データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第57回国連総会における小泉内閣総理大臣一般討論演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 2002年9月13日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

議長、御列席の皆様、

 私はまず、ヤン・カヴァン閣下の第57回国連総会議長就任に対しお祝い申し上げます。同時に、前任のハン・スンス閣下の議事運営に心より感謝します。

 また、スイスの国連加盟をお祝い申し上げます。さらに、5月20日に独立した東チモールに対し祝意を表し、その国連加盟を支持します。

 国連本部の中庭にある国連「平和の鐘」は、我が国国民が、世界の平和を祈願して1954年に寄贈したものです。平和という一つの目的のために、世界中から集められた硬貨で作られたこの鐘が、現在もなお美しい音色を響かせている姿は、まさに国連のあり様を示しています。

 世界の平和と繁栄のためには、軍事的な手段だけでなく、貧困問題の解決、人権侵害を止めさせるための社会的インフラの整備など重層的な施策を、調和のとれた形で実施することが重要です。各国が貢献できるそれぞれの得意な分野を持ち寄り、それを最も効果的な形で実施することが、国連のあるべき姿です。国連以外にこの崇高な仕事をこなせる国家や機関は存在しません。

 この関連で、国際社会にとり大きな懸念となっているイラクの問題についてふれたいと思います。イラクは、全ての関連する国連安保理決議に従うべきです。特に、直ちに無条件で国連の査察を受け入れ、大量破壊兵器を廃棄すべきです。この問題の解決のために国際協調を維持し、国連を通ずる一層の真剣な外交努力が重ねられることが重要です。その努力を通じ、必要かつ適切な安保理決議をできる限り早く採択することを追求すべきです。

 テロ問題は昨年に引き続き重要な課題ですが、本日私は、それに加えて、平和の定着と国造り、環境と開発、そして核軍縮という国連が直面する大きな課題を取り上げます。我が国がいかなる貢献ができるかを明らかにし、これらの課題への取組に不可欠な国連改革の実現に向けた私の考えを述べます。

 第1の課題は、テロとの闘いです。私は、同時多発テロの直後、グラウンド・ゼロを訪れ、その破壊の規模の大きさを眼の当たりにし、テロ攻撃の恐ろしさに言葉を失いました。同時多発テロは、米国のみならず人類全体に対する挑戦であり、テロリズムの防止と根絶は、国連そして全ての加盟国に与えられた重要な使命です。

 我が国は、全ての国に対し、テロ関連条約の締約国となるよう呼びかけます。今後も、包括テロ防止条約や核テロ防止条約の採択など、この分野でのルール作りが重要です。テロリストに安住の地を作ってはいけません。我が国は、国内においてテロ対策を一層強化するとともに、国連安保理のテロ対策委員会と緊密に連携しつつ、必要な国に対して知見と技術を提供していきます。また、大量破壊兵器がテロと結びつく脅威に対処するため、国際社会の大量破壊兵器の拡散防止の取組に積極的に貢献します。

 第2の課題は、平和の定着と国造りです。我が国は、紛争の再発防止の観点から、紛争終了後に、平和の定着と国造りのための支援を行うことを重視します。PKOについては、我が国は、より広範囲の分野において効果的な協力を可能とする体制を整えてきており、我が国の協力は新たな段階に入りました。本年2月から東チモールにおける国連PKOに自衛隊施設部隊等690名を派遣しているのも、日本の積極姿勢の現れです。PKOに加え、地雷問題、インフラの初期復旧、選挙や国内治安制度の構築といった幅広い分野での協力も進めていきます。

 アフガニスタンに関しては、我が国は、本年1月、東京での復興支援国際会議において、国際社会の一致した決意を得るよう努力しました。我が国は、治安分野で、我が国が提唱した「平和のための登録」構想を具体化するための元兵士の動員解除と社会復帰支援プログラムを準備中であり、さらに、難民・避難民の再定住化支援プロジェクトをカンダハルなどの地域へ展開することを決定し、地方の復興にも貢献しています。

 中東については、一日も早くイスラエルと独立したパレスチナ国家の平和的共存のビジョンを実現することが必要です。我が国は、パレスチナ人による「新国家」樹立に向けたパレスチナ自治政府改革を支援し、特に民主化に必要な技術協力を提供していきます。国際社会は、国造りの一歩であるパレスチナ人による選挙の成功のために支援すべきと考えます。しかし、現在何よりも必要なことは、現下の暴力の悪循環を断ち切ることです。我が国は、パレスチナ過激派によるテロを断固として非難するとともに、イスラエル軍の一昨年9月のラインまでの即時撤退と、自治区での軍事行動や封鎖の終結を強く求めます。

 アフリカの平和と安定はアフリカの開発の前提です。アンゴラにおける和平の実現やスーダンにおける部分的停戦など、前向きな動きが見られます。我が国は、紛争解決と平和の定着に向けたアフリカ諸国の努力を積極的に支援していきます。

 第3の課題は環境と開発の両立をはかることです。そのためには、あらゆる資金の活用と国造りの基礎となる人づくりはもちろんのこと、途上国の「自助努力」と、これを支える国際社会の「連携」も不可欠です。この点に関し、「アフリカ開発のための新パートナーシップ」の策定やアフリカ連合の創設をアフリカ諸国の自助努力の現れとして歓迎します。我が国は、成功裡に終了した先般のヨハネスブルグ・サミットで得られた大きな成果を踏まえつつ、アフリカの自助努力と国際社会の連携の強化に貢献すべく、来年10月に第3回の東京アフリカ開発会議(TICAD[[undef12]])を開催します。また、持続可能な開発の観点から、来年3月に京都で水に関する閣僚会合を開催します。我が国は、これからも、知恵と具体的行動によって、環境と開発に関する世界的行動に積極的に参画していきます。

 第4の課題は核軍縮です。唯一の被爆国として、核軍縮・不拡散の分野で、我が国が果たすべき役割は大きいと考えています。我が国は、核兵器のない平和で安全な世界が一日も早く実現するよう、今期総会においても、「核兵器の全面的廃絶への道程」決議案を提出し、また、包括的核実験禁止条約の早期発効への働きかけを強化するなどの努力を継続します。

議長、

 これらの課題に取り組むにあたって、各国の多様な施策が最も効果的に、かつ調和的に実施されるよう、国連がリーダーシップを発揮することが重要です。そのためには、国連に新たな生命を吹き込み、改革を通じて国連自体の機能を強化することが先決です。

 我が国は、安保理改革に関する議論が10年目を迎える来年に向けて、拡大後の安保理の議席数の問題などに焦点を絞った議論を行うべきであると考え、その実現に向け種々努力して行きます。この関連で、旧敵国条項という無意味な20世紀の遺物が、今なお国連憲章の中に存在しているという問題が想起されるべきです。

議長、

 私は、昨年4月に総理大臣に就任して以来、我が国が新しい時代に対応できるよう、種々の改革を進めてきました。国連もまた、新たな国際社会の現状に対応するため、その組織・機能について絶えず見直しを行い、改革していかなければなりません。その処方箋は、既にミレニアム宣言に示されています。この宣言に掲げられた諸目標を現実のものとし、そして、より平和で繁栄した公正な世界を築き上げるためにも、全ての加盟国が国連改革を実現するとの決意を新たにし、行動に移していかなければなりません。我が国も、21世紀に相応しい国連を目指して最大限努力していく決意です。

 ご清聴有り難うございました。