[文書名] 第61回国連総会における大島賢三国連大使一般討論演説
議長、
ご列席の皆様、
議長閣下の第61回国連総会議長への就任をお祝い申し上げるとともに、ご成功をお祈りします。また、第60回総会議長を務められたエリアソン閣下の卓越した指導力に敬意を表します。
また、この10年、国連のために献身的に尽くし、この機構の活動を率いて多くのことを成し遂げてきたコフィ・アナン事務総長にも心からの賛辞を捧げたいと思います。
さらに、国連の第192番目のメンバーとしてモンテネグロの加盟を歓迎します。
(我が国の国連加盟50周年)
議長、
50年前の1956年12月、当時の重光葵日本国外務大臣が、まさにこの演壇から、80番目の国連加盟国となった大いなる誇りと喜びを表明するとともに、我が国が国連の崇高な目的達成のために貢献する決意を述べました。以来、我が国は、平和への決意を固め、軍縮および大量破壊兵器の不拡散の重要性を一貫して訴え、PKOをはじめとする平和と安定に向けた国連の活動を支援し、世界の開発と繁栄に向けて貢献を行ってきました。日本国民は、我が国が加盟以来果たしてきた貢献を、誇りに感じています。
今日我々が直面している課題は、50年前とは大きく異なりますが、国連が追求してきた平和、開発、人権といった人類共通の目標は変わることはありません。我が国は、加盟時のコミットメントを再確認し、その後の経験を踏まえて、その実現のためにこれまで以上に協力していく用意があります。
(世界の平和に向けた挑戦)
議長、
我々は、加盟国として、自らの行動のみならず、自らの行動の不在にも責任を負っています。国連の中で、危機に際して、迅速に断固たる行動をとるという責任を担うのは安保理です。今夏、国際社会は、安保理を通じて集団的な対応を行う能力を何度も試されることになりました。安保理が行動した3つの主要な出来事、即ち、北朝鮮による弾道ミサイル発射、イランの核問題およびレバノンにおける紛争を振り返ってみましょう。
7月4日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、安保理は、決議1695を全会一致で決定するという形で、この糾弾されるべき行為を非難する国際社会全体の断固たるメッセージを発出しました。この決議を踏まえ、すべての国連加盟国は、直ちに具体的措置を取らねばなりません。また、北朝鮮に対し、この決議を完全かつ遅滞なく履行するよう強く求めていくことが必要です。この観点から、我が国は、既に長期間行われている厳格な輸出管理に加え、9月19日に金融資産の移転規制に関する措置を導入したところです。
更に我が国は、北朝鮮の核問題及び拉致問題が2002年の日朝平壌宣言に従って包括的に解決されるよう、引き続き最大限の努力を行っていく考えです。
イランの核問題に関しては、我々は、決議1696の採択が本件を外交交渉により平和的に解決するための重要なステップとなるものと信じています。我が国は、イランに対し、速やかにすべてのウラン濃縮関連活動を停止して決議を遵守するとともに、交渉プロセスに復帰することを強く促します。
最近のレバノン危機については、我が国は、安保理による決議1701の採択を歓迎するとともに、決議履行のための努力を支持しています。同時に、この決議の交渉過程が長引いたことから、我々は、安保理がこのような危機に際し、対応の迅速性と包括性の要請を共に満たすことの重要性について認識を新たにしました。これは決して容易ではないものの、常にこれらの要請に応えるよう努力しなければなりません。
国際の平和と安全に影響を及ぼすこれらのそれぞれの場合において、安保理は、加盟国がそれに基づいて行動できるような具体的な決定に到達することに成功しました。我が国は、安保理の一員として、このプロセスにおいて積極的な役割を果たしたことを誇りに思います。また、我が国は、他の加盟国と緊密に連携し、これら諸決議について対応していく考えです。
(平和構築の取り組み)
議長、
紛争のあった国や地域に持続的な平和と繁栄をもたらすには、平和を定着させ国造りの基盤を整えることが鍵となります。現在多くの国や地域で平和の定着や国造りに向けて、国際社会の協調した取組みが進められていることは勇気づけられることです。
イラクはそのような国の一つです。今はまだ多大な困難を抱えていますが、我が国は、イラクがこれを乗り越え、民主的で安定した国として発展し、国際社会の責任ある一員として繁栄していくことを信じています。イラクと国際社会のパートナーシップの新たなあり方を構築するためのイラク・コンパクトは、イラク復興を加速化するものであり、我が国もその国際的努力に十分に参加する考えです。
我が国は、主要ドナーとして、アフガニスタン復興をも支援してきました。国連とともにDDR(武装解除、動員解除及び社会復帰)を主導し、また、その成功後、DIAG(非合法武装集団の解体)プロジェクトを主導しています。
東ティモールについて、新たに設立された国連ミッションが、同国の国造りの努力を効果的に支援していくことを期待します。我が国は、安保理におけるリード国として、同国の安寧、並びに法と秩序の早期回復のために、引き続きイニシアティブを取っていきます。
アフリカは、全体として紛争が減少し平和が拡大しています。本年2月にはアフリカ開発会議(TICAD)の枠組みで平和の定着に関する閣僚級会合が行われ、平和構築に関する知的貢献となるのみならずアフリカ諸国の平和構築に向けた意志と連帯意識を強化しました。また、我が国としても、スーダン、大湖地域、西アフリカを重点地域として、アフリカの平和の定着に向けた支援を一層拡充しています。
このような中で、平和構築委員会の設立は国連の歴史の中で画期的な出来事でした。我々は、委員会が、紛争から回復しつつある国々の平和構築努力に対して、目に見える実際的な付加価値を与え、そのことで現場に変化をもたらすようにしなければなりません。委員会の検討の俎上に上る最初の2ヶ国であるブルンジ及びシエラレオネは、失敗の許されないテストケースとなるでしょう。我が国としては、平和構築基金に対し2000万ドルの貢献を行っており、委員会の議論においてその知見を提供していく考えです。
また、紛争後の平和構築を進めるためには、停戦監視や難民支援から、行政、司法といった国の制度づくり、復興開発に至るまで多岐に亘る分野の知見を結集することが必要です。我が国の専門家は、アジアの国々において法制度や司法制度の整備等の平和構築支援を行っています。この分野での我が国の協力をさらに強化するために、我が国のみならずアジア諸国の文民を育成する具体的方策を検討しています。我々は、いつか、我が国で教育を受けた人が、例えば、アフリカの平和構築の現場で一緒に働くことを思い描いています。
(世界の繁栄を阻む新たな課題)
議長、
地域紛争は引き続き深刻な課題です。また、アナン事務総長は、先般この演壇で述べられたように、「新たな宗教戦争を助長しようとする輩がいる」ことを心配しています。貧困は引き続き途上国で大きな問題であり、また、グローバル化に伴い、テロ、感染症、環境等の国境を越えた課題が表面化してきました。また、国際社会によるミレニアム開発目標(MDGs)の達成がまだ道半ばにあることは明らかです。
このような課題に取り組む上で、寛容の精神、共感、そして緊密な国際協力が不可欠であり、強化された国連が中心となって国際社会が協調して努力していかなければなりません。同時に、新しい概念によってこのような取組みを推し進めて行くことも必要です。
我が国は、人間の生存・尊厳に対する脅威からの各個人の保護と能力強化に焦点を当てる「人間の安全保障」を重視してきました。我が国は、関心国とともに、本会期を通じて、この概念とそれに基づくアプローチを推進していく所存です。また、経済成長を通じて貧困を削減するためには、人間の安全保障とともに、良い統治に基づく途上国の自助努力を尊重することも重要です。このような原則に基づき、我が国は、5年間でODA事業量を100億ドル積み増し、3年間で対アフリカ向け支援を倍増するとの昨年行った公約を誠実に実施し、MDGs達成に向けて支援を強化する考えです。貿易に関して、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期の再開・妥結に全力を尽くします。
テロと闘うには、緊密な国際協力が極めて重要です。この関連で、先般採択された包括的テロ対策戦略に関する総会決議を歓迎します。また、包括テロ防止条約交渉の早期妥結を訴えます。保健は、鳥・新型インフルエンザやHIV/エイズ対策を含め、我が国が国際社会とともに幅広く協力してきた分野です。我が国は、WHOの活動の重要性を認識しており、この機関との協力関係を、特にアフリカにおいて、一層強化していく用意があります。
(人権の主流化)
しばしば強調されるとおり、平和、開発と人権は相互に補完し合うものです。戦後60年の我が国自身の経験は、このことを雄弁に証明しています。新設された人権理事会が人権尊重推進の新たな頁を開くよう、我々は強く期待しており、また、我が国は理事国として建設的な役割を人権理事会において果たします。また、我が国は、強制的失踪条約と障害者権利条約の早期採択を支持します。
(現代の課題に効果的に対処する国連の実現)
議長、
国連は、今日及びこれからの世界において、紛争を解決し、平和を築き、新たな地球規模の脅威に取り組み、繁栄の基礎を作るための、欠くことのできない世界的な手段です。この役目を果たすため、国連は効率的且つ効果的で、またその決定及び運営において透明で広い代表性を伴うものでなければなりません。従って国連の機構改革及びその機能の態様の改革が、死活的に重要なのです。
昨年9月、世界の指導者達は、この普遍的な機構の包括的改革を達成する決意を示しました。それから1年、我々は、平和構築委員会及び人権理事会の創設を含む、幾つかの勇気づけられる進展がありました。しかし、国連の機構改革のうち、安保理改革は残されたままです。
ごく少数の人々は、安保理を1945年の姿にとどめ置くことが自らの利益になると考えるかもしれません。しかしながら、安保理を改革をしないことに伴う安保理の信頼性の低下によって利益を得る者が皆無であることは明らかです。新世紀の要求に応えられるより効果的で代表性と透明性のある安保理の必要性は、単なるレトリックではなく、現実かつ緊急の要請です。我が国を含む圧倒的多数の加盟国は、国際社会がこの改革を迅速に達成すべきであることで一致しています。我が国としては、この重要な取り組みのために引き続き率先して活動していく決意です。今や加盟国は、今次総会会期における早期の決定のために、創造的かつ説得的な新たな提案を必要としています。
同時に、国連改革の他の重要な側面についても取り組まねばなりません。国連が自己変革し得る機関であることを世界に示すためにも、マネジメント改革の具体的な成果を挙げていく必要があります。また、国連システムの一貫性についても、今後発出されるハイレベルパネルの報告書に基づいて建設的な議論が行われることを期待します。
この関連で、昨年世界の指導者達が、長期に亘り死文化している「敵国」条項の国連憲章からの削除を決意したことを想起するよう加盟国に促したいと思います。これは国連が過去と決別し新たな時代に踏み出そうとしているもう一つの例と言えます。
我が国は、国連加盟以来、国連の活動への重要な貢献をしてくると同時に、分担金の支払いを含め、加盟国としての義務を誠実に果たしてきました。一方、我が国としては、国連分担率は、加盟国の地位と責任が考慮された、より衡平かつ公正なものとなることが必要であると強く感じています。国連の財政を安定させるためにも、我が国は他の加盟国とともにそのような仕組み作りに尽力していきます。
既に昨年の国連総会において様々な改革についての決断はなされており、それを実行に移すことが今会期における我々の責務です。より良い未来に向けた国際社会の熱望と期待により良く応えるために、効率的で実効的な活動を行う国連を構築すべく、再び力を合わせて行こうではありませんか。
ご清聴ありがとうございました。