捧げるものであります。

 我々が1年前にこの総会議場に結集して以来,国際情勢は驚くべきスピードで大きく変化し,世界は新しい秩序を求めて歴史的な変革期に入りました。ソ連におけるペレストロイカと新思考外交,東欧における民主化と市場経済への移行,米ソ新時代の到来により,冷戦は過去のものとなり,欧州から始まった対立から対話,協調への進展が他の地域に波及し,さらには世界全体への広がりをも見せ始めました。ベルリンの壁の崩壊,ドイツの統一は,この自由,協調への大きな変革を象徴するものでありました。他方,イラクの不法なクウェイトへの侵攻により,中東湾岸地域の平和が一挙に崩れ去ってしまったことは,これらの歓迎すべき歴史的変化にもかかわらず,東西対立後の国際秩序がいかに危険と不安定要素を含むものであるかを如実に示したものでした。

 激動する国際情勢の中で,国際社会がなにを最も必要としているか,そのために国連がいかなる役割を果たし得るかを問うことこそが,平和で公正な新世界秩序の形成の成否につながる死活的な問題であります。

(平和と安定)

 イラクの侵攻に対し迅速かつ効果的な措置を一歩一歩とっている国連安保理は,国際社会全体の良心の象徴であり,国連の有用正を高める上で,大きな功績を果たしています。国連の集団安全保障は,国家は紛争を話し合いで平和的に解決することを誓い合い,その誓いを破る国が出た場合には,すべての国が結束してこれに立ち向かうというシステムであります。東西対立の時代には,このシステムは効果的に機能しているとは言えませんでしたが,今やこのシステムが花開く可能性が現実のものとなりうる新たな国際秩序の時代が到来したと言えましょう。この移行期における主要な不安定要素は,テロリズム,歴史的な領土問題や民族的背景に基づく地域問題でありますが,これを未然に塞ぎ止め,除去し,解決するためには国連が中心的な役割を果たす必要があります。

(自由と民主主義)

 東欧諸国における改革や,自由選挙を通じての民主化の波は,アフリカ,アジア,中南米における民主化への大きな流れとなって,世界の変革をもたらしています。また 市場経済の原理が世界のより一層多くの人々に受け入れられつつあります。この地球に生を受けたすべての人間が,住む場所の如何を問わず,基本的人権を保障され,自由に意見を表明し,自由な経済的活動を行う権利を与えられるべきであります。このように各人が豊かな可能性を十分に発揮できることは,人が人として尊重される,公正で人間性豊かな世界を実現するために極めて重要な要因であります。また,今週末開催される「子供のための世界サミット」は子供の人権の問題につき世界的関心を高める,意義ある機会であると考えます。

 国連は,公正な投票実現のための監視団を各地に派遣することにより,このような民主化の潮流に大きく貢献を行い,「銃弾ではなく投票で」のスローガンにより,一国の将来を民意によって決定するという自決の原則を唱導してきました。今後,基本的人権,経済的自由の保障のため,国連の果たす役割は益々拡大するものと信じます。

(繁栄と地球社会)

 戦後の自由世界における発展と繁栄にもかかわらず,多くの開発途上国は依然として深刻な貧困,累積債務の問題に悩んでおり,国際社会の持続的繁栄のためには開発途上国における発展を図ることが重要であります。さらに,地球環境,麻薬等人類が共同で対処すべき発展を図ることが重要であります。さらに,地球環境,麻薬等人類が共同で対処すべき地球的規模の課題が続出しております。これらの諸問題は一国の努力のみではとうてい解決し得ないものであり,国連システムを通じての国際協力がかけがえのない重要性を持つに至っています。

(日本の基本的姿勢)

 第2次大戦後,我が国は平和憲法の下,専守防衛に徹し,諸外国との立場の違いは話し合いで解決することとし,平和を追求する外交を展開してきました。日本国憲法の精神は国連憲章の紛争の平和的解決という原則と同じ立場に立つものであり,それ故に,我が国は加盟以来国連を極めて重視した外交を展開してきたのであります。そして我が国は他国に脅威を与えるような軍事大国にならず,非核三原則を堅持し,紛争の当時国,そのおそれのある国向けの武器輸出は行わず,平和的手段で世界の安定に貢献していくとの堅い決意を持っています。

 我が国としては,日本にとって最もわさわしい責任を果たすとの基本姿勢に基き,アジア・太平洋地域の一国としての立場,および先進工業国の立場に立ちつつ,世界的な責任を十分認識して,世界に貢献する日本を目指し,国際社会の平和と安定のために積極的な外交を進める所存であります。

(平和のための協力)

 私は,昨年の総会で,我が国が世界平和のために,外交努力,国連平和維持活動に対する財政面および要員面での支援,難民への援助,紛争解決後の復興を含め,あらゆる形での協力を惜しまない旨明らかにいたしました。引き続きこのような平和のための協力を推進するとともに,国際社会が現在最も緊急に必要としている平和,安定並びに世界の民主化のために幅広い貢献を行う所存であります。

 このため,国連の集団的安全保障メカニズムがその実効性を発揮し得るように,我が国はその憲法の枠の中で可能な限りの協力を行います。イラクの侵攻に対して安保理が経済制裁決議を採択するに先立ち,我が国は独自の経済制裁を決定し,また厳格に安保理決議を履行しています。また湾岸の平和と安定の回復のための国際的な努力に対し,我が国としても積極的な貢献を行っていくとの立場から,物資,輸送,医療,資金面での協力を進めております。またこの紛争で生じた多数の被災民に対する援助の要望にも積極的に応えており,緊急かつ深刻な経済的困難に直面している周辺国に対する経済的支援を行っているところであります。我が国は,イラクが度重なる安保理決議の要請に応え,クウェイトから速やかに無条件で撤退するよう求めます。また日本人を含む多数の滞在外国人に出国を禁じている措置は,国際法上も人道上も決して容認できるものではなく,イラク政府に対し一国も早く出国を認めるように強く要請します。またその実現のために国連事務総長が引き続き努力を行うように期待します。

 国連の行う平和維持活動は,近年活動の幅と深さを広げております。特に選挙監視の様な,文民要員の活動し得る分野が広がってきたことは,活動への参加国をさらに拡大することを可能ならしめるものであり,高く評価します。さらにカンボディア,西サハラのように,PKO活動に行政管理の任務を加えることは,国連が国際社会全体の利益を体現するとの立場から民主的な政府の樹立に参加するとの意味をもつものであります。日本は従来より新規PKO活動の立上がり経費及びPKO活動の財政的基盤を強化する目的から,PKO支援強化信託基金に自発的に拠出するなど,格段の協力を行っています。私は,他の加盟国に対し右基金への拠出をよびかけるものです。また要員派遣面では,我が国はナミビア,ニカラグアでの選挙監視活動に参加いたしました。今後とも資金,要員両面で協力を惜しまない所存です。

 海部総理は更に一歩進めて,これからの国際社会で,我が国が平和を守り,これを維持するための国連活動やまたこれを支援する国際的努力に協力していく責務をより適切に果たしていくことができるよう,現行の法制度を見直し,国際社会への貢献のため日本国憲法の枠組みの中でできる限りの責任を果たすとの観点から,例えば国連平和協力法というような新しい法律の制定を真剣に検討したいと表明しました。現在日本政府部内で鋭意検討を行っています。我が国としては,国際の平和と安定の維持・回復のために行われる国連の活動に対し積極的に協力していくことこそが平和憲法を戴く日本が国際平和のために貢献する道であると考えます。

(アジア・太平洋地域の平和と安定)

 欧州で起こった急激な変革の波はグローバルな影響をもって他の地域へと広がりを持ち始めました。中ソ関係の改善,韓ソ関係の改善,モンゴルやカムラン湾からのソ連軍の撤退開始,モンゴルの民主化等,アジア・太平洋地域にもすでに一定の変化をもたらしており,今後とも着実に影響を及ぼしていくと思われます。しかし,ソ連による我が国の北方領土占拠は未だ続いており,また,朝鮮半島における安定は未だ到来せず,カンボディア問題も包括和平の達成には未だ種々の困難な問題が残されており,またカシミールをめぐるインド・パキスタンの紛争は拡大の危険性が懸念されます。

 我が国としては,自国の安定に直接結びつくこの地域の平和と安定の強化のためには,まず域内の政治対立,地域問題の解決に全力を傾注することが必要であると考えます。この見地から,関係諸国のより一層の積極的かつ建設的対話のための外交的努力を重ねる方針であります。

(日ソ関係)

 世界的規模で対話と協調に基づく新たな関係構築に向かう好ましい動きのある現在,日ソ間で未解決の北方領土問題を解決して日ソ平和条約を締結することにより,日ソ関係の正常化,抜本的改善を実現することは,アジア・太平洋地域の平和と安定を強化し,欧州における東西関係の本質的な関係改善をグローバルに進展させる上で大きく貢献するものと確信致します。我が国としてはこのような観点から,今後ともソ連との間で対話を一層拡大・強化しつつ,日ソ関係の抜本的改善を実現すべく日ソ双方で努力する所存です。

(中国関係)

 アジア・太平洋地域の平和と安定には,対外的に開かれ,かつ安定した中国の存在が極めて重要であります。我が国は中国が改革・開放政策を引き続き推進していくことを期待しており,かかる中国の近代化努力に対して今後ともできる限り協力していく方針であります。

(カンボディア)

 長年にわたるカンボディア問題の恒久的解決には国連が関与した包括的政治解決が不可欠であります。昨年のパリ国際会議の後,政治解決に向けた努力が国際的,地域的,当事者間の種々のレベルで進められてきました。我が国も同じアジアの一員としてこの地域の最大の不安定要因の解決のため「カンボディアに関する東京会議」の開催をはじめとし,和平プロセスに積極的に参加してきました。安保理常任理事国による和平枠組みを作り,ジャカルタ会合における最高国民評議会の発足と,和平のモメンタムは大きく前進しております。今後はパリ会議が早期に開催され,残された問題につき合意が成立し,カンボディアに一日も早く和平が訪れることを強く希望致します。我が国としては,国連の平和維持活動,及び和平達成後の復興への応分の協力等を検討する方針であります。

(朝鮮半島)

 朝鮮半島問題は第一義的に南北両当事者の直接対話により,平和的に解決されるべきものであります。我が国としては,本年9月,ソウルにおいて南北首相会談という歴史的な会談が実現したことを高く評価するとともに,今後,南北間の対話が更に進展することを期待しております。我が国はこのような新たな情勢も踏まえ,国際政治の均衡に配慮しつつ,日朝関係改善に積極的に努力するとともに,南北対話のための環境作りにも貢献したいと考えます。更に国連加盟問題については,我が国は,朝鮮半島統一に至る過渡期の措置として,南北の国連加盟を,緊張緩和及び国連の普遍性を高めるとの観点からも支持し,歓迎する立場を採ってきておりますが,先般の南北首相会談の結果を踏まえ,南北間で建設的な話し合いが行われることを期待します。

(南アフリカ)

 南アフリカにおいてアパルトヘイトの撤廃へ向けて,情勢の大きな進展が見られたことを高く評価するものです。特に,南ア政府とANCとの予備交渉を通じて新憲法制定のための本格的交渉を開始する道が開かれつつあることは,この問題の平和的な解決を推進していく上で大きな前進と考えております。我が国としては,南アフリカにアパルトヘイトのない自由かつ民主的な体制を樹立するための全ての南ア当事者間の努力を支援していく所存であります。

(アフガニスタン)

 アフガニスタンにおいては,いまだにアフガン人同士の戦闘が継続している事実は忘れられてはなりません。我が国としては,従来よりアフガニスタンの真の安定達成のためには,国民の総意を反映した幅広い基盤を有する政権が樹立されることが不可欠であると考えています。我が国は,国連調整官事務所を通ずる拠出を始めとしとて,アフガン難民の帰還支援のため,積極的な協力を行なっておりますが,アフガン人自身による問題解決の真剣な努力,米ソの交渉努力によりアフガニスタンに一日も早く平和と安定が回復し,難民の帰還が早期に実現することを願ってやみません。

(中米)

 中米問題については,我が国は,域内諸国のイニシアチブによる和平努力を一貫して支持しております。国連監視による選挙の結果,ニカラグアにしおいて自由かつ公正な選挙による政権交替が行われたことを高く評価し,またエルサルヴァドルにおける停戦が国連の協力の下に実現することを強く希望しております。

(軍備管理と軍縮)

 軍備管理・軍縮に関しては,昨年以降の東西関係の改善の動きととあいまって,米ソ戦略核削減交渉及び欧州通常戦力交渉が加速され,更に東西関係全般の改善をもたらしていることは,誠に喜ばしい限りです。

 また,核,化学・生物兵器等の大量破壊兵器及びミサイル等のグローバルな不拡散体制をいかにして構築,維持,強化して行くかという問題が,今日一層の緊急性を帯びてきております。今般の,湾岸における事態は,まさにこの観点からの警鐘ともいえましょう。我が国の厳格な武器輸出規制政策は,国際的な平和と安全の維持に大きく貢献してきたものと信じます。通常兵器の移転の問題については,原則的に,より一層の透明性,公開性が確保されことが必要であり,かかる観点から国連総会の決議に基づく専門家による検討を通じて有益な結論が得られることを期待します。先般終了した第4回不拡散条約(NPT)再検討会議においては,最終文書の採択にこそ至りませんでしたが,NPT体制の意義が改めて確認されたものと考えます。我が国としてもNPT体制の維持・強化に今後とも努力する決意であり,同時に締約国に対し,厳正な遵守を訴えるものであります。また今次再検討会議への仏及び中国のオブザーバー参加は,本条約の普遍化のためには好ましいものであり,核兵器保有国,非保有国を問わずすべての国が一刻も早くこの条約に加入するよう強く訴えたいと思います。

 また,核実験の制限,禁止の分野において,ジュネーヴ軍縮会議が実質問題を審議するアド・ホック委員会を本年より再開したことは,米ソ間における核実験2条約の検証議定書署名と供に,特に歓迎されるものであり,来年もかかる作業が維持されることを希望します。

 化学兵器問題の根本的解決のためには,パリ会議最終宣言の精神に則り,ジュネーヴ軍縮会議における包括的禁止条約交渉の早期妥結に向けて一層の努力を傾注することが必要であります。この関連で最近米ソ両国が取ってきた一連のイニシアティヴは高く評価されるべきものであります。

 我が国としては今後とも,国連,ジュネーヴ軍縮会議を中心とし,実効的な軍備管理,軍縮の実現に向け貢献していく所存です。

(民主化の支援)

 我が国としては先進民主主義の一員として世界の民主化の流れに積極的に貢献してまいります。我が国は基本的立場として,自主的に民主化を追求して努力していく国に対し相手国の実情に合わせ積極的に支持の手を差し延べてまいります。

 我が国としては,引き続き他の先進民主主義と協調しつつ,東欧諸国に成立した民主主義政権を力強く支援していきたいと考えております。

 安定と繁栄の実現を通じての民主化を達成せんとの開発途上国における努力に対しては経済協力等を通じ,支持の姿勢を明らかにしていくべきであると考えます。

(自由貿易体制の維持・強化)

 世界経済のダイナミツクな発展のための原動力が,市場経済原理を中心とした自由貿易体制であることは,最近のソ連におけるペレストロイカ,東欧諸国の市場経済への動きから見ても明かです。

 また1992年に予定されているEC域内市場統合は,閉鎖的な地域主義や保護主義に陥ることなく,世界に向かって開かれたものになることが期待されています。

 私は,自由貿易体制の維持・強化は,途上国や東欧を含め,各国の永続的な発展を確保する上で不可欠との立場から,ウルグァイ・ラウンドを成功裡に妥結させ,保護主義を防圧し,21世紀に向け国際貿易秩序を再編成することが現在の我々にとって緊急の課題と考えます。ウルグァイ・ラウンドの交渉期限まで2ヶ月あまりしかなく,各国が政治的意思を結集して残された問題に取り組んでいくことが不可欠と考えます。

(開発途上国の開発)

 市場経済の導入に努める東欧諸国に対する支援の結果,開発途上国に対する援助が悪影響を受けてはなりません。これはヒューストン・サミット経済宣言でも確認された通りであります。現下の中東情勢によって,途上国,特に非産油国の経済が受けている影響を考えると,途上国支援の重要性は従来に比して増大しております。このような時期にこそ経済的困難に悩むアジア,アフリカ,ラ米の途上国の開発に対する協力の一層の必要性を認識する必要があります。

 我が国はこれまでに途上国への資金・技術フローの拡大のため,政府開発援助(ODA)を計画的に拡充してまいりました。この結果昨年のODA総額は世界最大規模となりました。また累積債務等の諸問題に悩む途上国に対し,官民のアンタイド資金による還流措置を着実に実施しております。

 サハラ以南のアフリカ諸国をはじめとするこれら諸国に対しては,一次産品市況の低迷,低成長,貿易赤字,債務の累積等の困難が益々深刻化しており,特別な配慮が必要であります。我が国は,これら諸国の経済構造改善努力への支援を強化するためのノン・プロジェクト無償資金協力およびLLDCに対する過去の円借款債務を対象とした債務救済のための無償援助を実施しております。今回開かれたパリLLDC国連会議はこれら諸国の困難と国際協力の必要性を世界に訴える意味で重要な役割を果たしました。我が国はこれら諸国への援助に今後とも手厚く配慮していく所存です。

 我が国のODA総額が昨年世界最大となるのと軌を一にして,これら援助が真に途上国の開発ニーズと合致しているか,開発プロジェクトにおいて環境破壊の問題に十分に配慮している,援助効果があがっているかにつきしばしば質問を受ける機会が増えています。今後益々援助効果の評価を行なうシステム,さらには,援助国と受益国の間で政策,内容についての対話の強化が望まれます。この面で国連及びUNDP等の関係帰還の果たす指導的役割は重要であり,可能な措置に着実しに強化していくよう提案します。

(科学技術)

 国際社会が今経験している政治的および経済的変革は,科学技術の飛躍的発展と密接に関係しているといえます。蒸気機関の発明が産業革命を引き起こし,社会構造を画期的に様変わりさせて以来,技術革新の波動は人類社会を常に発展へと導いて参りました。今や通信衛星の発展によりリアルタイムの情報交換や映像通信が可能となり,交通手段の発展により人間の移動する頻度,速度はめざましく速まりました。東欧における連鎖反応のような急速かつ激的な変革はまさに情報の瞬時における伝達が可能となったことによることが大きいと言えます。科学技術の発達は,人類の進歩をもたらす無限の可能性を提供しております。

 しかし,反面では,軍事技術の進歩は著しく,人類社会の大量破壊の可能性を増大させてきました。また,科学技術の発展を背景とした生産・消費活動の飛躍的な拡大の結果,地球温暖化,オゾン層の破壊,熱帯林の減少,酸性雨,砂漠化の進行等,地球生態系のバランスが大きく崩れつつあります。

 このような地球規模に現れる人類共通の課題に国際社会の一致した緊急行動を確保するため,世界で最も普遍的組織である国連がシステムの総力をあげて貢献すべき時期に来ています。

 我が国は従来より,深刻な産業公害の克服という経験を経て,GDP当り二酸化炭素排出量は先進国で最も低いレベルを達成する等環境問題への取組みを重視して参りました。このような我が国の持つ科学技術,経験,知識,経済力を生かして地球環境問題の国際協力に今後一層積極的に取り組む所存であります。その一貫として,国連環境計画,国際熱帯木材機関等の活動を引き続き支援するとともに,1989年から1991年の3年間に3千億円を目途として環境分野における政府開発援助を拡充することとし,着実に実施しております。また,1992年の環境開発会議に向けた種々の準備作業に積極的に参加していく所存であります。オゾン層保護基金を含む途上国支援メカニズムに対しても適切な協力に努めてまいります。

 途上国支援に当たっては,技術移転が喫緊の課題であります。途上国のニーズに適合した技術に関する情報を集積し,これを研修等を通じて着実に習得を進めるための中核的機関として,UNEP地球環境保全技術センターを我が国に設置する構想について検討が行われています。我が国政府としては,UNEPの正式決定を得た上でその推進に協力したいと考えています。

 1990年代は,「自然災害軽減の10年」でもあります。提案国の我が国としては,国際的に防災意識を高揚し,自然災害の被害軽減,地球の生活環境保全のために各国の積極的協力を訴えるものであります。

(医療協力)

 科学技術の恩恵を最も切実に経験できるのは医学の分野であります。人類全てが健康的で人間性豊かな生活を享受できる社会を実現するためには,医療面での国際協力が重要であります。医学の進歩により,結核,天然痘等多くの病根が制服されました。癌,エイズについても効果的な治療法が遠くない将来発見されることが期待されます。

 チェルノブイリ事故は,科学技術の進歩が人類の生存を脅かしかねない危険性をはらんでいることを如実に示しました。本年経済社会理事会は同自己の被害者に対する二国間,多国間の協力を要請致しました。我が国は唯一の被爆国としてこの分野での経験を十分活用し,協力に取り組む所存であります。

 麻薬問題でも,その解決のために国際的協力が不可欠であり,国連の役割が特に期待される分野であります。我が国としても麻薬特総で採択された政治宣言及び世界行動計画の実施のためUNFDACへの支援を含め積極的に取り組んで参ります。その一環として,アジア・太平洋地域の協力推進のため同地域の麻薬対策会議の開催を提唱することとしております。

(国連の役割)

議長,

 大きな変革の時代を迎え,国連自身もその役割,機能が今形成されつつある新たな国際秩序に十分適応しうるものであるか真剣に検討すべきであると考えます。対話と協力の時代において,国連安保理が果たすべき平和維持・回復のための役割は,益々重要性を増しております。紛争が起こる前にその危険性につき警報を発し,緊張の水準を下げる予防外交に安保理として事務総長と共に取り組むべきであると考えます。具体的には,国際の平和と安全が脅かされようといてる事態に対して早い段階での安保理による事実調査,監視員派遣,及び事務総長による何らかの介入,紛争予防の努力等の体制を整備することが紛争の悪化を阻止する手段として特に重要であると考えます。このような見地から我が国としては,紛争予防のための必要な機能強化が可能となるよう他の加盟国とともに真剣な努力を重ねる用意があります。

 また,私は国連加盟国すべてが名実ともに同じ立場にたって新たな協力の時代を迎えた国連活動に参加すべきであると考えます。この見地から私は,憲章に残された旧敵国条項は新しい時代には不適当かつ意味のないものであるとの立場から,可及的速やかに削除されるべきものと考え,他の加盟国の理解と支持を求めるものであります。

 国際平和と安定の達成,自由と民主主義,人権を尊重する社会の実現,持続的繁栄の達成,地球規模の問題の解決という現在の国際社会にとって急務の課題に対し,国連が果たすべき役割への期待が今以上に盛り上がりを見せたことは,国連の歴史を顧みても稀有なことでありましょう。

 20世紀の最後の10年を迎え,過ぎ去りつつあるこの世紀を回顧してみると,それは戦争と対立が長く続く世紀であったといえましょう。来るべき21世紀は平和と協力の世紀であらねばならないと考えております。

 国連を中心に各国が協力しつつ,人類共通の課題である地球環境の保護,麻薬,国際テロ,天然資源の浪費の防止について供に努力を求められる世紀となるでしょう。

 加盟以来,一環して国連中心主義の立場をとり,国連に信頼と期待を寄せてきた我が国としては,今後とも世界の平和と安定,人間性豊かな国際社会,美しい地球のため,あらゆる努力を重ねる決意であります。

御静聴ありがとうございました。