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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第52回国連総会における小渕外務大臣一般討論演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1997年9月23日
[出典] 外交青書41号,241−245頁.
[備考] 
[全文]

議長、

事務総長、

ご列席の皆様

 私はまず、ウクライナ外務大臣のウドベンコ閣下が、先週、第52回国連総会の議長に就任されましたことに対し、心からお祝いを申し上げたいと思います。我が国と致しましても、今次総会の成功のため、貴議長と緊密に協力して行きたいと思います。

 また、第51回国連総会におきまして、議長として、改革を通じた国連の機能強化のために積極的にイニシアティブを発揮されたラザリ・イスマイル大使閣下に対し心より敬意を表します。我が国としては、ラザリ大使が、引き続きその見識を国連改革の推進のために役立てられることを強く希望しています。

(国連改革の緊要性)

議長、

 今次国連総会は、「改革総会」であります。それは、今次総会が、国連改革の実現にとってこれまでにない重要性をもっているからであります。

 私は、国連改革の目的は何であるか、改めて問題提起をさせて頂きたいと思います。

 私は、国連改革の目的は、国連がこれまで以上にその役割を十分に果たせるよう、機能を強化することにあると思います。我が国は、安全保障理事会の理事国として、冷戦後、紛争と貧困という大きな課題が浮かび上がり、それが、特にアフリカで多発し、しかも先鋭化していることを実感しているところであります。国連改革により、国際社会は、紛争や貧困に苦しむ世界各地の諸国民の問題、中でも、特にこれが顕著なアフリカの問題をよりよく解決して行くことができます。我々は、この意味で国連強化に直ちに着手し、今後継続していかねばなりません。強化された国連の中で我が国は果たすべき役割を一層果たしたいと考えております。

 私は、改革の推進のためのコフィ・アナン事務総長の強力なイニシアティブを高く評価致します。特に、本年3月及び7月に発表された国連改革案は、事務総長のリーダーシップを強化し、開発、人道などを含む各分野における調整機能を強化する等、国連の活動の整合性、実行性を高めるものであり、我が国としても基本的に支持するものであります。この改革案により、国連改革全体に一層のはずみがつくことを強く期待致します。

 「総論賛成、各論反対」の下、国連が徒らに議論を繰り返すばかりで時代に適合した自己改革のための能力を持ち合わせていないということになれば、国連に対する国際社会の信頼感は一挙に低下しかねません。我々は現在このような岐路に立たされていることをよく認識すべきであります。そして今こそ断固たる政治的決意をもって国連改革の大筋を定めるべきなのであります。

 我が国としては、各加盟国が、狭い国益追求の観点からではなく、国際社会全体の利益を最大化するという真の大局的観点から、ステーツマンシップに則って実質的な交渉をすべきであると信じます。

(均衡のとれた改革)

議長、

 我が国は、安保理改革、財政改革及び開発分野での改革が国連改革の3つの柱であると考えております。今日、安保理は経済的、社会的側面にも着目して紛争の解決を図るようになっています。また、健全な財政基盤の確立のために、開発や平和維持の分野を含む国連の全ての活動の効果を高めることが求められております。更に、開発分野における真剣な取り組みは国際の平和と安全を確保する上で重要であります。これらに鑑み、国連が、唯一の普遍的国際機関として、大きく変化している国際社会の状況に適合してその機能をよりよく発揮できるようにするためには、これら3つの分野での改革が全体として均衡のとれる形で行われることが不可欠であります。

(安保理改革)

議長、

 ここで国連改革の各論のうち特に重要な点につき、改めて我が国の考え方を申し述べたいと思います。

 まず、安保理改革であります。

 申すまでもなく、今日の国際社会は国連が創設された51年前の国際社会とは大きく異なっております。それは大きく言って次の2点に表れていると思います。第一は、当初国際の平和と安全のために主要な役割を果たすことが期待されていた国に加え、グローバルな役割を果たす意思と能力のある国が新たに生まれたという点であります。第二は、その後、多くの国が独立し、現在では国際社会の多数を占めかつ重要な役割を演ずるに至っている、という点であります。特に東西冷戦終了後において、安保理は国際の平和と安全の分野で一層重要な役割を果たしていくことが期待されているわけでありますが、これにこたえるためには、今指摘した2つの大きな変化に適合させるように安保理を改組することが不可欠なのであって、そのことを通じて安保理の正統性と実行性を向上させることが是非必要なのであります。これが安保理改革の本質であります。このように改革され、強化された安保理においてこそ、例えばアフリカにおいて多発している紛争に対する効果的な解決策が見出されるようになります。我が国を含む多くの国が、常任・非常任双方の議席の拡大を主張しているのは、まさにこのような考え方に基づくものなのであります。仮に安保理改革が、非常任議席のみの拡大で終わってしまう場合には、安保理の正統性及び実行性双方の向上に資することはなく、決して時代の変化に適合した真の改革の実現にはなりません。

 ラザリ前総会議長のリーダーシップの下、今年に入り、安保理改革に関する議論はこれまでになくモメンタムが高まっております。我が国としては、この機会を逃すことなく、今年末までの間に、安保理改革の枠組みなりとも決定し、具体的な改革の達成に向けて大筋につき合意を得るべきであることを強く訴えたいと思います。我が国としては、憲法の禁ずる武力の行使は行わないという基本的な考え方の下で、多くの国々の賛同を得て、安保理常任理事国として責任を果たす用意があることを、改めて申し述べたいと思います。

(財政改革)

 次に財政改革であります。

 今日、国連の財政の一層の緊縮化が求められております。その実現のための事務総長の努力を高く評価します。我が国自身、現在、2003年までに財政赤字をGDP比3%以下に抑えることを目指して、厳しい財政構造改革を推進しているところであります。また、国連は安定した財政基盤を確保することが重要であります。この関連で、分担金を全額支払うことは加盟国の義務であり、滞納国が滞納金解消の努力を払うべきであることを改めて強調いたします。もとより、分担金の負担は公平なものでなければなりません。我が国は、分担金の算定方式に関して、「支払い能力に応じた支払い」の原則とともに「責任に応じた支払い」の考え方を主張しております。我が国の分担率は米国の分担率に近づきつつあり、また既に米国を除いた他の安保理常任理事国4ヶ国の分担率の合計にほぼ匹敵します。安保理改革の実現を待たずに、我が国の分担率が均衡を失して更に上昇するような状況は、公平性の観点に照らして問題があると言わざるを得ません。国連の財政改革が、他の分野の改革と全体として均衡の取れた形で進展し、公平な分担率に合意できることを強く望むものであります。

(開発分野の改革)

 第三に開発の分野での改革であります。

 開発と平和は、いわばコインの表と裏の関係にあり、開発なくして紛争の火種は除去されず、また平和なくして開発の条件は整いません。我が国は、現行憲法の下、従来より開発問題や人道支援への積極的取り組みを通じた国際平和への貢献を重視してまいりました。開発問題への取り組みは引き続き我が国の優先課題であり、途上国の開発に対する我が国のコミットメントは不変であります。

 我が国は、冷戦終結後の時期にこそ先進国と開発途上国との間の真の協調関係に基づいた「新たな開発戦略」が必要であると提唱してきております。先般「開発のための課題」の作業が完結致しましたが、開発途上国の主体性と真の協調関係に基づいた新しい考え方が今後国連の場において共有されていくことが重要であると考えます。このため、我が国は本年7月にも沖縄において「開発に関する沖縄会議」を、また今月もオランダと共催で「新開発戦略会議」を開催し、この戦略の一層の浸透と具体化の方途を探りました。我が国のこのような努力を通じ、三角協力という新しい側面を備えた南南協力がこの戦略の重要な手段であるとの認識も広く共有されつつあります。

 「国連開発グループ」を創設し、各国の国連事務所を統合するというアナン事務総長の提案は効率化を図る上で非常に有益なものと考えます。我が国は改革が資源の削減そのものが目的となることのないよう、節約により生じた資金を開発分野に「再投資」することを提案し多くの国の支持を得ましたが、事務総長の改革案に盛り込まれたこの提案の迅速な実施を切望致します。また、我が国は2001年が国際ボランティア年に制定され、草の根レベルの国連活動への参加が促進されることを希望します。

 アフリカにおける開発を軌道に乗せ、貧困をなくすことは、同地域で多発する紛争の根本的解決のためにも重要であります。かかる認識から我が国はアフリカにおける開発の問題に大きな力を注いでまいりました。来年には、我が国のイニシアティブにより、閣僚レベルの参加する第2回アフリカ開発会議を東京で開催する予定であり、そのための事務レベルの準備会合を本年11月に同じく東京で開催する予定であります。これらの会議が成功し、アフリカ開発の促進のための実質的な前進が図られるよう関係各国の協力を得たいと思います。

(我が国と国連)

議長、

 我が国は、1956年に国連に加盟して以来、一貫して国連を重視する外交政策をとって参りました。そして多くの支持に恵まれ、今年1月より安保理非常任理事国として8回目の任期を務めています。また、国連の平和維持活動や地域紛争の予防・解決のための努力に積極的に協力してまいりました。明年1月には、第51回国連総会において橋本総理が提唱した「紛争予防戦略に関する国際会議」を東京で開催致します。同会議では、国連とアフリカ統一機構との協力及び安保理改革を中心とする国連の機能強化によりアフリカの紛争防止のために何をなしうるかにつき具体的な提言を求める考えであります。更に同3月には国連PKOの現状と将来の展望に関する国際会議を東京で開催する予定であることを紹介致したいと思います。

 また、2000年以降の地球温暖化防止への国際的取り組みを定めるため、本年12月には京都で「気候変動枠組条約第3回締約国会議」を開催致します。地球温暖化は人類の将来を左右する重要な問題であり、その解決のためには、途上国も含めて全ての国の努力が必要であります。京都会議が、意味があり現実的で衡平な議定書を採択し、成功するよう我が国として全力を尽くす所存ですので、参加国の協力を切にお願いいたします。

 来年は、世界人権宣言50周年を迎えますが、私は国連が人権、人道、難民支援の分野においてその役割を一層強化することを期待するとともに、我が国としても、この分野で引き続き積極的に貢献していく所存であります。

 また、世界の平和と安定のためには、軍縮努力及び大量破壊兵器の不拡散体制の更なる強化が是非とも必要であります。我が国は、今次国連総会においても、核兵器のない世界に向けて現実的な核軍縮措置を着実に積み重ねていく努力が重要であることを引き続き訴えてまいります。また、対人地雷問題、国連軍備登録制度の見直し、小火器問題等の議論にも積極的に参加してまいります。

(結語)

 21世紀まであと4年を切りました。国連は、次の世紀が一層輝くものとなるように、自己の改革をなしとげて新しい時代を迎えるべきであります。そのためには国連改革の大筋について、本年中に合意を達成すべきであります。21世紀がより安定して繁栄した社会となるよう、我々の力を合わせていこうではありませんか。その為には是非国連改革をなしとげて21世紀を迎えたいと思います。

 唯一の普遍的国際機関である国連の強化が極めて重要であることを再度訴えて、私の演説を終えたいと思います。