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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第54回国連総会における高村外務大臣一般討論演説−副題「21世紀における課題と国連の役割」−

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1999年9月21日
[出典] 外交青書43号,335−340頁.
[備考] 
[全文]

議長、御列席の皆様、

 まず、グリラブ・ナミビア外務大臣閣下が第54回総会議長に就任されたことに心からお祝いを申し上げます。また、第53回総会議長としてのオペルティ・ウルグアイ外務大臣閣下の努力に敬意を表します。

 また、キリバス、ナウル、トンガの3か国が新たに国連に加盟したことを歓迎いたします。

 さらに、先般の地震で大きな被害を受けたトルコ及びギリシャの方々に対し、心より哀悼と御見舞いの意を表します。また、21日未明に台湾で発生した地震により大きな被害が生じていることに深い憂慮の念を表するとともに、被害に遭われた方々に衷心より哀悼と御見舞いの意を表します。

【序】

 議長、

 今総会は明年のミレニアム総会前の最後の総会であります。今後一年の間に、我々は、紛争や貧困といった21世紀の国際社会が直面する課題を見極め、国連がいかなる役割を果たすべきかについて答を見い出さなければなりません。

【創設以来の国連の取組とその成果】

 議長、

 1945年の創設以来国連は、世界の平和と安全保障や開発等の経済・社会問題に取り組んでまいりました。平和と安全保障の分野では、冷戦期には安保理の紛争対応能力が大きく制約されましたが、その中でも、国連は平和維持活動(PKO)等の創造的な取組を行い、中東等で一定の成果を挙げました。冷戦終結後は、PKOは飛躍的に増大し、任務も多様化し、カンボディア、モザンビーク等で実績を残しております。また、紛争等によって生ずる難民・避難民問題では、国連難民高等弁務官(UNHCR)等の人道支援活動等への取組は高い評価を得ています。

 経済・社会分野では、国連は専門機関と共に、開発、環境、人権、科学、文化等あらゆる方面において課題を提起し、基準作りとその実施に努めてまいりました。開発の分野では、国連開発計画(UNDP)等の基金と計画による取組のほか、国際社会の援助活動の調整の面でも一定の成果を挙げてまいりました。また、国連は地球社会における世論を見る上でも決定的な役割を果たしてまいりました。

 我々はこのような国連の取組を評価すべきであります。日本国民は国連の意義を十分に認識し、日本の国連加盟をもって第二次大戦後の日本の国際社会への復帰と位置付け、爾来、国連の諸活動を支持し、これに貢献してまいりました。

 他方、紛争の予防と解決や貧困の削減等の問題で国連が行うべきことはまだまだ沢山あります。また、グローバリゼーションや地球規模の問題等、新たな問題への対処にあたり「人間の安全保障」等新たな視点をもつことも重要となります。我々はこれらの課題を21世紀に引き継ぐことになります。

【今後に残された課題】

(紛争予防)

 議長、

 国連が引き続き対処すべき最も重要な課題の一つは、紛争への対応であります。アフリカでは依然多くの地域で紛争が続いております。コソヴォでは和平が成立しましたが、紛争は地域社会や人心に大きな傷跡を残し、紛争予防の重要性を改めて示しました。さらに、今後の復興に向けては多くの課題が存在しております。アジアにおいても、いまだに緊張が続いています。中南米では多くの紛争は解決されましたが、昨年国境紛争の和平合憲に達したペルー、エクアドル国境地域の開発や地雷除去等、紛争解決後の安定的発展に向けた課題が残っております。

 紛争への取組について、私は以下の3点を強調したいと思います。第一に紛争の予防・解決から平和維持、平和構築、さらには貧困等の紛争の潜在的要因の除去までを含めた包括的な取組が重要であります。第二に、地域の現状に合わせた対応が必要であります。これら2点は、昨年の「アフリカに関する事務総長報告」でも指摘されました。第三は、「平和構築」において、緊急人道援助から長期的な開発の援助まで、国際支援が間断なく行われる必要があります。以上に加え、人道的な活動や開発支援に従事する要員の安全確保も重要な課題となっています。

 アフリカでは、コンゴ民主共和国、シエラ・レオーネ、エティオピア・エリトリア国境等の紛争で、国連の協力により平和への努力が見られます。わが国はこのような国連の取組や当該国の復興のための支援を検討していきたいと考えます。アフリカにおける貧困問題への取組も、紛争の予防に資するものと考えます。また、コソヴォでは、わが国も、国連コソヴォ・ミッション(UNMIK)への人的貢献のほか、人道支援、復興支援等への財政的支援を積極的に行っており、先般、支援の具体的な案件を調査するため、調査団を派遣したところでございます。

 アジアにおいては、15日の安保理決議を踏まえ、既に展開を始めている多国籍軍が、インドネシア政府、国軍と調整を図りつつ活動することで、東チモールの治安状況が一日も早く安定することを期待いたします。わが国は多国籍軍に対し実質的な財政支援を行う旨表明しましたが、これは開発途上国の多国籍軍への参加に資することを意図したものでございます。わが国の貢献額は国際部隊の全体像が明らかになるのを待って決定したいと考えます。東チモール内外における難民・避難民の状況は誠に憂慮すべきものであり、わが国は先に表明したUNHCRと世界食糧計画の活動への計200万ドルの支援に加えて、現在現地に派遣している政府調査団の報告等を待って、更なる支援について積極的に検討していく考えでございます。さらに、中長期的には、東チモールの復興・開発のため、十分な支援を行っていく考えであります。

 また、紛争予防の一環として、アフリカ統一機構では早期警戒システムの構築等の努力が開始され、アジア地域でも、7月のASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合で、今後、予防外交への取組のあり方が具体的に議論されることになったことを評価いたします。

 次に、紛争地域に共通して見られる三つの課題、小火器、対人地雷、難民・避難民に触れたいと思います。小火器問題への取組では、わが国は、専門家グループが作成した事務総長報告の勧告を推進する決議を是非今総会で成立させ、各国と共にその実施に努力していきたいと思います。また2001年までに開催される「小火器に関する国連国際会議」の成功に向けて積極的に貢献してまいります。対人地雷では、3月の対人地雷禁止条約の発効を踏まえ、普遍的かつ実効的な対人地雷禁止及び、地雷の除去と、多くの児童を含む犠牲者への支援を併せて行うことが必要であります。わが国は、既に国際機関やNGO等に対し4000万ドル以上の資金協力を行いましたが、「犠牲者ゼロ」の目標を早期に実現すべく更に取り組んでまいります。難民・避難民問題ではUNHCR等の活動を高く評価し、わが国も引き続き積極的に協力してまいります。

(大量破壊兵器の不拡散・軍縮)

 議長、

 核を含む大量破壊兵器及びその運搬手段たるミサイルの拡散防止と軍縮のための国際的努力は、冷戦後一定の成果を挙げましたが、核兵器不拡散条約(NPT)体制は、一部の国による核実験や大量破壊兵器の秘密裡の開発という挑戦に晒されております。

 明春のNPT再検討会議の成功へ向け、核兵器国、非核兵器国双方が建設的行動をとるように求めます。また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効のため、未署名国・未批准国が速やかに署名・批准し、全ての国が核実験停止のモラトリアムを尊重するように求めます。右に加え、STARTプロセスの再活性化、カットオフ条約の交渉の早期開始も重要であります。

 わが国は、94年以来国連総会に「核兵器の究極的廃絶に両けた核軍縮に関する決議」を提出する等、一貫して現実的な核不拡散・核軍縮措置を訴えてまいりました。また、わが国の提唱により始まった「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」が、7月末に発表した報告書は核不拡散・核軍縮を進める現実的な指針を示すものと考えております。わが国としては、報告書に盛られた有益な提言の実施に向け各国と積極的に話し合いを進めていきたいと考えます。

 生物・化学兵器等核兵器以外の大量破壊兵器や、ミサイル等の運搬手段の問題への取組の重要さも論を俟たず、特に生物兵器禁止条約の議定書交渉の早期妥結に努力いたします。

 北朝鮮のミサイル問題については、先般の米朝協議において重要な進展が得られたことを評価し、歓迎いたします。今後、北朝鮮のミサイル発射の凍結がより確実になることをわが国として強く期待いたします。

(貧困、経済・社会開発)

 議長、

 貧困は世界の多くの地域で依然深刻であります。地域紛争の頻発が貧困問題を悪化させ、貧困問題が地域紛争の勃発や再発の原因となる悪循環が生じております。貧困を21世紀の最大の課題と認識し、国連、国際機関、各国、市民社会等様々なプレーヤーが協力して貧困の撲滅に取り組む必要があります。

 昨年10月にわが国が国連等と共催した第2回アフリカ開発会議(TICADII)では、アフリカ諸国の自主性の発揮、先進国や国際機関との協力の強化、アジア・アフリカ間の協力の推進を柱とする「東京行動計画」が策定されました。先月末にケニアでわが国が国連等と共催した債務管理セミナーを始め、今後もそのフォローアップを通じ、アフリカの貧困の問題に積極的に取り組みます。

 わが国は91年から一貫して最大のODA供与国であります。わが国の財政は引き続き厳しい状況にありますが、今後も効果的・効率的な、質の高いODA供与を行うと共に、国連機関との協力の一層の推進等も通じて貧困問題へ取り組んでまいります。

 債務問題、特に、最貧国の債務問題は、これらの国の開発を極めて困難にしております。わが国は、これまでも債務繰り延べや債務救済無償資金協力等により支援を行ってまいりましたが、今後もケルン・サミットでの合意の着実な実施を含め、債務問題に包括的に取り組んでまいります。

 議長、

 経済・社会開発や人権の分野では、重要な特別総会等が次々に開催されております。6月には、人口開発にかかる特別総会が開催され、今後の「行動」のための有意義な「提案」が採択されました。27日からの小島嶼国特別総会では、気候変動の影響を受けやすく、地理的にも脆弱な条件にある小島嶼国の持続可能な開発が重要な問題であります。同じく地理的に不利な立場にある内陸国の問題も重要であります。明年には、社会開発特別総会が開かれ、95年の社会開発サミットで採択された「コペンハーゲン宣言」及び「行動計画」の実施促進が議論され、また、95年の世界女性会議の成果の一層の推進のために女性特別総会が開かれます。わが国はこれら特総の成果を踏まえ、これらの分野での国際協力に積極的に貢献してまいります。

 議長、

 本年は、「国際防災10年」の最終年に当たります。今般のトルコ及びギリシャの地震、昨年の中南米のハリケーン、昨年のPNGの津波等の被害を見るまでもなく、大規模な自然災害に対しては、国際社会が一致して迅速に対応する必要があり、国連がより積極的な役割を果たすことが求められております。また、防災対策の強化も必要であります。わが国は、防災対策の開発政策や環境問題への対応の重要性を認識し、本分野での取組を進めてまいります。

(グローバリゼーションと地球規模の問題への対応)

 議長、

 グローバリゼーションの進展については、それが提供する世界経済の活性化、生活水準の向上、雇用の創出、開発等の新たな機会を活かすと同時に、国際金融面の不安定性の増大や貧富の格差の拡大等の負の効果に対処する必要ございます。経済危機に見舞われた東アジア地域に対し、わが国は、新宮澤構想をはじめとする、世界最大の総額約800億ドルの支援策を着実に実施中でございます。同地域の経済回復が軌道に乗り、世界経済の健全かつ持続的な発展が達成されることを強く期待いたします。

 また、グローバリゼーションは、環境悪化、国際組織犯罪、麻薬、テロ、感染症等の問題を助長するおそれがあります。これら国境を越えて個々の人間に直接脅威を及ぼす地球規模の問題については、国際社会全体の取組が必要であります。これらの問題の影響を最も受けやすい、女性や児童等に配慮した政策が必要であります。

 さらに、グローバリゼーションは、多様な文化や価値観の相互交流の促進を通じて創造性を生み出しますが、世界の文化的多様性への配慮も必要であります。このような観点から、わが国は、21世紀には国連教育科学文化機関(UNESCO)の役割がますます重要となると考えております。

(「人間の安全保障基金」)

 以上述べてきた様々な問題への対応にあたっては、「人間の安全保障」、すなわち、貧困、難民流出、環境問題、エイズ等の感染症、人権侵害、薬物・人の密輸等国際組織犯罪、紛争、対人地雷及び小火器、テロ等々の脅威に対し、各個人の尊厳と生存を確保することに焦点を当てて取り組むことが重要であるとわが国は訴えてまいりました。本年6月には「開発に関する国際シンポジウム」を開催し、貧困からの脱却のために個人の自立をいかに促すかが議論されました。また、わが国は「人間の安全保障」を推進するための国際機関の取組を支援するため、小渕総理の提唱により、国連に「人間の安全保障基金」を設置いたしました。わが国は先般、コソヴォの復旧及び難民帰還支援のための1億ドルを拠出することを表明致しましたが、この支援の具体化に当たっては、同基金等を活用していく考えであります。

(国連の機能強化)

 議長、

 21世紀の国際社会が直面するこのような多くの課題について国連の取組は未だ十分とはいえません。

 しかし、問題に適切に対応できていないとの理由で、国連を軽視したり、国連軽視の動きをただ嘆くことは正しい選択とはいえません。今日の課題の多くが国際社会全体による取組を必要とし、他方、国連に代替し得る普遍的かつ包括的な機関が存在しない以上、問題に適切に対応できるよう国連を改革・強化することが唯一の途であります。この観点から特に三つの点を指摘したいと思います。

 先ず第一に、安全保障理事会の改革が必要であります。第二次世界大戦終結後50年以上の間の、国際情勢の大きな変化を踏まえて、国際の平和と安全に主要な責任を担う機関として、安保理の機能を強化する必要があります。そのためには、常任・非常任双方の構成を改革し、安保理自身が現在の国際情勢を反映した形で生まれ変わることが必要不可欠であります。わが国は、安保理常任理事国として一層の責任を果たしたいと考えております。

 第二に、健全な財政基盤の確立のための改革が緊要であります。国連加盟国が誠実に国連への分担金支払義務を履行すると共に、国連予算の一層の抑制に努めていくことが必要であります。日本は厳しい経済・財政状況にもかかわらず、国連への分担金支払義務を誠実に履行すると共に、国連機関に多額の拠出を行っております。しかしながら、安保理の改革が具体化せず、財政面での必要な改革が行われない中で、安保理常任理事国のうち米を除く4か国の合計をはるかに超える分担金をわが国一国が負担する状況は、公正の観点から問題があると言わざるを得ません。

 第三に、開発を含む経済・社会分野の国連の取組強化が必要であります。経済社会の諸問題について多様な主体の積極的な参加を引き出し、主体間の調整を効果的に行うことが国連に期待されます。わが国は、この分野で、国連、特に経済社会理事会が果たす役割を重視し、本年の選挙で選出されれば、経済社会理事会のメンバーとして、国連諸機関の調整、世銀等のブレトンウッズ機関との対話の推進、市民社会の広範な参加と調整といった、国連の活動の強化に取り組んでいく決意であります。

(結語)

 議長、

 国連改革の議論に我々は既に多くの時間をかけてまいりました。今日、国連改革の必要性の認識は国際社会に共有されており、改革に反対する国はありません。それにもかかわらず、改革は十分進展しておりません。これまで費やされた時間は組織を改革することへの壁の厚さを物語っております。

 改革により国連の機能を強化出来ず、国連への国際社会の信頼が失われることは、国連のみならず、その加盟国、ひいては国際社会にとって自殺行為であることを、我々は胸に刻む必要があります。

 明年開催されるミレニアム総会及びミレニアム・サミットは、国連が、21世紀の国際社会が直面する問題に有効に対処できることを世界に示すことができる場であります。今後1年間の各加盟国の国連改革のための努力は、21世紀の国連の死活を左右するものともいえます。この観点から、私は、全ての加盟国が改めて国際社会全体の共通の利益を一丸となって追求する姿勢で協力することを呼びかけて、この演説を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

(注)総理及び外務大臣による演説については、本書に掲載されていないものも含め、外務省ホームページhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/happyo/enzetsu/index.htmlでもご覧になれます。