データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連ミレニアム・サミットにおける森総理大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2000年9月7日
[出典] 外交青書44号,345−346頁.
[備考] 
[全文]

 ヌヨマ・ナミビア大統領閣下、

 ハロネン・フィンランド大統領閣下、

 アナン事務総長、

 並びに各国代表の皆様、

 国連が創設されて55年が過ぎ、その間、冷戦の終焉を経て、平和と繁栄への取組が進みましたが、その一方で、緊張と紛争も跡を絶ちません。大量破壊兵器の拡散の恐怖はむしろ増大しつつあります。また、科学技術の進歩やグローバリゼーションの進展が、人類の一層の繁栄を可能としている一方で、国際社会における貧富の格差を拡げつつあります。更に我々は環境、保健等の共通の課題にも対応しなければなりません。

 我々は、このような状況の中で新しい世紀を迎えようとしています。本日、私は、限られた時間の中で、2つの点を特に強調したいと思います。第1は、国際社会が直面している課題に取り組む際に人間を中心に考える視点の重要性であり、第2は、新しい世紀における国連の機能強化です。

 議長、

 新しい世紀を迎えるにあたり、我々は、紛争、人権侵害、貧困、感染症、犯罪、環境破壊といった、人間一人ひとりの生存、尊厳を脅かす様々な脅威に直面しております。我々は、これらの問題に対し、人間一人ひとりを大切にするとの観点から、取り組んでいかなければなりません。これこそが「人間の安全保障」という考え方であります。我が国は、「人間の安全保障」を外交の柱に据え、21世紀を人間中心の世紀とするために全力を挙げていく考えです。

 このような人間中心の取組を推進していく上で、国連はより積極的な役割を果たさなければならず、また、果たすことが期待されております。我が国は、このことを踏まえ、昨年3月、国連に設置された「人間の安全保障基金」に対して、これまで90億円以上の拠出を行いました。近い将来、この基金に更に100億円程度を目指して拠出したいと考えております。また、世界的に著名な有識者の参加を得て、人間の安全保障のための国際委員会を発足させ、こうした取組に対する考え方を更に深めていきたいと考えています。

 議長、

 次に、21世紀において、人間の安全保障を確保する前提とも言うべき国際社会の平和と安全を維持するためには、国連の機能強化、特に安全保障理事会を改革することが不可欠です。今日の安全保障理事会が21世紀に向かう国際社会の現実を十分に反映していないことは明らかであります。国連の正統性を高め、紛争予防や平和と安全の維持のための活動において期待されている役割を効果的に果たせるようにするためには、安保理の改革の実現が急務です。

 私は、この場におられる全ての国の代表の方々に、この演壇から強く呼びかけます。このミレニアム・サミット、ミレニアム総会の議論を通じて、安保理改革の早期実現に向けた大きな流れを作ろうではありませんか。常任理事国及び非常任理事国双方の議席を拡大すること、及び、先進国のみならず開発途上国を常任理事国とすることについては、既に大多数の国が支持していると私は確信しています。このことを確認することを出発点として、合意できるところから一つ一つ合意を積み重ねていこうではありませんか。

 議長、

 さらに私は、国連の機能強化のためには、より健全な財政基盤の確立が急務であることを強調したいと思います。国連の一層の強化のために、財政資源の効果的且つ効率的な活用と、加盟国によるより公正且つ衡平な分担を実現するために、協力していこうではありませんか。

 議長、

 21世紀を考える上で、核軍縮・不拡散の問題を忘れてはなりません。今春のNPT運用検討会議で「全面的核廃絶に向けての明確な約束」を含む将来に向けた現実的な核軍縮措置につき、核兵器国をはじめとする参加国が全会一致で合意したことは核廃絶実現に向けての大きな一歩となりました。我が国は、唯一の被爆国として、21世紀を核の恐怖や危険から解放し、大量破壊兵器の不拡散を確保するために、各国と手を携えていけることを切に願っております。我が国はこのような考えに基づき、ミレニアム総会の場で、新たな核廃絶決議案を提出する考えです。

 議長、

 21世紀をより平和な、そして地球に住む一人ひとりが恐怖と欠乏からの自由を享受し、持続的な繁栄を謳歌できるような世紀とするために、我々すべての国が協力していかなければなりません。国連の強化もそのために不可欠です。このような認識に立って我が国は、国際社会における責任と役割をより積極的に果たすべく、努力を強化していく決意です。

 御静聴有り難うございました。